ニュースレター No.150 2012年2月19日発行 (発行部数:1224部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1 フロントページ:「里山バンキング」ワークショップinちば(2012/2/19)
2. 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉についての経緯・最近の動向(2012/2/19)
3. 気候変動枠組み条約COP17と熱帯林の課題(+REDD)(2012/2/19)

フロントページ:「里山バンキング」ワークショップinちば(2012/2/19)

日弁連公害対策・環境保全委員会自然保護部会が主催する標記イベントが2月4日に千葉市若葉区で開催されたので、参加してきました。

集合場所はわたしの田舎谷当工房。ここは、千葉県里山条例の活動や08年の生物多様性ちば県戦略を生み出す活動の中心となってきたNPOちば里山センターの金親理事長の活動拠点で、自家製そばをいただきながら、天気のよい谷津田再生計画のフィールドの見学など楽しませてもらいました。

メインテーマは「里山バンキング」聞き慣れない言葉です。イベントの説明に「日本型生物多様性保全を推進する経済的手法」とあり、興味を持って参加させてもらいました。何らかの生物多様性の保全に関する取引が行われ、そこには生物資源の経済的評価手法が絡まっているはず、というのが、こちらの関心事項でした。東京都市大学田中教授の主報告、日弁連自然保護部会の海外事情調査報告を会わせて、生物多様性保全を経済的手法として市場を参加させる手法の最近の動向を勉強させてもらいました。

小生の理解したエッセンスは以下の通りです。

開発に伴う生態系や生息地(ハビタット)の破壊がどうしても避けられない(その判断は回避、最小化の代替案を厳密に検討した上で行う)場合、事業者の責任で同等のものを近隣に復元、創造することで生態系の質・量維持(ノーネットロス目標)を実現するという方策が、「代償ミティゲーション」ないし「生物多様性オフセット」といわれて、世界各国で実施されている(2010年8月現在53カ国で導入)。
戦略的な緑地創成を可能とする生物多様性オフセット(田中章、太田黒伸介、都市計画)

さらに、個々の事業で代償対象地を探して対応していた上記の段階から一歩進め、第三者(バンカー)がまとめて、戦略的に重要な復元保全の対象地を設定事業化して代償ミティゲーションを義務づけられた開発事業者にその効果(クレジット)を販売して事業化するのが「生物多様性バンキング」ないし「ミティゲーションバンキング」と呼ばれている。「里山バンキング」は名古屋で開催された生物多様性条約COP10を機会に、日本が過剰使用と過小使用の両方の問題を抱える里山問題と生物多様性バンキングを結びつけて提案したもの。
里山のオーバーユースとアンダーユース問題を解決する“SATOYAMAバンキング”(田中章 環境自治体白書2010版)

バンキングという取引の前提となる、事業地、代替地の生物多様性の定量評価について、特に米国での取組の中で開発され田中教授によって紹介されている、「ハビタット評価手続きHEP」という手法が今回紹介されました。特定の生物種に着目し、森林面積などの環境指数が、生物の住みやすさを表す適性変数との関係がわかるいくつかの指数を用意し、総合的な指数を(HSI)計算し、これに面積を乗した指数がHEPと呼ばれるものです。
環境アセスメント学会生態系研究部会 HSIモデル公開用ホームページ
HEP入門 (新装版) ―〈ハビタット評価手続き〉マニュアル―(田中章著、朝倉書店出版)

この取引が行われるようになるためには、①温暖化条約の排出権取引が国際法で義務づけられた京都議定書の削減目標を背景に行われているように、開発にノーネットロスを義務づけるような制度が導入されること、②消失された生態系と、創成された生態系の価値が同等であることを説明する評価手法、の二つが必要です。

(生物多様性バンキングを義務づける制度)
前者については、オーストラリアビクトリア州の事例が参考になると日弁連の調査に参加された方から報告がありました。第三者のバンカーのことを、ブッシュブローカーというのだそうです。
The Bush Brokers Manual A guide to buying, selling and owning bush in Western Australia (2003 WWF Australia, the Real Estate Institute of Western Australia and the Soil and Land Conservation Council (WA)
また、日本では唯一行政で導入した事例は埼玉県志木市の志木市自然再生条例だそうです。
(自然の保全及び再生に資する措置)第10条 市は、公共事業の実施により自然に影響があると認められる場合には、影響緩和手法を用いて自然の保全及び再生の措置を講ずるものとする。

