持続可能な森林管理における現状と課題―学術会議の報告(2023/10/12)

日本学術会議が9月29日、「持続可能な森林管理における現状と課題ー市町村による森林管理と森林環境税の新たな役割」という報告書(表出主体農学委員会林学分科会)を公開しました。

日本学術会議が過去に公表た報告書は、@「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申)」(2001)、A「(報告)持続可能な林業・林産業の構築に向けた課題と対策」(2017)、B「(提言)地球温暖化対策としての建築分野での木材利用の促進」(2020)といったところですが、なんといってもインパクトを与えたのは、@の森林の多面的な機能の評価について(答申)」(2001)ーーー座長をつとめた太田先生の説明も勉強部屋ZOOMセミナーでご紹介いしました

さて、学術研究者の総本山が表出した「持続可能な森林管理(経営)についての情勢把握と政策提言」勉強部屋としてもしっかり勉強する必要があり、読んでみました

ーーーーー

山林所有者の権利意識が薄れ、あらたな管理方法の体系的な提案が必要になっている中で、森林環境譲与税というシステム登場し、具体的な議論を進める絶好のタイミングでの議論とその結果の報告です。

課題の認識過程、学術的根拠もしっかり提示されて、素晴らしいです。(冒頭の森林の多面的機能と生態系サービスの整理の仕方など勉強になります)

(4つの課題)

そして提示された、4つの課題。

第1に、森林の持つ多面的機能の科学的評価と森林の管理に関しては不十分なので、継続的なモニタリングを行い、その結果を反映することで順応的に管理経営を行う体制を構築することが重要

第2に、市町村が森林の経営管理を担う能力や体制が現状では十分でないので、市町村の専門職員の育成に向けて大学などの教育研究機関との連携、および国や都道府県による支援が不可欠

第3に、経済林と非経済林の区分が容易ではので、木材生産を目的とする森林と環境保全の観点から重要な森林とを適切に区分するゾーニングが求められる。

第4に、国民が求める森林の役割と森林環境譲与税の使途が合致するとは限らない。森林の多面的機能に対する受益者負担という森林環境税の本来の趣旨を鑑みると、現在の配分の妥当性について科学的知見やエビデンスの観点から検証を行うことが必要である。 

4っつとも、身内の学会関係者への提言という意味では、インパクトがあると思います。

(具体的な戦略は?)

ただ、具体的な政策提言という意味では(そういう意図ではないのかもしれませんが)、少し不透明で、報告書の最後の一行は以下の通りです。

「各課題に対応する産官学民連携を促進するプラットフォームの構築や既存の取り組みのさらなる促進が求められる。」

みんなで読んで頑張りましょう。

要旨は以下の通りです

要 旨
森林には木材生産だけではなく、自然災害の防止、生物多様性の保全、気候変動対策など様々な多面的役割が存在することから森林の利用と保全の両立を目指した森林経営の持続性が求められている。しかし、林業経営が低迷し、土地所有・境界線確定といった課題も相まって、人工林の多くが管理不足の状態となっている。そこで、2019年4月に「森林経営管理法」が施行され、森林管理に林業経営者に加えて新たに市町村も重要な役割を担うこととなった。また、森林整備の安定財源を確保するため、森林環境税および森林環境譲与税が創設され、森林環境税は2024年度から国税として1人年額1,000円を徴収し、約600億円の税収を都道府県と市町村に森林環境譲与税として配分されることになった。なお、森林環境譲与税は先行して2019年度から総額200億円の配分が行われ、徐々に増額しながら2024年度以降は総額600億円の配分が予定されている。
このように森林管理において市町村と森林環境税が重要な役割を果たすための枠組みが整備されつつある。しかしながら、市町村の多くは森林行政を専門とする担当者が不在であり、森林管理で新たな役割を担うことになった市町村は課題に直面している。一方、税金に対する社会の関心が高まる中で、国民が負担する森林環境税の効果的な活用が求められている。
林学分科会では、こうした背景、集積した科学的知見、科学技術の動向を踏まえ、市町村による新たな森林管理と森林環境税の効果的な活用に向けた課題を整理し、持続可能な森林経営を実現するために学術の立場から検討を行った。森林所有者が自力で森林管理を行うことが困難な状況が増えている中で、国や都道府県よりも現場に近い市町村は、地域の実情に合った独自の森林管理を実現できる可能性を持っている。また、市町村主体の森林管理を行うためには、森林環境譲与税による財政的支援が不可欠である。しかしながら、持続可能な森林経営を実現するためには、以下の課題が残されている。
第1に、森林の持つ多面的機能の科学的評価と森林の管理に関しては不確実性が存在する。このため、持続可能な森林経営を実現するためには森林の状況や環境への影響などに対して継続的なモニタリングを行い、その結果を反映することで順応的に管理経営を行う体制を構築することが重要である。
第2に、市町村が森林の経営管理を担う能力や体制が現状では十分とはいえない。このため、市町村の専門職員の育成に向けて大学などの教育研究機関との連携、および国や都道府県による支援が不可欠である。
第3に、経済林と非経済林の区分が容易ではない。森林の多面的機能を発揮するためには、単に経済性だけで判断するのではなく、木材生産を目的とする森林と環境保全の観点から重要な森林とを適切に区分するゾーニングが求められる。
第4に、国民が求める森林の役割と森林環境譲与税の使途が合致するとは限らない。森林の多面的機能に対する受益者負担という森林環境税の本来の趣旨を鑑みると、現在の配分の妥当性について科学的知見やエビデンスの観点から検証を行うことが必要である。 

ご興味のあるかたは、こちらからどうぞ

「持続可能な森林管理における現状と課題ー市町村による森林管理と森林環境税の新たな役割」

15ページの報告書です

kokunai6-63<SCJrepo2023>
■いいねボタン