ニュースレター No.1182009年6月20日発行 (発行部数:1350部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1 フロントページ:気候変動枠組み条約特別作業部会0906と森林(2009/6/20)
2. 第8回国連森林フォーラム(UNFF8)の開催結果(2009/6/20)
3. オフセット・クレジット(J-VER)の中の森林・バイオマス進捗状況(2009/6/13)
4. J-VERのフロントランナー高知県木質資源エネルギー活用事業(2009/6/13)
5. 国内排出量取引の最近の展開と木質バイオマスボイラー(2009/6/13)

フロントページ:気候変動枠組み条約特別作業部会0906と森林(2009/6/20)


6月1 日から12 日に、ドイツ・ボンにおいて、気候変動枠組条約の2013年以降の次期枠組みに関する特別作業部会AWG-LCA6,AWG-KP8及び同条約に基づく第30 回補助機関会合SB30が開催されました。
日本政府代表団による概要と評価(外務省HP)
農林水産省プレスリリース

12月にコペンハーゲンで開催される第15回締約国会合にむけて、交渉の出発点となる会議と位置づけられ、日本政府もこの会合に併せて排出量削減の数値目標を発表しましたが、今次会合での森林や木質バイオマス分野の取扱についての議論を紹介します。

(途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減(REDD))

熱帯林の減少問題を温暖化ガスの排出削減の観点からブレーキをかけるための国際枠組みづくりである、途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減(REDD)のについては、COP13のバリ行動計画の1biiiで、COP15の決議の(iii) で「REDDに関連する問題に対する政策手法の採用」することが決まっていますが、今回開催されたSB30では「REDDのための方法論について、今後の活動のガイドラインとなるCOP15の決定案」提出され検討されました。

Reducing emissions from deforestation in developing countries: approaches to stimulate action, Draft conclusions proposed by the Chair

推計とモニタリング、基準となる排出レベル、先住民等の参加、能力開発等

また、条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会第6回会合(AWG-LCA6)の中での議論は、この会合に提出された、議長の交渉テキスト(FCCC/AWGLCA/2009/8 19 May 2009)のパラ106から128までに、REDDについておよそのコンセンサス状況並びに各国が今まで発言した意見などが記載されています。

途上国の準備が整わないので、初期準備段階、政策および普及段階、本格実施段階の3段階で取り組むこと、資金手当を公的資金と炭素市場の民間資金をどのように組み合わせるか、新に国際的管理組織をつくるのか既存の組織の一環とするのかなどが課題となっていることがわかります。

REDDプラス

最近のREDDについて文書はREDD-plus(REDD+)という言葉が使われバージョンアップしていることを伺わせます。

初期段階では森林が減少した分を造林で埋めあわせれば目的達成としていたものが、天然林の保全、持続可能な森林管理、を重視したものにしていく、ということのようです。

REDD+: Conservation’s Role in the Fight Against Climate Changeなど参照

関連した、日本のNGOの意見が公開されています(吸収源・REDD 等の森林に関連するルール作りについて森林NGO の視点2009 年6 月

(伐採木材の取扱い)

もう一つ京都議定書の次の段階で気になる森林バイオマス分野の論点は、伐採後の木材の取扱ですが、今次会合の中では、「京都議定書の下での附属書I国の更なる約束に関する特別作業部会第8回会合(AWG-KP8)」で取り扱われており、その議論経過は、①今次会合に議長から提出された交渉文書(A text on other issues outlined in document FCCC/KP/AWG/2008/8. Note by the Chair.)の他に、②会議での議論の結果を反映した議長作成の暫定文書(Non-paper by the chair of the contact group on paragraph 49 (c) of the report on the resumed sixth session of the AWG-KP “other issues”)がホームページ上に公開されています。

伐採木材の定義については①の17ページ、②の23-24ページに記載されており、伐採後の木材には製材、合板、パーティクルボードは含むが、木材チップや紙などの「寿命の短い製品」や燃料は除く、とされています。

伐採木材の取扱に手続きなどについての議論の提案による選択肢は独立した章が設定され、①の24ページパラ21、②の23ページから25ページパラ21に記載されています。

