ニュースレター No.233 2019年1月26日発行 (発行部数:1450部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                      一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原

目次
1 フロントページ:全国知事会の木材利用拡大プロジェクトの次のステップのために(2019/1/20)
2. 文京区生物多様性地域戦略とクリーンウッド(2019/1/20)
3. 新たな森林管理システムと森林政策上の意義(2019/1/20)
4. 英語の論文の作成過程の問題点ー勉強部屋ニュース232号編集ばなし(2018/12/22)

フロントページ:全国知事会の木材利用拡大プロジェクトの次のステップ(2018/12/22)

全国知事会に国産木材活用プロジェクトチームができ、11月8日(木曜日)、プロジェクトチームリーダー(東京都知事)が、「国産木材活用の更なる拡大に向けた緊急提言」について、石井 国土交通大臣及び川 農林水産大臣に要請活動を行ったそうです。

平成30年11月08日 「国産木材活用の更なる拡大に向けた緊急提言」の要請について(全国知事会サイト)

全国知事会 国産木材活用プロジェクトチーム会議(東京都知事の部屋

要請文は以下の通り

国産木材活用の更なる拡大に向けた緊急提言

我が国の国士の約7割を占める森林は、戦後造成された人工林の多くが本格的な利用期を迎えている中、木材利用が適切に進まないことなどにより整備が行き届かず、国土の保全や水源の涵養、地球温暖化防止等の公益的機能が十分に発揮されていない森林も見受けられている。
本年は、大阪北部地震、平成30年7月豪雨や台風第21号、北悔道胆振東部地震などの大規模自然災害が頻発しており、森林の有する土砂災害防止や洪水緩和といった機能の重要性が一層刷まっている。
また、各地域では、国産木材の利用拡大を通じた林業の振興による中山間地域の活性化が強く期待されている。
さらに、平成31年度税制改正により森林環境税(仮称)及び森林環境譲与税(仮称)が創設される予定であり、地方公共団体における国産木材利用等の取組について、一層の強化が期待されている。
このため、国産木材の新たな分野での利用や魅力発信など、各地方公共団体がこれまでも取り組んでいる国産木材の需要創出に向けた取組を、さらに全国的に加速させ、森林資源の循環利用を進めることで、再造林、保育、間伐などの森林整備を推進し、災害防止の観点からも極めて重要な森林再生、すなわち治山の理念に基づく取組へと繋げていく必要がある。
これらを踏まえ、地域の活性化や防災・減災に繋がる国産木材活用の更なる拡大を固るため、次のことを要請する。

1 CLT等新たな木質建築部材を使用した先駆的な建築物の整備や、国産木材を使用した塀の設置など、国産木材の需要創出に積極的に取り組む地方公共団体や民間事業者等に対する支援を一層充実・強化すること。

2 建築物の木造化・木質化を進めるため、新たな建築資材の技術開発や、木造建築を担える設計・建築分野の人材育成に対する支援を一層充実・強化すること。

3 地方公共団体や民間事業者等における国産木材活用を推進するため、国産木材活用の意義や魅力を広く国民に対して周知・啓発する取組を充実・強化すること。

平成30年11月8日

全国知事会国産木材活用プロジェクトチームリーダー
東京都知事小池百合子 


今後6月までの提言をまとめる作業をするのだそうです。

(知事会プロジェクトへの期待)

すべての都道府県が公共建築物木材利用促進法に基づく当道府県促進方針を作成しています。都道府県方針へのリンク先一覧

県産材・木材利用促進条例など20ほどの道・県が「森林の継承や循環型社会の形成をはじめとする多くの恩恵を認識」して木材や、県産材に利用促進のための施策を体系的に始めています。(勉強部屋ページ木材利用拡大条例

そのような中で、東京都知事をトップとした国産材の利用にむけた動きは重要なステップアップの機会です。時あたかも森林環境譲与税が都市の自治体もふくめたすべての市町村に森林を念頭においた、助成措置がなれる大切な時期。

勉強部屋では二つの点を期待します。

(なんで国産木材なのか?)

