ニュースレター No.158 2012年10月29日発行 (発行部数:1350部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1 フロントページ:生物多様性条約COP11と森林(2012/10/29)
2. FAO林業委員会2012(2012/10/29)
3 環境経済・政策学会2012年大会コレクション(2012/10/29)

フロントページ:生物多様性条約COP11と森林(2012/10/29)

10月8日(月曜日)から同月19日(金曜日)にかけて、インド(ハイデラバード)において、一昨年名古屋で開催されたCOP10に続き、「生物多様性条約第11回締約国会議(COP11)」が開催されました。

主たる議論は、生物多様性保全に関する途上国支援の資金を増額することで、2015年までに途上国への資金援助(途上国同士の協力も含む)を倍増すること(2006-2010の平均を基金値)がきまったことなどが話題となっています。

日本政府代表団の結果概要

生態系保全資金、15年までに倍増目標 COP11閉幕(朝日デジタル)
生態系保全、資金援助15年までに2倍に COP11 (共同、日経)

生物多様性条約事務局の公式ページのCOP11に関するページ

(生物多様性条約COP10の中での森林の取扱)

COP11の議題を見ると、分野別議題の中に海洋(議題10)はあっても森林のタイトルの議題はありません。

森林に関するテーマが話されたのは「議題11生物多様と気候変動及び関連する事項」です。

@森林分野における気候変動の緩和に関する活動のリスクを減少させ、多様な便益を増加させることを意図した「生物多様性関連セーフガード」の適用における配慮事項に留意すること、AREDD+(途上国における森林減少・劣化による温室効果ガス排出を削減する取組)による生物多様性への影響を評価するための指標の作成に向けて今後も作業を継続することが決定されました。

これらの事項は、気候変動への対策(温暖化対策)である吸収源としての森林資源の管理が炭素の蓄積を増やす効率を優先し、生物多様性の保全とトレードオフの関係になる可能性が大きいことを念頭に置いたものです。

上記の中の「生物多様性関連セイフガード」は一昨年の気候変動枠組み条約COP16カンクン会合で決議されたもの(Decision -/CP.16のApp.1パラ2)で、途上国で森林森林吸収源対策の対策を実施するに当たって、a国の森林計画と関連する条約との整合性、b透明で効率的な森林管理の確保、c原住民の見地と知識の村長、d現地の関係者の完全な参画、e吸収源対策が自然林の転換に利用されないように、また、自然林の保全に資する、などが記されています。

このセーフガードを実施する過程での四ページにわたる提言が可決されました。
DRAFT DECISIONS FOR THE ELEVENTH MEETING OF THE CONFERENCE OF THE PARTIES TO THE CONVENTION ON BIOLOGICAL DIVERSITY 101-104ページ

kokusai3-8<Cdbcop11>


FAO林業委員会2012(2012/10/29)

国際食糧農業機関FAOで森林林業分野の活動の意志決定のため2年に一回開催されている林業委員会(Committee on Forestry 2012)が9月21日から24日にかけて、開催されました。
FAOCommittee on Forestry 2012のページ

リオ+20の直後に開催された今回の会合で、森林や林業の立場からリオ+20の結果にも基づいてどんな展開になるかが、議論の中心になりました。
TRANSLATING THE OUTCOME OF RIO+20 INTO ACTION

そのなかで、強調されているのは、@持続可能な森林管理のガイドラインがが熱帯林や個別の説明資料にはなっているが、、包括的なものがないので、FAOが全ての森林の持続可能な森林についての技術的サポートをする必要(Uパラ6)、A木材に利用拡大が持続可能な社会にとって重要であり各国の努力が必要(Uパラ9)、Bその上で、製品の合法性と持続可能性が重要である(Uパラ12)などの点であり、今後の活動の柱として提言されています。
Forests and Rio+20 のプレゼン資料英文

その他に、この会議では、FAO林業局の幅広い国際的なネットワークの情報収集の結果としてのState of the World Forests  2012が公表されました。このシリーズが1995年に公表されてから、10冊目の区切りの公表となるので、今までのバックナンバーの解説もふくまれています。
State of the World's Forests 2012(英文)(日本語の抄訳をおって掲載予定)
COFO 2012/4 State of the World's Forestsプレゼン資料英文

chikyu4-15<cofp2012>

環境経済・政策学会2012年大会コレクション(2012/10/29)

9月15-16日標記大会が東北大学で開催されました。この学会もふくめて、学会には足が遠のいていて、体制の立て直しをしなければならないと考えています。この大会は小サイトの立ち上げの動機に係る重要な大会であり極力出席の方針でいますが、諸事との調整が付かず残念ながら出席することができませんでした。

プログラムとすべての報告要旨がこちらのサイトからダウンロードできます

温暖化対策のための排出量取引・炭素税など重要な政策手段の発展のために、この問題の経済的評価についての学際的な研究活動が重要な役割を果たしてきてきました。当該分野はこの学会でも多数の報告がされてきました。(小サイト過去の大会の情報

