ニュースレター No.179 2014年23日発行 (発行部数:1180部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1 フロントページ:持続可能な開発目標と森林の将来、FAO森林委員会での議論2014/7/21)
2. 「里山バンキング」が提唱していること(2014/7/21)

フロントページ:持続可能な開発目標と森林の将来、FAO森林委員会での議論(2014/6/27)

国連農業食糧機関FAOの林業部門の方針を議論する2年に一度の林業委員会(Committee on Forestry (COFO))22回会合が6月23日から27日ローマで開催されました。

FAO本部のページ

今年のテーマは森林の社会経済的効用で、毎回COFOと同時に発表される世界森林白書(SOFO)市場に評価されない森林の効用などの分析をしています。

その議論の延長上で、今回の会議の議題の一つに、国際的な議論への貢献として、持続可能な開発目標と森林というテーマが設定されています。

リオ+20に出席して以来、その時に決まった持続可能な開発目標SDGsの策定という作業が重要な意味と持っていると考え、このサイトでもフォローしてきました。

「持続可能な開発目標」と森林(2012/8/18)
リオ+20から一年(2013/8/24)
持続可能な開発に関する公開作業グループ会合ー森林の行方(2014/05/31)

市場で十分に評価されない森林の多面的な機能を十分に発展させるために、全ての政策分野の優先順位を同じ土俵で検討することとなるこの作業のなかで、森林に関する目標や指標がしっかりと位置づけられることが、各国の森林政策をサポートする意味でも重要です。

それなのに、公開作業グループなどの議論の中で、森林に関して独自に議論する場がないなど、心配をしていました。

今回FAOの事務局がCOFOに提出した、COFO/2014/5.1 Forests and the Sustainable Development Goals と題する、文書は経緯をよくまとめ、森林に関する議論が欠けている現状を踏まえて、各国が努力するよう要請する、重要な内容を持ったものです。

その文書を和訳してみました。(こちら

その中で、作業グループに提案した以下の森林の目標が引用されています。

森林共同パートナーシップ(CPF)メンバーによるSDGsにおける森林の目標への提案

目標1 全ての世界の森林の持続可能な管理:この目標は森林資源と景観の長期にわたる持続可能性に焦点をあてたものである。これは、積極的、野心的、行動的、明瞭な概念で、持続可能な開発の全ての側面を均衡のとれた形で取り扱う。全ての国に適応できる。国連の加盟国はすでに持続可能な森林経営に対する政治的な約束をしている。また、生物多様性条約締約国は、生物多様性の戦略目標に沿って、持続可能な森林経営の機能に関する誓約をしている。

目標2 世界中の森林と木材資源の改良:森林及び森林外の樹木の自然価値はその量(面積と蓄積)と質(構成と健全性など)によって形成される。森林と森林外の樹木の広がりと質は理解が容易である。この目標は生物多様性、気候、その他の森林の多面的機能の根拠となるものである。

目標3 森林の増加による気候変動の緩和:森林減少と劣化は主たる二酸化炭層排出の原因の一つであるが、持続可能に管理された森林は炭素貯蔵庫である。森林の保護、森林管理の改善と新たな森林の造成は全て森林の気候変動緩和機能を増進するものである。伐採後の木材製品の炭素量も増加可能である。

目標4 直接的間接的な森林と樹木の食料の安全保障と栄養の改善への貢献:森林と樹木は果実、ナッツ、葉、油脂、蜜、野生獣肉、昆虫など栄養のある食料の主たる供給源であり、24億人が調理用の燃料エネルギーを燃料用木材に依存している。森林は、気候を性越し、新鮮な水を供給し、受粉媒介者の生息地を提供するなど、農業の生産性を高め農業に貢献する。

目標5 賃金と森林の雇用を増加による貧困の削減:世界中の主として途上国の数億人が森林から賃金と雇用を得ている。森林分野の女性は多大な雇用とビジネスの機会を生み出し、食料の確保、健康、教育の面で貢献する、家計と地域の利益を増進させている。

目標6 森林の関する生物多様性の保全と改良:森林は陸域の生物多様性の80パーセントを保持している。生物多様性は、森林の生産性、強靱性、柔軟な適応性を支え、炭素固定、受粉、種子の散布、分解などに生態的過程を維持するのに重要である。生物多様性は食料の確保についても重要である。

目標7 森林地域から新鮮な水供給の改善:森林は、地球上の利用可能な水の推計75パーセントを供給する、自然の透過貯留システムである。森林は、降水を土壌に透過し、地下水を形成し、乾燥地への水の供給と洪水ピークの抑制を図る。

