2024年施政方針演説と森林政策(1)-循環型林業(2024/2/8)

毎年1回、1月中に召集される通常国会で、内閣総理大臣が、その年の内閣全体の基本方針を示すものとして、施政方針演説が行われるのが通例となっており、今年は1月30日、衆議院・参議院それぞれの本会議において、岸田総理により行われました

自民党の派閥の政治資金管理の裏金問題が捜査対象となる中で行われた演説でマスコミを含めた関心は、そちらに集まっていましたが・・・
日経新聞[社説]政策実現でも信頼回復につなげる国会に
朝日新聞(社説)施政方針演説 信頼回復の覚悟見えぬ

政府の方針の中で、森林政策がどのように扱われているのか、見てみました

(施政方針演説の構成)

内容は、首相官邸のサイトに掲載されています。第二百十三回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説

その中で章立てがしめされているので、それを拾うと以下のようになります。全文を掲載する各新聞が同じ章立てになっているので確定版。参考のために昨年の章立ても掲載しました。

(農林水産業の位置づけと林業)

施政方針演説の作成作業は各省庁が自分たちがやっている政策のプライオリティや位置づけを、国民にアピールする過程なので、大変な作業なのでしょうが、農林水産省の事案がどのにあるのか、そして林業は?

上の章立ての「地方創生」という章(昨年は「包摂的な経済社会づくり」という章にあった「地方創生」がステップアップして章に)の中に(観光・農業)という節があり、以下のような記述があります。

六地方創生
・・・
(環境・農業)
 ・・・
地方が支える農業は国の基(もとい)です。我が国の農業が直面する、食料や肥料の世界的な需給変動、環境問題、国内の急激な人口減少と担い手不足といった、国内外の社会課題を正面から捉え、これらの克服を、地域の成長へとつなげていくべく農政を抜本的に見直します。・・・このため、農政の憲法と位置付けられる「食料・農業・農村基本法」について、制定から四半世紀を経て初の本格的な改正を行うべく、今国会に改正法案を提出します。
 さらに、不測時の食料安全保障の強化、農地の総量確保と適正・有効利用・・・、これらの関連法案も、今国会に提出します。
 あわせてグリーン農業、循環型林業、養殖業への転換など、環境に配慮した持続可能な農林水産業及び食品産業への転換を促進するとともに、国内の生産基盤の維持の観点も踏まえ、農林水産物の輸出を、より一層促進してまいります。

(食料・農業・農村基本法など)

林業の話に行く前に食料・農業・農村基本法の改正があるそうです。現時点で法案が提出されていないようですが、検討過程の情報をみると・・・・

「現行基本法に基づく政策全般にわたる検証・見直しを行い、国民生活の安定と安心の基盤を支える役割を将来にわたって担い得る食料・農業・農村政策の方向性を示すことが求められている。」として検討を重ねてきた、食料・農業・農村政策審議会答申(昨年9月)には、、「これまでどおり営農を継続できない農地では、粗放的管理や林地化等により、農地保全と環境保全を図る」(p39など)などといった記載があります。

日本の土地利用管理全体を視野に入れた記述で森林との関係性も内容に含まれてくる?フォローしていきます。

首相の国会演説の中の林業)

昨年の施政方針演説の中には、実は林業という言葉がありませんでした。(参考までに、岸田首相が初めて国会演説をした所信表明でも、ゼロ岸田新総理の所信表明と森林の未来(2021/10/15)

が、今年の施政方針演説では林業という言葉が一回はいっています。(「森林」はありません)

本体の主張のあとの、「さらに」「あわせて」という文脈で、後ろのほうですが、循環型林業という言葉が入っています。

(循環型林業とは)

さて、循環型林業とは何でしょう?

今回のテキストでは、「グリーン農業・循環型林業・・・への転換など、環境に配慮した持続可能な農林水産業及び食品産業への転換を促進する」となっているので、循環型でない林業がおこなわれてているので、転換をする!!という文脈ですね。

なんとなく、首相が「再造林がされていない現在の林業から決別」と言われたようなニュアンスが伝わってきます。もう一つは首相が気にしている「花粉症対策のために無花粉スギに植え替えよう」気持ちの表れでしょうか?(ある林野庁幹部の解説)

正確に認識するために、循環的林業ということばが行政の文脈でどのようにつかわれているのかということをネット上で調べてみました。

ネット上で循環的林業とは、検索してみると、循環型林業とは?仕組みやメリット・デメリット、実践例もという丁寧な解説ページがあります。が、これはメディア情報で、行政の情報で循環的林業ということばを定義するような情報はありません(2月8日現在)

(森林林業白書の中での循環型林業)

森林・林業白書の中で循環型林業という言葉を拾ってみました。

H26年度の白書8ページにH26森林及び林業の動向「1.森林資源の循環利用と木材産業」という節があり以下の記述があります。

(1)森林資源と木材利用をつなぐ木材産業
ア)森林資源の循環利用 
木材は、先人たちが植えて育てた森林から収穫(伐採)し、建築用材等として利用することによって、その販売収益を用いて伐採跡地に次の森林を植えて育てることができ、さらに将来の世代がその森林から木材を収穫(伐採)し利用することができる。この「植える→育てる→使う→植える」というサイクル(森林資源の循環利用)を推進することで、適切な森林整備が確保されるとともに、将来にわたる木材の利用が可能となる(資料Ⅰ-1左の図)。

よく見る、森林資源の循環利用のイメージ図です。「循環型林業」という言葉でで、林業関係者はこの図のことを思い浮かべるでしょう。

(森林・林業基本計画の中での、循環型林業)

それで、森林林業基本計画(2021年版)の中で、テキスト分析してみました。

ありました、43ページ

第3森林及び林業に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策」
の中の・・・
6団体に対する施策

6 団体に対する施策

 森林組合については、組合員との信頼関係を引き続き保ち、地域の森林管理と林業経営の担い手として役割を果たしながら、・・・・。また、森林組合系統が新たに運動の基本方向を定め、地域森林の適切な保全・利用等を目標として掲げながら、市町村等と連携した体制の整備、循環型林業の確立、木材販売力の強化などの取組を展開していることを踏まえ、その実効性が確保されるよう系統主体での取組を促進する。

全森連の基本方針(運動方針、JForeetビジョン2030ー森林組合綱領−私たち森林組合のめざすもの−の中に、以下のような運動方針があります。
Ⅲ.新運動で掲げる目標及び取組項目
 2.循環型林業の確立と系統の木材販売力の強化

森林・林業基本計画で記載している「循環型林業」は、全森連の確立した運動方針の中にある「循環型林業」を支援しましょう、というのが文脈です

(循環型林業というコンセプトの課題)

ごめんなさい、岸田総理の施政方針演説に久しぶりに現れた、林業ということばを追いかけてきましたが、ネット上の情報をみる限り、以上の通りです

グリーン農業とか、養殖漁業と横並びで、次世代に循環型資材としての木材を供給する再造林をしっかりしたシステムというコンセプトですね。重要なコンセプトですので、しっかり概念規定を明確にして発信してほしいっです。そして・・・

農業や漁業が提供するのは食料品で、林業は木材という文脈で総理大臣の演説していますが、林業の場合、森林サービス産業的な幅広い消費者に供給する(可能性がある)モノやサービスがあります。

木材以外の多様なサービスを提供する幅広い林業の可能性、その辺の含めた林業の重要性が農林水産業の横並びで議論されると忘れられる可能性もありますね。

年に一回の施政方針を総理大臣が検討する機会に、 この辺も含めた議論が必要だと思いました

ーーー。

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