2020年以降の温室効果ガス削減に向けた我が国の約束草案(政府原案)の中における森林の関連部分(2015/6/25) (8/4改訂)

6月2日、政府の地球温暖化対策推進本部は2020年以降の温室効果ガス削減にむけ、2030年度の削減目標を2013年度比26%削減するなどを内容とする、「日本の約束草案(政府原案)」を公表し、意見募集を始めました(7月2日締め切り)。

勉強部屋としての提出意見

年末に開催される気候変動枠組み条約COP21で京都議定書にかかわる新たな枠組み合意に向けて、各国が国連に提出を求められている、削減目標の政府原案です。

原発への依存度、基準年度変更した姿勢などが議論となっていますが、この目標の中の森林に関する目標がどう設定されているのか、@森林吸収源部分の記載、Aバイオマスエネルギーの役割の二点から検討します。

(政府原案の森林吸収源部分の記載)

政府原案本文で森林吸収源に関しては、以下の記述があります。

 (本文)
前提条件、方法論
・森林等の吸収源活動による吸収量は、引き続き京都議定書と同様の計上方法により算定する。

(参考)
2 温室効果ガス吸収源
森林吸収源対策により約2,780万t-CO2(2013年度総排出量の▲2.0%相当の吸収量の確保を目標とする。

この数値を過去の約束数値の中の吸収源対策と比べると以下の通りです。

第一約束期間 第二約束期間
2008-2012年 2013-2020年 2020年以降
目標数値の時期 期間平均量 期間平均 2020年度 2030年度
森林吸収量の目標値 47.9 百万トン/年 44.1 百万トン/年 38.5 百万トン/年 27.8 百万トン/年
目標値の総排出量比 3.8 %削減 3.5 %削減 2.8 %以上削減 2.0 %削減
基準年 1990 1990 2005 2013
同年総排出量 1260.7 百万トン/年 1260.7 百万トン/年 1376.7 百万トン/年 1394.7 百万トン/年

今回の数値は、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会 約束草案検討ワーキンググループ 中央環境審議会 地球環境部会 2020年以降の地球温暖化対策検討小委員会合同会合で議論された結果ですが、3月30日の第6回合同会議で、農林水産分野における今後の地球温暖化対策について〜森林吸収源対策等について〜という文書が配布されており、森林吸収源についての議論が行われました。(議事録から森林分野に関する部分抄をこちらにおいておきます

 

右の図は2012年の中央環境審議会地球環境部会(第104回)に提出された、2013年以降の森林吸収源対策についてに記載されたもので、今後資源の成熟化に応じて吸収量が減少するので若返りが必要、としているものです。

このようなことから、今回の数値の減少は想定されたものですが、第6回合同会議では「数値は作成中」とされて、一連の会議で内容の説明がされていない状況です。

いずれにしても、間伐などの施業が済んだ森林の吸収源だけが、カウントされる仕組みが引き継がれるようなので、安定した財源が必要ということが重要なポイントになるでしょう。伐採後の木材の固定する分も含めた吸収源の内容の開示がすすみ、これに基づいた議論が期待されtます。

(エネルギ需給見通しとの関係)

もう一つ、今回の目標と森林林業との関係は、エネルギー起源の二酸化炭素排出量の中の木質バイオマスがどのような取り扱いになっているかです。

今回の原案は、5月に公表された長期エネルギー需給見通し の内容に沿ったものとなっています。(第7回合同会合)

同見通しは、総合エネルギー調査会の長期エネルギー需給小委員会で議論されてきたもので、2030年のエネルギー需要を326百万klとして、一次供給エネルギーの中で再生エネルギーを13-14%、電源構成比としては再生可能エネルギーが22-24%、バイオマスを3.7-4.6%、394-490億kWhとしています。(長期エネルギー需給見通し 関連資料6/1第10回書委員会

 

左は同委員会の途中経過(3月第四回小委員会)で提出された、「再生可能エネルギー各電源の導入の動向について」によるもので、この段階では、バイオマス発電用バイオマスの見込みは286億kWhとされています。

