木材調達の側面から中大規模の木材利用の検証ーウッドマイルズフォーラム2019(2019/8/15)

自分でも企画段階から参画した(一社)ウッドマイルズフォーラム主催の標記イベントが7月31日開催され、多くの方に参加していただきました。

建築に木材が使われる最近の拡がり、地域材・国産材を利用することの環境的意味合いという、ウッドマイルズフォーラムが問いかけてきたポイントに加えて、建築関係者が山づくりにどうしたら貢献できるのかという、篤い想いがつたわる素晴らしいイベントでした。

林野庁担当課長に最近の状況を報告いただいたあと、来年開催される東京オリンピックパラリンピック競技会の施設について組織委員会の担当課長、自治体などが地元材と地元の技術にこだわって建築した庁舎・公共建築物建設責任者などが具体事例を紹介し、木材・特に地域材で建築物を建設する過程と途上の課題、成果、環境的な貢献となど以下の説明がありました。

全体の概要は、一社ウッドマイルズフォーラムのサイトに詳しく紹介されていますので、是非そちらをご覧下さい

  タイトル  氏名 話しの概要  参考資料
話題提供   
『公共施設等木材利用促進法の成果・課題について』 長野麻子氏/林野庁木材利用課長 これからの木材利用施策として、民間建築物へ促進を図るための懇談会(ウッド・チェンジ・ネットワーク)の取組を紹介  
 事例報告   
『東京2020 大会における持続可能な木材利用の取組』 日比野佑亮氏/公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
総務局 持続可能性部 持続可能性事業課長
今回の大会の経験が、国内ではまだ新しい取組である持続可能性を意識した木材調達の普及につながればと、2020以降のレガシーに向けた思いが述べられた  持続可能性進捗報告書
『地域完結型の木材調達:南小国町役場』(※第14 回木の建築大賞受賞) 宮野桂輔氏/南小国町役場新築計画コーディネーター、株式会社高木冨士川計画事務所 やる気と人脈・アイデアがあればできる!南小国町の事例は特殊解ではあるが、この経験をどう活かしていくか考えていきたい  
『屋久島町新庁舎の木材調達について』 松下修氏/松下生活研究所合同会社代表、ウッドマイルズフォーラム理事 「島内経済の循環を図るため、地元の材と地元事業者により作ること」をコンセプトに。全国の工務店に屋久島の地杉の特性を付加価値とした「ヤクイタ」を販売してもらう展開  
タケノコ保育園の木材調達について』 山崎健治氏/有限会社こころ木造建築研究所代表取締役 木材は大井川流域から加工場も含めて現場まで100q圏内で調達されている今後もすぐ近くにある地元の無垢材を活かして、子供たちに木の良さを伝えていきたい  
『中大規模建築物木材利用と木材調達のウッドマイルズ評価』 藤原敬/一般財団法人林業経済研究所フェロー研究員、ウッドマイルズフォーラム理事長

地域材利用による循環型社会の構築が、東京2020大会のレガシーの一つになれば。 建築関係者の山への想いを踏まえ、、山と町をつなぐウッドマイルズフォーラムの今後の役割は重要

 当日配付資料
意見交換 
コーディネーター

三澤文子氏/有限会社Ms建築設計事務所主宰、ウッドマイルズフォーラム理事

今は住宅に限らず大規模施設でも木材利用が広がり追い風のように見えるが、結果的に山にお金が帰らないことは根本的に問題があるように思う。今日の取組事例からも様々な努力が必要なことが伝わってきた。  
ゲストコメンテーター

熊崎実氏/一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会顧問

山持ちの手取りがどんどん減っている。補助金行政が経営力や技術革新の力を弱めてしまった。補助金で林道の整備も進め、間伐補助金が無くてもやっていけるようなことをしていくべき  当日配付資料
同上

速水氏/速水林業代表

木材利用の方法として、集成材やCLTなど多様化するのは良いと思うが、山側から見ると、無垢材がよい。基準や認証をクリアしたから大丈夫と考えるのでなく、建築業界でも何か言われた時に責任を持てるか、というところまで考えておく必要  

当日はもとより準備の過程で今回のイベントは、自分のやってきたことを振り返る大切なイベントでした。

(ウッドマイルズ評価と東京のレガシー)

『中大規模建築物木材利用と木材調達のウッドマイルズ評価』と題する私の報告は、過去の日本三大木造ドームのウッドマイルズで木材の調達過程と環境負荷の関係を分析した経験を紹介。

それを踏まえ、今回報告された建築物で利用された木材に固定された二酸化炭素の量に対して、その木材を建築現場まで輸送する過程で排出された二酸化簡素の量を推定し、地域材を利用することの環境貢献を解りやすく「見える化」しようと考えました。

概要は左の図です。

ロンドン2012のレガシーは100%森林認証材を使ってで建設しFSCとPEFCが共同してそれに取り組んだというものですが(ロンドンオリンピック・パラリンピックの伝説から学ぶ)象徴的なオリパラパーク内の自転車競技場ベルドローム競技場では、走行スペースはロシアマツ、外壁は北米のウェスタンレッドシダー(ベイスギ)と世界中の木材を調達しています。

(それだから、リスクを減らすための森林認証材は不可欠だった)

これに対して、東京2020の競技施設は森林認証材で持続可能性を担保しながら、基本的には国産材で建設。調達した各地の森林と東京2020の施設の間の物語を今後の日本国民へのレガシーにしようということでしょうが、ローカルな木材で建設された始めての大規模なオリパラ施設群の環境貢献が「見える化」されるなら、もう一つのグローバルなレガシーになるのでないか、と考えました。当日配付資料

(建築関係者の森林への想いとウッドマイルズフォーラムの課題)

中大規模建築物の木材利用テーマの今回のイベント準備のために、会長始め何人かの建築関係者の方と話しをして印象にのこったのは、森林への想い。建築士連合会の会誌での特集「無垢製材を使う中大規模の建築」の編集に関わった方ともお話をしました。木を使うだけでなくそれを通じて山づくりへの貢献がしたい。追ってこのテーマは大切なので別のページとしますが、その想いを込めた、ウッドマイルズフォーラム会長、前建築士連合会会長の藤本昌也さんかたった最後のまとめの言葉を以下の掲載しておきますます

今日の報告事例は、言葉ではなく実際に木の建物が出来て一般の人達に訴えられるので素晴らしい。

今日のフォーラムも中大規模施設について、川上と川下で議論した訳だが、川上ではウッド・チェンジ・ネットワークが、川下では無垢製材を使う中大規模施設が主なテーマになっている。ウッド・チェンジ・ネットワークのメンバーは大企業が主だが、今日の報告のように地域で頑張っている人達がたくさんいるので、林業行政には地域からの視点を入れて欲しい。

 今日のフォーラムでも議論になった、山にちゃんとお金が戻り、山で生き生きと働けて、川下側もそれをリスペクトして仕事ができるという関係を今後どう構築できるか、ウッドマイルズフォーラムとしても一つの問題提起ができるよう議論していきたい

各地域の様々な特殊解から、普遍性をもった解が導き出せるよう、皆様からも色々な知恵を出して頂きたい 

energy2-78<WMF2019>

 

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