ニュースレター No.189 2015年5月30日発行 (発行部数:1304部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                         一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原

目次
1 フロントページ:世界銀行低炭素型開発提案と森林政策(2015/5/25)
2. 日本森林学会2015年大会から(2015/5/25)
3. 包括的冨報告書2014年版の中の森林問題(2015/5/25)
4. ウッドマスター基礎講座講習会(2015/5/25)
 

フロントページ:世界銀行低炭素型開発提案と森林政策(2015/5/25)

世界銀行は5月11日、低炭素開発ーゼロカーボンの未来に向けた三つの段階、と題する報告書を発表しました。

3 Steps to Decarbonizing Development for a Zero-Carbon Future(報告書全文pdf
ゼロ・カーボンの未来を築くために 低炭素型開発の3つの方策を新報告書が解説(日本語ページ)

①未来を築くための計画②幅広い政策パッケージの一環としての適正な炭素価格制度の設定③円滑な移行、が三つ段階

これにそって、2100年までにゼロエミッション社会をつくるためには、出発が遅れれば遅れるほどコストがかかる、当面の計画を立てる過程でも長期展望を視野に入れる必要がある、目標達成に効率的、徴税過程が透明な炭素税重要との主張が展開されています。

そのストーリの中で、森林政策は議論の中心にはなっていませんが、とりあえず取り組みやすい対策に集中するのでなく、幅広い4つ分野の取組みをバランスよくという主張となっており、①生産と電力における非炭素化、②クリーン電力への移行、できない場合はよりクリーンな燃料への移行、③あらゆるセクターでの効率性の改善と廃棄物の削減、にあわせて、④森林のより良い管理などを通じた自然の炭素貯蔵庫の保全と改良が、必ず指摘されています(4ページ)。

また、これらの4つの柱にそって、セクターにまたがる目標を相互に検討する必要があるとして、様々な各国が検討すべき例示が示されていますが、その中に2035年(2025年)までに、鉄やコンクリートに代わって半分(20%)の建築物を、持続可能な森林に由来する木材の利用とする(8ページ)、(68ページ)、森林の減少を2017年までとめる(68ページ)など、森林関係の目標に言及されています。

今後の温暖化対策の幅広い議論の中で、森林や持続可能な木材に関する政策をわかりやすく提示して行くことの大切さがわかります。

kokusai2-53<seginzeroemi>


日本森林学会2015年大会から(2015/5/25)

日本森林学会126回大会が北海道大学でで3月26-30日に開催されましたので久しぶりに出席しました。

森林分野の横断的な学術的報告が行われる森林学会大会は、持続可能な森林経営の枠組みについての研究動向を知る上で重要なのですが、毎年度末に開催される大会に出席すのが難しく、しばらくご無沙汰していました。(こういう社会人が多いのではないか?少ないとしたら学会として問題ではないか?などなど、このテーマはいずれ別の場所で)

