ニュースレター No.234 2019年2月25日発行 (発行部数:1450部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                      一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原

目次
1  フロントページ:欧州の過ちから学ぶ森林バイオマスエネルギーー海外における木質バイオマスエネルギー推進についての最近の論調より(2019/2/24)
2. 報告:バイオマスエネルギーと森林の炭素蓄積機能に関する国際的議論の動向(2019/2/24
3. 気候変動枠組み条約COP24と森林(2019/2/24)
4. 日EU経済連携協定と違法伐採問題、持続可能な森林(2019/2/24)
5.  欧州発の情報の日本の政策への重さー勉強部屋ニュース234編集ばなし(2019/2/25)

フロントページ:欧州の過ちから学ぶ森林バイオマスエネルギーー海外における木質バイオマスエネルギー推進についての最近の論調より(2019/2/24)

1月30日バイオマス産業社会ネットワークBINの研究会「海外における木質バイオマスエネルギー推進についての最近の論調、産官学が直面する新たな課題」でが開催されました。

講演者は 藤原敬(一般財団法人林業経済研究所フェロー研究員)、マイケル・ノートン教授(ヨーロッパアカデミー科学諮問委員会環境ディレクター ) の二人

私(藤原敬)の話の内容は勉強部屋で紹介した、森林を畑にしてバイオマスを地中化するBECCSの功罪ーNature Comunications掲載論文(2018/8/18)というページをごらんになった主催者からの要請に応えたもので、次ページに別途紹介しますが、ここでご紹介するのは、よりインパクトのあるマイケル・ノートン氏の報告です。

(Forest biomass for energy- learning from Europe’s mistakes 欧州の過ちから学ぶ森林バイオマスエネルギー)

ノートン教授の報告のタイトルです(刺激的)

大変印象深かったのは、森林を木質バイオマスエネルギーに使った場合の得失をしめす左の図です。

森林の立木に含まれる炭素が赤で示されていて半分伐採してその後に成長することが示されていまるのがわかりやすいですが、その上にのっている緑の部分。

収穫された木材が燃焼されて、化石資源を代替して化石資源の炭素放出を節約した部分がみどり色です(もえずに資源のまま残っているので森林のエネルギー利用の貢献分として赤と緑が積み重なる)。

(バイオマスエネルギーはカーボンニュートラル?)

ポイントはバイオますエネルギーは化石資源ほどエネルギー効率性が高くないので、一部しか代替できず、差分は紫色の余分は炭素排出部分となります。

こうして、木材をエネルギーに使う場合、しばらくの間、化石資源を使うより排出量が多くなる。その時間は森林の条件によるが、場合によっては何世紀もかかるのだそうです。

バイオマスエネルギーはライフサイクルの中で吸収と排出が釣り合うので空気中の二酸化炭素を増やさないから、カーボンニュートラルでその排出量は無視して良いという議論がありますが、時間を分析の中にいれないと・・・。

現在のように一刻もはやく排出量をへらさなかければ1.5度はおおろか2.0度の危ないという時期に、この問題をしっかり管理していかなければならない、というのがこの報告の主張です(と理解しました)。

EUでもまたその最先端をいっていた、英国でもカーボンニュートラルだといってバイオマスエネルギー推進を進めてきたが、これがつづくと、排出量がかえって増える。

最近英国では,バイオマス燃料を助成するのは供給過程のエネルギー排出量を厳しくして、北米からのペレットなどは助成されなくなったそうです。

(参考資料)

BIN研究会のページに、ノートン教授資料がダウンロードできますので、 是非どうぞ。

会場で紹介されましたが、元になった論文がネット上でダウンロードできます。

Science Advisory Council, European Academies "Multi-functionality and Sustainability in the European Union's Forests"

同上 "Negative emission technologies: What role in meeting Paris Agreement targets?"

energy1-31 <BINnorton>.

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報告:「気候変動と持続可能なバイオマス利用~土地利用転換・BECCS・森林の炭素蓄積機能に関わる国際的議論の動向~」(2019/2/24)

 

1月30日開催されたバイオマス産業社会ネットワークBINの研究会「海外における木質バイオマスエネルギー推進についての最近の論調、産官学が直面する新たな課題」で標記の報告をする機会がありました。

勉強部屋で、森林を畑にしてバイオマスを地中化するBECCSの功罪ーNature Comunications掲載論文(2018/8/18)という報告をしましたが、ごらんになった主催者からの要請に応えたものです。

