「絶望の林業」本のタイトルには以下のことばが踊る―いま、日本の林業の現場で何が行われているのか?補助金漬け、死傷者続出、低賃金、相次ぐ盗伐、非科学的な施策・・・官製「成長産業」の「不都合な真実」
これだけ読むと、「ある種のジャーナリストが自分の言説を実態をよく知らない一般市民に、SNSを通じて訴求するためのテクニック」という感じもします。だが、著者は勉強部屋の古くからの読者で知らない人でもなし、知人の推薦もあり、マスコミの書評もあり、読んでみました。
絶望の林業(新泉社)出版社基本情報
書評:朝日新聞(石川尚文)、北海道新聞(ルポライター山村基毅)、日経新聞(岡田秀二(会員制))その他
構成は、第1章絶望の林業、第2章失望の林業、第3章希望の林業
(第1章絶望の林業)
第1章出だしの問題提起が「「林業成長産業化」は机上の空論」。机上の空論かどうかは別にして、「林業を成長産業化する」という政策目標を掲げることのリスクを、私自身も感じています。
森林所有と主観的森林幸福度の関係ー成長産業の基盤を所有することは不幸せ?(2019/10/15)
「林地に投入される金額と、そこからえられる金額をトータルに比べると赤字」補助金がなくなったらどうなるの?とりあえず問題意識を共有。一体どうしたらいいのか?
その後、外材に責任を押しつける(国産材業界、政策批判)、森も林業も知らない(林業家批判),木の値段は高いという神話(を信じている一般消費者の問題点)と、林業のステークホルダー川下から川上までの批判がならぶ。「絶望の林業のさわり」で2部の本論のイントロ。
(第2章失望の林業)
第2章は、筆者が国内、海外をジャーナリストとして歩いた経験にもとづく、林業現場の危機感が表出。
T.諦観の林業現場
〇騙し合いの木材取引現場、〇事故率が15倍の労働環境・・・
U.残念な林業家たち
〇改革したくない森林組合、〇倫理なき素材生産業者・・・
V.滑稽な木材商品群
〇木を見せない木造建築の罠、〇国産材を世界一安く輸出する愚・・・
W.痛恨の林業政策
〇モラルハザードを起こす補助金行政、〇地球環境という神風の扱い方・・・
本当のことなのかもしれません。
が、筆者の主張の根拠となる重要な事実について、根拠が記載されていなくて、不満(一部二部を通じて)。批判の対象は匿名とした、とはあるが、匿名でもよいかもしれないが、重要な言説は出展の根拠がほしいです。これでは、風説以上に学術的に議論できない、この著書の問題点。決して反論するためだけでなく、深掘りしたいという人のためにも。
例えば・・・
「外材に責任を押しつけるのは逃げ口上」の文脈の中で、p28 輸入材が始まったころ、輸入に関わった木材業者によると「1950年代外材は国産材の2,3倍の値段はした」という・・。
p242 「薄利多売でやっていかねばならない」と言う反応が(林野庁関係者から)かえってきた。
p246 実際林野庁からの出向者が大規模な機械化林業を推進し数年後に去って行ったが、・・残されたのは広大な皆伐の跡地である(地元に根付く覚悟がないから)。
P236 日本の山を見て「林道と作業道を入れすぎ、こんなに道を入れると山が痛む」と指摘したオーストリアのフォレスターもいた。
勿論、学術論文でないので、「こんなこともあるのだな、と知ってもらえればよいのだ」ということかもしれませんが、それぞれの立場で、重要な指摘なので、もっとそこの所を知りたい、思う人にも解るような配慮がほしいです。
あと、記述にケアレスミスのような事実誤認があります(批判の重要な根拠とは違うが)例えば、P222「公共事業に合法木材を使う、グリーン購入法を2000年に制定した」(グリーン購入法が制定されたのは2000年だが、これに基づいて合法木材を使うようになったのは2007年)
(第3章希望の林業)
そして、第3章希望の林業。吉野林業の歴史が語られています。@修験者が集まる,宗教的ベースの元で、日本中の情報が集まり、それをベースにした多様な商品群。A山林所有者と山守といった森林整備の長期的な視野を持つべき人々が戦略的なリードをする。といった二つのことが大切だった。
勿論筆者が指摘するように、各地のそれぞれの条件にみあった多様な道筋があり、画一的な道が提示されて瞬間に、形骸化する、という指摘は大切かも。いろいろ考える種があります。
(「林業の関係者」の拡がりの中で)
日本で林業に関心がある人はほとんどが、地方自治体の政策担当者、森林組合の関係者、木材加工流通者など何らかにかたちで、林業政策執行過程に関与している人。多くは補助金の執行過程などに利害関係を持っている人たち(公的な委託調査事業に少し関与している私も含めて)。その人たちが生板にのってい本のマーケットは?
最近森林に関しては、木材利用の拡大、バイオマスエネルギーなどをきっかけにして、新築住宅の施主、建築関係者、発電事業者などまったく別の分野の方が、新しく関心を広げてきています。そういう方々が興味をもって読まれるでしょう。
林業が成長産業化し市場の中で、一人立ちをする過程にあります。市場の外からの政策がどんな役割をはたすのか、また、公的資金がどんな役割をもつのか、持たないのか、皆で考える必要がある重要な局面で、参考になる本だと思います。、
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