今年は私の身の回りの状況が替わり、出席して気になった報告をつまみ食いすることもでき、自分でも報告をすることができました。

気になった報告をすべて聞くことはできませんが、本人のご厚意によりいただいた発表資料データ、大会誌に掲載された概要をもとにを紹介します。

森林学会の報告全体はこちらから

公開シンポジウム「森林づくりと生物多様性保全(講演要旨集
森林の管理と生物多様性の保全 ―課題と提案― 山浦 悠一 (森林総合研究所森林植生研究領域)
中村 太士 (北海道大学大学院農学研究院)
報告要旨 生物多様性の計測は難しく、閾値の設定など管理の指針を提示することはハードルがあるが、現時点での研究成果をもとに、―環境保全型林業のガイドライン―を作成する必要がある。
北海道有林における生物多様性を考慮した森林施業 本阿彌 俊治 (北海道水産林務部森林環境局道有林課 報告要旨 1割を生物多様性保全ゾーンに設定、全ての森林で複層林施業を基本として単層林施業の場合も5ha未満。35か所を多様性保全の森に認定
市町村における森林政策と生物多様性保全 鈴木 春彦(豊田市産業部森林課) 発表資料
報告要旨
各市町村で画一的な取り組みが出来ない課題。市町村フォレスターの質の向上が課題。既存の仕組みをうまく使う方策(間伐推進会議、河畔林ゾーン保護)を題材として検討
やればできる!コモンズ林業とその可能性 草苅 健 (NPO 法人苫東環境コモンズ 事務局長) 報告要旨 市民の団体が所有者と契約し、雑木林をツルなどの除去、間伐を通じて薪の生産、フットパスをつくる、「コモンズ林業」の展開を紹介
林業経済学会シンポジウム(林業経済学会春季大会)
一般会計化のもとでの国有林の公共性(林業経済研究誌Vol.61 No.1に論文掲載)
我が国における国有林の存在意義に関する一考察 大田伊久雄(愛媛大学農学部) 発表資料
論文こちらに
我が国の国有林の歴史的展開過程を振り返り、国有林研究史を概観し、海外の管理状況と比較検討。国有林の存在意義と将来展望を探る
木材供給における国有林の課題 久保山裕史(森林総合研究所林業経営・政策研究領域) 論文こちらに これまでの国有林が木材供給に果たしてきた役割と、財政収支から国有林に振り向けられる財源を想定し、課題を摘出
国有林の公益的機能と公共性の現代的意味 八巻一成(森林総研北海道支所) 発表資料
論文こちらに
国有林に期待される「市民的」公共性の発揮にみあた、ガバナンス管理の方策が必要
我が国育林経営のビジネス化の可能性
世界の育林経営の動向と我が国のビジネス化の展望(課題提示)
餅田治之(林業経済研究所) 報告要旨
発表資料
世界全体が天然林伐採だった当時、日本は人工林への移行が進められてきた。世界が急速に育成林中心にシフトしてビジネス展開を図る中で、日本の育成林のビジネス展開の基礎を考え直す機会である。
ハンガリーの農廃地造林 堀靖人(林野庁森林整備部研究指導課) 報告要旨 短伐期早生樹種による燃材利用の比率が高いハンガリー林業。限界農地へのポプラ造林の現状と課題
ニュージーランドにおける中小規模所有者による森林管理の現状と課題 安村直樹(東京大学大学院農学生命科学研究科附属田無演習林) 報告要旨 NZ中小規模林業者への聞き取り調査の結果。資産形成を目的とする対象者の将来展望など。
アメリカにおける所有形態別林業経営動向 大塚生美(森林総合研究所東北支所) 報告要旨 世界市場に大きな影響力のあるアメリカの私有林。注目される機関投資家をバックにする法人進出と多様な所有者群の林業動向
 企業の育林経営ビジネス参入に関する研究:社有林を基軸とした新展開  奥山洋一郎(愛媛大学農学部) 報告要旨  S産業の社有林を基礎とした木材生産、コンサルタントサービスなどに業務展開が地域林業に与える可能性
 北海道十勝地方における主伐と再造林との関係に関する一考察  立花敏(筑波大学生命環境学群) 報告要旨  北海道の代表的林業地におてい、皆伐造林のあらたな展開時期の課題を、森林所有者や育苗業者への聞き取り調査をもとに提示
 林産業者による林地取得の実態  幡建樹(有限会社ラックコンサルティング事業部)  報告要旨  素材生産業者へのアンケート調査による、林地購入の実態。対象の半数が近年林地購入。事業安定化等のために積極的な見方