来年の東京オリンピックパラリンピックが開催されるなかでの都知事をトップとしたプロジェクト。SDGs目標 12持続可能な消費と生産のパターンを確保するにも関係する大切なプロジェクトであり、是非グローバルな発信にしていただきたい。その点で,日本向けには「国産木材を使おう」というのは分かり易いメッセージですが、グローバルに発信する場合、工夫のいるところです。近くの木材を利用することの環境貢献をしっかり発信して頂きたいと思います。

「新国立競技場」の木材利用。ロンドンに学びそれを超えて世界に何を発信するのか?(2016/1/17)
「ウッドマイルズ 地元の木を選ぶこれだけの理由」2007/4/15)

(欠かせない人づくり)

上記に掲載した緊急提言の2番目「木造建築を担える設計・建築分野の人材育成に対する支援を一層充実・強化すること」は大切なポイントです。各都道府県に一つは困ったときの駆け込み寺が必要(第34回フェアウッド研究部会 「新時代を拓く木材利用とフェアウッド」での講師杉本洋文氏の指摘)です。是非具体的な提言を期待したいと思います。

kokunai6-48(chijikai)

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文京区生物多様性地域戦略とクリーンウッド(2018/12/23)

居住している文京区で、はじめて「生物多様性地域戦略」を作成する作業をしていています。

文京区生物多様性地域戦略素案が公表され、意見募集があったので、提出しました。

都市住民にとっての生物多様性とはどんな意味があるのか?「緑の基本計画」などが作成されているのに、その上地域戦略をつくる意味はなんなのか?考えてみました。

(住宅地にとってのみどりの意味)

都市にとっての緑は環境保全、防災、レクリエーション景観という四つの側面があると言われますが(緑の必要性文京区緑の基本方針)みどりに囲まれた地域というだけでなく、大きなみどりの中継基地としての住宅地のみどり、というコンセプトは大切なメッセーです。

左の図は素案に掲載してあった「主に樹林地に生息する「シジュウカラ」の生息地・移動経路の分析」とした図です。

「区内で生きものの移動がしにくくなっているエリア(下図に示すシジュウカラやトンボ類の移動に着目した分析成果等を参考)にも着目し、住宅や事業所等、身近なところでビオトープを創ることを促すとともに、まちづくりの中で計画的に緑を配置していくことで、エコロジカル・ネットワークの充実が期待できます」としています(p51課題6身近な生物多様性の創出が必要

大きなみどりの生息する生物が、行き来するネットワークの経路としての住宅地の緑という位置づけが大切だという指摘です。

でも具体的にどうしていくのかが、今ひとつ

(都市生活者の消費行動が・・・)

もう一つ、緑の基本計画がありならが、なぜ生物多様性地域戦略をつくるかといえば、都市生活者の消費行動が、世界中の生物多様性に圧力をかけている、という大切なことを視野に入れているからだと思います。

素案の冒頭の背景説明にも「区内で消費される食料や木材は、ほとんどを区外から調達しており、間接的にその土地の生物多様性に影響を与えています。また、近年急速に進みつつある地球温暖化の大きな要因は、暮らしや事業活動における化石燃料の消費であり、エネルギーの一大消費地である文京区も、地球全体の生物多様性への影響は否定できません。」と記載されています。

そして、戦略の部分にも「基本目標Ⅱ 生物多様性に配慮した生活スタイルに転換し、日常の中で実践する」と記載されています。

紙にしても木材にしても森林認証のラベル、クリーンウッドなど材料はたくさん準備されています。

が、具体的な記述が今ひとつ

ということで、概略以下の三つの意見を提出しました。(原文はちら

1 住宅地等のみどりの保全造成について
基本目標IIIの「生物多様性に配慮したまちづくり・・・」に関する記述を、住宅地のみどりの保全造成の大切さという観点から、①みどりの創生だけでなく、現存するみどり保全が重要、②みどりの保全条例の手続きなどとの連携が大切、③地域計画など住民の自主的合意への誘導が大切、などの視点で充実させるべきです。
理由:
住宅地に緑がなくなっていくことを皆心配しています。素案51ページのシジュウカラの移動経路の分析の図は住宅地の緑はその地域の人だけでなく、大きな緑の間を行き交う生物にとっても大切なこと、という重要なメッセージです。しかし、素案には具体的な手立てについての記述が貧弱です。都市計画で建坪率容積率などここまで、やっていいとなっていても、地域戦略ができたのだから、いままでの、緑をへらすような計画は、してはいけない、どうしても緑がへる事業をするなら周辺住民に説明して合意を得なければならない、など、事業者の努力義務につながるようなことも含めて、是非記載を充実してください。
2 住民の消費行動について
基本目標II「生物多様性に配慮した生活スタイルに転換」に関して、具体的な行動を記述し、区の調達者としての役割を明確にするという視点から、記述を充実させるべきです。
理由:
緑の基本計画がありならが、なぜ生物多様性地域戦略をつくるかといえば、素案7ページにも書いてあるように、都市生活者の消費行動が、世界中の生物多様性に圧力をかけている、という大切なことを視野に入れているからだと思います。
その割に、素案77ページ行動計画に「生物多様性に配慮した製品を選ぶ」などと記載していますが、ほんの少ししか書いてありません。地産地消、農薬、違法伐採などいろんなメッセージを込めた商品が市場にでてきているので、まず、区で購入するモノは少なくともこういうモノを買います、公共建築物を建てるときには、持続可能な木材とわかるものでしか建てません、区内のコンビニ、大規模小売店で営業するならこういう商品を優先的に売るように指導します、など書くことはたくさんあるはずです。
3 背景に関する記述の充実
(原文)紙や建築資材等、さまざまな形で利用される「木材」の多くも海外からの輸入に依存しています。海外では、自然環境への配慮に乏しい林業も依然として多く、そのような場所で生産された木材や製品を区内で使用することも、間接的ではありますが、大きな影響を及ぼしていると言えます。

