気候変動枠組み条約COP28と森林(1)公式会議での決定事項(2024/2/8)

ご案内のように、昨年11月30日(日)から12月13日(日)、アラブ首長国連合(ドバイ)において、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)が開催されました。

国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)、京都議定書第18回締約国会合(CMP18)及びパリ協定第5回締約国会合(CMA5)が開催されました:環境省

国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)結果概要:外務省

「地球環境の視点から、日本の森林と木材を考える」としているこのサイトでの重要なテーマであり、各COPの中での森林に関する議論の概要を毎年出席者が報告するフォレストカーボンセミナー等を中心に追いかけてきました(2.気候変動枠組み条約

(フォレスト―カーボンセミナーCOP28等報告会)

報告①COP28における森林関連分野の動向
越前未帆氏(林野庁 森林整備部 森林利用課
報告②森林由来の緩和成果に関する議論の動向
尾野亜裕美氏(林野庁 森林整備部計画課 国際森林減少対策調整官)
報告③CCOP28におけるサイドイベントの開催等について
平田泰雅氏(森林総合研究所 研究ディレクター)
報告④COP28でのJICA自然環境保全分野イベントと気候変動対策としてのマングローブ保全の動き
阪口法明氏(JICA地球環境部 国際協力専門員)

今年もフォレストカーボンセミナーCOP28棟報告会(オンライン)が1月15日に開催され、出席しました。

その報告内容が右の表です。

これらに基づいて、本会議や公的イベント等で議論された、森林に関する事項を中心に報告します。

なお、以下の情報は上記のネット上に公開された情報に基づいて構成されていますが、藤原の責任で作成しています。正確を期しているつもりですが、思い違いなどのリスクがありましたら当方の責任です。(ご指摘いただけるとありがたいです)

(COP28の概要)

左の図はCOP28の概要を示す政府(環境省)のネット上に公開された資料の一部を使っています。

さまざまなな関係者が連携をもとめた84千人も集まってくるのだそうですが、公的は会合での議論と決定事項は、会議結果のポイント四つ目の●に概略記載されていますが、上記資料では以下のように整理されています。

①グローバル・ストックテイク(GST)
②緩和作業計画(MWP)
➂適応に関する世界全体の目標(GGA)
④ロス&ダメージ
⑤気候資金
⑥パリ協定第6条(市場メカニズム)
⑦公正な移行に関する作業計画(JTWP)

①が越前報告で、⑤と⑥が尾野報告(かな?)。

図の下欄は日本のパビリオンなどでの、日本の情報発信ですが、この点については別途報告することして、公的会合の結果紹介から入ります。

少し長くなりますので構成以下の通りです

目次。

E越前報告
E1グローバルストックテイクに関して
E2森林関係の主要イベントなど
 E21ハイレベルイベント「気候・生命・生計のための自然保護」
 E22森林・気候のリーダーズ・パートナーシップ(FCLP)
 E23国際持続可能な森林連合(ISFC)
o尾野報告
o1気候変動と森林ー背景説明
o2パリ条約5条関係のCOP28として、REDD+と緑の基金について
o3パリ協定第6条関係のCOP28での議論

((越前報告))

(グローバルストックテイクに関して)

COP28の交渉結果というトピックスで一番最初取り上げられるのが、グローバルストックテイク(ストックテイクは棚卸)です。

以下越前報告の内容です

グローバル・ストックテイク(GST)とは

• パリ協定の実施状況を検討し、長期目標の達成に向けた世界全体としての進捗を評価する仕組み
• 各国の温室効果ガス削減目標である「国が決定する貢献(NDC)」の更新時に情報として提供
• COP28において初めての評価が採択(今後、5年毎に評価) 

第1回GST成果文書の主なポイント

• 世界全体としてパリ協定の目標達成の軌道に乗っておらず、目標達成のための緊急的な行動の必要性を強調
• 目標達成には、2025年までの排出量のピークアウト、2030年までに2019年比43%、2035年までに60%の削減と2050年までにCO2排出ネットゼロが必要
• 次期NDCでは全ガス・全セクターを対象とした排出削減目標の提示を促す
• 排出削減アプローチとして、再エネ発電容量3倍・省エネ改善率2倍のほか、化石燃料からの脱却、ゼロ・低排出技術などを明記 

