昨年12月開催された生物多様性条約COP15で(すでに報告の通り)、愛知目標の次の目標がきまり、その中で、「2030年までに 、 陸域、 陸水域 並びに 沿岸 域及び 海域の少なくとも 30 %を効果的に保全管理する」30by30というターゲットが正式に決定しました。
グローバルな国際協定の枠組みのなかで、日本の森林政策がどのように形成されるか、という問題意識を持つこのサイトとしてはトピックスとして追いかけてきました。(→生物多様性保全の枠組み30by30アライアンスが発足ーメンバーになりました(2022/4/15))
丁度そのようなタイミングで1月13日、「OECMの設定・管理の推進に関する検討会(第2回)」・「30by30に係る経済的インセンティブ等検討会(第3回)」(合同開催)という会議があり、丁寧なネット上の情報が掲載されているので、覗いてみました。
生物多様性が拡大する社会のなかで、森林ガバナンスの制度とどんな関係になってくるのかな?という視点でご紹介します。
(今後の道筋と今回の会議の位置づけ)
右の図は、政府が昨年3月に決めた30by30ロードマップという文書に掲載されている、今後の道筋です。
30年の30パーセントの地域保全地域の確保にむけて、「30%を確保する施策」(上半分)、「後押しする施策」(下半分)という検討事項がわかりますね。
そして、1月13日の合同会議の、「OECMの設定・管理の推進に関する検討会(第2回)」が上半分、「30by30に係る経済的インセンティブ等検討会(第3回)」が下半分に関する委員会で、この合同会議の重要性がわかります。
さらに、右の図の上をみていくと、30パーセントを達成するために、保護地区(国立公園等の保護地域)の拡張と管理の質の向上と、OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(Other Effective area-based Conservation Measures)の認定、という二つの作業をしていくことになっています。
前者が重要な内容であることはそうなんですが、森林政策の将来にかかわりそうなのは、100地域以上を「自然共生サイト」に認定しながら、中間評価をおこない30年までに認定を推進していくという手続きのほうですね。
今回の会議でも、それに向けて、試行している地域の具体的取り組みが報告されているので、それを見ていきます。
(自然共生サイトの試行)
会議のアウトラインを示す資料1「自然共生サイト(仮称)と経済的インセンティブ等との関係について」に記載された自然共生サイトの説明です。
国がかかわる保護地域でなく民間の取り組みなによって整備する多様性保護区域を「自然共生サイト」に認定すのだそうで、そのための、認定条件などが検討課題ですね。
その検討のための、試行箇所のデータが、ネット上に掲載されています。
自然共生サイト(仮称)試行前期協力サイトの概要(22/9/16)
自然共生サイト(仮称)試行後期協力サイトの概要(23/1/13)
一覧表の部分をこのページの下部に掲載しました。
前記の施行リストが23件、後期が33件の合計56件の参加者です。これらの実践課程をチェックしながら、認定基準などができてくることになるんででしょう。
今後検討が進めにしたがって、フォローしていきますが、森林のガバナンスをどんなふうにしていったら良いかという点で、ポイント整理してみました。
(主たる地種、森林の件数はあまり多くない)
元データの一覧表には記載されていないんですが、面積のかなりの部分が森林だというところを緑で色付けしてみました。前期が10地域(全23地域中以下10/23といいます)、後期が8/33、合わせて18/55(全体の32パーセント)です。(面積だと8割)
企業の工場緑地だとか、市街地の都市公園だとか、森林(森林法上の)でないところの件数が多いです。
勿論森林以外の緑地も、生物多様という視点で、管理の基準、多様性の確認、管理者の役割など、参考になるところはたくさんあるんですが、とくに森林は、広域で(面積がポイント)ガバナンスに確立にネックがあるので、緑の部分の活動を今後ともフォローしおく必要があるかと思います。
(企業がガバナンスの中心ですが面積が拡大していくと・・・)
「協力者」という欄に記載されている中心となる方々が、関係者と連携をとって管理をしてくのだけれど、ここにリストアップしているのは企業が多いですね。、前期は19/23、後期は20/33が企業です。
社有地、工場用地などをESGなどを念頭においた企業(森林と関係のあまりないビッグビジネスの方々)が積極的にこのプログラムに参加してくるのは素晴らしいことなんでしょうが、今後30%に向けて面積が拡大していく場合、企業がそれをどのように管理してくのか?ビッグビジネスにその辺のノウハウが蓄積されていません。
