CASBEEすまい戸建<暫定版>によせて(その1)(2007/8/12)
建築物の環境負荷をわかりやすく表示することを目的として建築環境省エネルギー機構が開発している建築物総合環境性能評価システムCASBEEが戸建て住宅版を作成中ですが、7月19日暫定版が公開され8月2日まで意見募集が行われました。

昨年6月に試行版いらい作成中に2回の素案が公開されるのは、CASBEE他のバージョンに比べると異例の手続きであり、戸建て版についての反響が大きい証拠だと思います。
(CASBEEすまい(戸建)暫定版についてから全文がダウンロード出来ます)

CASBEEの全体は評価の対象を建築物の環境効率(BEE)という指数に統合する考えに立っており、下図に示す6の環境因子を分子側Q(建築物の環境品質・性能)と分母側L(建築物の外部環境負荷)に分類し、ΣQ/ΣLを住まいの環境性能効率としています。

このうち、木材や森林に関係する項目は以下に示すとおりです。特に住宅資材としての木材の環境的側面について重要なのは、Q3.4の「地域の山林から産出される木材資源の活用」、LR2.1の「持続可能な森林から産出された木材の利用」です。この点を見ていくと、「建築関係者の環境へのこだわり」という絶好の枠組みにも関わらず、森林や木材のサイドの主張が体系的に展開出来ていないというもどかしさを感じます。

大項目 中項目 採点項目など
建築物の環境品質・性能 Q1 室内環境を快適・健康・安心にする 1暑さ・寒さ
2健康と安全・安心
3明るさ
4静かさ
Q2 長く使い続ける
1長寿命に対する基本性能
2維持管理
3機能性
Q3 まちなみ・生態系を豊かにする 1まあちなみ・景観への配慮
2生物環境の創出 敷地内の緑化比率、生物の生息・生育への寄与
3地域の安全・安心
4地域の資源の活用と住文化の継承 地域の山林から産出される木材資源の活用
建築物の外部環境負荷 LR1 エネルギーと水を大切に使う 1建物の工夫で省エネ
2設備の性能で省エネ
3水の節約
4維持管理と運用の工夫
LR2 資源を大切に使いゴミを減らす 1省資源、廃棄物抑制に役立つ材料の採用 持続可能な森林から産出された木材の利用
2生産・施工段階における廃棄物削減
リサイクルの促進
LR3 地球・地域・周辺環境に配慮する 1地球温暖化への配慮 ライフサイクルCO2による評価
2地域環境への配慮 樹木緑地の保全、郷土種の採用
3周辺環境への配慮


1 持続可能な森林から産出された木材の取り扱い

この点についての記述は以下の通りです。

(P84)
LR2 資源を大切に使いゴミを減らす
1 省資源、廃棄物抑制に役立つ材料の採用
1. 構造躯体
1.1.1 木質系住宅

評価内容
木造軸組工法、2x4工法、木質パネル工法、木質ユニット工法等の木質系住宅の構造躯体に持続可能な森林から産出された木材がどの程度使用されているかを評価する

評価レベル
レベル 基準
レベル1 (該当するレベルなし)
レベル2 (該当するレベルなし)
レベル3 レベル4を満たさない
レベル4 構造躯体の過半に「持続可能な森林から産出された木材」が使用されている
レベル5 構造躯体の全てに「持続可能な森林から産出された木材」が使用されている

【加点条件】
その1,その2、それぞれの条件を満たすことで、レベルを最大2段階あげることができる。ただしあ、レベルが5を越える場合はレベル5として評価する。
その1 「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」における「@森林認証制度およびCoC認証制度を活用する方法」、「A業界団体の自主的行動規範による方法」または「B個別事業者の独自の取組による方法」によって合法性、持続可能性が証明出来る木材を過半に使用している場合は、評価を1レベル上げる。ただし、AおよびBにおいても、第三者認証など公平性が保たれていることとする。
その2 既存建築躯体等のリユース材が構造躯体の一部に使用されている場合は評価を1レベル、過半に使用されている場合は評価を2レベル上げる