上記の数値との差についての説明はありませんが、農産物残さの輸入などが想定されているようです。

いずれにしても、原案の中で、バイオマスエネルギー発電量について、2030年までの目標値である394億kWhを現在の177億kWh(既導入量)から増加させる、約200億kWhのバイオマス発電量の増加が前提となっており、仮に石油火力発電(864gCO2/kWh、電力中研電源別LCAーCO2))がこれに置き換わるとすると20百万t/年程度の削減が、バイオマスエネルギー電力の拡大に背負わされていることになります。

今後、長期エネルギー需給や排出削減の議論の中で木材バイオマスの供給可能性についての議論が重要なテーマとなる可能性を示しています。

(持続可能な森林フォーラム意見提出)

以上を踏まえて勉強部屋としても7月2日以下の二つの意見を提出しました。

(吸収源対策の財源問題)
 2013年度排出量の2.0%に当たる2780t-CO2の量を森林吸収源対策により確保することを目標としているが、人工林が高齢化するなかで、この数値を確保するためは、安定的な財源確保が必要である。
 意見及び理由
原案では温室効果ガスの吸収源として2013年度排出量の2.0%に当たる2780万t-CO2の量を森林吸収源対策により確保することを目標とし、その前提として森林林業対策の推進による温室効果ガス吸収源対策を推進する、としている。その詳細は明示されていないが、積算の前提条件として、森林等の吸収源活動による吸収量は、「引き続き京都議定書と同様の計上方法により算定する」(本文前提条件方法論)されていることから、間伐などの手入れが行われたところの森林の吸収量を積算しているものと思われる。今回の数値は京都議定書第1期、第2期の数値と比較して若干減っているが、人工林が高齢化するなかで、この数値を確保することは間伐推進などに関する財源の確保など引き続き重要な課題である。
森林吸収源対策・木材利用対策を推進するために必要な安定的財源を確保するための「地球温暖化対策税」(環境税)の利用などの要望が出され、毎年、「総合的な検討を行う」とされてきたが、27年度の与党税制改正大綱では、「COP21に向けた2020年以降の温室効果ガス削減目標の設定までに具体的な姿について結論を得る」とされているところであり、前提となった対策施策のなかに、「地球温暖化対策税による財源を確保し」という趣旨が、記載されるべきである。
(バイオマスエネルギー供給の展望)
一次供給エネルギーの中、電源構成比バイオマスを3.7-4.6%、394-490億kWhとしているが、供給源を明確にし、持続可能な森林経営と両立する明確な展望を示すべきである。
 意見及び理由
今回の原案は、5月に公表された長期エネルギー需給見通しが前提となっており、2030年のエネルギー需要を326百万klとして、一次供給エネルギーの中で再生エネルギーを13-14%、電源構成比としては再生可能エネルギーが22-24%その中で、バイオマスを3.7-4.6%、394-490億kWhとしている。(温室効果ガス削減目標積み上げに用いたエネルギーミックス)
この数値は、エネルギーミックスを検討していた、総合エネルギー調査会の長期エネルギー需給小委員会の第4回小委員会(今年3月)で提出された、「再生可能エネルギー各電源の導入の動向について」に記載された、バイオマス発電用バイオマスの見込みは286億kWhとより大幅に多くなっており、その差が明示されていない。
いずれにしても、原案の中で、バイオマスエネルギー発電量について、2030年までの目標値である394億kWhを現在の177億kWh(既導入量)から増加させる、約200億kWhのバイオマス発電量の増加が前提となっており、仮に石油火力発電(864gCO2/kWh、電力中研電源別LCAーCO2))がこれに置き換わるとすると20百万t/年程度の削減が、バイオマスエネルギー電力の拡大に背負わされていることになる。
この達成のために、国内の木質資源に頼るのであれば、その具体的な見通しを明確にすべきだし、海外の木質資源に依存するのであれば、そのことを明確にし、輸入先国とも連携をとって、持続可能な森林経営と両立する明確な展望を示すべきである

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