これらの文書から、以下のことが論点になっていることがわかります。

①輸出材、輸入材の取扱が重要な論点になっていること。特に量的約束に参加していない途上国(非付属書Ⅰ国)ないし、伐採木材を計算しないことにしている付属書Ⅰ国との間の貿易。

②木材が特定の森林管理や下におかれているかどうか、(生物多様性への配慮、周辺住民への配慮など)

③ストックするまでに除去除去された残材部分の計算

(今後の議論)

又続きは8月に作業部会が開催されるのだそうです。

kokusai2-21<AWGBONN0906>


第8回国連森林フォーラム(UNFF8)の開催結果(2009/6/20)

国連森林フォーラムは15年前の地球サミットで合意された森林原則声明の正式なフォローアップ会合ですが、その第8回会合が4月20日から5月2日まで国連本部で開催されました。

2年前の前回の会合(UNFF7)で採択された、「すべてのタイプの森林に関する法的拘束力を伴わない文書(Non-Legally Binding Instrument on All Types of Forests:NLBI)」及びNLBIの実効性を確保していくための具体的作業内容等を示した「2007-2015UNFF多年度作業計画(UNFF Multi-year Programme of Work 2007-2015:MYPOW)」のフォローアップが行われました。

懸案となっていた財政措置については合意にいたらず、次回以降の検討となりました。

林野庁プレスリリース
環境省プレスリリース
国連森林フォーラム公式サイト

chikyu1-16<UNFF8>

オフセット・クレジット(J-VER)の中の森林・バイオマス進捗状況(2009/6/13)

カーボンオフセットは、「市民、企業、NPO/NGO、自治体などが、自らの温室効果ガスの排出量の、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等(以下「クレジット」という)を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせること」と定義されますが(我が国におけるカーボンオフセットのあり方について)、森林管理や拡大による森林吸収源のや木質バイオマスの利用による化石資源の代替など、森林バイオマスの温室効果ガス吸収削減機能の活動に、幅広く資金を導入するツールとして活用が期待されます。

この事業を普及するため、国内排出削減・吸収プロジェクトにより実現された温室効果ガス排出削減・吸収量をオフセット・クレジット(J-VER)として認証する制度が作られています。

京都議定書の目標達成計画とリンクした、国内排出量取引取引が、森林吸収源そのものの取引を排除しているのに比べて、J-VERが森林吸収源の管理も登録の対象としてしているところが特徴です。

J-VERについては①運営委員会がポジティブリスト方法論等の設計公表、②それに沿った事業者の申請、③審査登録、④事業者によるモニタリングの実施、⑤第三者による検証、⑥運営委員会による認証、⑦クレジットの発行という長いプロセスをへることになります。

そのプロセスと現時点での森林吸収吸収源や、木質バイオマス利用に関する事項の進展状況を一覧表にまとめてみました。

森林管理プロジェクトについて②の申請が5件あったと公表されています

また、現時点で最終手続きのクレジットの発行までたどり着いているのは、高知県木質資源エネルギー活用事業だけです。(カーボン・オフセットクレジットのフロントランナー高知県木質資源エネルギー活用事業参照)

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排出量削減・吸収活動
プロジェクト実施事業者
森林バイオマスの具体例 管理者
(環境省)
森林バイオマスの具体例
モデル事業の応募 NPO森のライフスタイル研究所
北海道美幌町
KKクレコ・ラボ
高知県梼原町
北海道下川町
KK相愛
モデル事業の採択 オフセット・クレジット(J-VER)創出モデル事業の採択(09/2/22)
排出量削減・吸収活動
プロジェクト実施事業者
森林バイオマスの具体例(勉強部屋掲載記事 管理者
(J-VER運営委員会)
森林バイオマスの具体例(勉強部屋掲載記事
①ポジティブリスト
 方法論等の設計公表
J-VER制度における森林吸収クレジットの認証基準(案)と持続可能な森林(09/1/17)
J-VER制度における森林管理プロジェクトによる森林吸収クレジットの認証基準(09/3/22)
ペレットストーブ・ボイラー・未利用バイオマス利用についての認証基準案公開(5/29)
②方法論にそって
 申請書 を作成、申請
J-VER制度における森林管理プロジェクトの申請受付結果(09/6/13)
③受理審査登録
④モニタリングを実施
(検証機関による検証の実施)
⑤認証 オフセット・クレジット(J-VER)制度における温室効果ガス排出削減量の認証第1号について
高知県木質資源エネルギー活用事業2件(3/30)
⑥クレジットの発行 高知県木質資源エネルギー活用事業内1件(3/30)
⑦登録簿内に口座を保有 ⑦登録簿