(P80)
【持続可能な森林から産出された木材】
持続可能な森林から木材の対象範囲は以下を指す。(型枠は評価に含めない)
間伐材
持続可能な森林経営が営まれている森林から産出された木材(証明方法は、「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」に準拠する。)
日本国内から産出された針葉樹材
なお、日本では、諸外国のような持続可能な林業が行われている森林を原産地と証明する制度は普及段階にあり、スタンプの極印などにより明示された木材の流通はわずかである。そこで、現実的には、間伐材や、通常は持続可能な森林で生産されていると推測されるスギ材などの針葉樹材を持続可能な森林から産出された木材として扱う。平成12年建告第1452号(木材の基準強度を定める県)にリストアップされている針葉樹の内、以下のように日本国内で産出されたものは持続可能な森林から伐採されていると考えて概ねよい。
また、この定義に合致する木材を原料とする集成材、合板等の木質材料も「持続可能な森林から産出された木材」と考えて良い。
<日本国内から産出された針葉樹の例>
あかまつ、からまつ、ひば、ひのき、えぞまつ、とどまつ、すぎ

このほかP81からP83に、森林認証制度や「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」についての解説が当てられています。

昨年発表された「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」(以下ガイドラインと呼ぶ)が大きな位置を占めているのは現時点で大切なことです。
その上で、ガイドラインに基づいて証明された「持続可能な森林から産出された木材」が、若干不明確になっていることが、いろんな波紋を投げかけています。

(ガイドラインによる「持続可能な森林」から産出された木材)

ガイドラインでは「持続可能な森林経営の行われている森林を第三者が評価・認証」している森林としてFSC、SGECなどの制度による認証森林を例示しています。
また、業界団体の認定を得て事業者が行う証明方法としては、伐採段階で、伐採業者が原木の伐採箇所を記載するとともに、「原木が持続可能な森林経営が営まれている森林から産出されたものである旨を証明書に記載する」ことを証明の連鎖の出発点とするとしていますが、何が持続可能な森林経営なのか明確な定義を示していません。

他方現在国有林材や都道府県有林材の一部が持続可能な森林経営が営まれていると宣言して販売されているので、それらの木材は「持続可能な森林から産出された木材」だとして業界団体の認定事業者によって流通している可能性があります。

(「日本国内から産出された針葉樹」の持続可能性)


そのような宙ぶらりんの実態を反映した記述が「日本国内から産出された針葉樹材」を持続可能な森林より産出した木材とするという部分です。第三者による明解な持続可能な森林から産出した木材が「わずかである」ため、「現実的な」対応として次善の策が提案されているものです。

この記述につは、賛否両論のあるところでしょう。国内の林業関係者にとってはメリットの多いものですし、また伐採された森林が環境に負荷を与えている程度や識別の可能性などを考慮すれば「国産針葉樹材」を抜き出して持続可能とする記述は一つの知恵といって良いかもしれません。

ただし、持続可能な森林の国際的な議論が地球サミット以来積み重ねられ、森林の状況の他にマネジメントの状況を評価するというコンセンサスになっていることを考慮すると、ある地域に生育する特定の樹種を持続可能だという技術基準に同意することはなかなか勇気のいることです。

また、この記述については、@「ISO の環境ラベルの一般原則 <ISO14020(JIS Q 14020)>」などが要求する内外無差別(同第二原則)の関係、A最近問題になっている再造林放棄地など国内の森林の持続可能性についての指摘がされている(九州・四国等における再造林放棄地の対策に関する質問主意書同答弁書)など、いくつかの問題点を指摘することができます。

(林業サイドからの明確なメッセージが必要)

CASBEEの当該部分の記述は、@持続可能な森林経営の国内外の森林への評価、A合法性や持続可能性を証明する取組の現状など総合的に検討した上で、林業・木材産業の分野での取組を一歩前に進めるものとなる必要があります。

林業サイドからの、合法性を証明した木材を供給する努力を評価しながら、持続可能な森林経営についての明確な定義を明確にした、明確なメッセージが発信される必要があると思います。

2 地域の山林から産出される木材資源の活用
以下次号につづく


 

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