ニュースレター No.297 2024年5月8発行 (発行部数:1672部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                      一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原敬

目次
1. フロントページ:岸田総理のブラジル訪問ーブラジルと日本の森林保全を巡る動向(2024/5/8)
2. 2024G7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケの中の森林ガバナンス(2024/5/8)
3. いま、求められる木の建築・活動とはー沖縄の木の建築などー木の建築賞2023の審査結果(2024/5/8)
4. 立憲民主党の森林政策(2024/3/1)
5. 原料のライフサイクルGHGを明らかにー発電用木質バイオマスガイドライン改定(2024/5/8)
6.  クリーンウッド法施行までの道すじー基本方針の案などへのパブコメ(2024/4/28)
7.  「持続可能な森林経営のための勉強部屋」ニュースレター300号25年の歴史から学ぶことー勉強部屋Zoomセミナー第1回御案内(2024/5/8)
8. グローバルサウスの森林保全拡大の方向・・・ー勉強部屋ニュース297編集ばなし(2024/5/8)

フロントページ:岸田総理のブラジル訪問ーブラジルと日本の森林保全を巡る動向(2024/5/8)

連休中(6月1日から6日)に岸田総理は、フランス・ブラジル・パラグアイを訪門しましたが、その中で、ブラジルはアマゾン森林の資源大国で、今年はG20の議長国、来年は気候変動枠組み条約COP30の主催国で重要です。

森林のガバナンスに関して、どんな議論があったのかな?

温暖化対策、アマゾン保護で協力 日ブラジル首脳、「法の支配」共有(時事通信)

日・ブラジル首脳会談という外務省のページに詳しい経緯と、日・ブラジル首脳共同声明「日・ブラジル戦略的グローバル・パートナーシップの更なる強化に関する共同声明」(英文和訳)、「環境・気候・持続可能な開発及び強じんな経済に関するブラジルと日本のパートナーシップに係る共同声明(GPI)」(英文和文)という二つの共同声明が和訳とともにのっています

(日ブラジル・グリーン・パートナーシップ・イニシアティブ(GPI))

前者は10年前に締結された連携関係の更なる強化、後者は今回あらに結ばれた連携関係GPI

後者のGPIが大切そうなので原文を読んでみました。

右がGPIの概要図です(外務省作成)(英文の文書にはGPIという言葉はでてこないんですがが外務省のサイトにはかっこよくGPIとなっているので使います)

背景説明で、ブラジル側は?

◆ルーラ大統領は環境・気候変動対策を政権の最重要課題の一つと位置づけ(2025年のCOP30のブラジル・ベレンでの開催2023年8月のアマゾン流域8か国首脳会合の開催等)。

2050年までのネットゼロ及び 2030年までアマゾン熱帯雨林の違法伐採ゼロを目標に掲げている。

日本側側は?

◆日本は、先進的レーダ衛星やAI技術を活用しアマゾンの違法伐採対策等に協力。2022年7月両国間で気候変動に関する宣言書に署名2023年5月の日ブラジル首脳会談(於:広島)おいて、 両首脳は環境気候変動について緊密に連携していくことで一致

「具体的取り組み」について本文をみながら確認してみましょう。

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(環境・気候・持続可能な開発及び強じんな経済に関するブラジルと日本のパートナーシップに係る共同声明(GPI)本文は)

Joint Statement on the Brazil-Japan Partnership Initiative on Environment, Climate, Sustainable Development and Resilient Economies の本文(和訳)以下の通り

環境・気候・持続可能な開発及び強じんな経済に関する ブラジルと日本のパートナーシップに係る共同声明 (日ブラジル・グリーン・パートナーシップ・イニシアティブ(GPI)) (仮訳一部分です)

関連参考情報

2024 5 3日、ブラジリアにおいて、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ・ブラジル連邦共和国大統領と岸田文雄日本国内閣総理大臣は、持続可能な開発の3つの側面に沿って、エネルギー安全保障、気候変動、環境に取り組むことの重要性を認識し、環境・気候・持続可能な開発及び強じんな経済に関するブラジルと日本のパートナーシップ・イニシアティブを立ち上げることを決定した。

 

ブラジルは、長年にわたるクリーン・エネルギー技術の国産の開発の歴史を基盤としつつ、2050年までにネット・ゼロ・エミッションを達成し、2030年までにアマゾンの森林減少をゼロにするというコミットメントを発表している。日本もまた、2050 年までにネット・ゼロを達成するという強力な脱炭素化の野心的な目標を掲げており、クリーン・エネルギー・ソリューションの世界的パイオニアである。両国のユニークなプロファイルは、エネルギー安全保障及び経済的強じん性を確保しつつ、世界的なクリーン・エネルギー転換を促進する上での協力の可能性を生み出している。
このイニシアティブは、アマゾン地域の持続可能な開発のためのものを含む環境協力におけるブラジルと日本のリーダーシップを以下のとおり示すことを目的としている:

ルーラ大統領、COP28で2030年までのアマゾンなど森林破壊完全収束目標を発表

同じ時に「トロピカル・フォレスト・フォーエバー」と呼ばれる国際熱帯雨林保護基金の提案を発表Brazil proposes $250 billion “Tropical Forests Forever” fund for rainforests

環境及び気候

 

1. 違法伐採、森林火災、大気汚染、その他の脅威の防止を目的とした様々なプログラムの実施を通じたアマゾンの熱帯雨林の保全と持続可能な利用の重要性、並びに緩和政策及び適応政策を含む気候変動対策の推進を強調し、双方は、国際協力機構(JICA)の技術協力プロジェクト及び三角協力を通じたアマゾン地域の持続可能な開発に関する協力を継続する。この文脈において、双方は、アマゾン地域の持続可能な開発のための資金調達プロジェクトの緊急の必要性に鑑み、アマゾン基金への拠出金の即時支出という日本の新たなコミットメントの下、この分野での協力を更に推進する決意を再確認した。

 アマゾン基金2023年1月1日に発足したルーラ政権下で法定アマゾン保護の目的で設立された

2. 日本は、ブラジルのアマゾンの森林減少率を2023年に対前年比50%削減するなど、森林減少に効果的に取り組んでいるブラジルの努力を称賛した。ブラジルと日本は、森林生態系の保全、回復及び持続可能な管理を強化する観点から、国際協力を強化することの重要性を認識した。ブラジルは日本に対し、2023 8 月に開催されたアマゾン・サミットの成果や「United For Our Forests」コミュニケの採択、開発途上国の熱帯林保護を支援するための適切かつ予測可能な財源を活用する緊急の必要性など、ブラジルが主導する様々なイニシアティブについて説明した。ブラジルはさらに、世界の熱帯雨林の保護を促進するため、あらゆる資金源から革新的な資金メカニズムを開発するとの提案を説明した。これには「熱帯林の永遠(Tropical Forests Forever)」ファシリティーの設立や、ブラジル開発銀行(BNDES)の「修復の弧(Arc of Restoration Program)」などが含まれる。日本は、ブラジルのG20議長国下での、生態系サービスへの支払いに関する議論に関与する意思を表明した。

 アマゾン森林減少率50%削減ブラジル国立宇宙研究院(INPE)が運営するDETER
2023 年8 月に開催されたアマゾン・サミット(関係8か国の集まり
United For Our Forests同8月の途上森林13か国の声明
Tropical Forests Forever)」ファシリティーの設立COP28:COP30めざし
BNDESの「修復の弧(Arc of Restoration ProgramCOP28で失われた森林の回復

3.双方は、十全性(integrityの訳)の高いイニシアティブを推進し、気候変動対策における協力の重要性と温室効果ガス排出削減への貢献を認識することにより、気候変動対策におけるパートナーシップを強化する可能性を探ることで一致した。  

 

4. ブラジルと日本は、防災の重要性について一致した。この観点から、双方は、「強靱な街作りのための土砂災害構造物対策能力向上プロジェクト」の進展を歓迎した。

 

5. このイニシアティブの下でのブラジルと日本の二国間協力を拡大するため、双方はまた、ラテンアメリカ以外の地域を含む第三国向けの森林管理プロジェクトを通じて三角協力を促進することで一致した。この文脈で、双方は、ブラジル協力庁(ABC)と JICAが主導する、リモートセンシング技術を用いた森林保全に関する、「地球観測データキューブに係る国際研修・アマゾン流域地域におけるパイロットプロジェクト」を通じた太平洋諸国向けのオンラインセミナーを歓迎した。

