グローバルな森林政策の方向性ー第15回世界林業大会から(2022/5/15)

5月2日から6日韓国ソウルで開催された第15回世界林業会議に行ってきました。

6年に1回世界中の林業関係者が集まる会議。146か国から実際の参加とZOOMでの参加を含めて15,000人が参加のだそうです。

林野庁の告知ページ
公式ページXV World Forestry Congress
XV World Forestry Congress (主催者FAOの関連ページ)
XV World Forestry Congress (IISDの紹介ページ)

テーマは、BUILDING A GREEN, HEALTHY AND RESILIENT FUTURE WITH FORESTS「森林とともにグリーンで健康そして堅牢な未来を創造!」(本ページの仮訳です)

5月2日に開会式(韓国ムン大統領も出席)から、6日の閉会式まで、〇の会議の全体像をすべて、ご紹介するわけにはいきませんが、全体像は以下のとおり(仮訳です)。それぞれの会議の録画が公開されています(いるようです)。

サブテーマ1 潮流を変える。森林破壊と森林劣化の回復
セッション1 世界の森林減少:2030年までに森林減少を阻止し回復させるための具体的行動のための課題と機会
セッション2 森林破壊を阻止するための資金調達の可能性と規模拡大
セッション3 森林破壊の流れを変えるために必要な農産物市場の変化への対応
セッション4 森林減少及び森林劣化を食い止めるためのガバナンスと検証システムの強化
セッション5 森林減少の要因の評価-政策立案への示唆
サブテーマ2 気候変動への適応・緩和と生物多様性保全のための自然を基盤とした解決策
セッション1 自然に基づく解決策としての森と木の場面設定
セッション2 生物多様性のための持続可能な森林管理
セッション3 「国連生態系の10年」における世界の修復プログラム
セッション4 NDCにおける気候変動の緩和と適応のための森林による自然ベースの解決策の活用
セッション5 健全で強靭な森林を維持するための森林遺伝資源と病害虫の統合管理の役割
サブテーマ3 成長と持続可能性へのグリーン・パスウェイ
セッション1 SDGsのための森林管理:林産物と生態系サービスから価値、平等性、回復力を創出する
セッション2 森林セクターにおけるディーセント・ワーク、グリーン・ジョブ、持続可能性の促進
セッション3 森林セクターにおけるイノベーション。成長と持続可能性への新たな道
セッション4 持続可能なランドスケープを推進するための小規模農家とその組織による資金調達へのアクセス拡大
セッション5 持続可能なランドスケープを支援するための金融の融合
サブテーマ4 森林と人間の健康・福祉:その関連性の再検討
セッション1 森林生態系と人間の健康、福祉、社会的安定との関連性の概要
セッション2 人間の健康のための森林
セッション3 暮らしを支える森林
セッション4 社会的結束のための森林
セッション5 人類のための森林と平和
サブテーマ5 森林の情報、データ、知識の管理と伝達
セッション1 オープンで、透明性のある森林データの報告・普及に向けて
セッション2 森林モニタリングの実践(I)-「森に目を」-リモートセンシング技術、イノベーション、イニシアティブ
セッション3 森林モニタリングの実践(Ⅱ)-「森の中へ」-フィールドベースのアセスメント
セッション4 生態系を回復するための森林モニタリング
セッション5 コミュニケーションと教育の強化

サブテーマ6  境界のない森林:管理と協力の強化"
セッション1 舞台設定:森林管理におけるランドスケープ・アプローチと協力
セッション2 SDGs達成のための森林と水のつながり
セッション3 脆弱な生態系における持続可能な森林管理を実現する先住民族・地域社会との連携
セッション4 持続可能な森林経営に向けたパートナーシップと協働
セッション5 今後の展望 -持続可能な森林管理のためのパートナーシップの強化

(ソウル森林宣言など)

全体の内容を総括する三つの宣言が採択されました。
The Seoul Forest Declaration
Work with Us – Youth Call for Action
Ministerial Call on Sustainable Wood

ソウル森林宣言の内容は以下の通りです(5月11日現在本文draft版))(仮訳です)

