ニュースレター No.169 2013年9月28発行 (発行部数:1170部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1 東京五輪2020決定、五輪施設の未来への情報発信力(2013/9/16)
2.  情報公開が試す地球環境を管理するグローバル企業の可能性ー炭素から森林へCDPの実験(2013/9/28)
3. 里山資本主義(続き)(2013/9/28)

フロントページ:東京五輪2020決定、五輪施設の未来への情報発信力(2013/9/16)

20204年に開催されるオリンピック・パラリンピックの東京開催が決まりました。

招致委員会の立候補ファイルによると、開会式が行われる主会場は国立競技場の立て替えほか、37の競技会場のうち、22会場が新設されるそうです。

(新国立競技場)

シンボルとなる新国立競技場オリンピックスタジアムは、国際コンペによってイラク生まれの女性建築家ザハ・ハディドが提唱した基本構想に基づいて、64年のオリンピックの主会場となった国立競技場が建て替えられることが決まっています(新国立競技場国際デザインコンクール)

今後、日建設計などによる基本設計、実施設計が行われ、工事着工は2年後の2015年10月、完成は2019年3月の予定。

(計画具体化の上での課題)

「イメージ図のように流麗な構造が本当に実現できるのか、建設費が高騰する中で総工費は1300億円に収まるのか、2019年のラグビーワールドカップに間に合うのか、・・・日本の気候を考慮した環境システムを導入できるか、日本らしい合理的かつ安全な施工法で建設できるか、などプラスアルファのアイデアを世界に発信できてようやく合格、日本建築界にとっても大勝負となるプロジェクトなのである。」日経ビジネス女王・ザハの五輪メーンスタジアムに注目)と指摘されています。

審査講評による「アプローチを含めた周辺環境との関係については、現状に即した形での修正が今後必要である」との指摘ほか、「神宮外苑の歴史的な文脈の中で」の問題点(槇文彦JIAMagagine)といった指摘もあり、今後基本設計・実施設計の過程の作業は紆余曲折が予想されます。

(オリンピック運動の環境保全と地球の持続可能性へのこだわり)

オリンピックパラリンピックはスポーツイベントですが、その運動の広がりを意識して、オリンピック運動は、次世代の環境保全、持続可能な社会への貢献ということを大きな柱としてきました。

1999年にはオリンピック運動のアジェンダ21を公表し、持続可能な開発のための資源の保全と管理の文脈の中で、運動施設については、既存施設の利用と、新設する場合は現地法令と周辺の自然環境社会環境との調和(3.2.3)、などを規定しています。Olymbic Movemant's Agenda 21

スポーツを通じた持続可能性、オリンピック運動とアジェンダ21の実施状況
Sustainability through Sport: Implementing the Olympic Movement’s Agenda 21

(公共建築物の木材利用促進)

また、22の新設施設は、ほとんどが公共建築物の木材利用促進法に規定する公共建築物です(木材利用促進法施行令第一条公共建築物は次に掲げるものとする。四体育館、水泳場その他これらに類する運動施設)。

国が直接整備するオリンピックスタジアムはもちろん、各施設の基本設計の過程で、世界にも例のない、公共建築物の木材利用促進法に基づいた、「率先して整備する公共建築物における木材利用につとめなれければならない」(第三条国の責務)、をどうクリアするかも、大きな話題になるでしょう。

(五輪施設の環境基準)

2020年東京オリンピック・パラリンピック環境ガイドライン(招致委員会立候補ファイル)では、2020年東京大会に向けて新設・改修される全ての競技会場及び施設は、都の建築物環境計画書制度の厳格な基準とともに、LEED認証システムに相当する日本のグリーンビルディング認証制度のCASBEEを遵守し、CASBEEでは最高ランクの“S”を目指すとされています。

CASBEEの基準による、「持続可能な森林から生産された木材の利用」、「地域の特性のある材料の利用」など、どのように具体化するか注目されます。

(地球人の未来に向けた灯台)

これらの課題が見事にクリアされ、 オリンピック運動の環境保全・持続可能性追求の歴史に残るような、周辺環境との調和した、木材を利用した建築物の新たな 「地球人の未来に向けた灯台」(安藤忠夫審査委員長)というオリンピック施設が生まれることを期待します。

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情報公開が試す地球環境を管理するグローバル企業の可能性ー炭素から森林へCDPの実験(2013/3/28)

久しぶりの環境経済政策学会大会で、グリーンサプライチェーンの展開と政策課題というシンポジウムが開催されましたが、グローバル化するビジネスのネットワークを通じた地球環境の管理の可能性について、大変興味深い話を聞くことができた。

その一つが、ロンドンに本部がある国際非営利法人CDPの活動です。

(気候変動への取組開示を投資先選定の要素にしたCDPの活動)

カーボンディスクロージャープロジェクトのイニシアルをとって命名されたCDPですが、その名の通り2003年から気候変動に関する情報開示を企業に求める活動を開始し、今では世界中の6000社から回答を得て、その内容を開示しています 。