  標記の論文の内容を三つのセッションにそって説明しますが、前段でそのは背景としてパリ条約の合意内容を説明します
   パリ条約は、京都議定書のあとの新たな枠組みが合意。
京都議定書ではなかった①途上国の参画、②新たな目標の二つがポイント。この報告が後者の、2度C目標、1.5度C目標を各国の自国が決定する貢献策(約束)を検討しながら進めるが、現時点で約束が2度の方向とはずれている
   そこで、目標と約束の二つの整合性を矛盾なく説明するシナリオはCO2の捕獲、固定(CCS)が重要な役割を果たす
  CCSとバイオマスエネルギー利用をあわせて行うと効率的?
BECCSといいます
   導入部で概要説明をしたあと、結論という部分が三つに分かれて説明される
あとは参考に検討すべき今後の課題、少し詳しい方法など(この部分はしっかり読んでいません)
   導入部で刺激的な記載
1.5度に向けて頑張ると、土地の炭素固定量がへる!!
土地の利用、森林の状態をしっかり管理しないとならない!
   土地利用の二つのシナリオを用意
地球上に日本の面積の20倍のエネルギー作物農地を設ける場合(積極的土地利用転換IM1.9)、その半分ぐらいで納める場合(IM2.6)
   上記の二つの土地利用と,1.5度目標、2度目標の二つあわせて4通りのシナリオで土地に固定された炭素が増えるか減るか?
左上が植生、右上が土壌、左下捕獲固定された炭素の量。それをあわせたのが右下の合計量
エネルギー作物に一番頑張った1.5度のケースが一番炭素固定の合計量が少ない
   1.5度になったときに北方では森林での炭素蓄積が増えている
  森林を エネルギー農場にしても何年たっても元がとれない地域(元の森林に蓄積してあった炭素・森林のままで固定されるであろう炭素の量(失われた量)が、エネルギー作物にして毎年固定した累積では21世紀中に追いつかない)がけっこうある
   増産が成功する地域は全体の3割ほど(前提が動けば変わります)?
   まとめ
学術文献なので、政策への意味合いはなにかと、考えてみましたが、今後増える見通しの輸入バイオマスをにらんで、その由来、サプライチェーンで発生する温室効果ガスGSGの排出量など議論が進む必要(英国が買わなくなったバイオマス燃料を日本が買いあさるということがないように?)が有ると思います
   日本語の関係論文が出ています

山形与志樹(国立環境研究所)大気中CO2を減らすことは可能か?バイオマスCCSとその利用限界(2014)
高橋伸英(信州大学):CECCS(バイオマスエネルギー+CO2回収貯留)の可能性(2016)

その後この論文に関して日本語の要旨が公表されていると連絡をいただきました
【気候科学】森林管理によって温暖化を摂氏1.5度以下に抑えることができる
Climate sciences: Forest management could help limit warming to 1.5°C

このタイトルの訳文は少し気になりますが、ネイチャーの広報部の説明ページです

kokusai2-64(beccs+fore)

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気候変動枠組み条約COP24と森林(2019/2/24)

ポーランド・カトヴィツェで12月2日(日)から15日(土)にかけて、国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)、京都議定書第14回締約国会合(CMP14)及びパリ協定第1回締約国会合第3部(CMA1-3)が開催されました。

国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)、京都議定書第14回締約国会合(CMP14)及びパリ協定第1回締約国会合第3部(CMA1-3)の結果について(環境省)

国連気候変動枠組条約事務局 COP24公式サイト(英語)

1月18日フォレストカーボンセミナー:COP24等報告会国際緑化推進センター)が開催されたので出席してきました。

ーーーー報告は以下の3件
1. 石内 修氏 林野庁森林利用課 COP24における森林等吸収源の成果と今後の展開
2. 中野 彰子氏 林野庁計画課国際森減少対策調整官 REDD+最新動向—COP24と緑の気候基金(GCF)—
3. 神山 真吾氏 林野庁計画課海外林業協力室 二国間クレジット制度(JCM)におけるREDD+について
ーーーー
2と3は、途上国の森林減少をストップさせるコストをどのように捻出するか、にかかる重要な報告ですが、別途取り上げます。以下第一報告にそって大枠を。

(パリ協定実施指針の決定)

COP24のポイントはパリ協定の実施指針が決まったことです
パリ協定20年適用開始 COP24、実施指針を採択(日経)

実際どんなことが決まったのか?