今回の報告のタイトルをみると、環境政策分野の研究が生物多様性の経済評価という分野にシフトしてきていることがわかります。

もちろんそのフィールドは海洋など幅広い分野にわたりますが、森林を対象とした研究が多く、持続可能な森林についての政策の指標を見える化するためにも、重要な進展があるものと期待を抱かせます。

また、生物多様性以外の森林が担っている環境サービスの評価もバランスよく進むことが期待されます。

森林の環境サービスの支払いや経済評価に関する報告を中心に、持続可能な開発の評価などに関連する報告を集めました。

論題 発表者 要旨リンク 内容
生物多様性の価格評価(保全政策への反映へ)企画セッション
企画の趣旨 栗山浩一 プレゼン資料
沖縄県やんばる地域における絶滅危惧種保護と外来種対策 吉田謙太郎(長崎大学) 要旨
プレゼン資料
ヤンバルクイナなどの固有種保護のための外来種マングース駆除とその経済価値の評価
国立公園のレクリエーション需要:空間的多様性を考慮した端点解モデルによる分析 庄子康 要旨 国立公園の大きさや車両乗り入れ規制などの管理方針が生物多様性の利用価値に与える影響の分析
国立公園の環境変化が観光利用に及ぼす影響:利用者の時間配分に基づく分析 柘植隆宏(甲南大学) 要旨 生物多様性の保全と利用の関係を北海道ツアーの時間配分をもとに分析
知床半島のヒグマ生息地に対する評価:選択型実験を用いて 久保雄広(京都大学) 要旨
森林の生態系サービスへの支払い・経済評価
JVER制度における関係アクターの動向 福嶋崇他 要旨 森林管理を排出権取引の道具とするJVER制度を、吸収源CDMとの制度比較、アンケートなどから積極的評価
生物多様性保全・気候変動緩和策に対する選好評価:選択型実験における生態系サービス指標の導入 庄山紀久子(国立環境研究所) 要旨 気候変動対策と生物多様性保全の対立関係(トレードオフ)の中で「生産林」がネガティブな評価を受ける可能性
山間地域の森林の生態系サービスの経済評価の事例研究−地方自治体との協働プロジェクトの事例から− 永野友子(株式会社富士通研究所) 要旨 生態系サービスの経済評価のサンプルとしてTEEBの方法論に従った事例研究。
水源環境保全における税財政システムの構造とその変化-神奈川県水源の森林づくり事業を事例として- 石倉研(一橋大学) 要旨 神奈川県の水源林管理財源の水道負担金から水源環境保全税への変更にともなう制度比較。
環境サービスへの支払(PES)の評価方法 稲田恭輔(早稲田大学) 要旨 PESの先行研究が行われているコスタリカの事例を比較研究
ナラ枯れで消失が懸念される里山心胆林の経済評価 今村航平(東北大学) 要旨 ナラがれ対策の経済評価。生物多様性保全、水土保全、木材利用は+の評価
地域における環境ガバナンス
コミュニティ・ガバナンスによる自然再生を支える内湖社会圏の住民意識の多様性に関する研究 高橋卓也(滋賀県立大学) 要旨
プレゼン資料
地域環境資源の管理主体としての地域コミュニティの可能性。高齢化農業離れで難しい面も
地域における生物多様性問題と環境ガバナンス:生物多様性地域戦略の課題と展望 宮永健太郎(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター) 要旨 都道府県レベルの生物多様性地域戦略のケーススタディ。辛口の評価結果が並んでいる
「公」・「共」・「私」相互補完型環境資源政策の試論:コモンズに及ぼす外部インパクトの分析を通じて 三俣学(兵庫県立大学) 要旨 コモンズ(資源利用者集団)がグローバルな市場経済の中で森林管理の主体となる条件の分析
持続可能な開発の総合指標
持続可能性指標及び幸福度関連指標の国際動向と日本への展望 佐藤正弘 要旨
プレゼン資料
GDPに変わる社会発展の新しい指標作成の全体像がよくわかる。関係者必見のプレゼン資料
自然資本の金銭価値評価―世代内公正および世代間公正に関する実証分析を踏まえて― 鶴見哲也 資料 上記の各論、自然資本の経済評価。森林資源編が今後期待される
国際レジームと政策評価
環境税の日独比較―地球温暖化対策のための税の比較制度分析― 佐藤一光(慶應義塾大学) 要旨 日本の環境税規模がドイツに比べて小さいのは、環境政策目的税として組み立てられたことが一因
生物多様性条約愛知ターゲット3 生物多様性に影響を及ぼす補助金の考察野生生物の利用に関する補助金を例に 鈴木希理恵(NPO法人 野生生物保全論研究会) 要旨
プレゼン資料
生物多様性保全にネガティブな影響を与える補助金の特定と分析。。とりあえずはベッコウ、象牙、鯨肉だが、森林関係は?

報告者にはいろいろご協力をいただきました。

今後とも追加情報を掲載します

gakkai<seeps2012>


gakkai<seeps2012>



最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

 

■いいねボタン