ということで、現在「国が決定する貢献NDC」で管理されている締約国ですが、出す前と出した後に、5年に一回の世界全体の1.5度に向かう進捗状況評価GST(グローバルストックテイクまだ日本語がないみたい)にしっかり沿って提出しなさいよということになっていて、COP28で第一回目の評価結果が決定されたということなんですね。

左の図はエネ庁のパリ協定におけるグローバル・ストックテイクの位置づけ

越前報告ではこの決定文書の中の森林に関する記載が紹介されています。

決定された内容のフルテキスト(英文だけでなく6か国語日本語はありません))がこちらからダウンロードできます→Outcome of the first global stocktake. Draft decision -/CMA.5. Proposal by the President

森林に関する記載事項以下の通りです(越前報告より)

 構成と内容(緑セルは森林に関する記載事項のフルテキスト)  para
 第1回のGSTの結果  
森林、海洋、山岳、雪氷圏を含むすべての生態系の完全性を確保すること及び生物多様性を保護することの重要性に留意し、気候変動に対処するための行動をとる際には、「気候正義」の重要性にも留意する。  
気候変動と生物多様性の損失という相互にリンクする世界的な危機を、持続可能な開発目標の達成というより広い文脈の中で、包括的かつ相乗的な方法で対処する緊急の必要性を強調するとともに、効果的かつ持続可能な気候変動対策のために、自然と生態系を保護、保全、回復及び持続可能な形で利用することの重要性を強調する。  
I. 全体構成及び横断的な考慮事項
II.公平性と入手可能な最良の科学の観点から、パリ協定の目的と長期目標の達成に向けて集団的に前進し、これには第 2 条 1 項 (a ~ c) を含む。国家が定めたマナー、行動、支援
A. 緩和
パリ協定の温度目標達成に向け、自然および生態系の保全、保護、回復の重要性を強調する。これには、2030年までに森林の消失および劣化を食い止め、その状況を好転させるための取組の強化、温室効果ガスの吸収源および貯蔵庫として機能する陸域および海洋生態系並びに生物多様性の保全が含まれる。
持続可能な開発および貧困撲滅の観点から、2030年までに森林消失および劣化を食い止め、その状況を好転させるための取組に対し、パリ協定5条に則り、資金、技術移転、能力開発を含む支援および投資を強化する必要があることに留意する。
B.適応
土地利用管理、持続可能な農業、強靭な食料システム、自然に基づく解決策、生態系を活用した適応策など、統合された多分野にわたる解決策の実施、経済的・社会的・環境的な便益をもたらす可能性のある森林、山岳、その他の陸上・海洋・沿岸生態系を含む自然や生態系の保護・保全・回復を奨励する。 55
2030年までに以下の目標を達成し、更にその先を目指すため、野心を高め、適応行動および支援を強化することを締約国に促すとともに締約国以外のステークホルダーに要請する。
(d)生態系と生物多様性に対する気候変動の影響を軽減し、陸域・陸水・山岳・海洋及び沿岸の生態系の管理、強化、回復、保全、保護を含む、生態系を活用した適応と自然に基づく解決策の利用を加速する。
63
C. 実施及び支援の方法
1.資金
2. 技術開発及び普及
3. 人材育成
D.損失と損害(ロス&ダメージ)
E. 対応方法
III. 国際協力
IV. ガイダンスと今後の方向
(次期NDC(国が決定する貢献)策定に向けて)
締約国はNDC作成に、GSTの成果からどのような情報を得たかに関して情報を提供するものとする。
 169
(第2回GST(~2028)に向けて)
科学界及びIPCCに対して、次回GSTに向けた適切かつタイムリーな情報の提供を奨励。
 183,184
(同上)
2026年11月のCMA第8回会合から情報の収集・準備のフェーズ開始。
 

各国の計画NDCの前進にどの程度インパクトを加えられるのか?日本の次回のNDCにどんな影響が与えられるのか?今後注目点です

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(森林関係の主要イベントなど)

越前報告は、決議事項のGSTの次に、森林関係の国際的なイベントなどの紹介されました。

(ハイレベルイベント「気候・生命・生計のための自然保護」)

12月2日、COP28における首脳級の気候行動サミット2日目に合わせて、「気候・生命・生計のための自然保護(Protecting Nature for Climate, Lives, and Livelihoods)」と題したハイレベルイベントが開催されました。

