目次 |
編集後記 |
2015年11月号
<やまがら>限界集落。限界って誰が決めたの?.(フール・オン・ザ・ヒル )
特集 林業基本法50年(6)
論説 所有者主義と「規模の経済」に束縛された林業基本法と林政(菊間満)
原著論文 伝統的工芸品産業に関する市町村条例等整備の現状と課題(前川 洋平・宮林 茂幸・関岡 東生)
書評
ジェームズ・C・スコット著(佐藤 仁監訳) 『ゾミア─脱国家の世界史』(笹岡 正俊)
小口好昭編著『会計と社会─ミクロ会計・メソ会計・マクロ会計の視点から』(比屋根 哲) |
オランダの担当大臣が来日した機会に「日本における違法伐採対策の取り組みを支援し、EUにおける違法伐採法の実施および執行について紹介・議論することを目的とする」とした国際セミナー「違法伐採対策と合法木材貿易の振興」に出席する機会があった。日本の違法伐採問題対策の新たな展開にかかる、日本の関係議員も含めた貴重な討議の機会だった。輸入業者対する努力義務を基盤とした罰則規定を含む法制が、日本の業界団体認定を基礎としたサプライチェーンの管理と上手くマッチすれば10年たった日本の合法性証明の新たなステップとなる可能性がある。と同時に、EU側にも、日本の業界団体認定システムの成果を是非研究していただきたいと、長年このシステムにかかわった一人として申し上げておいた。
このように、国同士の利害に関係する貿易政策が国を超えてグローバルな視点で議論されるのは当然のことだが、国内の政策が海外での政策論の発展を踏まえてグローバルな視点で評価議論をされることは、望ましいことだが、難しい面がある。グローバルに政策論を追いかける学会の関係者の存在無くてはできない、展開である。
この点で、本号の林業基本法特集「所有者主権と『規模の経済』に束縛された林業基本法と林政」(菊間満)が指摘するヨーロッパ小企業憲章・FAOの中小規模経営論などの「世界の潮流」が本誌で適切に紹介されることは、重要な本誌のテーマだろう。
また、本号の「伝統的工芸品産業に関する市町村等整備の現状と課題」(前川洋平ほか)は、森林政策担い手たるべき市町村段階の行政の評価を伝統的工芸品産業分野から行う意欲的なものだが、歴史あるローカル資源としての森林と伝統文化の結びつきが現代においてどのように発展する可能性があるのか、今後に期待したい。 |
2015年10月号
<やまがら>安保法と大学(stray sheep)
平成18年度 林業経済研究所研究奨励事業(小瀧奨励金)助成研究
原著論文、違法伐採の構造の変容と地元住民の役割の変化 ─インドネシア、グヌンパルン国立公園を事例として─(御田 成顕)
書評
戦後日本の食料・農業・農村編集委員会編『戦後日本の食料・農業・農村 第2巻(Ⅱ) 戦後改革・経済復興期Ⅱ』別編 戦後林業(泉 英二)
興梠克久編著 全国森林組合連合会監修 林業経済研究所協力『「緑の雇用」のすべて』(林宇一)
宇沢弘文・関良基編『社会的共通資本としての森(山下 詠子)
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9月26日の国連総会で「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030年アジェンダ」SDGsが採択され、10月6日には環太平洋パートナーシップTPP協定が合意された。
前者は17の目標と169のターゲトからなる今後の15年間の世界で共通した開発・成長の指針であり、先行した「ミレニアム開発目標」MDGsが途上国の開発を念頭におかれていたのに対して、「持続可能な開発に先進国はない日本も途上国」(慶応大学蟹江教授)というように、今回のSDGsはすべての国がその進捗状況を閣僚級会合で検証するシステムが盛り込まれている(フォローアップとレビュー(パラ71-91))。持続可能な開発の三側面(経済・社会・環境)の調和をめざす(前文)この目標の実現にむけて森林分野の果たす役割は大きい。
後者のTPP協定は物の貿易の市場アクセスについての自由貿易協定に端を発しているが、「21世紀型の包括的な協定」(前文「主な特徴」)と自称するように、自由貿易による格差、環境などのネガティブな面をどのように管理するか、といった側面も含む、30章からなる包括的な内容となっている。違法伐採問題など森林の管理の共通課題に対処するため協働して取り組むこと(20環境)、中小企業支援の定期会合を実施(24中小企業)などの内容を含んでおり、これらも含めた「実施運用の管理」「将来の進化を誘導する」制度的枠組み(27)も規定している。