(生物多様性の定量的評価手法)
後者について、各国いろいろな取組がなされているようですが、特に米国での取組の中で開発され田中教授によって紹介されている、「ハビタット評価手続きHEP」という手法が今回紹介されました。特定の生物種に着目し、森林面積などの環境指数が、生物の住みやすさを表す適性変数との関係がわかるいくつかの指数を用意し、総合的な指数を(HSI)計算し、これに面積を乗した指数がHEPと呼ばれるものです。
環境アセスメント学会生態系研究部会 HSIモデル公開用ホームページ
HEP入門 (新装版) ―〈ハビタット評価手続き〉マニュアル―(田中章著、朝倉書店出版)

(今後の課題)
生物多様性の経済的評価のテーマが、今の林業政策とどう関わってくるか考えた場合、今検討されている評価方法が、既存の林業経営の対象となっている森林を評価する場合どんな問題点がでてくるのか、大きな課題が残されていると思います。それは評価方法のみならず、経営する側の計画や評価の課題にもつながってくるものでしょう。

kokusai3-7<satoyamabank>


環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉についての経緯・最近の動向(2012/2/19)

木材に関連するTPPの動きをフォローします

2010年11月 

政府が「包括的経済連携に関する基本方針」策定

「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、その情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する。」

2011年8月

政府「政策推進の全体像」を閣議決定

「環太平洋パートナーシップ(TPP)については、被災地の農業の復興にも関係しており、その点を踏まえ、更に国際交渉の進捗、産業空洞化の懸念等も踏まえ、しっかり議論し、協定交渉参加の判断時期については、総合的に検討し、できるだけ早期に判断する。」

2011年10月

木材業界要請(民主党など)

「(10年後の木材自給率50%を位置づけ森林林業の再生に向けて取り組んでいるところ)、関税撤廃を原則としているTPP協定への参加は、我が国農林水産業にきわめて深刻な打撃を与えるもの、・・容認できない。木材産業の関税撤廃は・・森林・林業の再生の取組に逆行するものであり、震災復興にも支障を来しかねない。」

2011年11月

野田総理記者会見発言

「(12日からの)ホノルルAPEC首脳会合において、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることといたしました。」

2011年12月

環境保全とTPPに関する米国通商代表部(USTR)提案(グリーンペーパー)公表(原文英語USTRページへ農林水産省仮訳、 勉強部屋

木材について「国内法に違反して伐採または輸出された産品について、TPP参加国間での貿易を禁止。政府間の情報交換を通じて、違法伐採取り締まりのための協調」などを提案

2011年1月

米国政府、TPP協定への日本の関心表明に関する意見募集結果公表(原文英語外務省訳

農業関係団体など117の意見。木材団体は提出していない。木材に関しては、WWFが「漁業資源の乱獲問題と併せて違法伐採問題に取り組むべき」との意見提出(併せて、カナダとメキシコのTPP協定への関心表明に関する意見募集も行っている)

2012年1月

ベトナム、ブルネイ、ペルー、チリとの交渉参加に向けた協議結果

交渉参加の条件など意見交換。関税撤廃はすべてを自由化交渉の対象として協議対象とする、など。

2012年2月

米国との交渉参加に向けた協議

農業、自動車保険、急送便、分野横断的事項の4分野の国内意見紹介。

boueki7-6<TPPdouko>


気候変動枠組み条約COP17と熱帯林の課題(+REDD)(2012/2/18)

COP17ダーバン会合の森林についての議論のポイントの一つは、条約が途上国の積極的な参画の契機として重要な熱帯林減少に歯止めをかける国際合意(REDD+)について、技術的な合意が前進したことなどです。

SBSTAでREDD+の技術指針について議論が行われ、生物多様性等のセーフガードに関する情報提供システム、削減約束の基準(ベンチマーク)となる森林からの排出の参照レベル(現在の状況ですいいした場合の数値)に係る技術指針が決定されました。

Guidance on systems for providing information on how safeguards are addressed and respected and modalities relating to forest reference emission levels and forest reference levels as referred to in decision 1/CP.16

また、AWG-LCAでREDD+が本格実施される場合の資金のあり方について議論が行われ、途上国の森林減少・劣化対策等への様々な資金と先進国の支援の枠組みについては、今後さらに検討していくことが決定しました。

参考:
COP17での決議内容より:セーフガードに関する情報提供システムの役割(林野庁:武藤信之、政府、企業、NGOの連携によるREDD+支援の形を考える勉強会ーリオ+20に向けて–REDD+と生物多様性の保全、適応策の連携実施)
COP17ダーバン会合報告会森林分野(川上豊幸 レインフォレスト・アクション・ネットワーク)

kokusai2-43<decisionCP17>



最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

 

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