森林所有と主観的森林幸福度の関係ー成長産業の基盤を所有することは不幸せ?(2019/10/15)


9月下旬に福島大学で開催された、環境経済・政策学会2019年大会で、「森林所有は森林にかかわる主観的幸福度にどのような影響を及ぼすのか?滋賀県野洲川上流域を対象として」(高橋卓也さん(滋賀県立大学、以下「報告者」といいいます)、他)という報告がありました。

こちらに要旨(日本語)、、報告のデータ

英語のセッションで、私が討論者としてコメントを(英語で)するという大役を仰せつかったのですが、それはそれとして、林業の成長産業化とは一体どんな道筋があるのかという、大きな問題提起を含んだ報告でした。紹介します。

(復習:幸福度、森林幸福度とは)

報告者は昨年のこの大会から森林幸福度とうコンセプトを提示して、議論をはじめていたので、興味深く、このサイトでも追いかけていました。

森林に関わる幸福度の実証分析(2018/11/25 )

GDPに替わる政策の総合評価の基準としてOECDが提起した幸福度(主観的幸福度を測る:OECDガイドライン参照)によると、自分の生活についての評価(生活評価)、色んな局面で気持ちがいいかどうか(感情)、人生が有意義かどうか(エウダイモニア)といった三つの要素を測定してはかるのだそうです。

これに基づいて、森林満足度、森林充実感(エウダイモニア)、感情という側面をアンケート調査し、どんな住民が森林に対して幸福感をもっているのか測定しようというのが、森林関連主観的幸福度(森林幸福度)です(右の図参照昨年報告から)。

(森林所有者の森林幸福度についての調査)

これをすこし精緻化して、満足度、充足感、プラス感情、マイナス感情「地元の山を見た時の幸福感情」の計5指標を提起して調査した結果が本年の報告でした。。

幸福度が定義されると、どんな人が森林幸福度が高いのか?という話しになり、性別、年齢、近くに森林があるか・・などと合わせて、森林を持っている人、持っていない人の二つに分けて(説明変数として)分析ができるような、アンケートをこしらえて滋賀県の二つのまちの一般家庭にアンケートを送り、1500件ほど回収。

一人一人が、森林に関して幸福感を持っているか、その人が森林を所有しているかどうか、どの程度関係あるかを調べてみたのが今回の調査の概要です。

その結果は?

データをもとに、このデータ(所有しているが1,していないが0)で、上記で定義した幸福度が説明できるのかどうかを調べて(多変量解析)みると、5つの幸福度のうち4つの幸福度が説明できる!!(統計的に有意な回帰係数がでる)(上の表行番号1)。

そして、その符号はすべてマイナス!?。森林を所有している人は、森林を所有していない人より、森林満足度が低く、森林充足感が低く、森林を楽しく思う時が少ない。

(成長産業の生産基盤を所有している人は、そうでない人より不幸せ?)

一人一人の森林に関する感情は、年齢や性別、後継者がいるかどうかなど、色んな要素が絡まっているのでしょうが、森林幸福度というコンセプトを一番よく説明できる一つが森林所有のようなのです。

林業、木材産業等の成長産業化が、国の政策の大きな柱になっています。林業・木材産業成長産業化促進対策交付金

林業という産業の生産基盤が森林ですが、それをもっていることが不幸せだと言うことは、現時点では林業が成長産業でないということでしょう。また、再造林するのに大量の補助金が支出されていますが、成長産業の生産基盤を創るのに、補助金が必要なの?

どんな森林が成長産業の基盤であり、どんな森林が流域の保全のための森林、どこに再植林してどこはする必要ない、等交通整理が必要なのでしょう。

そんな整理をする上でも、森林幸福度指標は大切な役割を果たしそうです。

(今度は日本語で報告してくださいね)

今回の報告は英語の分科会で、英語の報告。学会にいくと、重要な発表は英語、海外向けの情報発信ですね。この結果が世界中の人にどのように受け止められるのか、こんな国が他にあるのかどうか、いろいろ議論されることになるのかもしれません。

ただ、日本の森林政策の基本的な部分に対する問題提起を含むようなので、是非近い将来、日本語で報告してください、とコメントを(英語で)しておきました。

junkan8-7<kohukudo2>

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