ニュースレター No.2052016年9月22日発行 (発行部数:1390部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信してます。御意見をいただければ幸いです。 

                         一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原

目次
1 フロントページ:固体木質バイオマスエネルギーの 需給動向と 環境基準の展開の可能性ー環境経済政策学会報告(2016/9/22)
2. G20金融世界経済に関する首脳会合ー再生可能エネルギーの取組(2016/9/22)
3. 「貿易と環境」の問題をあめぐるルールの変化ーTPPとWTOの比較(2016/9/22)
4. リオ五輪ー『林業経済』誌編集後記(2016/9/22)
5. 学会でのポスター発表ー勉強部屋ニュース205号編集ばなし(2016/9/22)

フロントページ:固体木質バイオマスエネルギーの 需給動向と 環境基準の展開の可能性ー環境経済政策学会報告(2016/9/22)
 
 各国で製造されたペレットを日本で発電用に利用
した場合の温室効果ガス排出量
単位 g-CO2/Mj

9月10日―11日に青山学院大学(東京)で開催された、環境経済・政策学会2016年大会で、標記の報告をしました(ポスターセッション)。

「グローバル化するバイオマス燃料市場に応じた、環境基準のグローバル化」という問題意識です。

概要を紹介します。

((はじめに))

2012年に開始された再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)などの政策的誘導を背景に、わが国の木質バイオマスエネルギーの導入は拡大の見通し(長期エネルギー需給見通し(2015年7月)、森林・林業基本計画(2016年5月) など)です。

しかし、これに応じた燃料としての木質バイオマスの供給見通しは不確定な部分があり、わが国の木質バイオマスエネルギー市場は輸入木質バイオマスに依存する可能性が大きくなっています。

他方、国際的な木質バイオマス市場では欧州を中心とした環境基準の導入が始まっており、市場がグローバル化する中で環境基準のグローバル化が課題です。

そこで本報告では、わが国の木質バイオマスエネルギーの需要動向を念頭に環境基準の展開可能性を明らかにすることを目的とします。

((木質バイオマスエネルギーの需給計画))

(長期エネルギー需給見通し)

政府が2015年7月に決定した長期エネルギー需給見通しでは、再生可能エネルギーは「自然条件によらず安定的な運用が可能な地熱、水力、バイオマスを積極的に拡大」するとし、輸入木質バイオマスの大幅拡大を前提とした需給見通しとしています。

表2 長期エネルギー需給見通しの中の木質バイオマスの動向

注1 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 長期エネルギー需給見通し小委員会第4回 平成27年3月10日(火))「再生可能エネルギー各電源の導入の動向について

注2 資源エネルギー庁:長期エネルギー需給見通し関連資料

(森林・林業基本計画)

政府が本年5月に作成した森林・林業基本計画では、用途別の木材利用の中に、燃料材の区分を新たに設け図1のように、利用量(国産材)、需要量(輸入材の含めた総量)が拡大する見通しをしめしていますが、認定発電所の申請書による需給量との間にはギャップがあります。

図1 森林林業基本計画による燃料材の利用量とFIT認定発電所の需要量

注 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「持続可能なバイオマス発電のあり方にかかる
調査報告書
」(2016/2)より作成

  固定価格買取制度による前述の木質バイオマスエネルギーの需要は急激に拡大する見通しである一方、供給見通しは制約されており、輸入木質バイオマスに依存する見通しが高いと見込まれます。

((発電用バイオマス供給の環境的管理の現状))

(日本の発電用バイオマス供給ガイドラインを通じた環境的管理の運用

FITによるバイオマス発電の買い取り価格は燃料の由来により想定される環境性能により以下の分類されて発電電力の購入価格に差がつけられ、これらの森林由来の環境情報は、業界団体によって認定された事業者のサプライチェーンを通じた証明書の連鎖で需要者に伝達されます。

図2 日本の発電用バイオマス供給ガイドラインを通じた環境的管理の運用
林野庁:「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」より作成

 ((欧州の固体バイオマスの環境基準と日本の基準))

欧州では英国・オランダを中心にバイオマスエネルギーの環境基準の構築が進んでおり、原料となるバイオマスが生育した土地の基準、製造輸送過程を中心としたライフサイクル分析によるGHG排出量による基準が導入されいます。 

図3 欧州の固体バイオマス環境基準

Department of Energy & climate change,UK (2014), “Woodfuel Advice Note”(2014)

Netherlands Enterprise Agency  ”SDE+ sustainability requirements for co-firing and large scale heat production

 欧州のバイオマス環境基準の体系の中に、日本の発電用バイオマスのガイドラインに基づく環境管理の運用を説明したのが、以下の図です

図4 日本の固体バイオマス環境基準

林野庁(2012)「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン

 これと比べてみると、日本のガイドラインに基づく取組は、土地基準についての議論は進んでいますが、SGS排出基準がありません。

((日本のGHG基準の検討))