森林サイドが開発してきた森林計画制度、森林認証などのシステムは是非積極的に貢献すべきでしょう。
もちろん、自治体(特に森林行政分野のセクションが)がこのシステムの中にどのように関与してくるのかもポイントです。
この辺のところを、今後フォローしてまいります。
ー−−−−−−−−−−−−参考資料ー−−−−−−−−−−−
@自然共生サイト(仮称)認定の試行(前期)参加サイト
No. |
サイト名 |
都道府県 |
市町村 |
協力者 |
面積ha |
主たる地種 |
管理方法・森林の政策との関係性 |
1 |
史春林業生花の森 |
北海道 |
広尾郡広尾町 |
一般財団法人史春森林財団 |
265 |
森林 |
財団による管理計画 |
2 |
出光興産株式会社北海道製油所 |
北海道 |
苫小牧市 |
出光興産株式会社 |
64 |
工場用地 |
3 |
マテリアルの森手稲山林 |
北海道 |
札幌市手稲区 |
三菱マテリアル株式会社 |
1,230 |
森林 |
社有林 |
4 |
つくばこどもの森保育園 |
茨城県 |
つくば市 |
社会福祉法人花畑福祉会 |
0 |
園庭 |
5 |
サンデンフォレスト |
群馬県 |
前橋市 |
サンデン株式会社 |
42 |
工場用地 |
6 |
NEC我孫子事業場(四つ池) |
千葉県 |
我孫子市 |
日本電気株式会社 |
4,343 |
遊水地 |
7 |
清水建設「再生の杜」 |
東京都 |
江東区 |
清水建設株式会社 |
0 |
市街化地域 |
8 |
三井住友海上駿河台ビル及び駿河台新館 |
東京都 |
千代田区 |
三井住友海上火災保険株式会社 |
1 |
屋上緑地 |
9 |
あさひ・いのちの森 |
静岡県 |
富士市 |
旭化成株式会社旭化成ホームズ株式会社 |
1 |
一部森林 |
10 |
富士通沼津工場 |
静岡県 |
沼津市 |
富士通株式会社 |
40 |
工場用地 |
11 |
日本製紙鳳凰社有林 |
山梨県 |
韮崎市 |
日本製紙株式会社 |
1,392 |
森林 |
FSC認証森林・禁伐林 |
12 |
ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ株式会社幸田サイト |
愛知県 |
額賀郡幸田町 |
ソニーグループ株式会社 |
19 |
工場用地 |
13 |
パナソニック草津工場「共存の森」 |
滋賀県 |
草津市 |
パナソニック株式会社 |
1 |
工場用地 |
14 |
三井物産の森/京都清滝山林 |
京都府 |
京都市 |
三井物産株式会社 |
188 |
森林 |
社有林・森林認証j準備 |
15 |
阪南セブンの海の森 |
大阪府 |
阪南市 |
一般財団法人セブン‐イレブン記念財団 |
40 |
海の森 |
16 |
サントリー天然水の森西脇門柳山 |
兵庫県 |
西脇市 |
サントリーホールディングス株式会社 |
880 |
森林 |
学官民と連携 |
17 |
御代島 |
愛媛県 |
新居浜市 |
住友化学株式会社 |
23 |
工場用地 |
18 |
橋本山林(経済性と環境性を高い次元で両立させる自伐林業による多間伐施業の森) |
徳島県 |
那賀町 |
特定非営利活動法人持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会 |
113 |
森林 |
森林経営計画・森林整備計画 |
19 |
王子の森/木屋ヶ内山林 |
高知県 |
高岡郡四万十町 |
王子ホールディングス株式会社 |
259 |
森林 |
社内規定で禁伐・環境団体とお協定 |
20 |
アサヒの森甲野村山 |
広島県 |
庄原市・三次市 |
アサヒグループホールディングス株式会社 |
408 |
森林 |
FSC認証森林 |
21 |
明治グループ自然保全区くまもとこもれびの森 |
熊本県 |
菊池市 |
明治ホールディングス株式会社 |
6 |
工場用地? |
22 |
Present Tree inくまもと山都 |
熊本県 |
上益城郡山都町 |
認定特定非営利活動法人環境リレーションズ研究所、下田美鈴、山都町、緑川森林組合 |
2 |
一部森林 |
県町との連携協定 |
23 |
水源涵養林用地大船山山林56 林班 |
大分県 |
由布市 |
九州電力株式会社 |
401 |
森林 |
社有林管理方針 |
A自然共生サイト(仮称)認定の試行(後期)参加サイト
No. |
サイト名 |
所在地 |
|
協力者 |
面積ha |
主たる地種 |
管理方法・森林の政策との関係性 |
|
|
|
|
|
|
|
1 |
北海道大学雨龍研究林 |
北海道 |
|
国立大学法人北海道大学 |
24,953 |
森林 |
一部森林経営計画?? |
2 |
渡邊野鳥保護区フレシマ |
北海道 |
|
