ニュースレター No.247 2020年3月15日発行 (発行部数:1540部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                      一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原敬

目次
1 フロントページ:気候変動と森林の未来―IPCC気候変動と土地特別報告書の中森林(2020/3/15)
2. 自然由来の排出物市場の拡大ー世界の市場に与える企業のESGとREDD+の力(2020/3/15)
3. 地域工務店の今後のビジョンー森林を育てる住宅産業(2020/3/15)
4. 勉強部屋ネットワークへの新たな期待?ー勉強部屋ニュース246編集ばなし(2020/2/15)

フロントページ:気候変動と森林の未来―IPCC気候変動と土地特別報告書の中森林(2020/3/15)

昨年の8月、気候変動枠組み条約に関する政府間パネルIPCCから「気候変動と土地関係特別報告書」という報告書が公表されました。

SPECIAL REPORTClimate Change and Land-An IPCC Special Report on climate change, desertification, land degradation, sustainable land management, food security, and greenhouse gas fluxes in terrestrial ecosystems

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「土地関係特別報告書(*)」の公表(第50回総会の結果)について(環境省)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「土地関係特別報告書」の公表(第50回総会の結果)について(農林水産省)

長いサブタイトルがつけてあって「気候変動と土地:気候変動、砂漠化、土地の劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障及び陸域生態系における温室効果ガスフラックスに関する IPCC 特別報告書」と訳されています(環境省)が森林は?。最近この報告書の解説書がでているのを紹介いただき、森林にとって重要な内容を含んだものであることを再認識。少し遅くなりましたが内容紹介をします。

IPCC土地関係特別報告書」ハンドブック:背景と今後の展望(IGES)

このサイトでも、関連記事をいくつか配信してきました。

森林を畑にしてバイオマスを地中化するBECCSの功罪ーNature Comunications掲載論文(2018/8/18)
IPCC1.5度特別報告書と森林 (2018/12/22)
「気候変動と持続可能なバイオマス利用~土地利用転換・BECCS・森林の炭素蓄積機能に関わる国際的議論の動向~」 (2019/2/24)

今回の報告書は、ものすごく、新しい情報がつまっているわけではないかもしれませんが、IPCCという場に集結した当該分野の世界中の関係のアカデミア最前線の人たちが、気候変動と森林に関してどんな問題意識になっているか知る、大切な文献だと思います。

(気候変動関連対応策としての土地問題の難しさ)

 
 

上記の表は、「緩和策と対応策」というセッション(政策決定者向けサマリー)に記載された表です。

表側の対策リストは、①土地管理に基づく対策、②バリューチェーン管理に基づく対策、③リスク管理に基づく対策、④炭素吸収に関連する緩和策(原文ではこれは別表)

土地に関する政策が、緩和策・適応策だけでなく、様々な社会政策に同時に貢献(コベネフィット)するとともに、マイナスの影響(トレードオフ)もあるということが重要だとされます。

特に、土地にエネルギー作物を植えて(早生樹種の森林含まれるのか?)それを原料としてエネルギー利用をはかり、その場で回収して貯留しよという、BECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storeage)CO2回収・貯留を伴ったバイオマスエネルギー)は要注意。

この表の表側の対策リストで少し残念なのが、バリューチェーン管理に基づく対策に、食品に関する一連の政策(土地管理以外の収穫された産物の市場での取り扱い方)が掲載されているのに、森林の産物である木材の利用され方についての項目がないことですね。(次回に期待)

(気候変動対策社会の中の森林など)


上の図は、1.5度に向けた三つシナリオに関する土地利用の方向性。(排出量対策を頑張るしなりから、少しサボったシナリオまで)どの選択でも、農耕地と牧草地は減って(減らして)、バイオマス燃料作物栽培地、森林は拡大。社会全体が気候変動対策に大きくシフトする(?)21世紀後半に、森林の役割が大きくなっていく、というストーリーになっています。

最近早生樹種の開発の話が森林分野の学術的行政的な関心事項になっています(早生樹・エリートツリーの可能性(2019/4/20) など)が、BECCSという視点でもよく見ておく必要があるかと思います。

(先進国日本への期待)

私自身も原文を見ずに解説書を読んで、書いています。

REDD+など国内の森林関係の学術的な活動の中で、重要なテーマとして気候変動問題が主題にはなってきています。途上国の森林と気候変動。が、この問題がさらに大きくなってくると、途上国では手に余る、「先進国が範を示すべき」(IGESハンドブック山形与志樹氏)ということのようです。

先ほどのべた、世界中があまり重要性を感じていない、建築物の木材利用の側面など、日本が貢献できそうな分野もありそうです。

今後ともこのテーマフォローしていきますね。

kokusai2-72<ipccland2019>  

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自然由来の排出物市場の拡大ー世界の市場に与える企業のESGとREDDプラスの力(2020/3/15)