 The Seoul Forest Declaration  ソウル森林宣言
We, the participants from 141 countries gathered in person and online at the 15th World Forestry Congress in Seoul, Republic of Korea, on 2–6 May 2022, assert that forests, forestry and forest stakeholders offer major nature-based solutions to climate change, biodiversity loss, land degradation, hunger and poverty, but we need to act now – there is no time to lose.   私たちは、2022年5月2日から6日にかけて韓国ソウルで開催された第15回世界森林会議に、141カ国から直接またはオンラインで集まった参加者は、森林、林業、森林関係者が気候変動、生物多様性の損失、土地劣化、飢餓、貧困に対する主要な自然ベースの解決法を提供するが、今すぐ行動する必要がある-失う時間はない、と主張する。
 We convey the following urgent messages to encourage actions for a green, healthy and resilient future with forests, as a contribution to Sustainable Development Goals, UN Decade on Ecosystem Restoration, Post2020 Global Biodiversity Framework and green recovery from COVID-19 pandemic.  持続可能な開発目標、国連生態系の回復の10年、ポスト2020年生物多様性世界枠組み、COVID-19パンデミックからのグリーン復興への貢献として、我々は以下の緊急メッセージを伝え、森林と共にグリーンで健康で回復力のある未来のための以下の行動を奨励する。
 • Forests transcend political, social and environmental boundaries and are vital for biodiversity and the carbon, water and energy cycles at a planetary scale. The responsibility over forests should be shared and integrated across institutions, sectors and stakeholders in order to achieve a sustainable future.
 - 森林は政治的、社会的、環境的な境界を超え、生物多様性や炭素、水、エネルギーの循環に惑星規模で不可欠である。持続可能な未来を実現するために、森林に関する責任は、制度、セクター、利害関係者の間で共有され、統合されるべきである。
 • Vast areas of degraded land require restoration. Investment in forest and landscape restoration globally must be at least tripled by 2030 to implement global commitments and meet internationally agreed goals and targets.
 - 劣化した広大な土地の回復が必要である。世界的な公約を実行し、国際的に合意された目標やターゲットを達成するためには、2030年までに世界の森林や景観の回復への投資を少なくとも3倍にする必要がある。
 • There is no healthy economy on an unhealthy planet. Production and consumption need to be sustainable and policies should foster innovative green financing mechanisms to upscale investment in forest conservation, restoration and sustainable use.
 - 不健康な地球には健全な経済も存在しない。生産と消費は持続可能である必要があり、政策は森林の保全、回復、持続可能な利用への投資を拡大するための革新的なグリーンファイナンスのメカニズムを促進する必要がある。
 • Wood is one of humanity’s most ancient raw materials but can take us into the future – it is renewable, recyclable and incredibly versatile. The full potential of legal, sustainably produced wood must be used to transform the building sector, provide renewable energy and innovative new materials, and move towards a circular bio-economy and climate neutrality.
 - 木材は人類にとって最も古い原材料のひとつですが、再生可能でリサイクル可能、そして驚くほど用途が広いため、私たちを未来へと導いてくれるものです。合法的で持続可能な方法で生産された木材の可能性を最大限に活用し、建築分野を変革し、再生可能エネルギーと革新的な新材料を提供し、循環型バイオ経済と気候ニュートラルに移行しなければなりません。
 • Forest degradation and destruction have serious negative impacts on human health and well-being.Healthy, productive forest must be maintained to reduce the risk of, and improve responsiveness to, future pandemics and provide other essential benefits for human physical and mental health.
 - 森林の劣化や破壊は、人間の健康や福祉に深刻な悪影響を及ぼす。将来のパンデミックのリスクを低減し、対応力を高め、人間の身体的・精神的健康に不可欠なその他の利益を提供するためには、健全で生産性の高い森林を維持しなければならない。
 • Innovative technologies and mechanisms are emerging for the provision of, and equitable access to, accurate information and knowledge on forests. These must be applied widely to enable evidencebased forest and landscape decision-making and effective forest communication.
 - 森林に関する正確な情報や知識を提供し、それを公平に利用するための革新的な技術や仕組みが生まれつつあります。これらは、根拠に基づいた森林や景観の意思決定と効果的な森林コミュニケーションを可能にするため、広く適用されなければならない。
 Forest-based solutions must be inclusive of the perspectives of family farmers, smallholders, forest communities, Indigenous Peoples, women and youth and respectful of their rights, and they must empower them to participate equitably in decision-making and sustainable forest value chains.  森林に基づく解決策は、家族経営農家、小農、森林コミュニ ティ、先住民族、女性、若者の視点を取り入れ、彼らの権利を尊重 し、意思決定と持続可能な森林バリューチェーンに公平に参加できる ようにしなければならない。
 Greater investment and capacity building in forest communication and education and more research are needed to strengthen understanding and awareness of the benefits of sustainably managed forests and trees.  持続可能な方法で管理された森林と樹木の恩恵に対する理解と 認識を強化するために、森林コミュニケーションと教育への投資と能力 開発を拡大し、さらに研究を進めることが必要である。
 Close cooperation among nations is required to address challenges that transcend political boundaries. This was strengthened at the Congress by new partnerships such as the Assuring the Future of Forests with Integrated Risk Management (AFFIRM) Mechanism, the Sustaining an Abundance of Forest Ecosystems (SAFE) initiative and the Platform for REDD+ Capacity Building.
 政治的な境界を越えた課題に対処するためには、国家間の緊密な協力が必要である。今回の会議では、統合リスク管理による森林の未来の保証(AFFIRM)メカニズム、豊かな森林生態系の維持(SAFE)イニシアチブ、REDD+能力構築のためのプラットフォームなどの新しいパートナーシップによって、この点が強化された。
 The outcomes of this Congress, including this declaration as well as the Youth Call for Action and the Ministerial Call on Sustainable Wood, should be transmitted to the next Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change, to the upcoming Conference of the Parties to the Convention on Biological Diversity and to other important forest-related fora.  この宣言、「若者の行動要請」、「持続可能な木材に関する閣僚級要請」を含むこの会議の成果は、気候変動枠組条約次期締約国会議、生物多様性条約次期締約国会議、その他の重要な森林関連フォーラムに伝達されるべきである。
 The Congress calls on governments, the private sector, research organizations, educators, communities and youth organizations to take the urgent actions outlined above, in partnership, as a means for achieving a better future for all.  大会は、政府、民間企業、研究機関、教育者、地域社会、青少年団体に対し、すべての人にとってより良い未来を実現する手段として、上記の緊急行動をパートナーシップでとることを呼びかけるものである。
 Congress participants gratefully acknowledge the hospitality of the Government and people of the Republic of Korea and the support of the Food and Agriculture Organization of the United Nations.  大会参加者は、大韓民国政府および国民の歓待と、国際連合食糧農業機関の支援に謝意を表する。

