ニュースレター No.290 2023年10月12日発行 (発行部数:1663部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                      一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原敬

目次
1. フロントページ:森林環境税フルスタートを前にした森林環境譲与税に係る所要の見直しの検討(2023/10/12)
2. ナラ枯れ対策と広葉樹林業の可能性(2023/10/12)
3. 飛騨市広葉樹のまりづくりー山と街をつなぐシステムづくり(2023/10/12)
4. 持続可能な森林管理における現状と課題―学術会議の報告(2023/10/12)
5. 環境経済・政策学会2023年大会コレクション(2023/10/12)
6. 富山発優良無花粉スギー林木育種の動向と最前線(2023/9/30)
7. G20ニューデリーサミットの中の森林(2023/9/27)
8. 森林の交流蓄積がグローバルな二国間関係の財産になるか・・・ー勉強部屋ニュース290編集ばなし(2023/10/12)

フロントページ:森林環境税フルスタートを前にした森林環境譲与税に係る所要の見直しの検討(2023/10/12)

総務省のウェブサイトに平成6年度税制改正要望というページがあり8月下旬に各省庁から提出された地方税に関する改正要望のリストが掲載されいますが、農林水産省からの要望リストに、「森林吸収源対策を一層推進するための森林環境譲与税に係る所要の見直しの検討」という要望の内容が掲載されています。

森林環境税が来年度から国民に課税されることとなっており(左の図)、現時点は準備期間が終わって来年度からフルスタート 時点です。

手入れの行き届いていない森林について、市町村が森林所有者から経営管理の委託(経営管理権の設定)を受け対処する、森林経営管理法(2017年)にもとづく森林経営管理制度制度。その、市町村の負担に対応して2019年にできた、森林環境税と森林環境譲与税の、市町村への配分方法の変更が検討されています。

(環境譲与税に関する見直し作業概要)

総務省への要望書の「要望内容の概要」という欄に以下の記載があります。

「令和元年度からの譲与開始以降、各地方公共団体において、地域の実情に応じ森林環境譲与税を活用した取組が進展しつつある中で、私有林人工林を多く抱える地方公共団体においては、森林整備に想定以上に経費がかかっていること等を踏まえ、都市部等における木材利用の取組に配慮しつつ、森林整備をより一層推進する観点から、令和6年度からの森林環境譲与税の譲与額の増加に併せて、私有林人工林面積による配分の割合を高めるよう譲与基準の見直しを要望する。 関係条文 森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律 第28条第1項、第29条」

(関心の広がり)

マスコミでもこのテーマでの取材にもとづく、発信がされています。

1人1000円取られる税金なのに活用されない!?NHK政治マガジン(2022/11/24)

森林環境税とは? 創設の背景や問題点、税金の活用事例を解説朝日新聞デジタル2023/9/8)

右の図は、林野庁のサイトの掲載情報から、配布された譲与税の使われ方をみたものですが、R3年度に市町村に配布された340億円の譲与税でつかわれたのは217億円、35%が使われずに基金に積まれています。

右の下は、基金につんでいる市町村を私有林人工林が多い市町村と、少ない市町村(都市の市町村が多い)にわけて、表示したもので、後者がたくさん基金に積んでいます。

上記のNHKの記事作成過程で取材された、東京のある区役所の担当者は、「都市部なので、林業に対する考えが及んでないというか、よくわかりません。特定の事業に使う想定はありません」と正直に答えています。

いよいよ来年度から住民税の中で誰にも一律に森林環境税が1000円課税される、という中で、その使い道が、特に都市部の自治体で使い道が不明であり、積立金になっている、という議論は重要なポイントになっています。

(学会関係者での議論)

少しコミュニケーションがある、現代総有研究所で、関係情報を聞きたいという話があり、最近少し話をする機会がありました。

20分ほど時間をいただき、「森林の管理とその財源-森林環境譲与税の配分変更問題」というタイトルで話をしました、(こちらにプレゼン資料

森林管理法と森林環境税森林環境譲与税の仕組みをはなして、最後に左の説明をしました。

1 配分基準への問題

配分基準の3割が人口なので、都市に多く配分される

これが問題だとして政府内部で議論がはじまるので、森林地域に配分を増やすチャンスだとしたらーーー

農林水産省からの要望のタイトルが「森林吸収源対策を一層推進するための」となっているように、政府の議論は「気候変動に対応した 森林吸収源対策」に集中しています。その他に、国民に納得される森林の多面的機能を根拠にした議論の展開が必要ではないでしょうか。