「Matters relating to the implementation of the Paris Agreemen」こちらのページのパラ4にaからqまで17項目並んで、それぞれ参照文献名がついている膨大情報

簡単に紹介できませんが、石内報告によると下表のおり、市場メカニズムなど一部の内容は先送りになりましたが、いままで通り緩和策の中に森林吸収源木材の固定量などをかカウントすることが、引き続きできるようになったのだそうです

■主要な成果
(1)パリ協定の実施指針
〇2020年以降のパリ協定の本格運用に向け、パリ協定の実施指針を採択した。パリ協定の精神を貫徹した、全ての国に共通のルールに合意。
〇市場メカニズムについては、現在の作業状況に留意し、来年の採択を目指して引き続き検討されることとなった。
■森林等吸収源の成果と今後の展開
〇インベントリ報告における伐採⽊木材製品(HWP)の算定方法(筆者↓)が、実質的に生産法に決定した(生産法以外を使する場合は、生産法を使用した場合の数値も提供する)。
〇進捗状況の報告では、NDCに提出する情報と整合する形で、土地特有の要素が位置づけられるとともに、LULUCFの貢献も規定された。
 環境省温室効果ガス排出・吸収量の算定方法 >4. LULUCF分野.>4.G 伐採木材製品[PDF 895KB]参照

もう一つ、別の報告会の林野庁森林利用課大川さんの、COP24における土地セクターの議論の概要(COP24における土地分野のガイダンス(ポイント))、という情報がネット上に公開されています。(下表の通り)
森林関係実施指針情報が元の文献情報とともにのっているので参考になります。

■分野特有のアプローチとして、自然攪乱、伐採木材製品及び森林の齢級構成影響に関する情報提供を行うこと。 ■ 条約下で定められる既存の方法論の使用に関する情報提供を行うこと(京都議定書における方法論を含む)。 ■GHGインベントリにおける伐採木材製品の実質的な共通報告方法として生産法を活用すること。 ■目標期間におけるNDCの達成状況を報告する際、時系列データに含まれないLULUCF分野の貢献量を示すこと。

(森林に関する森林宣言)

もう一つのトピックスが森林宣言
パリ協定、実施指針採択 E-mobilityや森林分野で宣言)(環境ビジネス)

正式名称は「気候を守るための森林に関するカトヴィツェ閣僚宣言」
フルデータは以下にあります。
The “Forests for Climate” Katowice Ministerial Declaration Has Been Accepted

長い前文に続いて、宣言された内容は以下の3点です。

  1. Pledge to accelerate our actions to ensure that the global contribution of forests and forest products is maintained and further supported and enhanced by 2050, in order to support the achievement of the long term goal of the Paris Agreement.  1.パリ協定の長期目標の達成を支援するために、2050年までに森林と林産物の世界的貢献が維持され、さらに支援され強化されることを確実にするための我々の行動を加速することを約束する。
2. Encourage the scientific community to continue to explore and quantify the contribution of sinks, and reservoirs of greenhouse gases in managed lands, including forests, to achieving a balance between anthropogenic emissions by sources and removals by sinks of greenhouse gases in the second half of this century, as well as to explore ways to increase this contribution and welcome the work done up to now. 2.科学界が、今世紀の後半にかけて、森林を含む管理地域における温室効果ガスの吸収および貯留の寄与を調査し、定量化し続けることを奨励する。 また、いままで行われてきた仕事を歓迎し、この貢献を増やす方法を模索する。
3. Encourage non-party stakeholders including cities, regions, businesses and investors, to continue to display their ambition and commitments in their forestry related climate actions through the Marrakech Partnership for Global Climate Action and the NAZCA Platform.  3.都市、地域、企業、投資家を含む非党派の利害関係者に対し、マラケシュ世界気候行動パートナーシップとNAZCAプラットフォームを通じて、森林関連の気候行動における野心とコミットメントを示し続けるよう奨励する。

(3匹の子豚)

ポーランド政府が国連の欧州経済委員会UNECEのと一緒に作成した「三匹の子豚」をリメイクしたアニメーションで、木材による住宅の排出削減効果が紹介されました
ユーチューブでみることができます。面白いです。

Poland and UNECE raise awareness about the benefits of wood as a low-emission construction material at COP24

kokusai2-65<unfccccop24>

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 日EU経済連携協定と違法伐採問題・持続可能な森林(2019/2/24)

2月1日日EU連携協定が発効しました。いいワインが安くなる~・・

日EU連携協定に関する外務省のページ
日欧EPAが発効 データ・知財のルール先導(日経新聞)

「貿易及び投資を自由化し、及び円滑にすること、並びに両締約国間の一層緊密な経済関係を促進すること」が協定目的(第1.1条)で、木材についても、通常の建築物使われているEUから輸入された木材の集成材の4パーセント程度の関税が、8年かけて0になるようです

