持続可能な森林経営の実現のための政策手段に関する勉強部屋
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ニュースレター 027
2001年12月11日
このレターは、表記HPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。情報提供していただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちらで勝手に考えている方に配信しています。表記HPも併せてご覧下さい。御意見をいただければ幸いです。 藤原
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フロントページ:WTOドーハ閣僚宣言の読み方・・・林産物貿易に関する三つのポイント
二つの国際常識に基づく「非常識」な結論・・・次期WTOラウンドと日本の林業関係者の立場
国際熱帯木材機関理事会報告
世界で初めて大学演習林のFSC森林認証 東京農工大学演習林
檮原森林組合長訪問記
フロントページ:WTOドーハ閣僚宣言の読み方・・・林産物貿易に関する三つのポイント
11月9日から14日にまでドーハで開かれたWTO第4回閣僚会議は新たな包括的な貿易交渉を始めることを決定しました。会議で合意された閣僚宣言のテキストがWTO事務局のホームページ上で公開されています。現時点で全文の日本語訳は公開されたものはないようですが、要約が外務省、経済産業省のホームページに掲載されています。また、農林水産省のホームページに農林水産物に関連する部分の抄訳が掲載されています。
WTO第四回閣僚会議関係資料掲載箇所
WTO事務局 閣僚宣言テキスト(英文) 外務省 ドーハ閣僚宣言骨子 経済産業省 閣僚宣言のポイント 農林水産省 閣僚宣言要旨(農林水産物関係) マスコミ報道 yahooニュース lycosjapan
会議に出席した、林野庁のメンバーと意見交換をし、今回の閣僚宣言を検討してみました。日本の林業者にとって次の三点の合意が重要だと思います。
「環境と貿易は両立させなければならない」
林産物貿易を一般の工業製品と同一に論じることができないという根拠は、林産物の貿易自由化が森林の管理が不適切な場合環境問題の悪化をもたらす事実にあります。この点について閣僚宣言の前文パラ6に「我々は多角的貿易システムの擁護と環境の保全は両立可能であり、また、両立させなければならない、と確信する。」"We are convinced that the aims of upholding and safeguarding an open and non-discriminatory multilateral trading system, and acting for the protection of the environment and the promotion of sustainable development can and must be mutually supportive."と表現されていることは重要です。「貿易と環境の両立」という表現はよく使われるキーワードですが、mustという助動詞と一緒に使われる機会はあまり多くはありません。、
どういう条件なら両立しどういう条件なら両立しないのか、しっかり議論すべきです。(小論「二つの国際常識から導かれる「非常識」な結論・・・次期WTOラウンドと日本の林業関係者の立場。」を参照ください)
「貿易自由化の例外品目」
林産物は非農産物としてパラ16の「非農産物の市場アクセス」という箇所で取り扱いが規定されています。関税・非関税障壁の削減・撤廃について幅広く交渉されることになっています。そして、「産品の適用範囲は包括的で事前に例外は作らない」"Product coverage shall be comprehensive and without a priori exclusions."としています。ある品目を「例外扱いにしない」と言う記述の前に「アプリオリな」という、形容詞が係っていることが重要です。文理上、「事後には例外がある。」と言う解釈がなされるはずです。つまり交渉次第であり、我が国が林産物は自由化の例外であると主張することを妨げるものではないことが、a prioriの一語の重要な意味です。
「持続可能でない木材を拒否する道」
宣言は「貿易と環境」というサブタイトルの下に31−33の三つのパラグラフが当てられています。とりあえず国際環境協定とWTOルールの関係など3つの事項を交渉事項とすることにしています(パラ31)。さらに「環境目的のためのラベリング」など三つの事項についてWTO貿易環境委員会で審議し、次回の第五回閣僚会合で交渉事項とするかどうか勧告させるとしています(パラ32)。違法伐採でない木材や持続可能な木材をラベリングし、その他の木材との間で、貿易の取り扱いを変えることは、現在のWTOルールの中では「同種の産品の差別」として厳しく規制されているところです。「環境目的のためのラベリング」を交渉事項とし、WTOルールを変えてゆくことができる道を示しています。ただし、WTOルールを変えなくてもモントリオール議定書など「フロンを使用して製造した半導体とそうでない半導体とを差別して取り扱う」ということが堂々と国際協定に書き込まれており、別にWTOの規程を変えることもない,との意見もあることでしょうが。
二つの国際常識から導かれる「非常識」な結論・・・次期WTOラウンドと日本の林業関係者の立場
11月に刊行された会員制寄稿誌「日本の森林を考える」第10号に表記の小論が掲載されましたが、発売元である第1プランニングセンターのご厚意で全文を掲載します。(→こちら)いよいよ始まった新ラウンドでの議論への問題提起です。ウルグアイラウンド以来の国際的な議論を整理してみると、立場が大きく違った関係者の中で2つのコンセンサスがあることが分かります。このコンセンサスに基づき、日本の林業関係者として国際貢献すべき方策を考察してみました。