また、都市住民にたくさん配分されていることは、都市住民が森林を自分のことと考えるチャンスでもあるはずですーーー

木材利用とかJクレジットなどを利用して ある農山村の森林とある都市自治体ががつながるストーリーが必要となってくるのでしょう

2 森林ガバナンスの課題

森林の所有と森林の多面的機能

森林は、国土の保全、水源の涵養、保健レクリエーション、地球温暖化の防止、物質生産(木材生産など)、生物多様性の保全、快適環境形成、文化など多面的機能をも持っています(森林機能一覧表)。

日本の森林は58%が私有林

上記の森林機能の中で、森林機能が私的収益の根拠となるのは木材生産機能、レクリエーション機能などですが、木材生産機能の収益性が低下して、私的所有権を背景とした、管理義務の施行が困難な状況になっています

森林ガバナンスを確保するには、公的管理の仕組みの開発と、実現のための財源が必要となっています

私有林への公的資金と成長産業化の関係性、私企業の経営体が管理する森林と管理できない森林の線引き・・・たくさん課題があります

ーーー以上、森林分野が専門でない私的所有物のガバナン論を議論されている研究者への説明終了

質疑の中で、現代総有研究所のメンバーは保安林制度、先行していた森林税(神奈川県)などの取組にかかわった方もいて、具体的な議論もできました。

また、特に森林経営管理法で、市町村を通じたガバナンスの次の段階がどのように行われるようになるのか具体的成果を聞きたいと、関心が示されました。

(フルスタートが始まる大切な時点)

林野庁のサイトにも、関連情報が結構たくさん掲載されている(森林環境譲与税の取組状況森林環境譲与税に関する広報・情報提供森林環境譲与税を活用した都市・山村連携に関するアンケート調査・・)・・)ので、もう少し勉強して議論を深める必要を再認識しました。

このサイトでも、出発点から問題意識をもっていたテーマです。徹底討論:林政の新展開を問う」林業経済学会が問うたもの(2019/12/15)

いよいよ準備期間がおわって、来年度からフルスタート(森林環境税の課税が始まる)

今後、しっかりフォローしていきます

kokunai14-11<joyohaibun>

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森林環境譲与税で新しい「絆」はできるか?・・・ー勉強部屋ニュース290編集ばなし(2023/10/12)

フロントページは、森林環境税フルスタートを前にした森林環境譲与税に係る所要の見直しの検討

人々の間の繋がりが切断されてきている「個化社会の到来の中で、新しい「絆」(結びつき、協働、連帯、団結など)を構築するための理論と実践を提案」している現代総有研究所の勉強会で、簡単な話をしてくれないか、というお誘いがあり、森林関環境譲与税の配分変更問題について話をする機会があったので、少し復習をしてみました。

マンション区分所有法制の改正の行方、などに関心をもっている、現代総有研究所は、霞が関で食料・農業・農村基本法についての議論がすすんでいて「新たな展開をはかって」という方向になっているので、研究所でもその課題で議論をする方向になっていて、関連して隣にいる、森林のガバナンスについてもコメントが欲しい、といった雰囲気になっています。

林業や農業の多面的機能などを切り口にして、少し議論が進んでいくのか愉しみです。

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9月21日と22日、富山から岐阜県にかけて、林政ジャーナリストの会取材旅行でした。

富山県農林水産総合技術センター森林研究所→岐阜県飛騨市ヒダクマ「森の端オフィス」→下呂温泉住友林業岐阜樹木育苗センター。ずーと少し知り合いの中部森林管理局長(前林木育種センター所長)がついてフォローしてくれました。

無花粉という遺伝形質(種の発展のためになるのか?)を伝える遺伝子を持つ個体を増やす品種改良!これを広げていくことの意味は?結構重たい課題です。

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10月14日(明後日)は、生物多様性を巡る国際動向:COP15とビジネス、政策への示唆ー勉強部屋Zoomセミナー第3回

ゲストは、香坂玲さん(東京大学農学生命科学研究科教授)/ 藤木庄五郎さん(株式会社バイオーム代表)。新たな世界目標が設定された昨年末のCOP15に参加されたお二人を迎えて、ビジネスにとっての生物多様性多様性のお話たっぷりお話いただきます。

まだ間に合いますよーこちらからどうぞ

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それではよろしくお願いします

次号以降の予告。林業経済研究所のシンポジウム「森林と健康の新時代」報告/ 企業による森林とのかかわり方と可能性-森林x脱炭素チャレンジ2023など/ 第2次岸田政権の閣僚と森林林業木材行政/ 公表された自然共生サイトはどんな姿/ 生物多様性を巡る国際動向:COP15とビジネス、政策への示唆ー勉強部屋Zoomセミナー第3回報告/ カーボン・オフセットクレジット制度の創設とその展開ー民間資金が将来の森林づくりに生かされる一つの可能性

konosaito<hensyukouki>

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara.takashi1@gmail.com