低コスト再造林プロジェクトー再造林を補助金抜きてやる道筋(2024/9/22)(10/1改訂)

9月中旬に山形県の事業地を取材して、新たな林業の可能性感じましたが、そのプロジェクトに共通するのが、「低コスト再造林プロジェク」です。

どんな可能性があるのか、その基盤となったプロジェクトのわかり易い解説サイトがあったので、じっくり見てみました。(そして補助金はいったい何なのか?という重要な問いを考える機会になりました)

特集:低コスト再造林プロジェクトー30年後の未来の子どもたちにバトンを手渡すために”自立的に循環する林業へのファーストステップ”となる実証実験を開始

農林中金の支援プロジェクトの紹介です

「将来において補助金を前提としない自立的かつ循環する“生業なりわいとしての林業”を構築するためのファーストステップ」と主催者がかたるプロジェとには、3つのポイントがあるとされます(上の図)

(第1ポイント:早生樹であるコウヨウザンの活用)

「早生樹であるコウヨウザンの活用です。中国南部等原産のコウヨウザンは、江戸時代以前に日本に渡来。成長が早いという特徴があり、育林期間を従来型の50年から30年に短縮。主伐までの工程から間伐がなくなり、今回の実証実験では育林コストを従来型方式に比べて1/2以下とすることを目指しています。」

(第2ポイント:コンテナ大苗を活用した伐採・造林の一体作業)

従来は素材生産から2回目の下刈りが終了するまで、作業期間が少なくとも3~4年かかっていたが、コンテナ大苗を使うことで1、2回目の下刈りを省略できる可能性があり、素材生産にかかる作業期間は数カ月まで短縮できます。さらに従来の林業では、素材生産と植林の各作業を別のチームや組織が担うケースが多いが、今回の実証実験では伐採と植林および造林を一体作業として行います。(担当責任者である)大貫氏はこの取り組みを「製造業のセル生産方式*を林業に取り入れたようなもの」と言う。「コンテナ大苗の活用による育林期間の短縮と、現場作業員が複数の作業を担う多能工化による、林業労働者1人当たりの生産額と収入の向上が狙いです。少子高齢化による人口減少で労働力の確保が困難となるなか、作業の効率化と労働者の収入アップは不可欠です」。

(第3ポイント:疎植)

従来は3,000本/haを植林し、間伐を重ねることで優れた樹木が育つといわれていたが、今回の実証実験では1,500本/haと本数を絞ることで、間伐作業を行わない施業も考えられます。

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まだ、上記のサイトでは結果が出ていない段階ですが、今回山形でプロジェクトを紹介された物林の大貫さんが、上記プロジェクトの責任者で、ここで実証された結果に基づいて、山形の新たなプロジェクトを牽引されているという状況でした。

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(3つの質問)

そこで、ご当人に次の三つの質問をしてみました

①究極のコストはどこまで下がりますか? 樹種はどこまで拡大できますか? ➂一体型作業ができる作業地の制約は?

①究極のコストはどこまで下がりますか?

再造林の初期コストは、地拵え、苗木の植え付け、5回ほどの下刈りあわせて、ヘクタール当たり180万円といわれていますが(林野庁報告書p20ページなど右の図)、低コスト再造林プロジェクトにおける地拵えと下刈りをやらない施業では、簡単に言えば、ここから地拵え、下刈り経費を引いた額となります。また、伐採と造林の一体作業なので、植栽経費も軽減できると考えています。さらに1,500本/ha植栽で30年伐期を考えているので間伐は予定していませんので、間伐経費もいりません。

林地の条件や林業事業体の技術の向上などの前提付きですが、大雑把に63万円/ha、いままでの3分の1まで圧縮することを目指しています。不可能な額ではないと考えています。

②樹種はどこまで拡大できますか?

