11月下旬、大阪関西万博の会場のシンボルとして設けられるリング型の木造建築物「大屋根」に関する報道が一斉に行われました。
万博会場シンボル大屋根の工事を報道公開 リング型木造建築物(NHK)
工事の様子が、27日、報道陣向けに公開さたのだそうです。
マスコミの論調は、費用が掛かりすぎなど、若干ネガティブなものがあって、気になりますが・・・
膨らみ続けて3187億円に…大阪万博に「身を切る改革」は必要ない? もっと膨らむことはないのか
このページでは、この際、巨大リングがどんな意味があるのか、ということを、改めて整理してみましょう。
(巨大リンクの意義(1)ー基本計画の中のリンク)
2020年に公表された基本計画では、「いのち輝く未来社会のデザイン(Designing Future Society for Our Lives)」をメインテーマとし、・・・
「明快な同線と多様な場をつなぐため、会場全体を巡る主動線は、わかりやすく、同時に様々な情景が生まれるように円環状にデザインしている。主動線に沿って様々な大きさの広場が点在し、体験の抑揚が生まれる。(52ページ)」
会場計画で各ビリオンに行く「主動線(メインストリート)の上部には大屋根(リング)を設置する。この大屋根(リング)は来場者を雨や日差しから守る機能を持ち、人々を導くナビゲーションの役割も果たす。大屋根(リング)の上には空中歩廊が巡り、パビリオン群が立ち並ぶ会場を俯瞰する視点を提供し、場所によっては斜面や段々、また海を望む展望歩廊を用意して、人々が思い思いに過ごすことができる居場所をデザイン」ととしてあり、(63ページ)、まあるい大屋根を建築するとしてますが、この段階では木造にするとは記載していません。
(巨大リンクの意義(2)_木造リンク―「多様でありながら一つ」のシンボル)
それで、木造と公表されたのは、2022年7月。大阪・関西万博の大屋根は世界最大級の木造建築物に、リングの最新パース公開(日経XTEC)
「リングは木造の建築物になることが明らかになった」とされ、「大屋根(リング)は建築面積(水平投影面積)が約6万m2、高さが12m(外側は20m)、内径が約615m、リングの幅は約30m、1周が約2km。木造の貫(ぬき)工法の利用を想定しており、完成すると世界最大級の木造建築物」などの情報が公開されました。
「リングの下は万博会場の主動線になるだけでなく、雨風や日差しを遮る快適な滞留空間にもなる」(右図上)、「リングは屋上に上ることができ、屋根の上には緑の丘が広がるという。屋上からは会場全体や瀬戸内海を見渡せる」(右図下) 「海と空に囲まれた万博会場の魅力を引き出す巨大装置になる」とされています。
デザインした建築家の藤本壮介氏が紹介され、「「多様でありながら、ひとつ」という、大阪・関西万博の理念を表すシンボル」と紹介されています。
(万博の二酸化炭素排出量と固定量)
万博の環境影響評価書が公表されています
「施設の利用による二酸化炭素排出量の予測結果は、約38,992t-CO2/期間と予測」されていると公表されています(要約37ページ)
建築施工過程の排出量などは公開されていません。
それでは大屋根リンクに固定される二酸化炭素の量はどのくらいになるでしょうか。
林野庁が公開している、「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」に基づく「炭素貯蔵量計算シート(EXCEL : 66KB)」にそって、計算してみました。
つかわれ木材の量は、2万m3だそうなので、これをスギの集成材だとすると、12122t-CO2を固定されており、半年間の開催期間で排出される排出量の3分の1が固定されることになります
いずれにしても、世界最大の木材建造物、再使用や再利用でき、森林から再生産することができる循環資源である木材の次世代いのち輝く未来社会のシンボルとして、みんなに理解を広めていくことが大切な機会ですね。
さて、どんな由来の木材なのか?
