ニュースレター No.110 2008年10月11日発行 (発行部数:1350部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1 フロントページ:環境負荷と環境貢献の「見える化」と木材(2008/10/11)
2 環境経済・政策学会2008年大会コレクション(2008/10/11)
3 国民森林会議の意見書(2008/10/11)

フロントページ:環境負荷と環境貢献の「見える化」と木材(2008/10/11)


林野庁が「木材利用に係る環境貢献度の「見える化」検討会」を開催することとなり、9月22日に開かれた第1回検討会の結果が林野庁のHPに掲載されています。

契機は福田ビジョン「低炭素社会にむけて」の「環境負荷の見える化」に端を発したカーボンフットプリントです。(小サイト「福田ビジョンと低炭素社会の構想」参照)

(カーボンフットプリント)

福田ビジョンでは「製品や食品の製造から輸送、廃棄に至る過程で排出されるCO2を測定して商品に表示する、カーボン・フットプリント制度」の「国際的なルールづくりに積極的に関与して、そして、わが国の国内での削減を進めるために、来年度から試行的な導入実験を開始し…そのための準備を関係省庁に指示する、(2.国全体を低炭素化へ動かすしくみ (見える化))」として環境負荷の見える化のための手段としてカーボンフットプリントを提唱し、7月29日にはこの内容が「低炭素社会づくり行動計画」で閣議決定されました。

これを受けて、経済産業省では「カーボンフットプリント制度の実用化・普及推進研究会」が開催され、ガイドラインの作成などの作業が始まっています。

10月8日付けで「カーボンフットプリント制度のあり方について(指針)」(中間とりまとめ案)が公表されパグリックコメントに係っています。中間取りまとめ案は制度の背景、国際動向や趣旨が要領よく記載されていてるので、一読をお勧めします。

製造・輸送・廃棄改定の二酸化炭素排出量を商品に表示して消費者に選択の判断材料を与えるという、カーボンフットプリントは、基本的には製造過程の環境負荷の少なさを売り物にしていた木材については重要な契機となる可能性があります。

また、5年前に出発したウッドマイルズ研究会としては、自分たちがやってきたことが、見える化の先例として評価されることになる可能性がある動きだともいえます。

中間取りまとめについては、@木材のような中間財で用途が特定されていないものの利用過程環境負荷を表示する難しさと表示の意味、A木材などに固定された炭素の燃焼による排出量の取り扱い、B木材の固定した炭素量の表示の可能性、Cウッドマイルズ研究会の蓄積など、いろいろ論点のあるものであり、この勉強部屋としても意見を提案したいと考えています。

(木材利用に係る環境貢献度の「見える化」検討会)

林野庁が開催することになった今回の検討会のメンバーには全木連から小生も登録されていますが、ウッドマイルズ研究会の滝口さんが参加しており、それ自体が見える化に取り組んできた研究会の5年間の成果といえます。

ポイントは、「環境負荷の見える化」でなく「環境貢献度の見える化」が課題になっていること。

同じ「見える化でも、木材の場合は、@木材が炭素を固定すること、A省エネルギー資材であること、B森林整備に貢献することという三つの環境貢献があるということが開催趣旨です。
検討会資料4「木材の材料としての特徴
同資料5「木材に対して想定される「見える化」の手法について(検討のポイント)」
参照

これらをどう、カーボンフットプリントの取組にあわせて表現していくかが検討会のポイントになります。また、カーボンストックといった場合、合法性証明などトレーサビリティも問われることにもなります。

これからも、小サイトでこの検討会の動向や、カーボンフットプリントはフォローしていきます。

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環境経済・政策学会2008年大会コレクション(2008/10/11)

9月27/28日大阪大学豊中キャンパスで表記大会が開催されました。この大会は小サイトの立ち上げの動機に係る重要な大会であり、一つの報告の討論者を依頼されたこともあり、参加しました。

プログラムとすべての報告要旨がこちらのサイトからダウンロードできます

あいかわらずこの学会での報告の目玉は温暖化問題です。条約交渉やその準備に直接関わっている研究者、行政関係者の報告も多く、京都メカニズム、データ分析、排出権取引、ポスト2012、国内政策など8つのセッションが設定されています。聞いているだけで、この分野で、今後どんな議論が進んでいくのか一応のことが分かります。

それに比べて、生物多様性や森林管理に関しては独立したセッションが一つもないという寂しい状態です。環境経済政策分野の研究者が大勢森林を対象とした研究に取り組むことが行政と研究の発展にとっても重要だと思いますが、少し残念な状況です。

その中でも、森林や地球温暖化条約の将来に関する報告で気になったものを紹介します。

論題 発表者 要旨リンク 内容
森林と森林政策の評価
水源環境保全と税制ー日本における森林・水源環境税の展開を中心として 藤田香 D14 森林水源税を素材に今後の当該税制のあり方の課題を提供
森林認証制度普及のための評価方法の提案ーマレーシア・サバ州の森林保護区を事例としてー 三谷和臣 J11 森林が提供する環境サービスの価格を農地となった場合比較
貿易と環境
地球温暖化防止対策とWTOルールの相互関係 原嶋洋平 K12 地球環境問題の取組から、従来のWTOルールが挑戦を受ける面がある
森林保全の誘因政策に関する空間均衡分析 持田亮 K13 持続可能な森林管理の地球的レジームについての大胆な提案
現代の環境問題と市場的手段の意義ー普遍的環境問題とその対策 日野道啓 b33 地球的環境問題の解決のための制度検討の枠組み、市場的手段の有効性
再生可能エネルギー
自然エネルギーによる長期エネルギービジョンとその実現に向けた政策提言 分山達也 G11 2050年までの日本の自然エネルギー依存した最大限のシナリオ提示
林間型バイオマス事業を対象にした政策形成過程の現状と将来 金藤正直 G13 市民参加型の政策形成・実践のモデルを日本とスウェーデンの事例提示
資源循環型社会における地域経済活性化の効果ー岡山県真庭氏におけるバイオマス事業 中村良平 F32 木質バイオマス利用の地域経済に及ぼす影響の計量的評価事例
温暖化問題の基礎:ポスト2012、排出権取引
ポスト京都の枠組みとプレッジアンドレビューーその可能性と削減効果 山口光恒 A21 第二約束期間は法的拘束力をはずしてみたらどうか、という大胆な提案
セクター別ベンチマークによる世界のCO2排出削減効果 秋元圭吾 A22 日本提案の骨子となっているセクター別アプローチの具体的シュミレーション
気候変動対処を目的とした次期国際枠組みの構造分析 亀山康子 A23 将来シナリオに関する日本の専門家の最大公約数的意見抽出過程
セクター別アプローチを巡る混乱および今後の国際交渉における重要課題 明日香壽川 A24 「セクター別アプローチ」についての、日本と海外の理解ずれ
流域社会内における温室効果ガス削減の交換ネットワークに関する地域研究 横山孝雄 B21 加古川地区での事例をもとに、森林や木質バイオマス利用等を前提としたモデルの提案
持続可能性・生物多様性などの総合指標
生物多様性条約COP9の結果とCOP10へのロードマップー「International Regime」における資源の経済価値評価の意義ー 渡辺幹彦 K25 数少ない生物多様性条約を題材にした報告。遺伝資源の経済価値評価のどうしても必要
持続可能性指標の社会的インパクトとその課題 野上裕生 H34 持続可能性をはかる指標が数々提案されており、ぞれぞれの社会インパクトを評価
「持続可能な発展」指標の将来値の推計方法に関する研究 時松宏治 J33 国民経済計算のレベルで持続可能な発展のレベルを表す指標の一提案

以上については、すべての報告を聞いて記述しているものではありません

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国民森林会議の2007年度 提言

森林林業基本法の策定など大きな林政の節目のときに提言をしてきた、国民森林会議(只木良也会長)が、8月下旬林野庁長官に対して、新たな提言書を提出しました。今回のテーマは特に森林林業の担い手で、森林組合などに担い手の技術者をどのように配置していくかについての提言になっています。

以下に要旨を転載します
本文は、同会のHPからダウンロードできます(こちら

森林・林業の担い手
要旨

国民森林会議2007 年度提言

これからの森林・林業の担い手は、持続可能な森林の管理・経営のビジョンを待つものでなければならない。木材生産を目的とする林業の再生には、経営者と技術者の質・量のレベルアップに基づいた、生産システムの向上が必要である。同時に、木材生産以外の公益的機能も今後ますます要請されるので、森林の生態的機能を理解し、適切な森林管理のできる担い手と技術者が必要である。

これからの林業(生産林の管理・経営)においては、個々の森林所有者の力だけでなく、地域(森林組合の管轄域程度)の森林所有者の連携が必要である。地域の林業の振興のためには、消費者との信頼関係を築きながら合理的な生産システムを築いていくことが不可欠であり、計画的な施業体系の展開を図るために経営の団地化、施業・経営の委託の必要性が大きい。現状において、全体としてみた場合、それに最もよく対応していけるのは、森林組合であり、そこの経営者、技術者の意識改革と技術の向上が問われる。将来は林業会社などにも期待される。