 協同組合と市場:フィンランドの経験からの洞察  山本伸幸(森林総合研究所林業経営・政策研究領域)  報告要旨  海外生産拠点の拡大するメッツアグループの、拡大戦略の新知見をもとにした、考察
 宮崎県諸塚村における超長期施業受委託契約の動向  大地俊介(宮崎大学農学部)  報告要旨  耳川広域森林組合が実施する地拵えから保育間伐までの一括受託契約展開の背景
 森林組合への長期施業委託の意義と課題  藤掛一郎(宮崎大学農学部) 報告要旨  育林経営ビジネス化の方策として、森林組合による長期施業委託事業を分析
バイオマス熱利用の課題
木質バイオマスエネルギーの熱利用に関する諸論点 伊藤幸男(岩手大学農学部) 報告要旨 地域の熱利用の態様、燃焼機器の開発、燃料供給の効率性、推進組織とファイナンス、地域社会ビジョンの5点が論点
バイオマスの熱利用は何故これほど進まないか 小池浩一郎(島根大学生物資源科学部) 報告要旨 熱利用が進まない理由は、熱利用システムの不備と、燃料の質への無関心の二点
オーストリアにおける木質バイオマスの熱利用の拡大実態 久保山裕史(森林総合研究所林業経営・政策研究領域) 報告要旨 熱供給事業者を対象とした調査。事業規模(ボイラーの規模)により、燃料の質についての要求水準が相違。
地方創生と林業の課題
A04 「自伐」的森林管理による地域活性化─鳥取県智頭
町葦津財産区を事例に─
 興梠克久(筑波大学生命環境系)  報告要旨  財産区の聞き取り調査による、定年退職者を中心とした自伐的共同管理の地域活性化へ果たす役割を提示
A05 後発林業地における森林所有者の経営行動  伊藤勝久(島根大学生物資源科学部)  報告要旨
発表資料
 森林所有者へのアンケート調査をもとに、林業地における伐採育林のシステム化のための条件を検討
A06 森林・山村多面的機能発揮対策交付金による小規模な私有林管理への影響と課題:高知県を事例に 松本美香1(高知大学自然科学系農学部門) 報告要旨 交付金事業実施対象地の聞き取り調査。地域資源の活用意識の醸成など多面的効果を確認。事業の継続性に関する課題提示
A17 農山村研究の視座と地域通貨 高野涼(岩手大学大学院農学報告要旨研究科) 報告要旨
発表資料
持続可能で安定した農山村経済構築の上で、地域貨幣の検討の意義は大きい
森林の環境マネジメントの課題
地域共同組織による森林の管理・経営展開の実情と今後 久本真大(岩手大学大学院農学研究科) 報告要旨 生産森林組合の多角的調査をもとに、生産森林組合の資源管理、地域活性化への意義を検討
A19 森林経営計画策定の実態と課題─岩手県を事例として─ 小渡太(手大学大学院農学研究科) 報告要旨 森林経営計画の運用状況を県内の5地域で調査分析。積極的な事例を多数提示
A20 都道府県林業政策と日本型フォレスターの活動─鹿児島県を事例に─ 枚田邦宏(鹿児島大学農学部) 報告要旨
発表資料
フォレスター認定制度の長期的な森林管理における行政との連携という視点で適切に機能しているか?鹿児島県の事例で検討
山元立木価格による林木・森林評価と森林計画 岡裕泰(森林総合研究所) 報告要旨 フォレスター認定制度の長期的な森林管理における行政との連携という視点で適切に機能しているか?鹿児島県の事例で検討
京都モデルフォレストの取り組みについて─CSR と地域協議会などを軸に拡がるパートナーシップ  柴田晋吾(上智大学大学院地球環境学研究科) 報告要旨  関係者の協働による広域の流域管理の先駆けとなったカナダ発のモデルフォレスト運動に取り組む、京都の事例を紹介。
 木材の環境情報の伝達と木材輸送距離  藤原敬(一般社団法人ウッドマイルズフォーラム)  報告要旨
発表資料
 消費される木材の輸送距離を環境負荷の観点から取り上げるウッドマイルズフォーラム運動を、自給率向上、地位材住宅ブランド化などの政策動向の中で評価
 木材利用拡大の諸課題
 発電向け木質バイオマスの流通:宮崎県における林地残材の事例  横田康裕(森林総合研究所九州支所)  報告要旨
関連資料
 
