木質バイオマスエネルギーは厄介な問題を抱えている!?ー課題と期待(2022/4/26)

木質バイオマスエネルギーによる発電は、FIT制度により結果として電力消費者に負担をかけ、木材の環境的側面に対する消費者からの支援という、大切な機能を含んでおり、持続可能性の証明方法などEUの動向など視野にいれて、しっかり構築していかなければならないと、このサイトでも関心を持ってフォローしてきました。(シンポジウム「固体バイオマスの持続可能性確保へ向けて~英国の事例と日本の課題~」など

森林ビジネスの環境側面に関するNGOや学会関係者の情報発信をしっかり受け止めていかなければならないのですが(森林バイオマスはカーボンニュートラルか?500名以上の科学者が日本政府に(も)書簡)、このところ、「気候危機を悪化させるバイオマス発電~1.5℃目標との整合性を問う~石炭より悪い輸入木質バイオマス~森林保全による炭素固定の重要性」など、NGOの発出する森林由来のバイオマスに関するネガティブなな情報発信がステップアップしているようです。

COP26でカーボンニュートラルな「第四の化石燃料」となった木質バイオマス発電燃料

(欧州のバイオマス発電に関する動向)

これらの議論の背景には、昨年(2021年)1月に発表した「欧州委員会の共同研究センター(Joint Research Center:JRC)が、森林由来の木質バイオエネルギーの気候変動への効果を分析する報告書」があったんだようです。The use of woody biomass for energy production in the EU

欧州の政策当局者である欧州委員会が、公式に「森林バイオマスはカーボンニュートラルではない」という内容を含んだ、最初の公式文書

日経新聞が配信した記事もインパクトを与えました。輸入に頼る木質バイオマス発電 持続可能といえるか-科学記者の目 編集委員 滝順一

先の森林学会の企画シンポジウム「森林バイオマス利用はカーボンニュウートラルか?炭素負債問題を理解する」をリードされれた相川さんにいただいた、「やっかいな問題」として森林バイオエネルギー問題を捉える-JRCレポートを読み解くを読んで、周辺情報を復習して少し、問題を解明してみました。

(木質バイオマス発電のカーボンはニュートラル?)

まず、林野庁の見解から、「森林から生産される木材をエネルギーとして燃やすと二酸化炭素を発生しますが、この二酸化炭素は、樹木の伐採後に森林が更新されれば、その成長の過程で再び樹木に吸収されることになります。
このように、木材のエネルギー利用は、大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えないというカーボンニュートラルな特性を有しています。」(林野庁HP「なぜ木質バイオマスを使うのか」より)

そうですね、炭素中立。「化石資源燃焼の二酸化炭素が何億年前に吸収された炭素由来なのに対して、少し前に吸収した炭素を再排出するのだから、カーボンニュートラルだよね」というように私も考えてきましたが、「中立でないよ」というのが、NGOの言説の一つの柱になっています。

バイオマス発電は環境に優しいか?-”カーボンニュートラル”のまやかし」というFOEJapanの記事にしたがってその論理を見てみます。

第3章 バイオマス発電とカーボン・ニュートラルの嘘

1. カーボン・ニュートラルの定義

「「カーボン・ニュートラル」とは、ライフサイクルの中で、二酸化炭素(CO2)の排出と吸収が プラスマイナスゼロであることと定義され、炭素中立とも呼ばれている。バイオマス発電は、燃料 となる植物の燃焼段階でのCO2排出と、植物の成長過程における光合成によるCO2の吸収量が相殺 されるとされ、「カーボン・ニュートラル」であると説明されることが多い。」

2. 森林減少・劣化による炭素ストックの減少

「土地利用転換を伴わない伐採である場合、伐採の程度や森林が貯蔵している炭素量がど のくらいの時間で回復するかが問われる。皆伐もしくは森林劣化を伴うような伐採である場合、森 林が元の状態に回復したとしても、伐採から数十年から100年以上かかる場合もあり、その間は伐 採した燃料を燃やした結果生じたCO2は大気中にとどまり、CO2の増加に寄与することとなる」

「バイオマス発電による森林減少・劣化によるCO2排出を評価する場合、バイオマス発電事業がある場合(with project)、ない場合(without project)双方の一定期間後の当該森林の炭素蓄積量の変化を評価することが必要である。バイオマス発電事業を実施しない場合でも行われている、森林管理のための間伐によって発生した材や、製材生産による端材などを燃料として使用する場合は、森林が貯蔵している炭素量は、バイオマス発電事業によっては減少しない」

3. 栽培、加⼯、輸送、燃焼など各段階でのGHG排出

「栽培、加工、輸送、燃焼といったライフサイクルの各段階でのCO2を含むGHG排出も当然考慮されるべきで・・

例えば、カナダで生産された木質ペレットを日本に輸入した場合、ライフサイクルでのGHG排出は23.5g-CO2/MJ-Feedstockであるが、これは日本国内で生産した木質チップのライフサイクルでのGHG排出3.3g-CO2/MJ-Feedstockの7倍となる

4. 結論

バイオマス発電は、「カーボン・ニュートラル」ではない。バイオマス発電を再生可能エネルギーとして促進する場合、GHG排出削減や生物多様性保全の観点から、生産段階での森林減少など土地利用変化を伴うものは除外すべきである。またライフサイクルにわたるGHG評価を行い、十分にGHG削減が見込めるもののみを対象とすべき。

とりあえず、この部分がNGO の主張を要約していると考えると、政策的な文脈で考えると二つの重要な指摘があると思います。

(原料の由来)

一つのポイントは、エネルギー供給のために森林を伐採する場合は、注意が必要。

間伐材由来とか、廃棄物由来の二次的なエネルギー利用では問題ないのですが、エネルギーのために森林を伐採する場合、どんな形で伐採後の森林が成長して排出量を回収するのか、分析する必要があるという指摘ですね。

発電所の計画策定時点で、燃料由来をチェックする必要、そして、すでに認可されて事業者に対しても、説明をもとめる・・・。結構大変な作業ですが、森林学会のプレゼンでも、森林施業木材利用シナリオを作成して計算する報告がされています。

海外から輸入されるものでは難しい。(我が国の大規模バイオマスエネルギー発電所が調達する(予定となっている)北米由来の木質ペレットは、問題が多い。カナダにおける木質ペレット生産とその環境社会影響

国内原料では、早生樹の活用などが、どのように貢献するのか、この辺の研究をすすめることの重要性が示されていると思います。

現在の利用形態で、どの程度のリスクがどの程度あるのか?という点について、私自身ももう少し勉強してまいりたいと思います。

大きなハードルですが、木質バイオマス発電が消費者から支援を受ける前提で、越えなければならないハードルなのかもしれません。

(製造・輸送過程の排出量)

もう一つの指摘。バイオマス燃料を燃焼させる場合、固定されていた炭素が放出されるだけでなく、燃料の製造輸送過程のGHGがどの程度減らすかが重要な視点。

この点は、このページでも主張してきました。森林バイオマス発電の次のステップは?-FIT提案セミナー(2019/10/15)

事業計画策定ガイドラインでもそのことを念頭において改訂がされました(「事業計画策定ガイドライン改正案」に対する意見公募の実施結果について)。事業計画策定ガイドライン (バイオマス発電)

今後認定される大型工場がほとんどないであろうなか、すでに、認定されたものは努力義務では駄目なんではないかという意見があります。

だれが考えても、供給過程のGHGを一定以下にすることは、当然のことです。供給側も体制をととのえる事が必要だと思います。

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およその議論の概要ですが、今後具体的にどんな課題があるかなど、フォローしてまいります。


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