日本に対する輸入木質バイオマスエネルギー供給源を、北米産の木質ペレット、東南アジア産の木質ペレットを例にとって評価し、日本の間伐材由来の木質バイオマスペレットと比較しました(図5)。

国産の製品は欧州の現在の基準の枠内にはいっていますが、輸入される製品の輸送過程の環境負荷が大きく、さらなる評価が必要でです。 

g/mj


図5 発電用木質バイオマスの製造輸送過程のGHG発生量

森林総合研究所「木質ペレット成型機構の解明」(2010)
環境省「温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」2015)
環境省「電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)-平成26年度実績-}(2015)
ウッドマイルズフォーラム「ウッドマイルズ関連指標算出マニュアル」(2008)

 ((結論))

木質バイオマスエネルギー原料の流通の拡大、市場のグローバル化が進む中、環境基準のグローバル化が課題となっています。

カーボンニュートラルで地球にやさしい木質バイオマスのエネルギー利用という評価に加え、木質バイオマスエネルギー原料採取過程、製造過程、輸送過程の環境負荷を体系的に明らかし、情報提供をしていく必要がです。

また、ガイドラインに基づく生産地点の環境情報を消費者につたえるサプライチェーンの管理の意義は大きいことが考えられ、有効に機能するためも、実態の把握と詳細な分析がさらに必要といえいえます。

(以上です)

少し詳細な報告書をこちらに置きます
同じ職場の落合麻里、前川洋平のお二人と共同作業でした

enaergy1-20(seeps2016present)

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 G20金融世界経済に関する首脳会合ー再生可能エネルギーの取組 (2016/9/22)

9月4日5日中国で初めて開催された杭州G20サミット金融世界経済に関する首脳会合は、世界経済の回復がキーワードとなりましたが、環境問題との関係で、持続可能な開発のための2030アジェンダに関するG20行動計画英文 (PDF) /  和文骨子(PDF)とともに、再生可能エネルギーに関するG20自主的行動計画が公表されました。

G20 Voluntary Action Plan on Renewable Energy
再生可能エネルギーに関するG20自主的行動計画(要旨

要旨には反映されていないのですが、アクションプラン3.2.5近代的なバイオマスエネルギーの開発という項目の中に 「Global Bioenergy Partnership (GBEP) sustainability indicators国際バイオエネルギー・パートナーシップ持続可能性指標」への取組の支持」が記載されています。

関連事項を整理しておきます

Global Bioenergy Partnership (GBEP) ウェブページ
GBEP Report to the G20 Summit 2016

国際バイオエネルギー・パートナーシップ(GBEP)の持続可能性指標の背景と内容(農林水産政策研究所林岳)、バイオマス産業社会ネットワーク 第112回研究会

energy121(2016G20)

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 「貿易と環境」の問題をめぐるルールの変化ーTPPとWTOの比較(2016/7/26)

9月10-11日開催された環境経済・政策学会2016年大会で、拓殖大学原嶋洋平氏により、標記の報告され、藤原が討論者となりました。

1994年に設立された世界貿易機構WTO、2015年に締結された環太平洋経済連携協定TPPなど貿易協定での、環境に関する議論が活発になったのは、「経済のグローバル化が及ぼす環境への負の影響を排除する」という、環境サイドからの議論がきっかけでした。

 貿易と環境の問題が一躍注目を浴びることとなったきっかけとして、1991 年のキハダマグロ事件があげられる。この事件は、イルカの混獲率が高い漁法で漁獲したメキシコ産マグロに対して米国が輸入禁止措置を発動したものであるが、メキシコの提訴を受けて下された、米国の主張を退けるGATT パネルの判断に対して環境保護団体が強く反発し、貿易と環境の問題が政治問題にまで発展した。
環境省(2002)貿易自由化の環境影響評価に関する調査報告書第一章貿易と環境問題とは

勉強部屋としては、NGOからの批判にWTOが反論する形で公開した、WTO貿易環境に関する特別報告 — October 1999の以下の言説に大変影響され、勉強部屋でも環境と貿易のセッションを設けて追いかけてきました。

InIn short, trade is really not the issue, nor is economic growth. The issue is how to reinvent environmental polices in an ever more integrated world economy so as to ensure that we live within ecological limits. The way forward, it would seem to us, is to strengthen the mechanisms and institutions for multilateral environmental cooperation, just like countries 50 years ago decided that it was to their benefit to cooperate on trade matters.

Page7, WTO “TRADE AND ENVIRONMENT” Special Studies 4  (in 1999)
 
 一言でいうと、貿易や経済成長が問題なのではない。真の問題は、かつてなく拡大統合化する経済の中で、地球環境の制約をう生きていくため、どのような環境政策(持続可能な森林政策)を構築するか、である。次の一歩は、多角的な環境協力の枠組み(国際森林条約)をいかに構築するかにかかっていると、我々は考える。50年前に貿易問題で協力することが我々の利益になると決断したように。

WTO貿易と環境に関する報告章7ページ

原嶋氏の報告中から、最近のTPPの動向をみると、この対立状況は「環境ガバナンスのグローバル化のツールとして貿易措置が便利」というwin-winの認識となってきているようです。

違法伐採問題でも国境でのDDS(輸入者に対して注意義務強く要求)というのもるその一環でしょうか?

