森林経営管理法成立ー国会審議過程で議論されたチャンスとリスク(20186/24)

5月25日参議院において、森林管理経営法が可決し(’共産党と、維新の会が反対)法案が成立しました。

法案概要については、紹介しました。

新たな森林経営管理に関する法案ー森林環境税の目指すもの(2018/3/25)

森林管理法全文(衆議院のサイト)
森林経営管理法案に対する附帯決議

森林林業行政の根幹に関わる政策が,森林環境譲与税という財源をバックにしてデザインされているので、国会の審議過程やマスコミなどでの批判的意見なども踏まえて、森林経営管理法(以下法といいます)の内容をおさらいをしておきます。

目次

1 政策の意図ー課題と対応方向
  (1)新制度の方向性は理解できる
  (2)森林所有者の森林経営の意欲
  (3)林業経営体を素材生産事業者等と規定し受け皿として期待すること
2 法案の中身
  (1)森林所有者への責務
  (2)市町村の機能の役割

参考にしたのは上記の他に以下の情報です

 (法案の説明)
森林経営管理法案の概要(林政審議会林野庁関連提出法案の概要平成30年4月))(以下概要という)
森林経営管理法案の概要(林野庁)
マスコミ報道論調)
朝日新聞社説3月26日森林経営管理法課題の検討を丁寧に 
毎日新聞社説5月4日みどりの日に考える 豊かな森の恵み守るには
信濃毎日新聞6月16日森林バンク法 実効性が見えてこない
(国会での参考人説明関係資料)
森林経営管理法案への期待」(衆議院農林水産委員会参考人高知県知事)(資料をいただきましたありがとうございます)
国民森林会議提言書、「新たな森林管理システム」及び「森林経営管理法案」について〜林政をこのような方向に大転換させてよいのか〜(提言作成委員長の愛媛大学泉名誉教授は、衆議院の参考人)

1 政策の意図ー課題と対応方向

概要  4ページにあるのか、課題と対応方向と題する以下の図です。

 

(1) 新制度の方向性は理解できる

マスコミ論調は、「新制度の方向性は理解できる。問題は、想定していることが実際に進むかである」信濃毎日新聞。信濃毎日新聞6月16日森林バンク法 実効性が見えてこないとして、基本的な方向性に同調しています。

次にしめす、森林所有者の経営意欲の消失が生み出している課題と、受け皿をさがして解決を図る方向性については、共通の合意ができているとといえるでしょう。

(2) 森林所有者の森林経営の意欲

この部分が、国会資料がデータ捏造とされたポイントです
「データ捏造」疑惑が浮上した森林環境税関連法 モリカケ追及の裏であっさり衆院通過

 

国会に提出された文章のそのものは、ネット上に公表されていないようですが、概要の2ページに右の図が載っています。

又説明に文言が訂正されたようです。

(原文)
我が国の森林の所有形態は零細であり、8割の森林所有者は森林の経営意欲が低い
意欲の低い森林所有者のうち7割の森林所有者は主伐の意向すらない

(訂正)
我が国の森林の所有形態は零細であり、8割の森林所有者は森林の経営規模を拡大する意欲が低い
経営規模を拡大する意欲の低い森林所有者のうち7割の森林所有者は主伐の予定はないとしている

だだし、森林所有者が森林経営の意欲を失っているという現状認識に大きな問題はないでしょう。

(3)林業経営体を素材生産事業者等と規定し受け皿として期待すること

 

もう一つの前提条件が、受け皿となる林業経済事業体(素材生産業者等)の規模拡大意欲です。

概要の2ページに素材生産事業者へのアンケート結果(H27年)として、左の図が掲載されています。

国民森林会議の提言書では、林野庁が林業経営主体を規定してきた歴史的経緯に照らして、データ不足、議論不足としています。(4「林業経営者について問題点1 林業経営者を素材生産業者等と規定して良いのか?).。 また、素材生産事業者に15年にわたる事業地の保育を義務づけるリスクについても論じています。

受け皿となる事業体がどの程度いるのか、今後の運営上の課題だといえるでしょう。

2 法案の中身

概要の5ページが法案の概要を示す以下のポンチ絵です。

 

(1)森林所有者への責務

法第3条では「森林所有者は、その権原に属する森林について、適時に伐採、造林及び保育を実施することにより、経営管理を行わなければならない」とされ、この責務を担保するシステムとして、市町村による経営経営管理権の設定、経営管理実施権の設定などのシステム構築がされてます。

この規定に対する批判が、国民森林会議の提言の重要な部分となっています。

先行法で所有者の責務を規定している、森林・林業基本法第9条「・・「森林所有者等」は、基本理念にのっとり、森林の有する多面的機能が確保されることを旨として、その森林の整備及び保全が図られるように努めなければならない。」、森林法、第8条「地域森林計画に従って森林の施業及び保護を実施し、又は森林の土地の使用若しくは収益をすることを旨としなければならない」など、他の法令は努力義務規定であるのに対して、経営管理法では伐採等の実施義務規程となっていることを、指摘し、財産権を規定する、公共の福祉の存在証明ができるのかどうか、という議論です。

法案作成過程で、憲法が規定する所有権との関係については、法制局もはいって十分に検討がされていることは間違えないでしょうが、市町村が経営管理権設定手続きをしようとした場合、森林所有者から所有権を巡る紛争が予見されるとすると、市町村長の行動を縛ることになるでしょう。

(2)市町村の機能の役割

関連して、森林所有者との間での経営管理権の設定、経営管理実施権配分計画に基づく意欲と能力があり林業経営者への経営管理実施権の設定、事前条件に照らして林業経営に適さない森林への森林経営管理事業の実施と、ポンチ絵の重要な部分を、すべて、市町村が実施するとされています。

この市町村の実施体制がマスコミ論調の各社が懸念する事項です。

 

参考人の高知県知事の配付資料にも、左の図のように、県内の半分以上の市町村で林業専門の職員がいないと指摘しています。

そして、知事は「政令・省令で定める市町村の業務については、効率的・効果的に実施できる仕組みの検討を。(例えば、他の市町村に住所がある所有者の照会事務など市町村相互の情報共有を可能とすること等)」。など具体的な提言をされました。(強力なスマート林業をすすめる高知県においておや)

この、市町村における執行体制の問題が大きな問題点で、、森林環境譲与税や、都道府県の代替執行制度などがが機能してうまく機能するのかが、今後の執行上の一番の問題となるでしょう。

3 おわりに

今回の法令改正で、森林法の要間伐森林制度による使用権の設定契約制度が、災害等防止措置命令の制度に取って代わり、森林法から削除されますが、要間伐森林制度自体が一度も使われなかったそうです。

森林経営管理法は成立しましたが、大きなハードルが二つばかりあるようです。森林環境譲与税のサポートをうけて、経営管理実施権の制定が行われなかったな、ということがないように望みます。

kokunai14-2(kanrihouan2)

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