要旨は以下の通りです。
第1の常識:貿易自由化は環境政策がうまくいっているときは環境のためになるが、だめな環境政策の弊害を拡大する。 第2の常識:国際的な森林経営水準は持続可能な森林経営な状況には至っていない。違法伐採、森林破壊が続いている。 結論 :林産物貿易自由化は国際的な森林破壊を助長する。貿易自由化交渉をするより、森林条約交渉をすべし。
本文に引用した文献リストはこちら
横浜にある国際熱帯木材機関の理事会に久しぶりで出席してきました。違法伐採問題、持続可能な森林経営など難題に挑む、熱帯木材機関今後の5ヶ年計画を採択しました。
以下に関連資料を掲載します。
備考 全体概要 第31回国際熱帯木材機関(ITTO)理事会の結果について(和文) ここからどうぞ 重要決議 「持続可能な木材生産・貿易と森林法施行について」DECISION 6(XXXI)(英文) 「横浜行動計画」DECISION 2(XXXI)(英文) 「監査制度設立のガイドライン」DECISION 4(XXXI)(英文) 報告 インドネシア技術調査団の報告ITTC(XXXXI)/10(英文) 背景資料 「森林法の施行とガバナンスに関する東アジア閣僚会合」の宣言(英文)
11月16日に東京農工大学の演習林が国内四件目のFSC認証をうけた授与式が行われました。面積は902ヘクタール。これで我が国のFSC認証森林は7千ヘクタールを超える面積となりました。大学の演習林の認証は世界でもはじめてのことだそうです。(同大学農学部フィールドサイエンス教育研究センター教授岸洋一先生)
日刊木材新聞11月28日付け報道 林材新聞11月14日付け報道
大学の演習林のFSC認定が初めてとはちょっと意外です。どこの演習林も経営理念やその根拠となるバックデータを整理することはお手の物でしょうから、FSC認証を取得するための意志決定と予算さえあれば認証することにそんなハードルは高くはないのだと思っていました。たぶん、「意志決定」すなわち認証の動機のところがいろいろ難しいのでしょう。プライドの高い高等教育機関が第三者認定を受ける動機は何か。その辺のところを、 前演習林長木平勇吉現日本大学生物資源科学部教授は記念講演の中で次のように話されています。農工大演習林が森林認証FSCを取得した意義は、第1に、今回の森林認証は商売抜きの認証だったこと(森林環境志向型FSC)、第二に「絶滅の危惧の演習林」の再生の機会であること、第三に管理者、教職員の森林管理への新しい挑戦に向けての意識改革の機会であること。講演要旨
演習林が林業森林分野の研究の場であり、また若い研究者や技術者の教育の場であることを考えると、認証過程やこの後のフォローアップの過程に関わることは今後の我が国の森林の認証に大きなインパクトがあるものと考えます。今後、学会や一般の広報手段で十分な情報公開がされることを期待いたします。
11月の中旬、前々から気になっていた檮原町森林組合を訪問する機会がありました。ちょうど一年前の10月、我が国のFSC認定の2例目として団体認証を得た森林組合です。同組合のFSC認定は、11の条件付きで、そのうちの5つは一年後までにという期限付きのものでした(公開用概要参照)。その宿題がどうなったか、ということが、一つの問題意識でした。早速そのことを中越組合長に伺うと、こともなげに、「一年後の監査を受けてクリアしたところ」、との説明でした。認定森林の面積も、その際1000ヘクタール以上増加して3335ヘクタールとなったそうです。
FSCに対応して「環境影響調査計画書」、「長期森林モニタリング調査の実施について」などいくつかの内部規定の文書が作成されました。ただし「そんなに難しいものではない。やっていることを日記にしたら大丈夫」という説明でした。これらの文書は現在推敲中だそうですが、是非早く公開いただけるようにお願いしてきました。
前々から考えていたことですが、FSCは途上国の熱帯木材を念頭において設計されたものなので、現在日本の普通の森林経営でやっていることが殆どFSCの基準をクリアするだろう、という考えが、確信になりました。要は、しっかり全体を見据えて説明できるシステム(マネジメントシステム)になっているか(説明者がいて説明のための文書が作成されているか)がとれているか、ということがFSCサイドのチェックポイントです。もちろんそうであってこそ、不備な点が改善されるというものですから。
町からの支援制度として、四国山脈の風を利用した風力発電による売上利益を使って、認定対象森林に限定して整備費の助成が行われることになったそうです。遠からず町内のほとんどの森林が認定森林になるのではないか、と想像します。
四国山脈の懐の町の活性化の中心を担っている森林組合の活動方針「山中八策」を同組合のホームページからコピーさせてもらいました。詳しくは同ホームページをどうぞ。
1.森林との共生の絆を強め、生態系を豊かにする森林施業を行います。
2.森林の蓄積を減らさない持続可能な森林経営を行い、森林からの恵みを活かし地域の発展に努めます。
3.水源林や河畔林は、私たちの水瓶と四万十川の清流を守ることを第一とした保全管理に努めます。
4.森林の持つ癒し、リフレッシュ、空気浄化、水源涵養、国土保全など多くの公益的な機能について、広く国民に理解を求める活動をします。
5.森林は人類の宝と位置付け、都市住民と連携した森林づくりを進めます。
6.循環型社会における木材の価値を再認識し、その利用拡大に努めます。
7.事業活動における環境や社会への影響を科学的に評価し、適切な事業活動を行います。
8.森林を汚さない、傷つけない生活を心がけ、森林を愛し、森林に遊ぶ従業員を育てます。
藤原敬
〒356-8687 独立行政法人 森林総合研究所
電話 0298-73-4751 FAX 0298-73-3795
email mailto:takashi.fujiwara@nifty.com?Subject=勉強部屋ニュースレター
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