ニュースレター No.1122008年12月14日発行 (発行部数:1350部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1 フロントページ:持続可能な社会の中の生物多様性と低炭素社会(2008/12/14)
2 クレジット・オフセット・フットプリント・「カーボンビジネスサポート事業」の相互関係(2008/12/14)
3 ポスト京都議定書における「伐採木材製品の取り扱い」について(2008/12/14)

フロントページ: 持続可能な社会の中の生物多様性と低炭素社会(2008/12/14)


11月23日に盛岡市で開かれた社団法人東北地域環境計画研究会「森への恩返し -CO2吸収力を活かす-」というフォーラムで「CO2の排出量取引と森林・木材の環境貢献度『見える化』」 という話をさせて頂く機会がありました。

会長であるの森林総研OB由井正敏さんからお声をかけて頂いたもので、ちょうど政府の排出権取引制度やカーボンオフセット制度などカーボンビジネスサポート制度が立ち上がった時期だったので、内容とタイミングが抜群にマッチして、準備する方もその過程で最新情報を勉強して整理することができる大変良い機会でした。

内容については研究会の良くできたHPに掲載されていますのでご興味のある方はどうぞこちらから。

エッセンスはカーボンビジネスサポート事業の比較という別ページを作成しましたので参考にしてください。

ところで、主催者でありこのイベントのコーディネーターをされた岩手県立大学教授の由井先生は、環境省の環境省の野生生物保護対策検討会猛禽類保護方策分科会座長を務める猛禽類研究の権威です。

今回のイベントの趣旨も、東北地方のイヌワシの生息環境を整備するための森林の手入れ(列状間伐)のプロジェクトへの資金集めという、狙いがあると言われていました。

セミナー自体が大変実践的な事業を背景にしているだけあって、具体的な内容に踏み込んだおもしろいものとなりました。ただし、生物多様性の分野の権威の方が、当該分野の具体的なプロジェクトの資金を、気候変動の文脈で集めなければならないという現実には、いろいろ考えさせられるものがあります。

持続可能な社会を目指す中で、気候変動条約が問題にしているカーボンの循環は「低炭素社会」というコンセプトを作り上げました。

これは環境と人間社会の間の物質とエネルギーの循環というコンセプト(左図加藤三郎「『循環社会』の創造条件」より)からすると「炭素=エネルギーの循環の確立」の分野と整理出来ると思います。

その他に、持続可能な社会を目指すためには、再生可能資源を取り入れ廃棄物を最小限に減らす「物質循環の確立」、そして、廃棄物や温室効果ガスなどと吸収・無害化を図り自然エネルギー・再生可能資源の供給力を維持し高める「環境の受容性を保全」という、課題がある考えられるでしょう。

ポインターを当てると森林条約

この三つの課題の2つに地球サミットでできた気候変動枠組み条約と、生物多様性条約が対応していると思います。(右図)

低炭素社会は持続可能な社会の重要な構成要素ですが、その一部であるということがわかります。

炭素=エネルギー循環についての関心が高まることは重要なことですが、生物多様性の分野のように、立ち後れの分野があることに注意をする必要があります。

ついでに言えば、この図から、地球サミットででき損なった国際森林条約がこの三つの課題全体に関係する重要な枠組みであることもわかります。

junkan1-9<SC&LCS>


クレジット・オフセット・フットプリント・・・「カーボンビジネスサポート事業」の相互関係(2008/12/14)

11月の社団法人東北地域環境計画研究会フォーラムで行った「CO2の排出量取引と森林・木材の環境貢献度『見える化』」の準備過程は、10月21日からの排出権取引の試行の開始10月8日カーボンフットプリントの指針案発表9月22日木づかい環境貢献見える化検討会の開催(林野庁)11月14日カーボンオフセットクレジット制度の創設(環境省)、と立て続けの政府主導のカーボンビジネス支援制度の立ち上げの時期と重なって、大変貴重な勉強をさせてもらいました。(お聞きになった方が勉強になったかどうかは不安ですが)

@排出量取引に関する国内クレジット、Aカーボンオフセットクレジット、Bカーボンフットプリント(排出量の「見える化」)の三つの関係を一つの絵にしてみました(左図)。

すべてに共通しているのは、排出削減努力に資金的な支援をしてそれを進めるための仕組みとして意図されていることです。

第一の「排出量取引に関する国内クレジット」の要点は、排出削減努力の中で、京都議定書の第一約束期間の国内目標達成が意識されていることです。

企業が京都議定書目標達成改革の中に位置づけられている自社の目標達成のための手段として、中小企業の実施する活動を資金・技術で支援する仕組みです。

第二のカーボンオフセットクレジットは「市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等(以下「クレジット」という)を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせることをいう」(我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針))と定義され、基本的には企業のCSR活動などボランタリーな活動に依拠したものです。

第三のカーボンフットプリントは「商品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して、当該商品及びサービスに簡易な方法で分かりやすく表示する仕組み」(「カーボンフットプリント制度のあり方について(指針)」(中間とりまとめ案))と定義され、消費者の自発的な購入時の選択に依拠しています。

どれも森林の吸収源としての機能や、木材の炭素固定の仕組みが、マーケットの中で評価されるツールとなる可能性を持っているものであり、大切な仕組みです。

それぞれが競って立ち上がった感がありますが、具体的な使い勝手が分かってくるのはこれから。小HPでも追跡をしていきます。

kokunai4-10<CarbonBus>


ポスト京都議定書における「伐採木材製品の取り扱い」について(2008/12/14)

11月26日「環境・経済・社会的に持続可能な木材利用の推進を目指してポスト京都議定書における「伐採木材製品の取り扱い」について」と題するシンポジウムが開催され、同名の提言書が公表されました。(木材学会のページこちらから

京都議定書第一約束期間では、森林が吸収した二酸化炭素について、木材が森林から伐出されると同時に排出と見なす計測方法が採用されているので、これでは、木材製品中の炭素貯蔵による地球温暖化防止効果が評価ない、という問題意識で新しい計測方法の採用を訴えるものです。

同時に現在提案されている計測方法についての解説が、「ポスト京都議定書における「伐採木材製品の取り扱い」に関する補足説明」として掲載されています。

提言書

環境・経済・社会的に持続可能な木材利用の推進を目指して
ポスト京都議定書における「伐採木材製品の取り扱い」について

私たちは、気候変動枠組み条約における「伐採木材製品の取り扱い」に関する議論の進展に関心を持ち、円卓会議を開催してきました。その審議を踏まえ、座長の責任において、以下のように取りまとめました。
京都議定書第一約束期間(2008 年〜2012 年)では、森林によって吸収された二酸化炭素は木材伐出と同時に排出されると見なすデフォルト法が採用されており、ここでは、伐採木材製品における炭素貯蔵効果が評価されていません。
大気中の二酸化炭素を減らすためには、健全な森林資源の蓄積を世界的に増やし、伐採された木材の長期使用や材料リサイクルの拡大によって、木造建築物、木質建材、紙など木材関連製品中の炭素蓄積量を増やすことが必要です。
また、省エネルギー的な木材製品への代替、木質バイオマスエネルギー利用の適切な推進によって、化石燃料の消費を減らすことも有効です。
持続的林業からの木材はカーボンニュートラルであり非枯渇性資源です。しかし、森林資源は偏在しています。木材資源の循環を地球規模で大きくするためには、森林資源国における林業の経済的地位を高めることによって森林に資金を還流させることや、木材消費国における伐採木材製品の炭素貯蔵を評価することで、温暖化防止への意欲を持たせることが必要です。
そのため、次期約束期間(2013 年〜)の伐採木材製品評価手法として、地球益を優先しつつ、持続的林業ならびに木材資源の自立、循環利用を推進する立場から、現行の勘定方法は見直されるべきであると考えます。参加団体の多くは、環境、経済、社会的に持続可能な木材利用推進を図る上で、蓄積変化法を評価すべきという主張に理解を示しました。さらに、途上国において森林が過度に
伐採されることを避けるため、輸出国における適正な森林管理が担保される仕組みが必要であることについても理解を示しました。
これらの内容を国民の皆様にお知らせするとともに、気候変動枠組条約締約国会議の特別作業部会AWG-KPおよび次期枠組み交渉担当者である政府機関に配慮いただくよう提言いたします。

平成 20 年11 月26 日

「伐採木材製品の取り扱い」に関する円卓会議
座長 服部順昭

《伐採木材の取り扱いに関する円卓会議》
参加団体
社団法人土木学会 伐採木材の取り扱いに関する検討会
社団法人日本建築学会 地球環境本委員会
日本森林学会
日本木材学会
林業経済学会
社団法人全国木材組合連合会
日本合板工業組合連合会
日本繊維板工業会
日本製紙連合会
国際環境NGO FoE Japan


本サイト関連ページ
気候変動枠組み条約の中の伐採木材の取り扱い(寄稿小論) (2004/12/12)
二酸化炭素吸収源としての伐採木材製品(2004/9/12)

kokusai2-27<HWPteigen>


最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

 

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