このサイトでは、経済のグローバル化を目的とする連携協定の中の、森林管理などの社会的政策のグローバル化の側面がどのように進んでいくのか、注目してみてきました。

環太平洋パートナーシップ協定TPPとつきあう場合の留意点(2012/3/25)
環太平洋パートナーシップ協定TPPと森林の国際枠組み(2015/10/24、2016/1/8改訂)

EUとの連携協定についても、木材の関税の引き下げなととともに、違法伐採問題など森林のガバナンスに関する項目が協定の内容に反映する過程を注目してきました。
日EU経済連携協定の中の森林の取り扱い(2017/7/23)

(日EU連携協定第16.7条 持続可能な森林経営並びに木材及び木材製品の貿易)

マスコミにも取り上げられないので、本協定の中の標記条文の全文を紹介します

 AGREEMENT BETWEEN THE EUROPEAN UNION AND JAPAN FOR AN ECONOMIC PARTNERSHIP  経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定
ARTICLE 16.7 Sustainable management of forests and trade in timber and timber products 第16.7条 持続可能な森林経営並びに木材及び木材製品の貿易 
 1. The Parties recognise the importance and the role of trade and investment in ensuring the conservation and sustainable management of forests  1 両締約国は、森林の保全及び持続可能な森林経営を確保するに当たり、貿易及び投資の重要性及び役割を認識する
 2. In that context, the Parties shall:

(a) encourage conservation and sustainable management of forests, and trade in timber and timber products harvested in accordance with the laws and regulations of the country of harvest;

(b) contribute to combating illegal logging and related trade including, as appropriate, the trade with third countries; and

(c) exchange information and share experiences at bilateral and multilateral levels with a view to promoting the conservation and sustainable management of forests and trade in legally harvested timber and timber products, as well as to combating illegal logging.
 2 このこととの関連において、両締約国は、次のことを行う。

(a)森林の保全及び持続可能な森林経営並びに伐採が行われた国の法令に従って伐採された木材及び木材製品の貿易を奨励すること。

(b)違法伐採及び関連する貿易(適当な場合には、第三国との貿易を含む。)への対処に貢献すること。

(C)森林の保全及び持続可能な森林経営並びに合法的に伐採された木材及び木材製品の貿易を促進し、並びに違法伐採に対処するため、二国間及び多数国間の段階において情報を交換し、及び経験を共有すること。

違法伐採問題への取組の情報交換、経験を共有することがうたわれています。日本の経験でEUに是非伝えてほしいのは、日本のガイドラインに基づく業界団体に依拠したサプライチェーン管理の経験と、もう一つはクリーンウッド法第一条目的です。「我が国又は外国における違法な森林の伐採」のリスクに対応するため、と規定しています。是非EUもEU域内の違法伐採のリスクと真剣に向き合ってほしいです。

EUから輸入される大量の木材・集成材は一般建築物の構造用材としてごく普通に利用されていますが、輸入の中の違法伐採リスク(クリーンウッド法に対応する木材DDのための実践情報ルーマニア)など連携協定の重要なテーマになるのでしょう。

1月30日に開催された、フェアウッドセミナー ルーマニアの原生林を脅かす日本の木材市場 ~SDGs時代の木材調達リスクとどう向き合うかに顔を出してみましたので、追ってご報告します。

boueki7-13<JEUEPA&forest2>

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  欧州発の情報の日本の政策への重さー勉強部屋ニュース234編集ばなし(2019/2/25)

1月下旬のバイオマス産業社会ネットワークBINの研究会「海外における木質バイオマスエネルギー推進についての最近の論調、産官学が直面する新たな課題」についての、トピックスが二つ並びました。このテーマは勉強部屋ニュースの読者から頂いた情報にもとづいて勉強部屋で紹介した内容を、読者からの要請でい少し掘り下げてプレゼンテーションする機会があったもので勉強部屋としても大切な作業でした。欧州発の情報が日本の森林関係の政策にどんな意味をもっているか、という、いつものテーマでもあるんですが、政策レベルの具体的な情報発信にはまだまだ、なっていないようなので今後の課題です。

今月号は、その他に気候変動枠組み条約COP24、,日EU連携協定と、欧州発の話しが並びましたが、4月からの森林環境譲与話に関係して、豊田市のシンポジウム、都市の緑のグリーンインフラなど、あちこちのイベントに参加するチャンスがありましたので、しっかり今後報告します。、

次号以降の予告、FSCの日本規格ができる、豊田市の100年構想続き、REDD+の最近事情都市の緑とグリーンインフラ、森林外交論続き、

konosaito<hensyukouki>

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp