ニュースレター No.199 2016年3月20日発行 (発行部数:1390部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信してます。御意見をいただければ幸いです。 

                         一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原

目次
1 フロントページ:企業による森林づくり・木材利用の環境貢献度の「見える化」(2016/3/26)
2.  『林業経済』誌編集後記(2016/3/26)
3. 森林・林業基本計画(案)の関する意見・情報の募集(2016/3/26)
.4 地球温暖化対策計画(案)に対する意見募集(2016/3/27)

フロントページ:企業による森林づくり・木材利用の環境貢献度の「見える化」(2016/2/26)

2月29日、林業経済研究所の主催で、「企業による森林づくり・木材利用の二酸化炭素吸収・固定量の「見える化」シンポジウム」が開催されました。

企業の社会的責任(CSR)という立場で、拠点工場周辺の工場緑地の間伐をしたり、環境教育の場に提供したりするケースが増えています。

また、コンビニや地方銀行の内装に地域材を使った製品を利用し地域住民とのコミュニケーションを図るといった事例もあります。

これらの活動を支援すため、森林づくり・木材利用の結果二酸化炭素の吸収量・固定量がどのようになったか簡単に計算できる、「簡易な『見える化』計算シート」を作成し、その普及のためのガイドラインを作成する、という、林野庁の委託事業の成果を披露する機会でした。

プログラムと報告の内容の詳細は、林業経済研究所のページを参照ください

(森林づくり木材利用によるの吸収・固定量の認定の取組)

京都議定書の第3条で、「直接的かつ人為的な土地利用変化及び林業活動から生じる温室効果ガスの発生源からの排出および呼吸源による除去の純変化を約束達成ののために用いられる」(第3項)とされたため、日本の森林経営活動の温暖化対策への貢献の数値化についての作業が進められ、日本の国際約束の中に反映されてきました。(森林による炭素吸収量をどのように捉えるか~京都議定書報告に必要な森林吸収量の算定・報告体制の開発~

また、2011年の気候変動枠組み条約COP17ダーバン会合において、京都議定書の第二約束期間で木材の固定量を温室効果ガスの貯蔵庫として計測することが決まりました。

この考えを進めて、個々の森林の管理者が自らの活動を吸収量として、また、木材利用を固定量として算出して環境貢献度として評価する作業が、進められてきました。

J-クレジット制度
フォレストック協会
都道府県知事による化森林整備の二酸化炭素吸収量認定
都道府県知事による木材利用の二酸化炭素排出量認定
日本木青連木づかいCO2認定制度
日本の木の家CO2固定量認証制度(地球の会)

(簡易な「見える化」計算シート)

これらを受けて、今回の作業は「『できるだけ使いやすいもの』で入門編」という考えに基づき、吸収量の場合は、作業を行った森林の面積と樹種と林齢、固定量の場合は木材の利用量といった最低限のデータを入力すると吸収量・固定量が算出されるようなっています。(森林の現地調査や、樹種などの詳しいデータを加えていくことも可能)

(森林づくり版入力画面、出力画面↓)

(木材利用版入力画面、出力画面↓)

計算システムの内容については、以下を参照ください

民間企業の活動による二酸化炭素吸収・固定量の「見える化」実証事業CO2吸収・固定量の計算について(外部リンク林業経済研究所)

今後、これらの普及のための仕組みができることになるので、また、このページでもフォローをしていきます。

作業過程でご指摘を受けた、過去の関連事業のサイトです。

企業等森づくり活動の評価手法の普及「森づくり活動チェック」(2007年度)
木材利用に係る環境貢献度の「見える化」検討会(2009年度)

kokunai4-41(mieruka)

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『林業経済』誌編集後記(2016年2月号)(2016/2/26)

