森林の吸収源としての不思議な能力ー最近の学術研究の最前線から

「極相林の場合:幹や枝の枯死分??速度と生産速度はおおよそ釣り合い、吸収源でも放出源でもないと考えられる。」というのが森林生態学の普通の教科書に載っている記述ですが、最近の研究成果は必ずしもそうでないことを示しているそうです。

ネイチャー、サイエンスといった世界中の自然科学分野の研究者があこがれる論文投稿先に掲載された森林分野の最前線の研究成果を題材にして、分かりやすい解説してくれる通信がインドネシアにある国際林業研究センターCIFORのセイモア所長から送られてきますが、その最新版の日本語訳を以下に掲載します。

排出、吸収、循環 (2009/04/28付)
Sources, sinks and cycles / April 28, 2009

今年12月コペンハーゲンのUNFCCC COP15に向け、森林の減少や劣化による二酸化炭素の排出が気候変動にもたらす影響が大きな話題となっています。しかし、地球の炭素循環と森林との関係はさらにもっと興味深いことを、リーズ大学(University of Leeds)の科学者を中心とした世界中の100人以上の共著者による2つの論文は示しています。

つい最近まで、成熟した原生林は、成長による炭素吸収が木質物質の腐朽による排出と平均的には釣り合うので、排出源でも吸収源でもないと広く考えられてきました。しかし、アマゾンの原生林では実際には炭素蓄積が増えているという、この古い教えに反する結果が数年前に出てきました。

Simon Lewisらは、アフリカで得た同様の知見を用いて、地球上の未知の部分を埋める作業を開始しました。Nature誌に発表された論文「アフリカの熱帯原生林で増加する炭素蓄積 Increasing carbon storage in intact African tropical forests」によれば、彼らは10カ国の79ヶ所で樹幹の成長を計測し、その結果を外挿して総森林バイオマスを大陸スケールで計算しました。彼らの推計によれば、アフリカの成熟した湿潤林は最近数十年で毎年340百万炭素トンを吸収してきました。この吸収量はアフリカ全体の森林減少による排出量にほぼ匹敵し、アフリカ大陸全体の化石燃料起源の排出量よりはるかに大きな値です。

この意外な成長量はいったいどこから来るのでしょうか?これらの森林が過去の撹乱からの回復過程にあるとは著者らは考えていません。なぜなら、もしそうならもともと木材比重の低い種の比率が減少していくことが生態学の理論から予測されますが、そのような形跡はないからです。そうではなく、より大きな木は、大気中の二酸化炭素の増加による施肥効果も含め、より多くの資源を使えるようになるからなのでしょう。

Oliver Phillipsらは、Science誌の論文「アマゾン熱帯雨林の干ばつに対する反応 Drought sensitivity of the Amazon rainforest」で、2005年に起きた大干ばつに森林がどう反応したかという、天然の実験の結果を報告しました。将来、一部の気候変動モデルが予測するようにもし乾燥がより進むのなら、この実験結果はアマゾンで今後何が起こるかを占うものとなりえます。アマゾン地域一帯の原生林に配置された長期観測プロットのデータを用いて気候データに合うようにバイオマスの変化を計算することにより、乾燥下で森林がどのように反応したかを推定することができました。

干ばつ前の最近数十年間にこの地域の森林では年間450百万炭素トンの純吸収量がありました。それが一転し、2005年の大干ばつの影響を最も激しく受けた森林はバイオマスを失い大気への純排出源となりました。プロットレベルから干ばつの影響を受けた地域全体へのスケールアップを行い、さらに計測されていない部分のバイオマスも算入した結果、干ばつの影響により地域全体で1,200百万炭素トンの変化が起き、アマゾンの森林は炭素の吸収源から大きな排出源へと変わったと著者らは推定しました。ちなみに、米国の2005年の化石燃料起源の排出は1,600百万炭素トンでした。

これら2つの論文は、地球の炭素循環における森林の役割が、通常考えられているよりもいかに大きくまた複雑であるかを示しています。私たちは、気候変動に対する森林起源の炭素排出の影響ばかりでなく、森林に対する気候変動の影響、炭素吸収など様々な生態系サービスを提供する森林の機能にも、斉しく注目していく必要があります。そのためには、森林の長期観測を支援していくことが不可欠です。その努力があってはじめてこれらの論文のような知見が得られるのです。

フランシス セイモア (CIFOR所長)

(日本語訳 鷹尾 元(CIFOR))

POLEXのこの記事の英語版はこちらのHPに掲載されています。
また、日本語訳はCIFORに出稿している鷹尾さんによるものですが、日本語のHPもあります。日本語のレターも配信してくれます。希望者はこちらから直接鷹尾さんへ

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