大会で報告された原嶋氏のプレゼンテーションをご本人の了解を得てこちらに置きます

trade1-11(tppwto)

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リオ五輪ー『林業経済』誌編集後記(2016年8月号)(2016/9/22)
1948年以来、林業経済分野の専門誌として毎月発刊をつづけている 『林業経済』誌)の編集後記を執筆しています。

編集委員会の了解を得て、このページに転載することとします。

学会と業界、官界、市民との間と架け橋になれるかどうか、大切な役割です。

少しでも、『林業経済』誌の認知度が広がる(なかで、購読者が増える)ことを願っています。(ご購入はこちらから

 目次 編集後記 
2016年8月号
<やまがら>ランキング.森の奏 i
 
論説
 古代人の森林資源利用
  ─滋賀県内の「遺跡発掘調査報告書」から─...村嶌 由直 
書評
 ヨアヒム・ラートカウ、ロータル・ハーン著(山縣光晶、  長谷川純、小澤彩羽訳)『原子力と人間の歴史  ─ドイツ原子力産業の興亡と自然エネルギー─』...神沼公三郎
 山口明日香著『森林資源の環境経済史  ─近代日本の産業化と木材─』.....嶋瀬 拓也 
フィールドより
 棚田のある風景を守る─笠原棚田米プロジェクト─...川﨑 章惠
リオ五輪が始まった。体操競技で金メダルをとった瞬間には皆で拍手をする。市民が属している多様で重層的な所属団体のなかで国家というレベルの団体の重みを感じるイベントである。森林の減少が続く熱帯地域で初のオリンピックの開会式では、出場選手全員が渡された樹木の種をポットに植え記念植樹につなげるといった演出で森林の再生への取り組みがアピールされた。視聴者が十数億人といわれる巨大イベントで地球環境問題や森林の再生の大切さが訴求されるのは重要なことだ。東京オリンピックでは国産材をつかった新国立競技場の舞台にどんなメッセージが届けられるのか楽しみである。
本号の内容は論説と二つの書評とフィールドよりの報告
論説「古代人の森林資源利用―滋賀県内の「遺跡発掘調査報告書」から」滋賀県の行った遺跡調査から縄文時代から古墳時代までの木材の利用の推移を跡付けたもの。琵琶湖周辺の水没木材遺跡といった特殊な条件にめぐまれたからなのかは不明だが、各地で同じような作業を行われると、「人類史が木材利用を過小評価」されているといわれることはなくなるのだろうか。
書評はヨアヒム・カートラウ、ロータル・ハーン著「原子力と人間の歴史―ドイツ原子力産業の興亡と自然エネルギー」。前任の当研究所所長による大部の訳業。福島電発事故の4か月後に脱原発化を明確にしたドイツと政策変更が難しい日本の差。
絶妙のタイミングである。もう一つの書評は山口明日香著「森林資源の環境経済史―近代日本の産業化と木材―」近代社会の産業化の基盤となった産業群で共通に大きな役割を果たした木材が紹介されている。
「棚田のある風景を守る」市場と生産現場を結ぶNGOの取り組みフィールドからの報告
今月号も夏休みにじっくり読んでいただきたい論考が並んでいる。

roomfj <ringyoukeizaishi/hensyukoukin>

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 学会でのポスター発表ー勉強部屋ニュース205号編集ばなし(2016/9/22)

長期エネルギー需給見通し・森林林業基本計画といった政府の関連する計画が「自給率の向上」を掲げている中で、その一部の木質バイオマスの市場が輸入材の急速な依存を深めている、という状況の中で、商品のグローバル化に応じた環境基準のグローバル化という課題が行政の視野に入りにくいのでないか、というのが比較的自由に議論ができる、学会という場で固体木質バイオマスエネルギーの 需給動向と 環境基準の展開の可能性」という課題で報告しようと、思い立った理由の一つでした。

土地基準と温室効果ガス基準の二つを掲げる英国に対して、日本がガイドラインは、土地基準だけ。温室効果ガス基準を導入したらどうなるか?二つの土地基準の関係は?という二つのトピックスを含んだものです。

読みにくい英文の基準の和訳や、生まれて初めてのポスター展示のスタイルなど、共同発表のお二人にお世話になりました。

会場での発表の反応は、木質エネルギーの地産地消を掲げる地方のプロジェクトの責任者の方々が、輸入ペレットの輸送過程の環境負荷の数字に関心を持っていただきました。欧州の計算式の原単位と今回の使った原単位の比較などまだまだ課題がたくさんあります。

もう一つの土地基準の欧州の土地基準と、日本の土地基準の関係に関するトピックスは、来月号に回します。お楽しみに。

konosaito<hensyukouki>

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最後までお読みいただきありがとうございました。

持続可能な森林フォーラム 藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

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