森林、マングローブ、海洋の生態系の持続可能な保全のための画期的な政治的行動や資金動員をテーマに、各国首脳級が参加。

フランス・マクロン大統領、インドネシア・ジョコ大統領、ブラジル・ダシルバ大統領(COP30を主催)らが森林保全活動の重要性と、それに対する各国の資金動員実績などについてスピーチ。

(森林・気候のリーダーズ・パートナーシップ(FCLP))

• COP26で、2030年までに森林減少や土地劣化を食い止め、その状況を好転させることにコミットする「森林と土地利用に関するグラスゴー・リーダーズ宣言」が我が国を含む約140か国の賛同を得て成立しましたが、この宣言のフォローアップを行うため、COP27において我が国を含む27の国・地域が「森林・気候のリーダーズ・パートナーシップ(FCLP: Forest Climate Leaders’Partnership)」を立ち上げ(現在32の国・地域が参画)。

参加国は活動分野を選択し有志国でプロジェクトを形成し、グラスゴー宣言に向けた活動を実施。その進捗状況は毎年COPの場でハイレベルイベントを開催し紹介されることとなっています

(COP28でのFCLPの主な活動は2つ)プレスリリース

COP28ハイレベルイベント(左の図上)
◆ 分野別の取組状況が報告され、
• カントリーパッケージ
• 先住民と地域コミュニティのためのプラットフォーム
• 持続可能な木材によるグリーン建築
• 森林炭素の成果とクレジットへの投資の拡大ロードマップ 等
◆ グローバル森林資金プレッジの順調な進捗が報告されました

〇 2023年年次報告(左の図下)
• 分野別の取組状況に加え、各国の取組やメッセージを掲載。
• 我が国からは、林野庁長官より、2023年G7広島サミットの議長国として、持続可能な森林経営と木材利用の促進を盛り込んだ首脳コミュニケの採択を主導したことや、官民一体となって建築物等における木材の利用を積極的に推進しており、我々の優良事例と経験を共有することで、FCLPの活動に貢献する旨のメッセージを寄稿。本文はこちらダウロードできます

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• COP28において、我が国を含む17か国が賛同し、建築分野における持続可能な木材利用の促進を目指す「持続可能な木材によるグリーン建築(Greening Constructionwith Sustainable Wood)」イニシアチブの声明を公表。(左の図)(本文はこちらからダウンロードできます
• 声明では、2030年までに、低炭素建築を支援し、建築環境における持続可能な方法で管理された森林から生産された木材の利用を増加させる政策やアプローチを推進することを目指すことが明記。
• 今後、具体的な活動内容について議論・調整が行われる見込み。

関連するプレスリリース(英文)

(国際持続可能な森林連合(ISFC))

• 2023年9月のニューヨークClimate Weekにおいて、世界の大手林業関係企業11社が自然資本の新たな評価法の提言などを目指す「国際持続可能な森林連合(ISFC: International Sustainable Forestry Coalition)」を設立(現在参画企業13社)。

• 我が国からは丸紅、三井物産、王子ホールディングス、住友林業が参画。
• COP28では参画企業からの出張者が各国パビリオンやサイドイベントなどに参加しISFCを紹介するとともに、レセプションを開催。
• FCLPなど他のイニシアチブとの連携も模索。

以上が越前報告です。同報告はその次に日本パビリオンでの報告説明がありますが、それは、別途紹介します。

((尾野報告―森林由来の緩和成果に関する議論の動向))

尾野報告の前半は、気候変動と森林についての背景を悦明、後半はパリ協定5条、6条に関する議論内容です。

わかり易いので、背景説明の内容を紹介しましょう

(気候変動と森林ー背景説明)

気候変動枠組み条約の系譜

1992年地球サミット(リオ)で条約が制定され

1997年COP3(京都)京都議定書ができ
先進国の排出量について法的拘束力のある数値目標を設定(3条)
➢ 京都メカニズム(共同実施、クリーン開発メカニズム、排出量取引)などが運用されるようになった

2015年COP21(パリ)でパリ条約ができた。2020年以降の国際的な気候変動対策についての法的枠組
京都議定書は先進国だけだったが、 途上国を含むすべての国が、削減目標(NDC)の提出と対策を実行することされました。