1948年以来、林業経済分野の専門誌として毎月発刊をつづけている 『林業経済』誌の編集後記を執筆しています。

編集委員会の了解を得て、このページに転載することとします。

学会と業界、官界、市民との間と架け橋になれるかどうか、大切な役割です。

少しでも、『林業経済』誌の認知度が広がる(なかで、購読者が増える)ことを願っています。

 目次 編集後記 
2016年2月号
<やまがら>一物多価
2015年西日本林業経済研究会報告
研究会の概要(枚田 邦宏・奥山洋一郎)
報告 鹿児島大学農学部附属演習林における社会人教育の取り組(芦原 誠一)
コメント:広域・小規模森林組合の活動と集約化(嶺 隆太郎)/都築伸行氏の報告に対するコメント(新井 愛那)/川﨑章惠氏の報告に対するコメント(峰尾 恵人)/芳賀大地氏の報告に対するコメント(杉山 沙織)
書評
岡裕泰・石崎涼子編著「森林経営をめぐる組織イノベーション」(根本昌彦)
書評 農林水産奨励会『「生産力増強・木材増産計画」による国有林経営近代化政策の展開を現代から見る─増補─』(野口 俊邦)
書評 フランク・ユケッター著 和田佐規子訳『ナチスと自然保護 ─景観美・アウトバーン・森林と狩猟─(八巻一成)
国際会議の紹介「第14 回世界林業会議と日本の森林林業分野の活動」(藤原敬)
 1月中旬から2月にかけて札幌・広島・宮崎と出張する機会があった。テーマは「発電用木質バイオマス証明のためのガイドラインの運用状況」。再生可能エネルギー発電の固定価格買取り制度で、間伐材や適切に管理された木材由来の木質バイオマスによる電力を消費者が市場より高い価格で購入することとなった。その由来の証明を事業者の証明書の連鎖で担保することとなり、先行した合法性証明を担保する業界団体認定による証明書の連鎖を下敷きにしてできたガイドラインである。方や違法伐採問題、方や再生可能性と、どちらも商品の川上に起因する環境性能を消費者に伝達するツールだが、証明書を受け取ったエンドユーザーのメリットに違いがある。発電用の場合はユーザーがこれを根拠に高い電力を売れる。合法性証明はユーザーが地球環境問題に対する姿勢を評価される。この二つでは、証明書を発給する事業者と認定した団体の社会的責任の問われ方が全く違うのが現実である。環境問題と市場との関係性は本誌としての重要なテーマ。とりあえず3月上旬東京・神戸での成果発表会に期待いただきたい。
本号の内容は、2015年西日本林業経済研究会の報告と、3つの書評、国際会議の報告である。
昨年7月鹿児島大学演習林で開催された研究会の報告は、森林組合組織論、志布志港の輸出まで、明日の林業問題が一番先に生じる九州の最南端で開催された研究会の若さにあふれる雰囲気が伝わってくる。書評は、日本の林業政策を意識した欧州の森林施策の最前線の動向を紹介した「森林経営をめぐる組織イノベーション」、木材生産と持続可能な森林の政策論の原点となるべき「『生産力増強・木材増産計画』による国有林経営近代化政策の展開を現代から考える」、社会全体の大きな視野を欠落した森林政策の内在的なリスクに関する「ナチスと自然保護ー景観美・アウトバーン・森林と狩猟」。どれも、重いテーマである。

roomfj <ringyoukeizaishi/hensyukoukin>

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 森林・林業基本計画(案)の関する意見・情報の募集(2016/2/26)

林野庁では5年に一回の森林・林業基本計画の改定作業中ですが、作業中の案が公表され3月22日(火曜日)から4月10日(日曜日)までの間、パブリックコメントがあ公募されています。です。 

森林・林業基本計画(案)に関する意見・情報の募集(パブリックコメント)について

あわせて、森林・林業基本計画(案)に関する意見・情報の募集(パブリックコメント)についても実施中です。

「更新期が到達した」にもかかわらず、「豊富な森林資源を十二分に活用することなく、需要に応じた安定的な原木供給ができていない現状」(まえがき)に対応し(下図を参照)、国内のバイオマスエネルギーの拡大、都市の大型施設の木造・木質化の動きや、パリ協定によるグローバルな化石資源の制約への流れを受けて、次世代の持続可能な森林と市場の循環をどのように構築していくのか、大切基本計画の改定となります。

用途別の木材利用の目標


当サイトでも、基本計画の推移を踏まえた課題を、いくつか提示してきました。

森林・林業基本計画と持続可能な森林経営(1)合法性が証明された木材(2015/1/25)
(2015/3/22)
森林林業基本計画と持続可能な森林経営(2)基本計画の中の生物多様性保全(2015/1/25)

森林の有する多面的機能の発揮に関する目標とその講ずべき施策では、更新期を迎えた日本の森林に対して、次世代の新たな森林作りををしていく上で、生産性の高い森林と保全すべき森林の仕分けをおこない、国際的な持続可能な森林経営の議論をリードできる理念をどのように提起し、また具体的な実現の道筋を提示できるか、が課題でしょう。

また、林産物の供給及び利用に関する目標とその講ずべき施策では、成熟した資源を前提とした供給体制とともに、パリ協定の2度目標を踏まえて、化石資源の急速な削減を踏まえたウッドファースト社会をどのように作っていくのか。東アジアの重要な林産物市場として、輸入材も含めた木質バイオマス燃料やマテリアルの需要について、森林認証や合法木材の利用拡大など環境基準に基づいた市場をどのように図っていくのか、などが課題でしょう。

