ニュースレター No.1202009年8月15日発行 (発行部数:1350部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1 フロントページ:勉強部屋開設して10年たちました(2009/8/15)
2 FSCの原則基準の全面改定作業(2009/8/15)
3 衆議院選挙各政党の森林政策(2009/8/15)

フロントページ:勉強部屋開設して10年間(2009/8/15)


「持続可能な森林経営の勉強部屋」と題する小HPが1999年9月に開設してから10年たちました。

ニュースレター100号の時点で作成したニュースレターのフロントページのタイトルリストを120号まで拡張して作成し直しました(こちらからどうぞ)。

(「森林管理のグローバル化」がキーワード)

「地球環境の視点から、日本の森林と木材を考える」というのが小HPのキャッチコピーです。

「環境問題や林産物貿易がどんどんグローバル化する中で、森林政策のグローバル化が立ち後れていてそれがいろんな矛盾を生み出してきているのでないか。『森林管理のグローバル化(国際化)』が必要」というのがこの勉強部屋の一貫したテーマです。

世界中の森林の管理水準が日本の森林に影響があり(違法伐採問題)、日本の消費者の市場での行動が世界の森林管理水準に影響を及ぼすようになっている中で、森林管理に共通の枠組みが必要なのでないか。早くそうしないと、エコマテリアルである木材の本当のパワーが生かされないのでないか。といった問題意識です。

(森林条約はとは別に進行する「森林管理のグローバル化」)

森林管理の国際化のもっとも直截な手段が、92年の地球サミットでテーマとなって果たせなかった「森林条約」です。
勉強部屋トップ>国際協定>森林条約

現在のところ森林条約の課題は国連森林フォーラムで細々と議論されている状況で、影も形もありません。
勉強部屋トップ>地球の森林>「持続可能な森林経営」の国際的展開

しかし、「森林管理のグローバル化」という点で、国際政治、国内行政の両面ではこの10年間大変な進展がありました。

(地球規模の森林問題に対処する国際政治の取り組み)
なんといってもこの間の地球環境問題の新たな展開は、地球温暖化問題についての認識の高まりです(
環境問題・政策のグローバル化、このために作られた気候変動枠組み条約の中では、地球規模の森林の減少を食い止めるという課題に対しても森林吸収源の国際的管理というコンセプトで、法的な強制力のある枠組みが検討されつつあります。
勉強部屋トップ>国際協定>気候変動枠組み条約と森林管理
(地球規模の森林問題に対処する市場を通じた取り組み)
また、森林管理の質を消費者に伝え消費者の選択という力を森林管理の質の向上の動因とすべく開発された国際的な森林認証制度が、大きな発展をしてきました。
勉強部屋トップ>森林認証制度
同様に、違法伐採問題に対する取り組みも発展し、日本のグリーン購入法の取り組みがGoho-woodの取り組みとしてグローバルな関心を集めています。
勉強部屋トップ>環境と貿易>違法伐採問題と貿易
(国内の森林政策の進展の動因となる国際環境問題)
この数年我が国の林業政策の重要な柱の一つが京都議定書の目標達成を根拠にしたものになっています。また、カーボンオフセット排出源取引など地球規模の環境対策が木材業界も巻き込んだカーボンビジネスとして展開しつつあります。
勉強部屋トップ>国内政策>地球温暖化対策森林吸収源対策
小HPなどがウッドマイルズとして提唱してきた環境負荷についてのわかりやすい指標は、カーボンフットプリントなど「環境負荷の見える化」として国の政策に位置づけられてきました。
勉強部屋トップ>国内政策>緑の消費者のパワー
勉強部屋トップ>国内政策>地球温暖化対策森林吸収源対策
勉強部屋トップ>エネルギー>ウッドマイルズ

以上が、この10年間に発展してきた「森林管理の国際化」の進展状況です。

(思うように進展しなかった分野)

逆に思ったほど進展がなかった分野というのもあります。

(停滞する森林条約の議論)
その一つが先ほどふれた、森林条約についての議論です。
当事者で汗をかいている政策当事者にとっては不謹慎かもしませんが、UNFFの会合がどんな状況になっていくかは、80年代以降急に国際問題としてメジャーになった森林問題について、気候変動や、生物多様性といったサイドが仕掛けをしてきているのに対して国際的なフォレスターの主導権がどの程度の水準になっているかというメルクマールとしても興味深いです。
勉強部屋トップ>地球の森林>持続可能な森林経営の国際的展開<第7回国連森林フォーラム(UNFF7)の開催結果
NGOが森林条約反対のポジションになっていることも大きな要素です。
勉強部屋トップ>国際条約>森林条約>国際森林条約研究資料
(「次のラウンド」では進まない環境と貿易の議論)
95年に終結したGATTウルグアイラウンドが積み残しとして次のラウンドに先送りした、「環境問題の国際化に対応したあたらな貿易管理の仕組みづくり」は、ウルグアイラウンドに個人的に関与した小生としても、大変大きな関心事項で、勉強部屋の勉強要素の大きな事項でした。
勉強部屋トップ>環境と貿易>林産物貿易のページのはじめに
ただし、ドーハラウンドはほとんどこの問題での進展はありません。
勉強部屋トップ>環境と貿易>林産物貿易と新たなWTOラウンドを巡って
だだし、環境問題を解決するための貿易措置に必要なのは、WTOでの議論ではなしに別の場での議論だと思います。
例えば、違法伐採問題を防ぐための貿易措置は、この面での国際的な枠組みが不可欠です。やはりここでも森林条約の進展が関係あります。同じような課題である紛争地で生産したダイヤモンド原石の貿易を禁止する枠組みがキンバリー条約という形でこの問題に取り組んでいます。
勉強部屋トップ>環境と貿易>違法伐採問題>OECDの違法伐採対策円卓会議:違法伐採問題と紛争地ダイヤモンド

10nen<konosaito>


FSCの原則基準の全面改訂作業(2009/8/15)

1994年に作成され、2度ほど部分的改訂がなされたFSCの森林認証の原則基準が、全面的な改訂作業を行っており、改定案が公開されパブリックコメントを求めています

改定案全文Complete Version 5-0 Draft 2-0 of the FSC P&C 

次表が新旧の10原則の枠組みです

改定案原則 現在版原則
Principle#1 Principle Compliance with laws and FSC Principles
法律とFSCの原則の遵守
Compliance with laws and FSC Principles
法律とFSCの原則の遵守
Principle#2 Workers rights and employment conditions
労働者の権利と雇用条件
Tenure and use rights and responsibilities
保有権、使用権および責任
Principle#3 Indigenous and traditional peoples' rights
先住民と伝統的住民の権利
Indigenous peoples' rights
先住民の権利
Principle#4 Community Relations
地域社会との関係
Community relations and worker's rights
地域社会との関係と労働者の権利
Principle#5 Benefits from the forest
森林のもたらす便益
Benefits from the forest
森林のもたらす便益
Principle#6 Ecosystem Functions
生態系の機能
Environmental impact
環境への影響
Principle#7 Management planning
管理計画
Management plan
管理計画
Principle#8 Monitoring and assessment
モニタリングと評価
Monitoring and assessment
モニタリングと評価
Principle#9 Management of high conservation values
高い保護価値の管理
Principle #9: Maintenance of high conservation value forests
Principle#10 Management Activities
管理のための活動
Plantations
人工林

FSCの10の原則を私は、@経営の社会的責任(1-4)、A森林の多面的機能(5,6,9,10)、Bマネジメントシステム(7,8)の三つのカテゴリーに分けて考えるとわかりやすいと思っています(例えば日本の森林管理者にとって難しさはB、A、@の順など、小HP県産材認証とFSC 認証の間ー地域材認証にグローバルスタンダードの視点を、参照)

10の原則の下に62の基準ぶら下がっていますが、そのうち14が新規に作成されたもの、残りは今までの基準を見直したものとなっています。

今回の改訂の性格をみる場合新規作成の部分が重要な意味を持っていると思いますが、その辺のところがわかりやすいように新旧対照表を作成しました(こちらからエクセルファイルをダウンロード)。先ほどのカテゴリーごとに新規項目をみてみると、@9,A4,B1となっています。どんな部分にFSCが汗を流しているかがわかります。

また、天然林を人工林など転換することの評価(原則6基準7)の部分がまだ提案に行き着いていないようです。重要な論点です。関連して温暖化ガスの吸収源としての評価といった部分がほとんど記載されていないというのも気になるところです。

日本のように森林の4割を大規模な造林地に転換した経験がある国は世界に中にもあまりないので、これの冷静な評価(温暖化ガスの吸収源・地域材の供給源としてもの面、スギ花粉源拡大としての面などなど)がなされると、国際的な貢献となるということなのではないでしょうか。

パブリックコメントは9月4日が締め切りです。(提出用紙などはこちらにあります

sinrin2-14<FSCP&C2009> 


参議院選挙各政党マニフェスト森林政策部分(2009/8/15)

