27農林業
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安倍政権の「林業成長産業化」を見直し、持続可能な林業をめざす
我が国の森林は、国土面積の3分の2を占め、木材の供給とともに国土・環境の保全、水資源の涵養、生物多様性など公益的な機能を有し、国民生活に不可欠な役割をはたしています。またCO2の吸収・固定による地球温暖化防止への寄与など「脱炭素社会」の実現にも欠かせない資源です。
この大事な役割をもつ森林を歴史的に維持・管理してきたのが林業です。我が国の林業はいま、歴代政権の外材依存政策のもとで木材価格の低迷が続き、林業労働者が減少するなど、危機に瀕しています。それに拍車をかけるのが、森林の多面的な機能を著しく軽視し、木材供給による利潤拡大を優先する、安倍政権による林業の「成長産業化」路線です。その内容は、安価な木材を大量に供給するため、国有林・民有林問わず、植林後約50年の森林を大規模に皆伐(一斉伐採)を行えるようにするというものです。林野庁長官は国会答弁で、今後の木材需要で増加が期待できるのは、合板・集成材やバイオマス発電などの燃料材などだとして、そこへの供給量の拡大をめざすといいます。林業関係者からは、大量伐採による木材生産は供給過剰を作り出し、ただでさえ安い木材価格をさらに引き下げるのではとの懸念が広がっています。
林業「成長産業化」路線を具体化したのが、昨年の国会で成立した森林経営管理法と、今年の国有林野管理経営法の「改正」です。森林経営管理法では、森林所有者が伐採にとりくまなければ「経営意欲がない」と決めつけ、伐採する権利を強権的に市町村に集め、もうかる森林だけを伐採業者にまかせる仕組みを作りました。この法案で民有林伐採の担い手とされた大規模伐採業者を育成するために、国有林を最長50年にわたって独占的に伐採できる権利を与える(樹木採取権)仕組みを作ったのが、国有林野管理経営法の「改正」です。この「改正」では、大規模面積を伐採・販売できる権利を伐採業者に与える一方、再造林や保育の義務を課さないため、伐れる木はどんどん切って、“後は野となれ山となれ”になりかねません。国有林の荒廃を招き、木材の供給調整機能も果たせなくなり、木材価格の下落に拍車をかけるものであり、施行の中止を求めます。
標準伐期齢(約50年)での皆伐は、再び森林資源を枯渇させ、優良な資源づくりを放棄するだけでなく、資源の再生を困難にさせます。
いま必要なのは、安倍政権の林業「成長産業化」路線を転換し、持続可能な森林・林業が可能となる政策です。森林の公益的機能の持続的な発揮は、森林・林業者だけでなく国民共通の願いであり、国際的な合意でもあります。植林後50年程度で伐採する短伐期皆伐一辺倒を見直し、地域の森林資源の実態に対応し、長伐期や複層林など多様な施業方式を導入し、持続可能な林業にとりくみます。
森林生態系や自然環境の保全を最優先する林産物貿易ルールをめざす――丸太や製材品などの林産物は、WTO(世界貿易機関)協定では自動車や電化製品と同じ「鉱工業製品」扱いになっていますが、多くの国が林産業育成や環境保全などのため、丸太の輸出規制を行っており、実質的に自由貿易品目でなくなっています。森林生態系や自然環境は、人間の生存にかかわる問題であり、市場まかせにする時代でありません。
輸出国主導のWTO体制を見直し、森林生態系や自然環境の保全を最優先する林産物貿易ルール、各国の経済主権を尊重した森林・林業政策の保障を世界に提起します。TPP11、日欧EPAの発効で、かろうじて残されていた製材や集成材などの関税が毎年引き下げられ、8年後には撤廃されてしまいます。そうなれば、合板・集成材や燃料材などを扱う国内の大規模製材所・木材産業が、国産材の引き下げ圧力を強めることは必至です。国産材の需要拡大と森林・林業の再生を困難にし、自給率向上に逆行するものです。TPPからの離脱、日欧EPAの解消を要求します。
地域の実態に即した産地づくりにとりくむ――わが国の森林・林業は、亜熱帯から亜寒帯間まで分布し、植生も多様です。地域ごとに異なる歴史や自然的、社会的条件を持っており、画一的、効率一辺倒ではなりたちません。
森林所有者の経営意欲を引き出し、素材生産、製材・加工、工務店など川上と川下が連携し、地域の実態に即した産地づくりに取り組みます。林業の基礎となる林地の地籍調査は4割台にとどり、事業の障害になっています。地籍調査と境界確定を促進し、地域の森林資源の実態に即した多様な施業方式の導入をめざします。
持続可能な森林づくりにとりくみ、自伐型林業を支援します――長期間の森林づくりを視野にいれ、自己所有や委託を受けた森林で間伐や択抜を繰り返し、森林資源の蓄積量を増やし、持続的な経営管理をめざす自伐型林業が注目されています。このとりくみは、従来型の大規模林業と違い、多くの林業従事者を生み出しています。現に都市部から、過疎地の市町村に移住して自伐型林業に従事する若い世帯が増加しています。こうした動きに注目し、50を超える自治体が独自の支援策を講じています。地域の活性化に役割を果たしている自伐型林業を支援します。
地形や自然環境に配慮した林道・作業道の整備などにとりくむ――生産基盤となる林道や作業道の路網整備が大きく立ち遅れています。路網整備では、生態系や環境保全に配慮した技術を確立し、災害に強い路網整備をすすめます。昨今の豪雨災害による山地の崩壊の原因に、高性能林業機械による大規模伐採が原因との指摘があります。山地の崩壊をさせない地形や自然環境にあった技術の開発を国の責任ですすめます。
また、急傾斜地では、林地保全などから架線集材システムが有効です。集材機の開発や技術者を確保し、技術の継承、発展をはかります。
林業就業者の計画的な育成と定着化、就労条件の改善にとりくむ――林業は、森林の多面的機能や生態系に応じた育林や伐採などの専門的知識、技術が必要です。基本的技術の取得を支援する「緑の雇用」や「緑の青年就業準備給付金」事業の拡充や事業体への支援を強め、林業労働者の育成と定着化にとりくみます。また、ILOの林業労働基準に即した労働条件や生活条件の改善にとりくみ、安心して働ける環境をつくります。
公共建築物や土木、道路施設、新たな製品開発など国産材の需要拡大にとりくむ――「公共建築物木造利用推進法」が施行されて9年、木造化のとりくみがすすめられていますが、17年度の全国平均実績は低層(3階建て以下)でも木造率は27.2%にとどまっています。不足している木造の設計・建築技術者の育成をすすめ、木造建築技術の開発・普及にとりくみます。建築物の仕様書に国産材の使用を明記するなど、可能な限り木造化を推進します。また、土木事業や道路施設への技術開発、新たな木材製品の開発などをすすめ、国産材の需要拡大にとりくみます。
国産材のカスケード利用にとりくみ、木質バイオマス発電のやり方を改める――良質材から低質材まで、建築や木製品、紙製品、エネルギーなど、100%有効に利用するカスケード利用にとりくみます。
木質バイオマス発電では、固定価格買取制度で、主伐を含む間伐材に一番高い価格がつけられたことを受けて大型の木質バイオマス発電所の建設が相次ぎ、今後大量の木材が必要とされ、乱伐を招きかねません。水分を含んだままの丸太を燃焼させる装置まで開発されており、行き過ぎた木質バイオマス発電のやり方を改めていきます。
自然災害による山地崩壊や施設被害の復旧に全力でとりくむ――地震や豪雨による大量の流木や山地崩壊、施設などの被害が頻発しています。流木による二次被害防止対策や荒廃林地や施設の全面的な復旧にとりくみます。地域材を活用した仮設住宅や復興住宅の建設に力を入れるなど、地域の森林・林業の再生にとりくみを支援します。
シカ等の野生獣による食害や病虫害害対策にとりくむ――シカなどによる食害やナラ枯れなどの被害は、年間8000haに及び生態系の破壊など人間生活にも影響を与えています。野生獣の防除と捕獲、個体数の管理や病虫害の効果的、効率的な防除技術の開発をすすめます。捕獲した野生獣の食肉流通対策を支援します。
特用林産物の振興や都市住民との交流などで就労機会の確保をはかる――きのこや山菜など特用林産物の生産振興や加工・販売などのとりくみ、自然環境を活用したレクリーション、保健・休養など都市住民との交流などで就労機会の確保をはかります。
市町村や森林組合への支援を強める――市町村は、森林・林業の基本となる「林野台帳」の整備や森林整備計画の樹立をはじめ、19年度から森林管理経営法の施行によって、民有林での経営管理権の設定などが制度化され、地域の森林管理のとりくみが求められています。何よりも森林所有者の意欲を引き出すとりくみが求められています。専任の職員を配置できないような市町村も多く、森林・林業行政全般の研修など、林務職員の育成・確保をはかれるよう市町村への支援を強めます。
森林組合の組合員が所有する面積は民有林全体の7割を占め、地域の森林整備の中心的な役割を担っています。組合員の要求をくみ上げ、市町村や地域の素材生産や製材業者などと連携し、地域林業の確立のために積極的な役割がはたせるよう支援を強めます。
森林のCO2吸収力を評価した排出量取引で山村地域と都市部の連携を強める――国内のCO2排出量の削減を促進するため、森林の整備によるCO2の森林吸収量と、木質バイオマスを使用によるCO2排出の削減量を評価して、都市部の企業や自治体の排出削減のとりくみにおけるカーボン・オフセット(炭素排出量の相殺)に活用する制度を本格的に導入し、植林・間伐などの森林整備の資金を生み出します。
森林環境税・森林環境譲与税を見直す――森林環境税は、森林経営管理法に基づき、地方自治体が新たに行う事務や事業の財源等に充てるために森林環境譲与税として配分されます。この税金は、2023年度末で期限切れとなる復興特別住民税の看板を掛け替えて取り続けるもので、森林の吸収源対策や公益的機能の恩恵を口実に、国やCO2排出企業が引き受けるべき負担を、国民個人に押し付けるものです。また、各自治体への配分基準において、人口指標の割合が林業従事者数の割合よりも高く設定され、私有人工林が多い市町村よりも都市部に多額に配分される問題点もあります。
このことから、森林環境税は、森林整備に安定的な財源確保策としてふさわしいのかと林業経営の専門家もしくは有識者からも疑義が示されています。森林の公共的・多面的機能を踏まえ、森林整備のための安定的な財源は、国の一般会計における林業予算の拡充を求めるとともに、需要のある自治体への地方交付税の拡充を求めていきます。
国有林を国民の共有財産として持続的な管理経営にとりくむ――国有林は、国土面積の2割、森林面積の3割を占め、奥地山岳地帯や水源地帯に広く分布し、9割が保安林に指定され、国土保全や環境保全など国民生活にとっても重要な役割を担っています。
国有林の公共的役割を確実に実行していくため、国有林にかかわる情報や資料を公開し、事業の計画段階から、自治体・住民、国民との連携をはかり、地域の経済や雇用に配慮した、持続的な管理経営にとりくみます。
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