8回の林政審議会(審議経過はこちら)を踏まえて提示された案ですが、行政の文書が不得意なのは、グローバルな動きを多面的にとらえること、いままでの延長上にない新たらなステップのアイディアを出すこと、などなど。

当サイトとしても、前回(森林・林業基本計画案への意見と結果(2011/7/2)(2011/8/27))に引き続き、意見提出を予定しています。

パブリックコメントが実りのあるものになるこをを期待します。

kokunai1-14<kihonkeikaku2016>

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 地球温暖化対策計画(案)に対する意見募集(2018/3/27)

日本の約束草案及びパリ協定を踏まえ、2013年に改正された地球温暖化対策の推進に関する法律に基づいて政府がさだめることとなった「地球温暖化対策に関する計画(地球温暖化対策計画)」の政府原案が示され、4月10日を期限として、意見募集が求められています。

「地球温暖化対策計画(案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)について
地球温暖化対策計画(案) [PDF 2.2 MB]

関係資料
環境省地球環境部会審議経緯  産業構造審議会 産業技術環境分科会審議経緯  
京都議定書目標達成計画

森林政策との関係をみると、①温室効果ガスの吸収量と、②エネルギー起源二酸化炭素の排出量の中での木質バイオマスエネルギーの位置づけの二つがポイントです。

(温室効果ガスの森林の吸収量)

2.温室効果ガス吸収源
森林吸収源については、2030年度において、約2,780万t-CO2の吸収量の確保を目標とする。また、2030年度において、農地土壌炭素吸収源対策及び都市緑化等の推進により約910万t-CO2の吸収量の確保を目標とする。 

①森林吸収源対策

策森林・林業基本法(昭和39年法律第161号)に基づき閣議決定された森林・林業基本計画に示された森林の有する多面的機能の発揮に関する目標と林産物の供給及び利用に関する目標の達成に向けた適切な森林整備・保全等の取組を通じ、森林吸収量の目標(2020年度:約3,800万t-CO2 以上、2030年度:約2,780万t-CO2 )の達成を図るため、分野横断的な施策も含め、地方公共団体、森林所有者、林業・木材産業関係事業者、国民等各主体の協力を得つつ、以下の施策に総合的に取り組む。また、森林整備や木材利用を推進することは、地球温暖化防止のみならず、国土の保全や地方創生、快適な生活環境の創出などにつながり、その効果は広く国民一人一人が恩恵を受けるものである。しかしながら、森林現場には、森林所有者の特定困難や境界の不明、担い手の不足といった、林業・山村の疲弊により長年にわたり積み重ねられてきた根本的な課題があり、こうした課題を克服する必要がある。

このため、森林整備等に関する市町村の役割の強化や、地域の森林・林業を支える人材の育成確保策について必要な施策を講じた上で、市町村が主体となった森林・林業施策を推進することとし、これに必要な財源として、都市・地方を通じて国民に等しく負担を求め、市町村による継続的かつ安定的な森林整備等の財源に充てる税制(森林環境税(仮称))等の新たな仕組みを検討する。その時期については、適切に判断する。
(以下略)

森林整備に必要な財源問題など力点をおいて記載されています。基本法の改定作業も行われていますが、関連して持続可能な森林経営の方向や、企業の森林づくり、木材利用など幅広い参画の道筋などが重要な課題でしょう。

(エネルギー起源二酸化炭素の排出量の中での木質バイオマスエネルギー)

エネルギー起源の二酸化炭素は、2013年の1235百万トンを2030年には927百万トンとされている。この数値の中の、バイオマスエネルギーの構成は示されていませんが、基本的には「日本の約束草案」の数値を踏まえてものであり、その構成要素は「日本の約束草案」の検討過程で公開されています。

2020年以降の温室効果ガス削減に向けた我が国の約束草案(政府原案)の中における森林の関連部分(2015/6/25) (8/4改訂)

以下がその概要です


長期エネルギー需給小委員会第4回小委員会再生可能エネルギー各電源の導入の動向について
同第10回小委員会 「長期エネルギー需給見通し関連資料


導入見込み量2が今回の案の前提となるものですが、林野庁が提示した導入見込み1の通知から一般木材農産物残さが増えていることがわかります。

この差が輸入木質バイオマスに当たる部分で、バイオマス発電量の半分近くを輸入バイオマスに依存する形になっています。

これがどんな形で輸入されることになるのかは今後の課題ですが、市場任せという形になるのか、環境基準がしっかり設定されるのか、日本の市場が発信すべき重要な課題と言えます。

kokusai2-56<taisakukeikakuiken>
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最後までお読みいただきありがとうございました。

持続可能な森林フォーラム 藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

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