(修文)紙や建築資材等、さまざまな形で利用される「木材」は資源の循環利用の大切な要素ですが環境に負荷を与えているものもあります日本も含む世界の森林では違法伐採、自然環境への配慮に乏しい林業も依然として多く、そのような場所で生産された木材や製品を区内で使用することも、間接的ではありますが、大きな影響を及ぼしていると言えます。
理由2
海外の森林だけが問題があるという主張ではない方がよい。例えば、国の法律「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(通称「クリーンウッド法」)」の目的規定では、「我が国又は外国における違法な森林の伐採(以下「違法伐採」という。)・・・に鑑み」としています。 

どうなるか、フォローしますね

kokunai14-4<bunkyoBD>

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  新たな森林管理システムと森林政策上の意義(2019/1/20)

4月から森林管理経営法が施行され、森林環境税に基づく新たな管理システムが動き出します。

「適切な経営管理が行われていない森林を、意欲と能力のある林業経営者に集積・集約化するとともに、それができない森林の経営管理を市町村が行うことで、森林の経営管理を確保し、林業の成長産業化と森林の適切な管理の両立を図る」(林野庁関係サイト)林政史上画期的(林業団体)などといわれる重要なシステムについて、このサイトで新たな森林経営管理に関する法案ー森林環境税の目指すもの (2018/3/25)森林経営管理法成立ー国会審議過程で議論されたチャンスとリスク (2018/6/24)紹介してきました。

上の図にあるように、①意欲と能力のある林業経営者、②市町村の役割の二つがこのシステムの根幹を握っています。

今後このシステムが趣旨をふまえて実際に国産材の安定的な供給や次世代の森林づくりに、役割を果たすことになるのか、学会関係者もふくめた実践的な評価が必要になって来ると思います。

そんな中で、学術的な観点から評価の視点を提示された標記の新たな森林管理システムと森林政策上の意義(田家邦明)農業研究誌31号掲載)と題する論考を紹介いただきました。

所有者の負担なく森林整備をすすめる国の制度は(保安林を除き)初めてで森林政策上画期的(第5章)としていますが、実施過程で潜在する市場を歪曲する(意欲と能力のある経営者の効率性を阻害することになる)リスクを指摘しています。

市町村が林業経営者に再委託を進める際に、何らかの便宜を加えて経営者が市場での効率性を求める努力に水を差すことになるリスク。

受託先があるのか、市町村が実施主体となれるのか?という大きなハードルに対処して、実施の数だけがカウントされるような評価がされた場合、上記の危険性特に問題になると思います。

この制度が林政史所画期的だと言われるほど、よく念頭に置いておかなければならない、と思います。

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  今年はどんな年ー新年会からー勉強部屋ニュース233編集話(2019/1/26)

年のはじめ、1月は特に勉強部屋にとっては創刊20周年をどう迎えるか大切な時期のはずなのですが、他方で年度末でいままでやっていた仕事をどのように始末をつけるのか、重要の時期のはじまりでもあってばたばたしています。

そんな中で、新年会をいくつかまわりましたが、年末年始林業関係のどの会合にいっても、今年は画期的な年、森林環境譲与税が生まれ(まだ国会の決定はなされていないが)、それを財源に新たな森林管理が進む。

都知事をトップとした全国知事会の国産材プロジェクトもそんな背景をバックにできたことでしょう。

ただ、よいことだけではなく、「皆伐面積の3割しか植林されていない!」と、これもある新年会で林野庁の幹部の発言。当面のシステム変更に気をとられていると、大きな目標にむけて失敗をする可能性がああります。次世代にむけて、日本の山がどんな山になっていくのか、地球環境の視点で日本のやま、世界の森林がどうなっていくのか、しっかり見定める必要があるでしょう。

勉強部屋もそんなところに少しの貢献ができればよいと思っています

次号以降の予告、気候変動枠組み条約COP24と森林、韓国の違法伐採問題への取り組み、REDD+の最近事情気候変動と持続可能なバイオマス利用ー土地利用転換・BECCS/森林の炭素蓄積機能に関わる国際的議論のの動向

konosaito<hensyukouki>

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp