林業が成長産業化するとどうなるー書籍「諸外国の森林投資と林業経営」に関連して(2020/5/15) |
諸外国の森林投資と林業経営一世界の育林経営が問うもの一(森林投資研究会編)という書籍について、私が書いた書評が林業経済誌に掲載されました。
了解をえて、本文を共有します(こちらから) 書評は本の内容を読者に知らせる過程で自分の個人的な問題意識をかたることになりますが、勉強部屋ではその問題意識の方を中心に、少し紹介します。 (まえがきから) 「「林業の成長産業化」が日本の行政の政策課題に(なっているが・・・)ある産業が成長産業になるとはどういうことか? 林業が成長産業になるのはよいことだと思うが、何がどう変わるのだろうか? 成長産業とは「成長率の高い産業」、「需要が伸びて生産体制が整った産業」であるとすると、成長産業化した林業の生産基盤となる森林整備に補助金が出せるのだろうか?そのようなことを考えているときに、『諸外国の森林投資と林業経営』(森林投賓研究会(餅田治之代表)編)という本が出版される、というので楽しみにしていた。 日本以外の地域で進んでいる「森林に対する投資」ーこれは市場が林業を成長可能性のある産業と見なしているということだろう。何が起こっているのか。このような視点から、本書の内容を紹介したい。」 (日本の林業が投資対象となるような成長産業になるには1 育林費の額と意思決定の仕組み〉 森林に対する投資。1 ha当たりの育林費は、すべてを合わせて米国では10万円を少し越え、ニュージーランドでは10万円より少し安い。これに対して、日本の場合は、「森林・林業白書」によると1,140- 2,450千円。 グローバルな市場で競争して勝てるのが成長産業だとすると生産基盤の造成費が、他の国より10倍高いのは、回避することができない壁ではないか?なぜ? 日本の場合 現地の状況に応じて知恵を絞って育林費を節約することを真剣に考える当事者がいない。 プラチナ社会論の中で三菱総研小宮山会長が行っていた言葉、「問題を解決するのは、そんなに難しくない。大規模化、機械化、情報化である。補助金が効率化の道をスポイルしてきた」、ということばを思いまします。 〈日本の林業が投資対象となるような成長産業になるには2 成長産業化の対象となる森林の線引き〉 アクセスが悪く育林ゴストが高くて木材販売収入ではペイできない対象地はどこの国にもありますが、森林投資会社ではそのような対象地を投資対象とはしません。そのようなところは、公的資金や補助金が投入される、非経済林となるでしょう。我が国の場合、保安林でしょうか。 昨年成立した、森林経営管理法には「適切な経営管理が行われていない森林を、意欲と能力のある林業経営者に集積・集約化するとともに、それができない森林の経営管理を市町村が行うことで、森林の経営管理を確保し、林業の成長産業化と森林の適切な管理の両立を図る」とあります。 いよいよその線引きが、市町村の手によって始まります。成長作業化する森林が線引きされ、意欲の能力のある林業経営者にゆだねられるのは、大切な成長産業化に向けてのステップです。ただ、少し心配なところが。 (成長産業化された林業への国の支援は?) 日本では森林造成に手厚い助成制度が組み立てられています。 それでは、成長産業となった林業の基盤整備に対応できるのでしょうか(補助金規律と新興国の産業支援措置)?林業が成長産業になる過程で、その生産基盤に補助金を出すことは可能なんでしょう(幼稚産業保護論)。ただ、成長産業とされ、そこから生産された木材が輸出される可能性があることを念頭に置くと、結構大きなハードルがあるように思います。 現在、米中経済摩擦の焦点の一つが中国政府の産業補助金であり、米EUも含めた議論が広がっています(日米欧が合意、WTO産業補助金禁止の拡大目指す)。 森林の環境保全便益との関係なども含めて、議論をしておく必要があるのかと思います
kokunai6-54<FDIBook> |
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