京都議定書の発効後の課題(2005/3/13) | ||
私を含む森林関係者が、目の前の吸収源対策への対応に関心が集中しがちになるので、この機会にちょっと距離を置いて「気候変動枠組み条約」を観てみたいという問題意識でした。 @議定書合意に至るまでの吸収源対策の重要な位置づけ、A議定書が発効して国際約束を実現するためにどんなことが課題となるか、その中での環境税の意義、B条約が「究極の目的」とするす「危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準」の「温室効果ガスの濃度」についての議論の発展など、いろいろ勉強になりました。 1 議定書作成過程での森林吸収源の「役割」 議定書が合意した第三回締約国会合で日本政府代表の中心にいた赤阪清孝氏(現OECD事務局次長)が司会者に促される形で、「今だからいえる条約合意の裏話」といった話を最初にされたのですが、その中で「森林吸収源をどうカウントするか」がもっぱらの日本政府内の関心事項だったという話が披瀝されました。 京都議定書のEC、米国、日本の三極の約束削減量は90年を基準排出量として8%・7%・6%となりましたが、日本政府の最終局面での対処方針は三極のバランスの中で、@排出削減の今までの我が国の努力を認めされるために、少なくとも、他の二極とは差をつけること、A現行制度上の排出側の努力による削減約束を基準年と同じレベルまでとし、技術開発による削減と新たな制度としてのCDMなどを利用した数値を2%程度、残りは3.9%までカウント可能な森林吸収源対策で対応する、というものだったようです。 このような中で、締約国会議の最終局面まで、森林吸収源対策をどの範囲までカウントできるかという文言の決定がもつれこみ、日本政府が京都議定書に合意できるかどうか、議長と日本政府代表団との間のぎりぎりの決着に持ち込まれた、というスリルある話をされていました。(結局吸収源対策はCOP6まで延長戦になり決着) イベントの主催者代表であり基調報告をされた京都大学の佐和教授は、パネル討議の中で、森林吸収源を温暖化対策に取り入れることについて若干懐疑的な話をされていました。つまり、上記のような数字あわせに利用され、排出削減の努力に水をさすとともに、90年の基準値にはカウントされていなかった吸収量が目標年次の方ではカウントされるのはわかりにくい、というわけです。(この辺は多くの方が指摘する論点です。) ただし、今回のシンポジウムを聞いた上での私私自身は、最後の論点とも関係あるのですが、「温暖化ガスの安定化は焦眉の急であり、人類が持っている排出規制、吸収源の管理などあらゆる手段を総動員しなければならない、という観点に立てば、今後の吸収源管理の持つ意味の重要性は変わらない」という思いを強くしました。 2 環境税の意義 現在政府の中で新たな温暖化対策の枠組みを再検討しているころで、論争点である環境税について多くのパネリストが言及しました(環境税反対の論陣を張る論者がいなかったので、このテーマで十分に深まった議論にはならなかったですが)。 最近まで環境省でこの問題の中心にいた小林環境管理局長が、現状の対策のままでは、@排出量は基準年次より6%ほど多くなるという認識で作業がされていること、A欧州では、日本の経済規模で言えば数千億から2兆円に及ぶ規模の温暖化対策税を科している国が多い状況であり、また、B政策の性格としても、一部の排出源にしか効果がない規制的手法に比べて環境税は公平効率的な手法であること、など環境税導入の意義を指摘していました。 一般的に環境税は、価格効果、財源効果、アナウンス効果があるのだそうですが、価格効果については「現行案のガソリン2円程度の税率ではあまり効果がない」という指摘に対して、佐和教授は「ガソリンの節約という即時的な効果より省エネ型の機器、車両の普及という形でジワジワと効果が現れてゆくもの」と指摘されていました。 3 「温室効果ガス濃度の危険水準」の評価 気候変動枠組み条約は第二条で「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極的な目的とする」と規定しています。 現在二酸化炭素の大気濃度は380ppmvで年率1ppm程度で急上昇中という状況ですが、どの程度ならたいした問題が起こらず、条約が第二条で究極の目的と規定している「危険な水準」とはどの程度をいうのかについては正式な合意がなされていません。 京都議定書時にはおよそ550ppmvという数値がなんとなく皆のコンセンサスになっていたそうですが、パネリストの一人京都大学の松本泰子助教授によると、最近の様々な調査で、その数値が少し甘すぎるのではないかということになってきたそうです。
京都議定書後かなり思い切った国際的な行動が必要になってくるというわけですが、前述のように排出量の削減だけでなく、吸収量の適切な管理も含めたあらゆる英知が要求されるわけです。 今回のセミナーでは指摘がありませんでしたが、京都議定書の参加国だけでなく、米国も途上国も例外なしの参画して合意ができたとして、日本の排出量(吸収量は同じとした場合)、基準年比2030年で51%、2050年で22%という数値が計算されています。 (西本裕美「温室効果ガス濃度の安定化対策が世界経済にあたる影響に関する研究」pdf) 今後我が国の森林木材系全体の二酸化炭素吸収源(排出源と化す可能性もある)としての管理、あるいは、排出源となっている熱帯林の国際的な管理の重要性を再認識させられました。
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