市場のグローバル化に対して、森林管理のグローバル化を図ることは大切な課題であり、是非本誌の読者は二つの文書を手に取ってご覧いただきたい。
今号の掲載論文「違法伐採問題の構造の変容と地元住民の役割の変化~インドネシア、クヌスバルン国立公園を事例として~」は、上記の文脈で大切な論稿である |
2015年9月号
<やまがら>自分たちにできることがみえるという希望(黄山吹)
原著論文
北海道カラマツ人工林の主伐・再造林問題 ─人工林経営の資金循環と資源保続─(志賀 和人・志賀 薫・早舩 真智)
書評
岡本雅美監修 寺西俊一・井上 真・山下英俊編『自立と連携の農村再生論』(伊藤 幸男)
濱田武士・小山良太・早尻正宏著『福島に農林漁業をとり戻す(山本信次)
フィールドより喜連川丘陵の志─スギを究める異色のデザイナー山本 美穂) |
9月6日から11日南アフリカダーバン市で6年ぶりに世界林業大会が開催された。12月の気候変動枠組み条約COP21で新たな政策枠組みが決定され、また国連総会で持続可能な開発目標(SDGs)が決議されようとしているなかで、世界中の林業政策やビジネス、その他関連する関係者が140か国から4千人集まり、森林政策・施策などの経験を共有・提言をするというもの。海外の政策動向についての情報収取と同時に、日本の政策の経験が海外の関係者に貢献できるものがあるはず、という思いで参加をしてきた。
「熱帯林の減少が地球環境の問題の重要な課題」というメッセージに支えられ、1980年代から30年ほど地球環境問題という視点で活性化してきた、国際的な森林政策の議論も、少し状況に変化がある。持続可能な森林管理のための政策を進めていくためには、気候変動問題といった環境政策との関連とともに貧困問題・食糧安保といった優先政策課題にどう連携していくかが課題となっていることがわかるものだった。政策優先度があがりにくい長期的な視野が必要な森林分野の政策について関係者の努力がさらに必要になっている。「本来の姿になった」ということだろうが、本件については別途報告をしたい。
今号の原著論文「北海道カラマツ人工林の主伐再造林問題―人工林経営の資金循環と資源保全」は、次世代森林造成をどのように構想するのか、皆伐再造林がある程度定着している北海道のカラマツ造林地を対象にした論稿である。北海道の林務当局が進めた皆伐跡地の造林の自己負担率を数パーセントにする助成政策「未来森事業」の役割が大きいとされる。日本の資源政策の次のステップを考える上で重要な論稿だが、このような施策の合意がどのように形成されるのか、国際的な場でだれもが知りたい点だろう。国際的な文脈のなかで評価・検討望まれる。 |
2015年8月号
<やまがら>木の笛、新作発表(杉の家)
中長期的な国産材需要拡大方策の一考察─製材品に適さない品質の原木を原材料とする木質建材の新たな用途開発に向けて─(青井 秀樹・五十田 博・小林 道和)
2014年度東日本林業経済研究会シンポジウム
2000年代以降における林業の主産地形成
第1報告 林業の主産地形成と原木流通の構造的変化
─伊万里木材市場を事例に─(興梠 克久)
第2報告 北関東・南東北の木材加工(餅田 治之)
第3報告 震災後の東北における原木需給構造の現局面と課題(大塚 生美)
第4報告 人工林業・私有林業に軸足を移した ゼロ年代の北海道林業(早尻 正宏)
コメント 林業・木材産業の発展をめぐる二つの論点(嶋瀬 拓也)
討論要旨
「平成26年度 森林・林業白書」の概要(藤岡 義生) |
「子や孫に謝罪を続ける宿命を負わせてはならない」という一念のこもった、戦後70周年安倍談話が閣議決定されて公表された。謝罪という外交行為自体が謝罪相手との共同作業という側面があり、関係国との国際関係をどう構築するか、安保法制の行く末などと関係する難しい問題をはらんでいる。「歴史から未来への知恵を学ばなければならない」のは政治だけでなく、本誌の情報発信の重要な部分でもある。
「8月は私たち日本人にはしばしば立ち止まることを求めます。」公表時の総理の冒頭発言だが、林業関係する産学官民の読者にとっていかがだっただろうか。
8月号本誌が掲載する「2000年年代以降における林業の主産地形成」は、14年度東日本林業経済研究会シンポジウムの少し大部な記録だが、8月の終わりに「すこし立ち止まて」是非、読んでいただきたい内容である。2000年前後を画期とした林業木材産業の川上主導から川下主導への転換、そのことの地域創生や資源再生産なに及ぼす影響など、政策課題を議論していく上で不可欠なポイントが熱く語られている。
