自然資本の持続可能な管理に向けて国民経済計算のあたらな手法(2015/3/22)

先月紹介したREDD+の資金メカニズムは、温暖化対策の枠組みで、途上国の森林破壊の回避や森林管理の強化のためにに国際的な資金をどのように確保するか、という議論ですが、より幅広く、森林管理の資金問題へ関係のある議論が、国民経済計算への自然資本の計上という形で行われています。

都内で関連するイベントがあったのでのぞいてみました。

国連大学他主催サステイナビリティ・サイエンス国際シンポジウム:持続可能な自然共生社会づくり(1/24)、と森林総研が世銀東京事務所と共催で開催した「自然資本の持続的な管理に向けた革新的資金メカニズム」(2/5)です。

前者では国連大学の包括的富報告書Inclusive Wealth Report 2014が紹介され、後者では、世銀が中心になって進めている生態系価値評価パートナーシップ(WAVES Wealth Accounting and the Valuation of Ecosystem Services)について実例をふくめた紹介がありました。

(生態系価値評価パートナーシップ)

後者のセミナーの内容はウェブ上でビデオが見られるし配布資料も掲載していますが、どちらも英語です(自然資本の持続的な管理に向けた革新的資金メカニズム)。

報告内容を紹介します。

 

「GDP(国内総生産)では人工資本の減耗分、生態系サービスを提供する受粉するはなど自然の減少、森林や漁業地域など再生産資源の減少、金属化石燃料の資源減少、公害による経済負荷などが計算されない仕組みになっている。

そのために、長期的な成長を支える資産(富)を包括的に評価することが必要であり、人工資本(生産施設、都市基盤など)、自然資本(農地、森林、水資源など)、無形資本(人的資本など)の三つからなる。このうち、自然資本を評価する手法がWAVESである。

現在、コロンビア、フィリピン、コスタリカ、ルアンダ、マダガスカル、ボツワナ、グアテマラ、インドネシアで試験的に実施中。」

自然資本を評価することにより、総生産はプラスでも自然資本の減耗分を差し引くとマイナスだった2010年のコロンビアなどの計算値が例示されました。

大量に水をつか乾燥地域(オースラリアの事例)の農業のゆがんだ姿なども、この計算の中から明らかになるようです。


 

森林についてはグアテマラで森林資源の減少の8割以上が違法伐採によるものという報告がありました。(この作業を進める中での最初の結果、という一連の情報の中で紹介)

報告の中で、詳しい森林の評価の手法などは紹介されませんでしたが、これらの手法を利用して国民計算の形を提示している、国連大学包括的「富」報告書(Inclusive Wealth Report)などで、評価の手法などが解説されています。

(包括的「富」報告書の中の森林)

国連大学包括的「富」報告書2012(日本語版)
方法論付録269ページ

3.2 森林資源
3.2.1木材
森林の木材ストックに価値をつけるため、Arrowetal.(2012)が展開した方法論に従った。
これはWorldBank(2006,2011a)とはある程度異なっている。出発点として、商業的に利用可能な木材の容積を推定した。この一次的な尺度は基本的に、森林面積、面積当たりの木材密度、商業的に利用可能な総容積の割合を掛け合わせたもので、これらのパラメータは国によって異なり、森林資源評価(FAO,2010;FAO,2006;FAO,2001;FAO,1995)からとった。残念なことに、容積、面積、森林密度についてのパラメータは、1990年、2000年、2005年、2010年しかデータがない。そこで線形の内挿を行って、データがない年については推計値を出した。
立木価格については、WorldBank(2006)の方法に従い、工業用丸太と薪という二つの異なる財の加重平均価格を採用した。これらもやはり国によって異なるパラメータである。異なる価格につけられた重みは、それぞれの財の生産量に基づいており、一方で工業用丸太と薪の価格は、それぞれ輸出額と量、生産額と量からとった。レンタル価格の推定については、さらに三つのステップを踏んだ。(1)国ごとのGDPデフレ一夕を使って、各年の推計値を当該期から一定価格に変換した。(2)次に、Boltetal.(2002)が推定した木材の地域レンタル率の情報を使った。この率は時間がたっても一定と仮定している。(3)最後に、対象期間(1990〜2008年)全体の平均価格を推定し、木材のシャドー価格の代理となる億を求めた。
木材の総富の推計値については、この最後のステップで求めた一定のレンタル価格に、毎年商業的に利用できる木材の総量を掛けた。

3.2.2 非木材森林資源
木材以外の森林便益(NTFB)については、Arrow et al(2012)と World Bank(2006,2006b)の研究を合わせ、Lampietti and Dixon(1995)の研究に従って価額をつけた。
彼らはNTFBの経済便益を、先進国についてはヘクタール当たり190米ドル、途上国こついてはヘクタール当たり145米ドルと推計している。
そこからこの係数に各国の人口がする森林面積をかけた。後者は森林面積の10%と仮定した。
森林面積のデーダについては、FAO(2012)を使った。最後に、NTFBの総量は、無限期間と割引率5%を仮定して、将来便益の現在価値として計算した。 

この結果主要国データは以下の通り(単位10億ドル)

包括的富
生産資本 人的資本 自然資本 - - -
うち森林 - -
うち木材 うち非木材
米国 117833 22338 88873 6622 2425 2330 95
日本 55106 14957 39532 617 370 363 8
中国 19960 6159 8727 5073 990 741 49
チリ 1019 218 589 211 71 67 4
コロンビア 1205 287 497 421 87 72 15
ロシア 10327 1335 2135 6856 2268 2014 254
英国 13424 1494 11822 107 22 21 1
ドイツ 19473 4908 13354 1211 91 87 3
フランス 12955 3215 9575 165 99 94 5

国連大学包括的「富」報告書2012

英文ではこちらにフルデータが掲載されています
http://www.unep.org/pdf/IWR_2012.pdf

世銀のWAVESにしても国連大学の包括的{富」指標にしてもまだ、試算の段階ですので今後いろいろ検討課題がたくさんありそうです。

森林の自然資本の評価額のうち、木材以外の評価額がどこの国も数%しかなく、あとは木材で評価した額だというのはすこし変ですね。

生態系の経済価値評価については、環境省自然環境局が−TEEB−生態系と生物多様性の経済学の内容にそって「自然の恵みの価値を図る」というよくできたページを作成していますので参考になります。

(英文で2014年版がネット上に公表されていますが、この内容にもとづく記事は追って掲載します)

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