日経ESG3月号の「カーボンネガティブの衝撃」と題する記事に掲載してあったのが、標題の自然由来の排出物市場の拡大と題する左の図。

「自然由来排出枠とその他排出枠の2016年と2018年の比較。植林と土地利用によって発行される自然由来の排出枠自主取引が2年間で3.6倍(5060万トン)になった。その他の排出枠の取引量を上回る。」との説明書き。

(私の注:5060万トンは日本の森林の成長量と同じぐらい:日本の森林の成長量は7000万立方メートル(2016年森林林業基本計画)なので4900万二酸化炭素トン(木材1立方メートル0.7二酸化炭素トン(森林吸収源対策に関連する単位量))

出処は米フォレストトレンドの「自主的な炭素市場の状況2019」というので、そのサイトを訪問してみました。

Financing Emissions Reductions for the Future-State of the Voluntary Carbon Markets 2019

米フォレストトレンドのウェブサイトに掲載されていた、Demand for Nature-based Solutions for Climate Drives Voluntary Carbon Markets to a Seven-Year Highという記事にもとづいてフォローします。

ページの要旨は以下の通り

本日発表された新しい報告書「未来のための排出削減の資金調達:自発的な炭素市場の状況2019」によると、自発的な炭素市場の取引量は2018年に7年ぶりの高値を記録した。
このレポートでは、9840万メートルトンの二酸化炭素(MtCO2e)に相当する取引を特定し、市場価値は2億9,570万ドル。これは、2016年と比較して、量では52.6%増加し、金額が48.5%増加したことを表している。
この増加は、気候回復力の「自然に基づく解決策」に対する認識の高まりに起因しており、森林および土地利用活動を通じて発生するオフセットの量が264%増加し、REDD +が2015年以来初めて最も志向されるオフセットタイプになった。 。
市場の専門家によると、この量の急増は2019年も加速し続けている。

「現在、多くの企業が自主的な炭素市場を使用して、新しい技術に移行するまで排除できない排出量を相殺しています。」とフォレストトレンド代表マイケルジェンキンス氏のこばとです

(急増の要因ドライバーは?)

林業および土地利用セクターでは、REDD +に関連するオフセット(森林破壊と劣化からの排出量の削減、および炭素貯蔵の強化)の量は、2016年の10.6 MtCO2eから2018年の30.5 MtO2eに187%増加

また、植林/再植林(A / R)は、2016年の2 MtCO2e未満から2018年の8.4 MtCO2eに342%増加しました。

地理的には、ペルーに新しいREDD +量が集中し、増加の19.7 MtCO2eを占め、新しいA / Rの量は、世界中でより均等に配布されているそうです。

(買い手は)

排出枠の買い手はだれなのでしょう。

先月紹介した「REDDプラスの制度とクレジットの今後の展望」環境省宇賀氏が紹介した、国際 民間航空のためカーボン ・ オフセット 及び削減 スキームなどの働きによるものか?この文書でも、解説していますが、それより最も大きなドライバーは。

シェルなど、2019年半ばから2022年半ばまでの自然ベースの排出枠に関連するオフセットに3億ドルを投資することを約束したなど、全く自発的な購入者の出現が大切な要因なのだそうです。

Shell launches $300m forest plan to offset carbon emissions

そして、「ブリティッシュエアウェイズとエアフランスは、来年から始まるすべての国内便からの排出量を相殺することを発表しましたが、EasyJetは11月にジェット燃料の使用によるすべての排出量を直ちに相殺すると発表した」し、「EasyJetはEcosystem Marketplaceに、2020年9月までに7.5 MtCO2eを購入する予定である」そうです。

こうしてESGを念頭にした、企業が自社の排出削減目標達成のために、森林由来の排出量を購入する動きが急増しているようなのですが、・・・大気中のCO2回収技術などがまだ市場に登場するまで時間かがかかる、という中で、しばらく市場の主役になりそうです。

kokusai2-73<VCM2018>

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地域工務店の今後のビジョンー森林を育てる住宅産業(2020/3/15)

2月10日新木場の木材会館で開催された、令和元年度当初顔の見える木材での快適空間づくり事業 報告会」。そこで久しぶりにお会いした、伊佐ホームズの社長と、スタッフのKさん。

報告会では、 3. 森林パ―トナーズ株式会社    森林・林業の再生、維持とA材の持続可能な新流通システムの展開、という報告をされました。

全木連による報告会の充実したページがあり、そこからプレゼンの動画を見ることができます。

少しは話はさかのぼるのですが、今回プレゼンをされた森林パートナーズ株式会社は、「森を育てる新しい住宅産業を提唱していた世田谷の工務店伊佐ホームズが生みの親。

ウッドマイルズフォーラムに関心をもっていただき、また、SDGsグリーンサプライチェーンなど最新のトピックスに果敢に挑戦さているので何回かお話を伺ってきました。その時の勉強の結果を勉強部屋で報告しなければと思いつつ、すこし遅れてしまいましたが、ちょうど良いチャンス。