 

 

6. 双方は、官民双方の環境協力をより高いレベルに引き上げ、SDGsを達成することの重要性を認識し、公共投資の強化の必要性を確認するとともに、気候変動投資促進プロジェクトのような民間投資ファイナンスの進展を歓迎した。双方はまた、TSUBASAプログラムなど、環境協力分野におけるブラジルと日本のスタートアップの活用へのさらなる支持を表明した。

 TSUBASA(Transformational Start Ups' Business Acceleration for the SDGs Agenda)日本のスタートアップ企業と中南米の連携

持続可能な開発

 

7. 双方は、2024年にセラード開発50周年を迎えることを想起し、セラード開発プログラム(PRODECER)を通じた日本のブラジルに対する長年の開発協力を認識し、劣化農地の改良と当該地域における持続可能な農林業生産システムの促進を通じて、食料安全保障、森林保全、持続可能な開発を確保することを目的とした協力を強化する目標を表明した。そのため、双方は、JICA、ブラジル連邦共和国農畜産省、ブラジル農業研究公社(Embrapa)及び農業開発・家族農業省の間の協力覚書の署名を歓迎した。

 

 

セラード開発プログラム(PRODECER)日伯セラード農業開発協力事業

8. 双方は、生態系の保全、回復及び持続可能な管理を促進し、脆弱な状況にある集団に影響を及ぼす飢餓及び不平等との闘いに貢献する、生物多様性に由来する製品の連鎖を促進する上での科学及びイノベーションの役割を強調した。また、遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分の必要性を強調した。双方は、アマゾン地域におけるアグロフォレストリー分野での二国間協力を歓迎した。これは、幅広い種類の植物を一緒に植えることで森林を再生し、森林生態系を維持し、農民に安定した収入をもたらすことを可能にするものである。この点に関して、双方は、特にアマゾンのアグロフォレストリーシステムに関する「アマゾン地域の生物多様性の持続可能な利用に関するトメ・アス協力覚書の実施を通じて、持続可能な生物多様性に基づく製品や活動の促進に関連する優良事例の交換を促進することを決定した。

 

 

アマゾンのアグロフォレストリーシステムに関する「アマゾン地域の生物多様性の持続可能な利用に関するトメ・アス協力覚書2021年締結

9. 双方は、共同技術開発とブラジルの利害関係者への技術移転に基づく協力を探求することで一致した。持続可能な開発のための技術開発の観点から、双方は、ブラジルと日本の官民パートナーシップを通じて、情報技術(IT)を活用した実行可能な農業データプラットフォームの実証と開発を行うため、アグリフードチェーンにおけるイノベーション・エコシステム及び持続可能性強化のための精密・デジタル農業共創プロジェク」を推進することへのコミットメントを確認した

 

10-13パラは次世代自動車・航空燃料・鉱物などなんで省略  

このイニシアティブは、環境及び気候における協力を強化し、持続可能な開発を促進し、低炭素で強じんな経済を築くために、官民の将来的なプロジェクトを進展させるものである。これに際し、双方は官民ワークショップやビジネス・マッチング・イベントのビジネス・エコシステムをつなぐ様々なイニシアティブを検討し得る。

 このイニシアティブはまた、雇用創出、技術革新及び投資を促進することにより、低炭素/ネット・ゼロ経済の発展を促進する。また、ブラジルと日本が、野心的な気候及び持続可能な開発の目標を達成する上で最前線にいることを世界に示すものである。

 

以上が「環境・気候・持続可能な開発及び強じんな経済に関するブラジルと日本のパートナーシップに係る共同声明(GPI)」でその中の森林に関係ありそうな事項にアンダーラインをつけています。

(グローバルサウスをリードするブラジルーブラジルから日本への説明事項)