発電用木質バイオマスの物流商流を宮崎県内の「林地残材」を対象に、調査・分析
 沖縄県における住宅構造材の歴史的変遷に関する一考察  知念良之(琉球大学大学院農学研究科)  報告要旨  琉球王朝時代から戦中戦後にいたる、森林の管理と住宅需要構造の歴史的変化を分析。近年プレカットを中心に木造住宅増加の傾向
  木材利用の勘定について  大津裕貴(鳥取大学大学院連合農学研究科) 報告要旨  エネルギー利用の重要性を踏まえ、森林資源の現況をマテリアルとエネルギーの量側面から表現できる方法を検討
 ドイツ、バーデン・ヴュルテンベルク州の森林行政とカルテル問題  石崎涼子(森林総合研究所林業経営・政策研究領域) 報告要旨  ドイツにおいて一部で実施されている、州有林材と民有林材を一括管理する方式が、カルテル法違反とされた事案を分析

発表資料をいただける方は、ご連絡いただけるとありがたいです。

gakkai<sinrin2015>


包括的「冨」報告書2014年版の中の森林問題(2015/5/25)

森林などの自然資本の評価をGDPなど国民経済計算に取り込む方法が開発されつつあるという話は、自然資本の持続可能な管理に向けて国民経済計算のあたらな手法(2015/3/22)として、報告していますが、国連大学の一連の報告書の最新版が、ネット上に掲載されています。

Inclusibe Wealth Report 2014 Measuriring progress toward Sutainably

第6章が森林についての国の冨Forest Wealth of Nationにわりあてられています。

 キーメッセージ

森林生態系は有形・無形の様々な国民の冨を提供している。これらは、巨大なものであり、国別ないし地球規模での重要な冨の構成要素となっている。

人口の増加傾向、経済成長は森林の冨に負担をかけている。これらの冨のより包括的な評価と、経済社会活動による変化の実態に関する研究が緊急に求められている。この章で提示された結果は初歩的なものである。

地球規模で見ると、対象とされた国の2010年時点での森林の冨の合計は2730億ドル(約3百兆円)となっている。これらの冨は、一見したところ、一部の国に偏在していると見られる。しかし、多くに国において、森林の冨は国の財産の重要な要素を占めている。(全てではないが)多くのこれらの国では20年間で森林の冨が急速に減少している。

国民会計の視点で、これらの損失は多くの場合視野からのぞかれている。このことから、各国が、森林の冨の量と質、分布を明らかにするためのよりよい計測方法を追求することが重要であることを示している。実際、森林の保全、さらに過去の減少から増加に転じる投資は、持続可能な開発の重要な前提条件である

報告の一部を紹介します。

   

図は各国の森林の面積の変化と、GDP変化との関係。

左の図は低所得国、右の図は高所得国です。

森林の冨が計測されるに従って、GDPだけでは見ることのできない、各国の社会の動きが明らかになってくる可能性を示しています。

junkan6-2<IWP2014>


ウッドマスター基礎講座講習会(2015/5/25)

新木場の木材合板博物館が人材育成プログラムとして実施しているウッドマスター講習会の中の、今年度の新入社員教育をむけの基礎コースで4月14日講師を務めました。

演題は「木材の利用推進施策と 木材の認証・合法性証明について」

木材業界に新しく勤務する方々に、木材の環境面での優位性を説明する際の注意点を中心に、以下の点について、話をしました

 
・木材利用を促進する施策とその背景
    「環境に優しい木材」の注意点

・地球サミットと森林認証制度とラベリング(木材認証)の動向
    サプライチェーンの協力で森林管理の情報を消費者へ

・違法伐採問題と日本と世界の対応策
    日本の合法性証明制度Gohowoodの意義と可能性

講義につかった資料をこちらに置きます

junkan4-3<woodmaster2015>]


最後までお読みいただきありがとうございました。

持続可能な森林フォーラム 藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

■いいねボタン