森林と生物多様性(2010/4/17)
基調講演(東北大学中静教授)より

(日本森林学会、記念シンポジウム)

4月3日4日に筑波大学で開催された日本林学会の記念シンポジウム、テーマは「森林管理と生物多様性ー森とにとの共存を目指してー」でした。

地球環境に関する二つの国際約束である、気候変動枠組み条約、生物多様性条約が共に1992年の地球サミットで作られてから18年たちましたが、二つの条約を比べると、私たちの生活や政治への影響力に格段の差があり、「地球環境の視点から、日本の森林と木材を考える」を看板とする小HPでの情報発信も気候変動に偏りがちです。

考えてみれば、気候変動問題にとって森林は脇役ですが、生物多様性にとっては森林は主役のはずです。

11月に名古屋で開催される生物多様性条約COP10にむけて小HPでの情報強化の準備もあり、出席してみました。

講演要旨集(森林学会HP内)

基調講演 中静 透 東北大学 森林管理と生物多様性
パネリスト 三浦 慎悟 早稲田大学 森林管理と生物多様性ーシカの管理を中心に
長池 卓男 山梨県森林総合研究所 森林施業と生物多様性
津村 義彦 森林総合研究所 遺伝的多様性の保全
田中ひとみ NPO 法人つくば環境フォーラム 森林と人との共存を目指す実践活動報告
コーディネーター 志賀 和人 筑波大学

生物多様性研究の第一人者、東北大学の中静さんの基調講演は、この問題の重要性を分かり易く説明するイントロダクションでした。

また、三浦さんの日本中の生態系に圧力を加えるシカの管理は、世界的なトレンドであり、新たな管理の仕組みを提案するものでした。

報告者にお願いし、プレゼン資料を提供頂きました。こちらにおいてあります

(生物多様性保全の統合された指標)

フロアからの質問の機会があったので、前々からの問題意識をもとに質問してみました。

生物多様性条約と気候変動枠組み条約のパワーの違いは、後者が温室効果ガス排出量という統合された指標を持ち、これの削減目標を合意し、国ごとの目標、企業に上限値の配分などを進めているのに対し、生物多様性が統合化された指標を持っていないからでないか?そのようなアプローチの可能性をどうるか?多様性の目標に統合化は邪道か?」

中静さんのコメントは、「そのようなアプローチはいくつかあるが、どんな統合化した指標でも、一つにするのでは重要な属性がはずれてしまし、無理があると思う」というものでした。

関連したトピックスをあつかったのが、2008年に中間報告が発表され、KOP10に向けて最終報告が作成差えっ策せ資される予定になっている、「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB)(小HP関連ページ)です。

筆者のインタービュー記事に掲載されています。生物多様性の評価手法を確立し、リスクと機会を明示(TEEBのパヴァン・スクデフ氏)(日経電子版特集問われる生物多様性

気候変動でのCO2排出量に相当するような単一指標で生物多様性を評価することは可能か。

スクデフ氏 生物多様性については、その性質上、単一の指標に集約するのは無理があるが、かといって今日存在する指標は多すぎる。国や政府の担当部署や企業などにそれぞれ、例えば26の異なる指標を測定するよう頼むのでは、複雑すぎる。

 このためTEEBでは、生物多様性の何が価値をもたらすのか、を問うている。例えば、土地の生産力が高ければ、食物の収穫が増え、遺伝子が多様性に富んでいれば、ウイルスによる病害に対して生き残る可能性が高まる。こうした観点からは、「種の多様性」「種の数」「遺伝子の多様性」「バイオマス(生物資源)」「生産力」という、少なくとも5つの要素が抽出できる。したがって、開発される指標は、少なくとも5つは必要だと考えている。また、同じ指標でも測定方法は複数あるので、その中から最もよい方法を選ぶ必要がある。

2008年に公表されたTEEB中間報告には、平均生物種豊富度(Mean Species Abundance (MSA))という指標に基づく地球規模の生物多様性の影響の地域分布が示されています。

COP10に向けて、TEEBの最終レポートが作成されているそうです。この議論が進化することを期待します。

最後に中間報告から引用します。

「計測しないことは管理できない」ということである。もし我々が「生態学的な安全保障」を本当に管理したいのなら、どんなに難しくとも、生態系と生物多様性を経済学的にかつ科学的に計測しなければならな
い。

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