日弁連公害対策・環境保全委員会自然保護部会が主催する標記イベントが2月4日に千葉市若葉区で開催されたので、参加してきました。
集合場所はわたしの田舎谷当工房。ここは、千葉県里山条例の活動や08年の生物多様性ちば県戦略を生み出す活動の中心となってきたNPOちば里山センターの金親理事長の活動拠点で、自家製そばをいただきながら、天気のよい谷津田再生計画のフィールドの見学など楽しませてもらいました。
メインテーマは「里山バンキング」聞き慣れない言葉です。イベントの説明に「日本型生物多様性保全を推進する経済的手法」とあり、興味を持って参加させてもらいました。何らかの生物多様性の保全に関する取引が行われ、そこには生物資源の経済的評価手法が絡まっているはず、というのが、こちらの関心事項でした。東京都市大学田中教授の主報告、日弁連自然保護部会の海外事情調査報告を会わせて、生物多様性保全を経済的手法として市場を参加させる手法の最近の動向を勉強させてもらいました。
小生の理解したエッセンスは以下の通りです。
開発に伴う生態系や生息地(ハビタット)の破壊がどうしても避けられない(その判断は回避、最小化の代替案を厳密に検討した上で行う)場合、事業者の責任で同等のものを近隣に復元、創造することで生態系の質・量維持(ノーネットロス目標)を実現するという方策が、「代償ミティゲーション」ないし「生物多様性オフセット」といわれて、世界各国で実施されている(2010年8月現在53カ国で導入)。
(戦略的な緑地創成を可能とする生物多様性オフセット(田中章、太田黒伸介、都市計画)
さらに、個々の事業で代償対象地を探して対応していた上記の段階から一歩進め、第三者(バンカー)がまとめて、戦略的に重要な復元保全の対象地を設定事業化して代償ミティゲーションを義務づけられた開発事業者にその効果(クレジット)を販売して事業化するのが「生物多様性バンキング」ないし「ミティゲーションバンキング」と呼ばれている。「里山バンキング」は名古屋で開催された生物多様性条約COP10を機会に、日本が過剰使用と過小使用の両方の問題を抱える里山問題と生物多様性バンキングを結びつけて提案したもの。
里山のオーバーユースとアンダーユース問題を解決する“SATOYAMAバンキング”(田中章 環境自治体白書2010版)
バンキングという取引の前提となる、事業地、代替地の生物多様性の定量評価について、特に米国での取組の中で開発され田中教授によって紹介されている、「ハビタット評価手続きHEP」という手法が今回紹介されました。特定の生物種に着目し、森林面積などの環境指数が、生物の住みやすさを表す適性変数との関係がわかるいくつかの指数を用意し、総合的な指数を(HSI)計算し、これに面積を乗した指数がHEPと呼ばれるものです。
環境アセスメント学会生態系研究部会 HSIモデル公開用ホームページ
HEP入門 (新装版) ―〈ハビタット評価手続き〉マニュアル―(田中章著、朝倉書店出版)
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この取引が行われるようになるためには、@温暖化条約の排出権取引が国際法で義務づけられた京都議定書の削減目標を背景に行われているように、開発にノーネットロスを義務づけるような制度が導入されること、A消失された生態系と、創成された生態系の価値が同等であることを説明する評価手法、の二つが必要です。
(生物多様性バンキングを義務づける制度)
前者については、オーストラリアビクトリア州の事例が参考になると日弁連の調査に参加された方から報告がありました。第三者のバンカーのことを、ブッシュブローカーというのだそうです。
The Bush Brokers Manual A guide to buying, selling and owning bush in
Western Australia (2003 WWF Australia, the Real Estate Institute of Western Australia and the Soil and Land Conservation Council (WA)
また、日本では唯一行政で導入した事例は埼玉県志木市の志木市自然再生条例だそうです。
(自然の保全及び再生に資する措置)第10条 市は、公共事業の実施により自然に影響があると認められる場合には、影響緩和手法を用いて自然の保全及び再生の措置を講ずるものとする。
(生物多様性の定量的評価手法)
後者について、各国いろいろな取組がなされているようですが、特に米国での取組の中で開発され田中教授によって紹介されている、「ハビタット評価手続きHEP」という手法が今回紹介されました。特定の生物種に着目し、森林面積などの環境指数が、生物の住みやすさを表す適性変数との関係がわかるいくつかの指数を用意し、総合的な指数を(HSI)計算し、これに面積を乗した指数がHEPと呼ばれるものです。
環境アセスメント学会生態系研究部会 HSIモデル公開用ホームページ
HEP入門 (新装版) ―〈ハビタット評価手続き〉マニュアル―(田中章著、朝倉書店出版)
(今後の課題)
生物多様性の経済的評価のテーマが、今の林業政策とどう関わってくるか考えた場合、今検討されている評価方法が、既存の林業経営の対象となっている森林を評価する場合どんな問題点がでてくるのか、大きな課題が残されていると思います。それは評価方法のみならず、経営する側の計画や評価の課題にもつながってくるものでしょう。
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