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カーボン・オフセットクレジットのフロントランナー高知県木質資源エネルギー活用事業(2009/6/13)

カーボンオフセット事業を推進するために、事業の認証制度が立ち上げられていますが、①運営委員会がポジティブリスト方法論等の設計公表、②それに沿った事業者の申請、③審査登録、④事業者によるモニタリングの実施、⑤第三者による検証、⑥運営委員会による認証、⑦クレジットの発行という長いプロセス(「オフセット・クレジット(J-VER)の中の森林・バイオマス進捗状況」参照)の中で、現時点でクレジットの発行まで到達している唯一の事業が「高知県木質資源エネルギー活用事業」です。(オフセット・クレジット(J-VER)制度における温室効果ガス排出削減量の認証第1号について

申請書2008/12/3と、検証報告が公開されており、その中から事業概要と検証プロセスを紹介します。

住友大阪セメント(株)の2号発電ボイラー燃料として使用されて いる石炭並びにオイルコークスの一部を、高知県産の未利用林地残材で燃料代替することによりCO2排出削減を図るもの。

ベースライン(プロジェクトを実施しなかった場合)の排出量(A)1096.50トンCO2
プロジェクトの排出量(車両運搬、林地残材の事前処理)(B)56.60トンCO2
排出削減量(A-B) 1039トンCO2

検証結果の概要は以下のとおりです。(リンクは小HPによる)

「オフセット・クレジット(J-VER)制度実施規則(2008年11月14日)」、「オフセット・クレジット(J-VER)制度モニタリング方法ガイドライン(Ver.1.0)」、「オフセット・クレジット(J-VER)制度モニタリング報告書検証のためのガイドライン(Ver.1.0)」及びポジティブリストNo.0001、方法論JAM0001に基づいて実施された本検証の範囲において、検証チームが実施したプロセス及び手順の結果、「オフセット・クレジット(J-VER)制度に基づく温室効果ガス排出削減・吸収プロジェクトモニタリング報告書(2008年上半期)Ver.1-2」に記載されたプロジェクト期間(2008年4月1日~2008年9月30日)の二酸化炭素排出削減量1,039t-CO2は、重要性の判断基準の5%以内であり、ポジティブリストNo.0001の適格性基準を満たし、方法論JAM0001に照らした算定式、ルールに準拠した計算方法、モニタリング方法等により算定されていることから、検証意見は無限定適正意見であることを表明する。
備考
本検証において、フェーズ1及びフェーズ

ここに引用されたポジティブリストによれば、どんなバイオマス燃料でも良いのでなくて、国産材の林地材材(間伐材や枝葉)であることが証明されるもの、また、投資回収期間が3年以上のもの、という2つが大きなハードルです。

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国内排出量取引の最近の展開と木質バイオマスボイラー(2009/6/13)

昨年の11月から始まった国内排出量取引の国内クレジット制度に関して、はじめて木質バイオマス関連のプロジェクトが承認されました。削減事業実施者は栃木県那須町の温泉旅館「山水閣」、クレジット買い手は株式会社丸紅です。(ネット上の報道日経ネット下野新聞

5月29日開催された第4回 国内クレジット認証委員会で、上記事案の含めて9件の排出削減事業が承認され、承認件数は、累計で19件となりました(施行排出量取引ポータルサイトにおける国内クレジット制度のページの中のクレジット一覧表)。

また、同じ会議で29日までに申請された70あまりの事業のリストが公表されていますが、木質バイオマス関係は24件、そのなかには、5件の木材業者のボイラー導入も含まれています。(第4回国内クレジット認証委員会(5月29日)までに申請受付報告された森林バイオマス案件一覧

現在17の方法論が登録されていますが、木質バイオマス関係はボイラーの転換と、木質バイオマス燃料の新設の2つです。森林管理に関するプロジェクトは京都議定書で別管理になっているので、この制度からは除外されています。

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

 

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