8月30日に向けて、暑くて長い選挙戦のさなかですが、選挙政策の森林部分を抜き出してみました。

自民党

政策BANK
日本を守るための約束。

http://www.jimin.jp/sen_syu45/seisaku/2009_yakusoku/bank_index.html

7 農林水産政策
森林対策の充実

地球温暖化を防止し、豊かな自然環境を提供する我が国の森林について、国有林も民有林も間伐などの森林の整備や治山事業を行う。貴重な森林を維持している森林所有者の負担のない事業を拡大する。また、公共施設・住宅から紙・割り箸まで国産材の利用率50%を目指す。緑の雇用をを推進するとともに、木材価格の安定化のための制度を導入する。海外において違法伐採された木材が流通しないよう違法伐採対策にも取り組む。

民主党

民主党政策集 INDEX2009
http://www.dpj.or.jp/policy/manifesto/seisaku2009/index.html#15

農林水産
「森林管理・環境保全直接支払制度」の導入による森林吸収源対策等の確実な実行
国土の保全・水源のかん養等、森林の有する公益的機能を十全に発揮させ、京都議定書の削減目標達成に必要な森林吸収量を確保するためには、適正な森林管理が必要です。そのため、森林所有者に対して森林の適切な経営を義務付け、間伐等の森林整備を実施する上で森林所有者が負担する費用相当額を交付する「森林管理・環境保全直接支払制度(仮称)」を導入します。
また、公共事業のうち治山治水事業の内容を抜本的に見直し、環境・緑を守る持続可能な事業(みどりのダム構想)に転換して、積極的に推進します。
more

公明党

2009 衆議院選挙選挙公約manifesto'09 生活を守り抜く。
マニフェスト中長期ビジョン

http://www.komei.or.jp/policy/policy/pdf/manifesto09.pdf

4緑の産業革命>未来の人類のために持続可能な社会を構築>地球の恵みを守る「自然共生社会」を構築>多面的機能を持つ森林を整備・保全
●森林の違法伐採等を防ぐため、適正に管理された森林から産出した木材に認証マークを付ける森林認証制度を国内外で拡大し、認証材の使用を促します。
●国内クレジット制度と連動し、森林整備を支援するカーボン・オフセット(CO2排出の埋め合わせ)を推進します。
●膨大なCO2を排出している森林火災を防止するために、衛星情報の活用を含む、アジア・大洋州における防止体制や支援枠組みの導入を推進します。
more
緑の産業革命
 景気対策と成長戦略
  低炭素社会の構築へ向けた新エネルギー戦略
   「資源大国」を目指した取り組み

 魅力ある農林水産業・農山漁村づくり
  木材需要の創出で山村・林業を活性化
   「木材利用推進法」の制定で木材自給率を向上
   森林循環の確保

日本共産党

「国民が主人公」の新しい日本を――日本共産党の総選挙政策
http://www.jcp.or.jp/seisaku/2009/syuuin/index.html

5、農林漁業の再生で食料自給率を高め、「安全な食料を日本の大地から」を実現します
(2)農林漁業の担い手を育成し、後継者確保のために就業援助を強めます

地元木材の利用拡大や森林資源を使ったエネルギー供給で仕事を広げる……日本の国土の3分の2を占める森林は、国土の保全、空気の浄化、水資源の涵養など多面的な役割を果たしています。中山間地などの活性化のためには、農業とともに林業の振興が大切です。森林の維持を中心的に担っているのは、わずか3万人の林業専業労働者ですが、5年間で3分の1も減少しています。地元産の木材使用への補助、公共施設建設への地元産木材の優先使用などで、林業の活性化を図るとともに、間伐材や廃材によるバイオ燃料の供給など森林資源を活用した自然エネルギーの供給で新たな仕事と収入を生み出します。・・・more

社民党

生活再建10の約束
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/manifesto01.htm

農林水産業 食料自給率アップと食の安全
2.森林、林業

○森林整備の加速化と緑の担い手育成、森林吸収源の確保、地域材の利用拡大により、林業振興、山村の活性化を図ります。
○国土の7割を占め、水を育み、国土を守り、自然環境との共生、資源の循環利用など多くの宝をもつ森林を再生し、持続可能な森林をつくります。天然生林や種の多様性をいかした適切な除間伐、空気や水などの環境保全、木材生産の増加につなげます。
○地球温暖化防止・京都議定書で約束した森林吸収源▲3.8%(1300万炭素トン)の目標を達成するため、森林吸収源10カ年対策をはじめ、毎年20万haを追加した年55万ha(2012までの6年間で330万ha)の間伐など森林整備を加速化します。必要予算額である毎年度1330億円の追加的森林整備費を当初予算で確保します。・・・more

kokunai6-18<09sosenkyo>


最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

 

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