コウヨウザンやスギ、カラマツで、コンテナ大苗を活用した一体作業+疎植により、低コスト再造林の短伐期施業が可能であると思います。スギは、従来3,000本/haで伐期を40~50年として間伐を前提とした施業でした。これは間伐木である小径木のマーケットが一定規模以上で存在し、しかもコストに見合う価格で取引されるという前提があって成立した施業です。小径木マーケットが小さく、コストに見合う価格でもないので、補助金を措置することで間伐を推進してきたのが実態です。

であれば、間伐を前提としない施業を考えるべきです。九州地方に林分密度試験地があって、疎植のスギは30年で利用径級に達するという結果が出ています。この話をすると「九州だから」と言われますが、同じ試験地で3,000本/ha植栽に相当する個所では、30年生で胸高直径16㎝程度です。場所ではなく、植栽密度によって肥大成長の速度は変わります。この点については九州大学の調査結果も報告されています。また、長野県の林務部が公表している「カラマツ長伐期施業の手引き」をみると、30年生で胸高直径30㎝となる施業が記載されています。

短伐期施業ということでは、早生広葉樹により家具、フローリング用材を人工林から供給するということを発想しました。世界的に見て広葉樹資源を天然林から供給するということはタイトになると考えたからです。とはいっても、今までのミズナラやトチノキなどの広葉樹を人工造林しても、素材として供給するには100年近い時間がかかってしまいます。そこで20年位で家具やフローリング用材として供給可能となる早生広葉樹を考えたのです。センダン、チャンチン、ユリノキなどです。家の嗜好が和風から洋風に変化して、和室が減り洋室が増加しました。これがスギやヒノキの価格が下落した原因の一つでもありますが、逆に考えると洋室向けの家具やフローリング用材の需要が高まっているということです。足つき家具、これに対応するフローリングはハードウッドを材料としています。これをソフトウッドでやろうとすると圧密など余計なコストが掛かり、マーケットを広げることはできません。このような状況を考えて、早生広葉樹の人工林の造成に行き着いたわけです。既に、センダン、チャンチン、ユリノキなどは製品試験を終了して、マーケットに受け入れられる素地はできています。

最近はユーカリに着目しています。成長が早くかたい材質なので、用材とバイオマス用材をいっぺんに供給できると考えています

➂一体型作業ができる作業地の制約は?

林業を製造業と考えたときに、最も経営に影響を与える生産財とは林地であると考えています。これから主伐再造林する林地は、生産財としてのポテンシャルが一定以上の林地で林業を行っていかなければならないと考えています。

ポテンシャルをどう考えるかということになりますが、簡単に言って林地の斜度が緩やかなこと、平均斜度は20度~25度で、最大斜度は30度程度であること。地位が中以上であること。トラック道からの距離が600m以下というようなことが条件になると考えています。現在の木材価格、作業コストを考えれば、これらが目安になると思います。もちろん、フォワーダをクローラタイプからホイールタイプに変えるなどにより、トラック道からの距離はもっと長くなると思います。

現在の1千万haの人工林を造成したときの背景は、バブル的に高い木材価格、安い賃金の労働者が数多く山村に存在したこと、奥地低価値林分の開発を急げという世論があったことです。今はすべて真逆と言ってよい状況です。

とすれば、現状を踏まえて人工林の仕分けが必要です。継続して林業を営める林地で、一体作業などの低コスト林業を行えば、林業は生業として成立すると考えています。

およそそのような適地は1千万ヘクタール人工林のうち、4~5割程度ではないでしょうか?

ーーーーありがとうございました

短伐期を念頭において、この数字が実現が見えてくれば、早世樹種の低コスト再造林プロジェクトの展望は明るいと思いました。

また、スギの場合は?ヘクタール当たり、造林経費が60万円、スギの立木価格が120万円?であるとすると、50年かかって2倍になるのは年利1.5%程度ですね。こんなことで、資金運用する人はいないかもしれませんが、この計算には補助金がカウントされていないことが重要ですね。

ある程度の規模をもった山林所有者は十分に新たなビジネスを進められる条件が提示されています。

(植林補助金の意義はなに?)

今回山形県の複数の現地のプロジェクトを現地で説明を受ける中で、補助金について、考える機会がありました。

コウヨウザンのような早世樹種の植林に対する補助金は山形県ではありません。西日本ではありますが(植栽本数が一定程度以上などの限定です)

もしも山形県で、補助金なしでコウヨウザンの植林ができた場合、他の地域で補助金をつける根拠はなに?

また、植栽本数が一定以上ないと補助金が出ない仕組みになっていますが、これは低コスト再造林という重要なプロジェクトを、進展させないための補助金なの?

経済林において造林補助金を提供する場合の重要な課題が見えました。

造林補助金は、一定の非経済林をその目的に応じて費用が係る施業が必要になった場合、提供するシステムなのか?経済林を集積する場合の初期コストに対する助成システムか?・・・

junkan10-18<lowcostzorin>

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