近年、森林組合が森林所有者に施業提案を行い、所有者の森林を取りまとめて路網の整備や間伐を進めていく提案型集約化施業において、森林施業プランナーと呼ばれる技術者が生まれつつあるが、このような技術者はこれからの林業技術者像のモデルの―つとなろう。森林施業プランナーは、森づくりのビジョンを持ち、間伐の仕方や路網の設計などに開する商い知識を有し、コスト計算に通じ、経営を理解し、森林所有者の要望を聞きつつ、所有者への説明能力を待つ人である。このような技術者の力は林業会社においても必要であるし、所有者への提案ということを除いては個々の林業家にとっても必要である。森林施業プランナーは、将来建築界における設計士のような資格者に通じる可能性もあり、フオレスターの具体的な一つのイメージとなろう。

森林所有者の実態に照らせば、今後は森林組合や林業会社など(以下森林組合)に施業を委託する必要が増していくであろうし、そうしたときの森林組合の森林施業プランナーをはじめとする技術者のレベル向上は非常に重要である。森林組合の経営や技術が森林所有者の信頼を得られなければ、日本の林業は成り立たないといっても過言ではない。

近年、新規林業就業者の過半数がIターン者であり、Uターンを入れると8割強が都会からの就業者である。この人たちの多くは森林組合の作業班に就職しているが、彼らへの技術教育の責任と、林業への志の芽を摘まないことなどへの森林組合の意識改革と、近代的な組織としての処遇のあり方の改善が必要である。組合技術者の育成には、組合幹部の意識改革が不可欠であり、技術者の研修だけでなく幹部の意識改革に向けた公的な研修も必要である。林業界の中の常識にとらわれないように、異業種との交流も求められ、組合幹部の異業種へのマーケッティングなどを含む研修も検討する価値がある。

都会から林業を志してくる人たちは、金儲けよりも生きがいや社会貢献を目指してくる人たちが多い。このような人たちが真に誇りを持って働ける環境づくりが必須で、一定条件を満たせば正規の職員とし、普通一般の生活レベルが得られることを理想とする。そのためにも経営と技術の向上に努めることは重要であり、森林組合などの幹部の意識改革をこの点でも求めたい。

NPO は、森林所有者、森林組合、林業・林産会社、消費者、そして行政との関係において、個々の事業体や行政などではなし得ない部分において活動するところに意義がある。

これからは、地域ごとの自主的な森林管理が重要になってくるが、ほとんどの市町村には、森林・林業の専門の職員がいないのが実態である。したがって地域の森林管理のあり方については、知識や関心の高い市民が行政と良好な関係を築きつつ、森林組合などとも一体となって取り組んでいくことが必要である。 NPO には特に環境林の扱いなど、地域の森林のバランスの取れた各種機能の発揮に貢献することが求められる。それらのためにNPO が果たすべき役割は大きく、実力あるNPO の育成と充実への支援は重要である。

個々の森林所有者、森林祖合、林業会社、NPO などへの技術的指導やコーディネートに当たる公的な林業普及指導員の質・量の向上が必要である。現状では、担当者は部分技術の専門家のままであったり、他事業の増大によって普及事業に専念することが困難な状態にある。新たな時代のニーズに応じた林業普及指導員の資質の向上とともに、彼らが普及事業に専念できる環境作りが重要である。また、市町村レベルでは、専門的な知識を持った職員を配置することは極めて困難であり、こうした自治体への国・県職員の出向なども制度として視野に入れておかなければならないだろう。

新たに林業に就職してくる人たちへの技術指導は、職場においてもなされるべきであるが、公的な場での指導の拡大充実が必要である。この場合、研修教育の指導者が決定的に不足している。作業技術を実践して示せ、かつ体系的に分かりやすく説明できる指導者を育成することが先決である。

農林高校などでの実践教育の充実は重要である。大学の森林科学分野では、学問的教育がほとんどであるが、実践教育をどのように位置づけていくかは重要な課題である。さらに義務教育を含む一般教育においても、自然への理解、一次産業の意義、一次産業技術者の使命などを理解できることに通じる教育のあり方は重要である。森林・林業技術者が若者を惹きつけるような環境づくりが必要である。

林業を含む一次産業の重視は、日本社会の健全化のために不可欠であり、その担い手と技術者の育成はきわめて重要である。特に林業は日本の社会から置き去りにされてきた感があるが、それに対しては林業関係者自らの奮起が必要である。日本の恵まれた水と太陽からなる自然を活かした産業を自立させることは、国民の責務である。自然の中の様々な条件の下で、自ら考えて技術を駆使していける森林・林業技術は知識集約的で、本来非常にやりがいのあるはずのものである。林業の担い手と技術者を、若い人があこがれ、誇りを持って働けるものにすることが肝要である。

小サイト関連ページ「国民森林会議の提言」

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

 

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