目標8 人々と森林の急撃・順次派生する変化への強靱性:森林と樹木は食料供給システムの強靱性を高め、その結果、急激なあるいは順次派生する変化への生計の強靱性を確保する。持続可能な森林経営は、長年採用されてきた経営についての地方の知識の価値と応用の経験を学ぶことにより、強靱性を高める。

目標9 森林のグリーン経済への貢献の改善:森林は、持続可能な生物エネルギーと生物資材の提供、リクリエーション機会の提供、食料・医薬品への遺伝子資源の提供などを通じてグリーン経済に貢献する。

目標10 持続可能な森林経営に対する多様な財源の改善:持続可能な森林への現在に投資は不十分である。世界の持続可能な森林を達成するため、すべての分野であらゆる財源に対して十分な財源を確保するための行動が必要である。

そのうえで、林業委員会は、各国に対して、
公開作業グループ及び国連総会に対する各国の対処方針の中で、森林と2015年以降の開発課題における持続可能な開発に関する3つの柱に対する森林の貢献について、適切に考慮され明確に記述されるよう、努力を強めること
公開作業グループ及び国連総会において、森林の多面的機能と持続可能な開発に関する三本の柱に対するそれらの貢献が認識されるような目標と指標が挿入されるよう、積極的に貢献すること

を提言しています。

今後の動きが注目されます。

chikyu1-26(COFO22)


「里山バンキング」が提唱していること

7月5日環境アセスメント学会生態系研究部会定例会、里山生態系保全を推進する「里山バンキング」という会合に出席してきました。

2年前に同じ場所で開催された同じテーマの会合に出席した結果はこのサイトでもご紹介しました「里山バンキング」ワークショップinちば(2012/1/22)が、2年たって谷内の水田にはNPOの力で田植えがされるようになり(←)、その周りの森林の整備の事業を里山バンキングのクレジットとしようという実証実験が行われています。

つまり、下草を刈りはらって管理がしやするするような事業のコストが公認されてクレジットとして登録され、例えば近くの宅地開発を実施する業者が事業過程でやむを得ず行うこととなる緑地の宅地転換とい生態系のロスの代償として、事業費でクレジットを購入し、「この宅地開発はノーネットロス(生態系の負荷をかけない事業)である」と説明できるようにしようというものです。

里山バンキングの解説は、提唱者である東京都市大学田中章教授の、里山のオーバーユースとアンダーユース問題を解決する“SATOYAMAバンキング”を参照ください。

まだ、事業化ということにはなっていませんが、2年前に比べると、大手小売りチェーン店の環境担当者など企業の関係者が数人参加されていたり、環境省の担当課長が来ていたりと、じわじわと事業が進みつつある、という動きが見えました。

前回も触れましたが、この事業が普及するためには、バンキングを義務づける制度(環境アセスの過程で、ノーネットロスを義務付ける規則など)と、生物多様性の定量的評価手法が必要です。

後者については、平成26年度「環境研究総合推進費」で「環境保全オフセット導入のための生態系評価手法の開発」(代表者岡部貴美子(独)森林総合研究所)というプロジェクトが出発したという紹介がありました。(概要

今後の展開を期待します。

(黒四ダムのネットロス)

 

ところで、次の週、黒四ダムに団体の親睦旅行でいってきました。台風一過の素晴らしい天気で、後ろ立山連峰の峰々が一望に見え、すばらしいものでした。

このプロジェクトは1956年から63年までかかった難工事で、映画黒部の太陽、最近では紅白で黒部から中島みゆき地上の星が流れたNHKのプロジェクトXシリーズ黒四ダム、などで紹介され、「この谷は地上の自然と地底にあった人間の情熱とを教えてくれる」として、今でも高度経済成長期の日本の英知と努力を称賛するストーリィが受け入れられています。

ところで、今黒四を作るとなったらどうなるだろう、というのが、里山バンキングのセミナーに出席したばかりの私の設問です。

中部山岳国立公園の真ん中に、349万m2の湛水面積を持つダムをつくるには、まず、回避できないか(回避ミティゲーション)、もっと小さくできないか(最小化ミティゲーション)のギリギリの検討を行ったうえで、最後に代償オフセットという形にしよう、というのが里山バンキングのもととなった、、生物多様性オフセットの主張です。

仮に環境アセスメントの手続きの中で、ノーネットロスという原則が施行されることとなると、黒四ダムと同じ規模の代償を近隣に求める、となり、多分黒4ダムはできなかったでしょう。

発電能力は出力335千KWで原子力発電所の3分の1。

この規模の再生可能エネルギーを推力とした発電施設を作るのに、生物多様性の代償をどう考えるのか、今後の生態系の評価手法の検討をする場合に、頭の隅に置いておかなければならないことかと思います。

kokutai3-9(satoyamabank2)



最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

 

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