CDP 2013 投資家質問書(日本語訳)
CDO2013対象日本企業500社

その回答の内容が公開され投資会社の投資先の選択や、ウオルマートなど大規模小売店の商品調達先選定などに利用されているのだそうです。

CDP の活動投資家によるCDPデータの利用

(CDPの活動の拡大ー森林リスク商品への対処状況)

そのCDPが自社の名称を変更してでも挑もうというのが、炭素以外の地球環境負荷回避の活動で、水とともに、森林リスク商品分野のリスク回避活動の質問票が今年度から全世界750社、日本で56社に送付されました。

CDPフォレスト 質問書と回答評価2013年2月28日CDPワークショップ

木材、パーム油、畜牛、大豆、バイオ燃料の5つの商品を森林リスク商品と規定し、関連するすべての全ての商品とそれぞれの商品に関する質問質問票が750社に送られ、回答した場合、回答結果は自社の選択によって、公開と非公開の手続きが踏まれます。

公開とした場合はCDPのウェブ上に公開されるとともに、CDPと契約関係にある評価団体、署名投資家などに送付されます。また、非公開とした場合も、回答は署名投資家などに参照できる状況になるようです。(もちろん回答しないことも自由な選択肢)

すべての回答結果は内部で評価されスコアは100点満点に換算、スコアは当面公表しないが、セクター内で高評価だった企業は、セクターリーダーに選出するということなのだそうですです。

今年度の森林リスク商品に関する以下の情報が、一部日本語になってCDPのサイトのCDPジャパンのページに公開されています。(結果に関する情報は現時点9月24日では公表されていない)

対象日本企業一覧、質問書(英語日本語)、回答ガイダンス(英語)、回答評価方法(英語

(質問の中身)

質問票は以下の12の項目にわたっています
1 森林伐採リスク評価(森林リスク商品FRCに利用されている原料を調査したことがあるか)
2 リスク評価(FRCの自社の評判などに関する評価をしたことがあるか、その評価結果と課程、サプライヤーリストの保有の有無)
3 トレーサビリティおよびサプライヤーとの協働(原産地を特定する正規のシステムの有無、サプライヤーと協力した改善努力、生産地の特定など)
4 森林と気候変動に関する公約(FRCに関する製品やサービスの調達において環境基準や調達基準の有無など)
5 基準策定プロセス(第三者認証制度への参加の有無など)
6 目標設定、及びパフォーマンスの改善(基準を満たす商品の数量把握など)
7 サプライチェーンにおけるキャパシティビルディングとサポート(持続可能なサプライチェーン開発されたものの有無と改善方向)
8 対象範囲(戦略の対象となっている割合)
9 報告(サプライチェーンにおける森林伐採リスクに関する情報を一般公開の有無)
10 社内体制とガバナンスプロセス(取締役会での議論、責任者の氏名など)
11 リスクと機会(持続可能性のある原材料を調達または販売することによる事業機会など)
12 今後に向けて( 持続可能な商品の利用に向けて重要な課題)

(森林リスク商品指定の機会とリスク)

グローバルにビジネスを展開する企業の環境対応を通じた森林問題へ取組の今後が注目されます。

対象となる日本の会社リストには王子製紙、日本製紙、大日本印刷、凸版印刷なのほか、ローソンやセブン&」アイなどのコンビニ系がはいっていいます。

5つの森林リスク商品のうち4つは農産物で森林との共生をはかる農業の展開に応援となるものでしょう。

また、木材についても持続可能な森林経営に向けては大きな力となる可能性があります。

ただし、森林リスク商品と認定された木材よりも化石資源系の商品の方がリスクが低くて安心ということにならないかというのが、このプログラムのリスク面です。

プログラムの運用など注意をしておく必要があります。

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 「里山資本主義」続き(2013/9/16)

NHKエコチャンネルでに掲載されているNHK広島放送局が作成した、「里山資本主義 ~革命はここから始まる~(1)」という番組がは、小サイトでも紹介しました(里山資本主義vsマネー資本主義(2012/1/28))が,その後の続編も含めた、シリーズ全編が里山ヂカラというページでみられます

続里山資本主義 過疎の島こそ21世紀のフロンティア
里山資本主義 若者は“放棄地”を目指す
里山資本主義 神様を活かせ
里山資本主義 世界をつなぐ幸せのネットワーク

またシリーズを基にした書籍里山資本主義: 藻谷浩介 NHK広島取材班 | KADOKAWA-角川 も登場したので早速読んでみました。

分業化、効率化、グローバル化、標準化の行き着く先のマネーだけが頼りの無縁社会。これを解く鍵が、里山にある、という主張は説得力があります。

「ニッチな世界が主流化するかどうか」という悩みはいろいろなところに広がっていますが、すべてが底辺でつながっているのかもしれませんね。

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

 

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