(宣言の新たな指摘)

森林の関係者が各国から集まり、森林の関係者以外の人たちに、森林の大切・森林の抱える課題を共有し一緒に解決を願う、という気持ちの入った宣言です。

パンデミックからの回復など、その時々の課題と森林の大切さの関係が示されていますが、今までの宣言との違いは何か、前回のダーバン宣言などを比較して考えてみました。

2015年の前回の宣言が、勉強部屋のサイトに掲載されています。世界林業会議2015南アフリカダーバンから(2015/9/26)

一つは、具体的な目標に応じた資金投入に目標額が示されたこと。森林と景観に関する投資額を30年までに3倍にする、として、森林投資に関するフレームワークが示されたことです。(緑のセルの部分この辺については、追ってもう少し報告する予定です)

もう一つは、木材利用の関する項目が一項目入ったことです。

前回の宣言でもその点が気になり、「(木材利用については)、セッションの議論の中では多面的な討議がされましたが、必すしも、まとめの宣言の中には十分に反映していない面があります。」と指摘しました(日本にとっての宣言)
宣言の当該部分
「木材は人類にとって最も古い原材料のひとつですが、再生可能でリサイクル可能、そして驚くほど用途が広いため、私たちを未来へと導いてくれるものです。合法的で持続可能な方法で生産された木材の可能性を最大限に活用し、建築分野を変革し、再生可能エネルギーと革新的な新材料を提供し、循環型バイオ経済と気候ニュートラルに移行しなければなりません」

世界林業会議で、途上国を中心とした森林の減少荒廃問題にくわえて、木材の利用が課題に。都市化する先進国の中で木材の役割、先進国消費者の消費態様と持続可能な森林管理といた重要な点が共通の認識になってきました。この辺はについては、閣僚級の会合(Ministerial forum on Sutainable Wood)の中で、林野庁の次長も参画して話をされましたが、今後も含めて日本の経験蓄積がしっかり発進されていく必要があると思います。閣僚級会合の議論の中身も含めて追って報告します。

(勉強部屋とウッドマイルズフォーラムの情報発進)

私は、Possibility of local wood from a global perspectiveーThe Environmental Performance on Wooden Main Stadium of Tokyo 2020(国際的な視点で見た地域材の可能性ー東京オリパラ2020の木造主会場の環境性能)と題するボランタリーペーパーをウッドマイルズフォーラムの藤原として、提出し、報告する機会がありました。

報告内容と関連事項は、別途ページでおお示しします(グローバルな視野から見た地域木材の可能性―東京2021主会場木造国立競技場の環境性能ー第15回世界林業大会の提出文書

ローカル(地域・地元)というキーワードは、森林原料を生産する国が市場の関係で地元でどこまで付加価値を高めるか?小規模な生産者が森林のサプライチェーンを管理するうえで地元の管理が大切、など様々な広がりがあると思いました。

そのことも含めて、私の勉強部屋のページを中心とした活動内容、ウッドマイルズフォーラムの活動内容などをふくめたパンフレットを作り、多くの方と話し合い、名刺交換をして、ネットワークを広げることができました。

パンデミックの中での、7年ぶりの外国への旅行、大変でしたが充実した旅でした。

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