前段の第2パラグラフに「ブラジルは」という長文の文章があります。ブラジルは・・・を説明した。さらにブラジルは・・・説明した。

力をつけてきたグローバルサウスのなかで、地球環境問題で重要にな課題になっている森林減少劣化問題をリードするブラジルですね

第2パラグラフにあるように、ブラジル側は来年COP30を主催する前提で昨年のドバイでのCOP28等のチャンスに途上国の森林ガバナンスのためのネットワークづくりを着々とやってきたのですね。

ブラジルから日本への説明事項がたっぷりで、このサイトでしっかりフォローしていなかったのは反省点です。

今年ブラジルが議長となるG20(金融・世界経済に関する首脳会合、来年ブラジルが主催するCOP30など、しっかりフォローしてきますね。

(日本からブラジルへの説明事項は)

さて、第二パラグラフはには日本はという主語の文章が二つあります。

最初に「日本は・・・ブラジルの努力を賞賛した。」最後に「日本は、ブラジルのG20議長国下での、生態系サービスへの支払いに関する議論に関与する意思を表明した。」です

共同声明を発した場所が、日本でなくてブラジルなんで、いろいろなことを賞賛するのは当然でしょうが、日本からブラジルに説明した事項はなかったんでしょうか?「クリーンウッド法を改正しました」は?「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」という素晴らしい法律ができましたは?・・・

それはそれとして、終わったばかりのホットな2024G7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケのことが記載されていないのは、すこし残念ですね。(環境大臣から首相に報告がされていなかったのかな?)

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日本の森林政策が世界に誇れるようなものになるように、頑張ってほしいですね。

chikyu5-12<Amazon_kishida>

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グローバルサウスの森林保全拡大の方向ー勉強部屋ニュース297号編集ばなし

フロントページは:岸田総理のブラジル訪問ーブラジルと日本の森林保全を巡る動向

共同声明の森林に関する記述のなかに、アマゾンの大半を所有し、グローバルサウスをリードするブラジルが、日本に対して、いろいろ説明しました・・という記述がたくさんあるのは、当然で、私も知らないことが結構あったのは、反省点です。

その中で、日本がブラジルに説明することがないのは、おかしいな?とうことがフロントページの記事の一つのポイントですが、こういう共同声明を他国の大統領と日本の首相が発出する場合の手続きは・・・両国の事務方が外交ルートで文案を練り上げて、両国のトップの了解をえるというプロセスなんでしょう。

事務方の素案は外務省が作るんでしょうが、作成過程で外務省から関係各省に「日本がブラジルに説明し、それをブラジルが賞賛した」、といったストーリーはありませんか?という問が発せられるんだと思います(昔はそうでした)。

その時、林野庁は「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」という素晴らしい法律ができましたので、岸田総理から先方に説明し、大統領が賞賛した」、という文章をいれてください!!といったのでしょうかね、今度どなたかに聞いてみましょう。

いずれにしても、ことしから来年にかけて、世界の森林ガバナンスの仕組みが1歩か2歩前進して、ベレン森林共同コミットメントみたいなものができるのでしょうから、それをしっかりフォローしていきます。

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今年度は2024年度は持続可能な森林経営のための勉強部屋開設25年、勉強部屋ニュース300号(8月号)の重要な年度です。

蓄積をフォローする作業を、皆さんと一緒にやって、記録が残せないかなーと思っています。
皆さんと相談しながらやっていきますので、よろしくお願いします」といってまいりましたが、・・・

すでにご連絡しましたとおり、6月8日に今年度の総会を13時半から行いますが、そのあと、本年度第一回のZOOMセミナーを行うこととしました。
タイトルは、「「持続可能な森林経営のための勉強部屋」ニュースレター300号25年の歴史から学ぶこと」です。ゲストは・・・「皆さんです」で、プレゼンターは藤原敬。

色々皆さんのご意見をいただきたいことがたくさんあるので、是非参加してくださいね。よろしくお願いします。

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次号以降の予告。
エンボディドカーボン?ー建設過程の温室効果ガス発生量の開示動向// 顔の見える木材供給体制構築事業成果報告会/ 
デジタルアイ 消える大森林/ 中国木材の新たな展開// 森林保全、市場主導型解決策にほぼ効果なし 報告書

 

konosaito<hensyukouki>

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara.takashi1@gmail.com