公益財団法人日本野鳥の会 |
203 |
湿原 |
3 |
積水メディカル岩手工場 |
岩手県 |
|
積水化学工業株式会社 |
28 |
工場用地 |
4 |
鹿島建設 日影山山林・ボナリ山林 |
福島県 |
|
鹿島建設株式会社 |
111 |
森林 |
一部Jクレジット |
5 |
つくば生きもの緑地 in 国立環境研究所 |
茨城県 |
|
国立研究開発法人国立環境研究所 |
5 |
施設敷地 |
6 |
所さんの目がテン!かがくの里 |
茨城県 |
|
日本テレビ放送網株式会社 |
1 |
|
7 |
凸版印刷株式会社総合研究所 |
埼玉県 |
|
凸版印刷株式会社総合研究所 |
1 |
施設敷地 |
8 |
飯能・西武の森 |
埼玉県 |
|
西武鉄道株式会社 |
130 |
市街化調整地域 |
9 |
竹中工務店 技術研究所 調の森 SHI-RA-BE? |
千葉県 |
|
株式会社竹中工務店 |
1 |
施設敷地 |
10 |
八王子市長池公園 |
東京都 |
|
NPOフュージョン長池 |
19 |
都市公園 |
11 |
大日本印刷株式会社 市谷の杜 |
東京都 |
|
大日本印刷株式会社 |
2 |
施設敷地 |
12 |
長谷工テクニカルセンター |
東京都 |
|
株式会社長谷工コーポレーション |
1 |
工場用地 |
13 |
大手町タワー |
東京都 |
|
東京建物株式会社 |
0 |
商業地域 |
14 |
下丸子の森 |
東京都 |
|
キヤノン株式会社 |
3 |
工場用地 |
15 |
日立製作所国分寺サイト 協創の森 |
東京都 |
|
株式会社日立製作所 |
16 |
工場用地 |
16 |
野比かがみ田緑地 |
神奈川県 |
|
横須賀市 |
2 |
都市公園 |
17 |
ENEOS株式会社 根岸製油所 中央緑地 |
神奈川県 |
|
ENEOS株式会社 |
6 |
工場用地 |
18 |
YKKセンターパーク ふるさとの森 |
富山県 |
|
YKK株式会社 |
3 |
工場用地 |
19 |
柞の森(クヌギ植林地) |
石川県 |
|
株式会社ノトハハソ |
2 |
森林? |
20 |
シャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤード |
長野県 |
|
キリンホールディングス株式会社 |
30 |
農地 |
21 |
リコーえなの森 |
岐阜県 |
|
株式会社リコー |
30 |
森林 |
社有林・地域連携の協議会 |
22 |
22 麻機遊水地 |
静岡県 |
|
静岡市 |
22 |
遊水地 |
23 |
積水樹脂滋賀工場 生物多様性保全エリア |
滋賀県 |
|
積水樹脂株式会社 |
3 |
工場用地 |
24 |
奥びわ湖・山門水源の森 |
滋賀県 |
|
山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会 |
66 |
森林 |
?? |
25 |
武田薬品工業株式会社京都薬用植物園内の樹木園 |
京都府 |
|
武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園 |
4 |
薬用植物園 |
26 |
エスペックバンビの里 |
兵庫県 |
|
エスペック株式会社 |
2 |
工場用地 |
27 |
神戸の里山林・棚田・ため池 |
兵庫県 |
|
神戸市 |
183 |
森林など |
市有林 |
28 |
南部町の里地里山ビオトープ |
鳥取県 |
|
一般社団法人里山生物多様性プロジェクト |
19 |
農地など |
29 |
結の森 |
高知県 |
|
コクヨ株式会社 |
5,430 |
森林 |
FSC森林認証 |
30 |
「四国山地緑の回廊」の連携に係る協定の対象森林(仮) |
高知県 |
|
三菱商事株式会社 |
143 |
森林 |
国有林と協定(四国山地緑の回廊) |
31 |
北九州市響灘ビオトープ |
福岡県 |
|
北九州市 |
41 |
廃棄物処理場あと |
32 |
トラヤマの杜 貝口 スス山 |
長崎県 |
|
ツシマモリビト協議会 |
3 |
森林 |
協議会による管理計画 |
33 |
アマミノクロウサギ・トラスト 3 号地 |
鹿児島県 |
|
公益社団法人日本ナショナル・トラスト協会 |
2 |
森林 |
希少生物保護トラストが購入管理 |
ただ、二つ比べて、どんな社会を創ろうとしているか、「目標の明快性」という視点で比較すると、前者が気温上昇が1.5度におさまった社会、と、後者が緑あふれる社会、後者がわかりやすいです。
その両方にかかわる森林のガバナンス、今後ともフォローしていきますね。
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