今回の報告会の森林パートナーズですが話の内容が奥が深く幅が広い。一回ではご紹介することはできないので、まず、伊佐ホームズさんから教えてもらった「地域工務店の今後の経営ビジョン-SDGsの理念に基づく森を育てる新しい住宅産業の取組」資料(2019年6月)をもとにご紹介します。

   自分たちの会社の企業コンセプトは

持続可能な社会の三つのコンセプト(環境、文化、経済)に応じて・・
Ⅰ(環境)森を育てる工務店JAPAN
Ⅱ(文化)日本の住宅文化を守る工務店
Ⅲ(品質生産)IOT連携による木材加工生産の技術革新
 Ⅰ環境①
 Ⅰ環境
森林再生プラットフォームによる林業への取組

出発点の山の写真は秩父の山で、秩父樹液生産組合の名前。そこから下のフロー図は左から右へ製材→プレカット工場→ハウスビルダー(伊佐ホームズ)と木材のサプライチェーンが普通に並び、逆方向に情報がリターンする。
それだけなら、我が社の建築する住宅の木材の来歴をします(普通の)サプライチェーン図だが、ポイントはサプライチェーンの上にある森林再生プラっトホームを経由した情報共有と、下にある伊佐ホームズから樹液生産協働組合にむけた「原木直接購入」という太い矢印。
一体ことは何でしょう。
 ①ー②環境

 Ⅰ②
もう一枚環境の図面、タイトルは
森を育てる家津クルの循環型社会
①の図がサプライチェーンをヨコから見たところとすると、上から見たところ?
山元から工務店まで左回り�サプライチェーンだが、工務店から山元に直接届く矢印(これはサプライチェーンではない)に書いてあるのは、適正価格、植樹活動、適材需要情報の三つの文字
Ⅱ文化
 Ⅱ文化
サプラチェーンは一休み

どこの工務店でもやっているユーザーである施主にとどける、メッセージ
日本の美、伝統素材・工芸の活用-美しい家が家庭を育てる
 Ⅲ品質管理  Ⅲ品質生産
ここに、はじめて森林パートナーズという言葉が出てきます(Ⅰの図との関係)
工務店が設計図に基づいて、必要な部材の情報を森林パートナーズが運営する森林再生プラットフォームに投入すると
プレカット工場にどのように加工された部材がいくつほしいという情報となり発注(委託発注)
さらに、製材所に対してプレカット工場にどのようば製材製品が必要かという情報が共有され(委託発注)
さらに山元の林業家(素材生産業者?)にどのような仕様の丸太を製材所に供給という情報が共有
そして、工務店が山元の林業家から丸太を購入となるようです

 建築家がよくわからない、山から家までのサプライチェーンの情報管理を、私たち工務店がツールを提供して直接情報共有。そうするとこの値段で木材を買うと、ちゃんと山づくりができるお金が山に帰るかよく解る。

(だれもが考えそうな?)そんなストーリーなのですが、本当にそれでビジネスが回るのか?自社の家造りというビジネスのそれで始める小さな林業のモデルの提示。

自社の特殊な環境だけでない、各地にこのモデルを広げたい。というどこまでも広がるチャレンジ精神。

私自身が全体像をすべてわけでないのですが・・・・

森林再生プラットホームによる情報共有がどんなふうにできるのか、まだできない部分があるのかないのか、具体的なプロセスを、今後ご紹介しますね。

junkan5-4<sinrinpt>

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 新型コロナと木材ー勉強部屋ニュース247編集ばなし(2020/3/15)

2月下旬に林業成長産業化地域調査報告会実施のただ中にいましたが、直前になって、突然開催できるのか?当日朝主催者から、すこし座る間隔を離して座席を設定、と指示をうけても、思いもかけず(想定していた人数より100名も多い)220名の参加者でうまくいかず。

それはそれとして、学校生活、ビジネス、行政あらゆる分野の社会システムに影響を与える新型コロナフイルスは、どこまで行けば終息するのかしないのか?東京オリパラ問題もふくめて社会生活にしばらく影響を与えそうです。

そこで、病気に感染した人、発病した人の情報が詳細に蓄積されていますが、行動履歴、年齢、性別様々な説明変数で、感染発病しやすさという事象を説明する作業が進むでしょうが、その中に、是非どんな生活空間で生活している方なのか、という指標を加えてほしいですね。インフルエンザの発生を抑制する木の力?!

今月号は、気候変動問題が森林や木材にどんな影響をあたえあるのか、グローバルな少し先の話と今のビジネスの話どちらも中々我々の周りの風景とぴったりしませんが、明日(あさっての)の我々の風景を知らせてくれる情報です。

次号以降の予告、ニューヨーク森林宣言5年間たって、顔の見える木材での快適空間づくりー事業の進展状況(続き)、、成長産業化地域と令和の山づくり、森林外交論続き、書評:諸外国の森林投資と林業経営-世界の育林経営が問うもの―、グリーンインフラ論と森林、勉強部屋の20年

konosaito<hensyukouki>

  

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp