世界森林白書:第10版までの歩み

2012年のFAO林業委員会で公表された世界林業白書第十作目sofo2012に掲載されている、世界林業白書State of the WorldSOFO第10版までの歩み翻訳してみました。



「2012年世界森林白書」は「世界森林白書」(SOFO)の第10版である。FAO(国際連合食糧農業機関)の第21回林業委員会(COFO)で出版された。
1995年の第12回林業委員会COFOの時点で第1版が出版された。それ以来、2年毎に出版されている。伝統的に、(2年に一度開催される)FAO林業委員会の主要な議事のうちの一つは、その時々の議論の焦点となっている事項を含む森林の状態を紹介する世界森林白書である。

COFOは2010年にFAOの新しいスケジュールと合わせるため、スケジュールを奇数年から偶数年に変更し、2012年の初めに、世界林業白書SOFOの出版年を偶数年へと変更した。
この章は、インターネットで閲覧可能なSOFOの第10版までのに掲載された事項に関心を持つ読者に指針を提供する。各版が記述した重要な話題の問題を概観している。
驚くことに、SOFOの各版が現在の事項にも密接な関連があることがわかる。SOFOは森林・林業・林産品についての知見を得ようとする人々にとって、きわめて重要な情報源である。

SOFO1995
1995年に、国際的な森林関係者は環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)以降の前進する方法に関する合意を得る努力をしていた。熱帯森林行動計画が最早機能しなくなり、多くの国は進みゆく森林減少に歯止めをかける方法を探っていた。世界が、より有効な森林政策の策定を求めていた。このような背景の下で森林政策が1995年のSOFOの最初の議論の焦点となった。
SOFO1995は、森林が主に採取される資源として認識されていた頃からの森林政策の進展を辿っている。1970年代には、森林管理にはコミュニティの参加が必要であるという認識が高まっていた。そして、1980年代には、森林の地球環境を安定させる役割が認識されるようになった。また、1990年代までには、森林が持続可能な発展に重要な役割を果たすことが広く知られるようになった。
1990年代の半ばまでに、各国が自国の独自の文化、森林生態系、経済発展の段階に基づく森林政策を行う必要があるという合意を形成された。これらの国々の計画は「国家森林プログラム」として知られている。
森林政策の状態の評価に加えて、SOFOの第1版は主に世界森林資源評価(FRA)1990に基づく、FAOによる生産、消費、林産物の貿易の統計や地域・国ごとの森林に関するデータを提供している。その後のSOFOでは、更新された最新の森林資源の各国調査や世界的アセスメントの結果を反映した同様のデータを含んでいる。

SOFO1997
SOFO1997ではFRA1990、その後更新されたFRA1995の結果を多く引用し、熱帯地域における森林減少を詳細に紹介している。1990年から1995年の間に、発展途上国において年間1,370万haの天然林が減少したとしている。増加分と減少分を考慮した世界の純森林減少の割合は、年間1,130万haと推定された。
SOFO1997は、森林管理、森林利用及び林産物の傾向に関する詳細なレポートも掲載されている。また2010年までの林産物の消費と貿易の将来予測も要約されている。SOFOは、FAOが1996年での予測より消費レベルの予測を下方修正したと記している。
政策課題に関する章では、自由市場経済へ移行や構造調整プログラムの衝撃があった多くの国の経済を含む、その時代の主要な関心事を反映している。多くの国々では、森林分野の行政の地方への分散化が試みられていた。
各国の森林計画の傾向に言及し、SOFO1997は、多くの国が単一の計画の青写真を一つの国レベルで作成するより、利害関係者を含む参画の過程をより強調するようになったとしている。

SOFO1999
SOFO1999では、ヨーロッパ連合共同研究センター、国際気候生物プログラム、世界動植物保全監視センター、世界資源研究所(WRI)を含む、世界の森林資源を評価した他の機関の構想も報告している。
この版では、世界的な森林管理の状態や傾向も広範囲にわたって述べられている。経済、社会、環境という三つの面を考慮した科学原則と経営計画に従った、森林管理国家計画の拡大についても報告している。
他にも、森林に関する政府間パネルでの、「国家森林プログラム」とは各国特有の森林計画と政策へのアプローチを指す一般的な用語であるという合意も報告している。これは全ての国において、世界的に最適な実行にFAOを含む多くの研究機関が早期に焦点を当てるという点で大きな進展であった。この新しいアプローチは、分権化が国内同様世界レベルでも機能することを認識した。
SOFO1999では森林政策に関しては、「国の政策の作成者が、政策の改革の複雑性とそれらの効果の不確定性を次第に認識してきている。森林と他の経済部門との相互関係がより理解されつつある。最後に、政策を実行する強力な制度なしには、政策の声明が実際にはほとんど効果をなさないということが強く認識されている。」という非常に興味深い見解が示されている4。

SOFO2001
SOFO2001は、冒頭に森林の分野におけるローカル化とグローバル化という正反対の二つの側面についての記述されている。国際的な貿易の広がりとグローバル化に直面し、多くの国において森林計画と森林管理の責任の分権化が進んだ。
SOFO2001は、その時点での最も包括的である国際的な森林の評価がなされているFRA2000の結果を報告している。2000年の世界の森林の姿を示している新しい世界の森林地図を含んでいる。熱帯地域における天然林の年間減少面積は1,520万haであり、全世界では1,610万haという重要な推定結果も出ている。純森林減少面積(天然更新と造林面積を考慮する)は、熱帯地域では1,230万ha、世界全体では940万haである。
また、豊富な森林資源情報も提供している。その中には、森林保護地域や木材供給能力、森林増加率等の情報が含まれている。
SOFO2001には、気候変化と森林に関する重要な報告もある。FRA2000と他のFAOの研究に基づいて、森林生態系における炭素蓄積量、他の生態系における炭素密度、土地利用の変化による炭素排出量、再造林及び農林業による炭素削減への潜在的な貢献の推定がなされている。この報告書は、森林が気候変化を緩和する重要な機能を持っているという認識を世界に広げるための貴重な数冊の内の一つである。
さらに、森林分野に存在している違法行為と腐敗についても言及している。この項目は、国際機関では長年タブーとして扱われていたが、SOFOは公然とその問題に立ち向かうための初めての国際的な出版物の一つである。(これ以降の年では少し扇動的な意味合いのある「腐敗corruption」という言葉を「管理goverrnance」という比較的に柔軟な言い方にした。)

SOFO2003
SOFO2003のテーマは「行動におけるパートナーシップ」であり、全ての章は国際林業研究センター(CIFOR)、国際自然保護連合(IUCN)、国際森林研究機関連合(IUFRO)を含む協働組織によって記述された。SOFO2003は、有効なパートナーシップが持続可能な発展をもたらすと強調している。
CIFORは一つの章で、発展途上国において核となる森林問題と貧困の緩和について記述した。貧困を緩和する有効なものとして以下のような六つの戦略が挙げられている。
Ÿ 人間中心の林業
Ÿ 所有と規制の制限の撤廃、国公有林のローカルな管理への復帰
Ÿ 林産物の市場機能の改良(公平な市場ルール)
Ÿ パートナーシップ
Ÿ 移管金の再設計
Ÿ 林業の、農村発展と貧困削減戦略への統合
また、以下のような他の重要な問題も深く検討している。
Ÿ 持続可能な水資源利用と管理における森林の役割
Ÿ いかなる持続可能な森林利用が生物多様性保全に寄与できるか
Ÿ 森林分野における科学と技術
Ÿ アフリカにおける森林分野の財政政策

SOFO2005
SOFO2005では、テーマを「森林の経済的な利益の認識」と設定し、国の経済に貢献が少ないという一部の認識のために、未だに多くの国にとって森林部門が重視されていないということを述べている。多くの林業の専門家は、その他の人々が未だに林業の価値のすべては把握していないと考えている。
また、コミュニティや政府及び個人が森林からの経済的な利益を高める方法が記述されている。それに、持続可能な森林管理は経済的にも実行可能とすべきと提起される問題も挙げている。
木質エネルギー経済や、将来のプログラムの発展への中心的な考察、そして複雑な経済問題を考慮した政策に関する包括的な報告も含まれている。
CIFORにより寄稿された「森林と戦争、森林と平和」という興味深い章は、SOFOの結論部分を構成し、森林地域にある衝突の伝統を持つ国への行動戦略を概説している。この章では、森林に依拠している人々を彼らの住居や文化を捨てさせることなしに、より大きな経済へと結びつける政策を政府は実施すべきであると提言している。