(木材の調達方針)
万博のウェブページに持続可能性に配慮した調達コードが公開されています。
その中の持続可能性に配慮した調達コード(第2版)解説<個別基準:木材>を見てみましょう。
以下の5つの要件が記載され
①伐採に当たって、原木の生産された国又は地域における森林に関する法令等に照らして手続きが適切になされたものであること
②中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林に由来するものであること
③伐採に当たって、生態系が保全され、泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域が適切に保全されており、また、森林の農地等への転換に由来するものでないこと
④森林の利用に当たって、先住民族や地域住民の権利が尊重され、事前の十分な情報提供に基づく、自由意思による合意形成が図られていること
⑤伐採に従事する労働者の労働安全・衛生対策が適切に取られていること
ーーーーーーーー
そして、要件への適合性が高いものとして以下が記載されています
⚫FSC 、PEFC、SGECの認証材は上記の要件への適合度が高いものとして原則認める。
⚫認証材以外は別紙の方法により証明されなければならない。
別紙(認証材以外の場合の確認方法)持続可能性に配慮した木材の調達基準(以下「調達基準」という。)の4については以下のとおりとする。
(1)調達基準2の①の確認については、林野庁作成の「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン(平成18年2月15日)」に準拠した合法性の証明によって行う。なお、コンクリート型枠合板の合法性の証明については、国の「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」(平成28年2月2日変更閣議決定)における「合板型枠」と同様の扱いとする。
(2)調達基準2の②~⑤については、国産材の場合は森林所有者、森林組合又は素材生産事業者等が、輸入材の場合は輸入事業者が、説明責任の観点から合理的な方法に基づいて以下の確認を実施し、サプライヤーに対して、その結果について書面に記録して報告し、又は、その結果を証明する第三者の監査報告を提出する。
・・・など |
なお、留意点として以下の三点が
⚫木材の輸送にかかる温室効果ガスの排出量や地域の資源循環、地域の経済の活性化への貢献度を考慮すべきである。
⚫伐採地までのトレーサビリティ確保の観点から可能な範囲で当該木材の原産地や製造事業者に関する指摘等の情報を収集し、その信頼性・客観性等に十分留意しつつ、要件を満たさない木材を生産する事業者から調達するリスクの低減に活用する。
⚫違法伐採木材が国内で流通するリスクの低減を図るため、「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」の趣旨を踏まえて、伐採を含め、サプライヤーに供給するまでの製造や流通等の各段階を担う事業者は、同法に基づく登録木材関連事業者であることが推奨されるとともに、サプライヤーは、同法の対象となっている木材については、登録木材関連事業者が供給するものを優先的に選択すべきである。
以上です。
前段の要件は、東京2020オリパラの時(東京2020持続可能性に配慮した調達コード)とほぼ同じですが、最後の留意点・・ウッドマイレージCO2とか、CW法登録事業者優先は、今回のオリジナルですね。
(具体的な調達プロセスへの反映は)
合法性確認をはじめとした持続可能な木材の調達への要求、を始めとして輸送過程に係るCO2排出量(ウッドマイレージCO2!)、クリーンウッド登録事業者からの購入、など、に留意するように、という基準になっています。
施設の施工にかかっているのは、大林組、清水建設、竹中工務店が3分の1づつ分担していくようです。
今後フォローしてまいります。
(半年利用された後)
もう一つ終わってからのこと。公式には解体して、再利用という道筋が示されていますが、最近「リングを会場に保存するか、移設する選択肢もある。一部を再利用して公共施設や商業用途で使うこともできる(デザイン担当藤本氏)といった議論も出ているようです。
「『太陽の塔』のような形ではないので難しい面はあるが、せっかくの木造でつくった巨大リングで、いろんな意義を見いだすことができると思う」と述べ、有効利用に向けて前向きに検討すべ
世界一の木材リンクのレガシーをどう取り扱っていくのか今後の検討課題ですね。
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