気候変動緩和における森林・林業分野の重要性

世界の森林面積は減り続け(右の図左)

農業、林業及びその他土地利用(AFOLU:Agriculture, Forestry and Other Land use)由来の排出は世界全体の排出量の約1/4。(右の図右)
• 林業及びその他土地利用(森林減少、森林劣化)由来は全体の約1割(同上)


森林分野の活動事例は

森林林減少・劣化の主な要因は
・農地開発・短周期の移動耕作(焼畑)・大規模な森林火災・違法及び過剰伐採 等

具体的な対策は二つのカテゴリー
<適切な森林管理>
・土地利用区分の明確化・違法伐採のパトロール・森林伐採許可の制限・森林の造成・再生等
<代替生計手段の提供>
・非木材林産物の商品化・アグロフォレストリー等

これらはおって、排出削減がされ吸収量が高まる、

ーーー以上が背景説明

次に尾野報告

(パリ条約5条関係のCOP28として、REDD+と緑の基金について)

パリ条約で森林につい記載しているのは第5条です。

 1 締約国は、条約第四条1(d)に規定する温室効果ガスの吸収源及び貯蔵庫(森林を含む。)を保全し、及び適当な場合には強化するための行動をとるべきである。
2 締約国は、開発途上国における森林の減少及び劣化から生じる排出の削減に関連する活動・・・・(REDD+)行動をとることが奨励される。

この事業などを進めるために、緑の気候基金GCFというのがCOP16で設立されることとなり(右のずのようにGCFはREDD+だけを実施することとして設置されたものではありません(念のため)、理事会などで議論をすすめてきました。

REDD+の実施は、フェーズ1準備段階、フェーズ2実施段階、フェーズ3の成果支払い段階があり、それぞれの事業による森林減少劣化などの証拠がそろったら最終的な支払が行われるようですが、2020年までに採択されたプロジェクト(8件だけ)の成果支払いが行われるのに必要な5億ドルの資金しか確保されておらず、追加資金の調達が急務なのだそうです。

COP28では「(REDD+向けの追加資金検討)を継続するように理事会に要請」したんだそうです。

が、資金確保はまだまだ、難しそう。

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次に尾野報告はパリ協定第6条関係のCOP28での議論に進みます

(パリ協定第6条関係のCOP28での議論)

パリ協定第6条は、市場メカニズムというサブタイトルがつきます。(COP27を踏まえたパリ協定6条(市場メカニズム)解説資料:環境省

市場メカニズムだから公的資金でなく、ビジネスの資金が温暖化対策に投入される仕組みなのかと思いましたが・・・そうではなく、、6条2項上には「締約国は、国際的に移転される緩和の成果を国が決定する貢献のために利用することを伴う協力的な取組に任意に従事する際には」と書いてあり、どうもある国が他国の緩和措置を実施した場合のメカニズムですね。

つまり、効率的に緩和を進める国が非効率な国の支援をして、「一層野心的な取り組み」(第1項)を行うこと、が狙いのようです。

途上国が直面している熱帯林劣化を反転させるための日本の支援などを、どのように日本のNDCにに組み込んでいくのかという大切なトピックスです。

尾野報告では、プロジェクトの負の影響を回避す方法、モニタリングの期間、二重計上の防止方法だとか議論された内容が紹介されていますが、結論は引き続き議論することが決まっただけのようです。重要な課題なのでフォローしていきますね。

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以上が、フォレストカーボンカーボンセミナーCOP28の報告の中の森林分野についてのCOP28の公的会合会合についての説明です

各国の報告NDCにまかせていた気候変動の緩和策がなかなか進まないので、1.5度目標のような大きな流れの中の現状評価NDCをチェックするシステムが稼動(グローバルストックテイクGST)、とか、30年までに森林の劣化を食い止め反転させるということがますます重要な目標だと示されています。

途上国支援のシステムがどうなっていくのか重要な課題が議論の内容になっていますね。

再来年はCOP30がブラジルの北部アマゾン地域での開催だそうですので、森林分野の議論が進んでいくんだと思いますが、日本のNDCの中での、途上国支援がどんなに位置づけられていくのか?少し勉強が必要ですね。フォローしていきます。

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また、ジャパンパビリオンでの情報発信の話、別途掲載していきます

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