SOFO2007
2000年代初頭、持続可能な森林管理を認証する基準や指標が様々なプロセスに適用できる7つの項目が国際的に合意された。
Ÿ 森林資源面積
Ÿ 生物多様性
Ÿ 森林の健全性と活力
Ÿ 森林資源の生産機能
Ÿ 森林資源の保護機能
Ÿ 森林の社会経済的機能
Ÿ 法律、政策、制度的な枠組み
FRA2005はこの7つのカテゴリーを中心に実施された。FRA2005の核となる情報が、世界の6つの主要な地域における持続可能な森林管理の進行状況の報告作成のために利用された。2006年の各地域報告の草案が地域の林業委員会により評価され、地域的な分析を反映して訂正された。最終報告はSOFO2007に掲載されている。
地域報告の結果は様々である。ある地域は持続可能な森林管理に向けて、他の地域より前進していた。各地域とも、少なくとも好意的な徴候と前向きな発展が見られた。FRA2005では、10年前には10パーセントの目標も達成することが不可能であった保護林の指定が、世界の森林面積の約12パーセントで指定されたことが明かとなった。しかしながら、2007年に保護林を有効に監視、実行させる困難に多くの国が直面していることが明かとなった。
SOFO2007では、気候変化、砂漠化、貧困削減、森林所有権、収穫、外来種、山地開発、人工造林、林産物貿易、水、野生動物、木質エネルギーといった森林部門に関する問題の記述の多少の更新も行っている。

SOFO2009
2007年に採用された地域的なアプローチを引き続き行い、SOFO2009のテーマは森林分野の展望とした。FAOによる地域森林部門の概要の結果が要約され、最新の世界と地域での経済傾向の分析と比較されている。
SOFO2007では、各地域の森林資源と森林制度を評価することにより、供給面を強調している。そして、SOFO2009では将来人口と経済発展、グローバル化などの変化が森林にどのような影響を及ぼすか、国際貿易の爆発的な増加が世界の森林に正負どちらの影響を及ぼすかといった質問を通じて、需要面に目を向けている。
また、経済発展と森林との間に強い関連があることを指摘している。急激な経済成長を遂げる国は、必ず森林に多大な影響を与える。高度な経済レベルにある地域は、一般的に森林資源量を安定、もしくは増加させることが可能である。しかしながら、森林に影響を与える要素が非常に複雑で、全ての国に適用できる単純な結論を導き出すことはできない。
さらに、2つ目のパートでは、国がどのように未来に適応するかという点に目を向けている。林産物、生態系サービス、森林制度についての未来のシナリオも分析している。

SOFO2011
 
SOFO2011では引き続き、前2版のSOFOで用いられたアプローチを採用し、FRA2010の結果である、森林資源面積、生物多様性、森林の保護機能、森林の生産機能、社会経済的機能に基づき、持続可能な森林経営の標準と指標という5つのカテゴリーに焦点を当て、地域の傾向を分析している。
また、世界の森林面積が減少を続けていると報告している。前向きな兆候としては、世界の森林減少面積が1990年代には1年あたり1,600万haであったのが、2000年から2010年の間では1年あたり1300万haまで減少していることである。天然更新と人工造林の面積を考慮した同時期の世界の純森林減少面積は、600万haから500万haに減少した。
さらに、持続可能な森林産業の発展について詳細に報告している。この分析は、過去15年にわたって森林分野における収益性と持続性に影響する要素に焦点を当て、これらの挑戦に応じて森林産業の努力を評価している。森林分野における企業は、他の製造分野と同じく戦略的な選択に直面している。
森林産業に対する全体的な展望としては持続的に成長するとしているが、現存の産業の構造や立地が主要な経済の推進力に一致していないと結論づけている。特に、現存のインフラの多くは先進国にあるが、成長の多くは途上国に対して期待されている。
SOFO2011では、森林が気候変化への適応や緩和に果たす役割も記述している。そして、伝統的な知識の重要性を含む、森林の地域的な価値の新たな視点を掲げている。

SOFO2012
 
SOFO第10版は、持続可能な世界経済への移行における森林、林業、林産物の重要な役割に焦点を当てている。森林の歴史を振り返ると、現在の意志決定にい関して、過去から様々なことが学べるだろう。注目したいのは、経済発展を遂げたいずれの国や地域においても、経済移行期に過度な森林減少を経験しているということである。
幸いなことに、一旦国が一定の経済レベルに達すると、多くの国では森林減少の停止もしくは増加に成功するのである。
持続性という考え方は、木材の安定供給を行うために持続的に森林を管理する方法に始まり、森林のもたらす広範囲な生態系の重要性や価値を理解するフォレスターの増加に伴って徐々に発展した。今日では、持続可能な発展は広く認められている人類の目的である
世界では持続可能な未来を確保する方策の探究に伴い、森林、林業、林産物がこの移行において中心的な役割を果たさなければならないということが益々明らかになっている。SOFO2012ではローカル、国、そしてグローバルなレベルにおける森林分野及び森林以外の分野のリーダーによって、将来の戦略への提言を含む、この過程に関する包括的な分析をもって結論としている。

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