総説論文「中長期的な国産材需要拡大の方策のー考察」は、CLTなど高耐力木質面材建築材料の普及に関して、材料の技術的な特色、設計技術者の関心の程度など関連事象の評価を踏まえて、きわめて具体的政策提言となっていて、本誌の読者にかぎらず是非参考にしていただきたいものである。
また、恒例の「「平成26年度森林林業白書」の概要」の寄稿を掲載している。今年度の特集は「森林産業の循環利用を担う木材産業」。戦後の木材産業史を3期にわけて紹介している。上記の主産地形成論と合わせてお読みいただきたい。
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2015年7月号
<やまがら>現場が求めている研究(.イチ現場の声)
特集 林業基本法50年(5)
論説
現代林政50年の底流─林業基本法(中岡 茂)
2011年度東日本林業経済研究会シンポジウム
人と「赤谷の森」の新たな関係─国有林・地域社会・ガバナンス─
はじめに(土屋 俊幸)/第1報告 官民協働型森林管理における地域環境ガバナンスの実態と課題について(
林 あかね)/第2報告 国有林野事業における赤谷プロジェクトの意義─多様な意見の反映を中心に(藤江達之)/第3報告 赤谷プロジェクトについて(林泉)/第4報告 赤谷プロジェクトと日本自然保護協会(出島 誠一)/コメント(
小池 俊弘)
書評 公益社団法人 沖縄県緑化推進委員会編『沖縄県緑化運動65年史』(齋藤 和彦) |
「長期エネルギー需給見通し」、「2020年以降の温室効果ガス削減に向けた我が国の約束草案(政府原案))と、マスコミの話題となった関連する二つの文書が相次いで政府から公表され、意見募集が求められた。吸収源対策、再生可能エネルギーの中の木質バイオマスの役割、という二つの側面で林業経済のフォールドと関係深いもの。研究所としても理事長名で、政策実現のための財源問題とともに「バイオマスエネルギーの供給源を明確にし、持続可能な森林経営と両立する確かな展望を示すべきである」との意見を提示した。(内容は研究所のウェブページを参照されたい)
研究所が生の政策に関心を持ち情報発信する社会的意味は大きいが、今号の二つの内容もその点で注目されるものである。
林業基本法50年特集中原茂論説は、経営の大規模化論や拡大する公共事業補助金の自説を踏まえて、研究者に対して、「現場と政策のかい離」を真剣に議論してほしい、との提言になっている。
また、2011年の東日本林業経済研究会報告「人と『赤谷の森』の新たな関係」は、国有林が自然環境、地方創生の二つの課題を幅広いステークホルダーと議論する枠組み作りの生々しい経験が紹介されている。 |
2015年6月
<やまがら>嘘も繰り返せば真実となる....?(巧言令色鮮矣仁 あべしっ ひでぶっ)
総説論文
FPICをめぐる論点とその森林分野での対応─ガイドラインの比較分析を通して─(相楽美穂・庄野眞一郎・川上豊幸)
書評
奥田進一編著『中国の森林をめぐる法政策研究』(桒畑恭介)
斎藤 修著『環境の経済史─森林・市場・国家─』(高橋卓也)
私の本棚
REDD+を紹介する(藤間 剛)
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6月の理事会で前山縣所長からバトンタッチを受けた。その、初仕事が通算800号の雑誌の編集後記となった
どこの雑誌でも通算○百号は大騒ぎとなると思われるが、そこは歴史と伝統の「林業経済」誌、そっと通過することなる。「『林業経済研究所』とは何か」。60年数年にわたる毎月一回の先輩方の地道な作業の積み重ねで構築された「林業経済」誌を世に出す所である。将来の研究所のあり方をどう構築しようと、この雑誌の内容と普及のあり方、につきる。読者の皆さんのご意見をお聞きしながら、一歩一歩進んでいきたいので、よろしくお願いしたい。
本号の総説論文は「FPIC(事前の自由な意志による十分な情報を得た上での合意)をめぐる論点とその森林分野での対応」。天然資源管理や地域開発のプロジェクト実施上の過程で生まれた先住民を含む弱者への配慮と住民の智恵の活用の二面をもった国際的なコンセンサスの展開過程を解説している。このテーマに関連して、我が国では、森林認証制度の日本の基準作りの中で北海道と奄美・琉球列島の森林管理のリスクが議論されているが、グローバルな議論が日本の森林管理のガバナンスの現実にどう反映するのか。また、日本が取り組んできた同種のテーマが、国際的な議論の中で、どう貢献するべきなのか。話題は尽きないテーマである。 |