ウッドマイルズ研究会の10年、次のステップへ(2013/6/30)

6月25日ウッドマイルウ研究会総会開かれウッドマイルズフォーラム2013(ウッドマイルズ研究会発足10周年記念フォーラム)−ウッドマイルズのこれからの利活用を問う−が開催されました。

利用される木材について、産地の森林と消費者の距離使って、環境へのやさしさという点に着目して数値化するウッドマイルズが世に出てから10年。

その間に、環境にやさしい性能を見える化する動きは拡大し、地域材へのポイント制導入されるなど、10年前のウッドマイルズの問題提起の先進性は現時点でも色を失うものではありません。

ウッドマイルズ研究会の活動も、会員である住宅メーカーや工務店が施主に自社の提供する住宅の環境性能を説明するツールとしてウッドマイルズレポートが利用され、自治体で地域材の普及のため研究会が開発した指標が利用される(京都府産材ウッドマイレージCO2認証制度、屋久島の家町同)など普及の活動が進められてきました。

ただ、その割にウッドマイルズ自体が普及していないという思いは関係者が抱える共通ものです。

今回のフォーラムは、住宅建築関係者、行政の関係者活動が紹介され、次のステップの10年をどう展開するか、議論がされました。その潜在的な可能性を十分に生かし切れていないのでないか、会員の思いがこもった素晴らしい会でした。

ウッドマイルズフォーラム2013
(ウッドマイルズ研究会発足10周年記念フォーラム)−
プログラム

(主催者挨拶)
藤本昌也氏 研究会会長((株)式会社現代計画研究所代表取締役会長)
熊崎実氏 研究会前会長(日本木質ペレット協会会長)
【第1部:取組報告〜ウッドマイルズ研究会10年間の活動と利活用事例報告】
(※各報告者および報告タイトルは予定)
1.ウッドマイルズ研究会10年間の活動概要について
藤原敬氏 ウッドマイルズ研究会代表運営委員
滝口泰弘 ウッドマイルズ研究会事務局長
2.屋久島町ウッドマイルズ認証制度の取組
松下修氏  松下生活研究所代表
3.地域型住宅ブランド化事業における環境貢献の見える化
榎本崇秀氏 株式会社山長商店取締役副社長
4.地域材住宅とウッドマイルズレポート
小山憲治氏 新産住拓株式会社取締役

【第2部:ディスカッション〜ウッドマイルズのこれからの利活用を問う】
1.今後の国の木材利用推進施策について
阿部勲氏  林野庁林政部木材利用課長
林田康孝氏 国土交通省住宅局住宅生産課木造住宅振興室長
2.ウッドマイルズのこれからの利活用を問う
【ゲストコメンテーター】
太田猛彦氏 東京大学名誉教授
【ウッドマイルズ研究会会員】
中桐秀晴氏 山梨県森林環境部富士・東部林務環境事務所県有林課
遠藤龍一氏 株式会社マルダイ営業課長
松井郁夫氏 一般社団法人ワークショップ「き」組代表理事
藤本昌也氏、熊崎実氏、藤原敬氏 +第1部報告者 

一般社団法人化、「研究会」から普及を念頭においた名称の変更、新たな普及のための具体的な活動など、フォーラムに先立って開催された総会で活動の方針が確認されました。

(ウッドマイルズ研究会の10年、概要と展望)

内容の詳しい紹介は研究会のHPで紹介されることになるのでそちらにお任せするとして、私も「ウッドマイルズ研究会の10年、概要と展望」という話をさせていただきました。

  • ウッドマイルズが歩んだ10年間、木材の利用推進の施策が新しいステージに入った
  • そのキーワードである「地域材」が「県産材」「国産材」で終わる(?)のか、「循環社会の主役としての木材」というグローバルな情報発信になるかは大きな選択に直面している
  • 循環社会の主役としての木材を、木材供給関係者と建築の関係者が連携し普及していくためのツールとしてわかりやい環境指標の役割は重要
  • 森林と住宅の距離を縮めるウッドマイルズは、地域材を世界につなげるツール 

全文を内容を紹介します。
 1.はじめに

ウッドマイルズ研究会は、「人と地球に優しい」木材を「消費者が自信を持って選択するための手助けとして、木材の産地から消費地までの距離(ウッドマイルズ)についての様々な情報を提供し」それを主軸に「情報発信・蓄積、調査・研究、および交流の場となって、循環型社会の構築を目指した普及・啓発活動を行っていく」(設立趣意書)として2003年に設立されました。それ以来、産官学民の関係者により@ウッドマイルズ関連指標およびツールの開発、Aウッドマイルズの普及およびネットワークの形成、B関連する情報の収集及び研究、の3つの分野の活動に取り組んできました。他方でこの10年間木材利用を巡っては、公共建築物の木材材利用促進法が成立するなど、大きな進展がありました。研究会の10周年の機会に、その10年の活動を上記3つの分野に分けて振り返り、新たな状況の中でのウッドマイルズ研究と普及の意義について検討します。

2.10年間の研究会の活動

(1)ウッドマイルズ関連指標およびツールの開発

「木材の産地から消費地までの距離(ウッドマイルズ)に関する指標の開発」は当団体の目的そのものにかかわる分野ですが、2004年10月に「ウッドマイルズ関連指標算出マニュアル Ver.2003 (日本版暫定案))」を公表して以来、数度にわたる改定を行い、2008年8月に現在の版を公表しています 。@基本となる「ウッドマイレージ」(使用された木材の量(材積)に、その木材が運ばれた実際の輸送距離を乗じたもの:単位m3・km)の他に、A輸送過程の環境負荷を示す「ウッドマイレージCO2」(上記過程で排出される二酸化炭素の量:単位s-CO2)、B資源の地域循環を表す「ウッドマイレージL」(使用された木材の量(材積)に、産地と最終消費地の直線距離を掛け合わせたもの:単位m3・km)、Cトレーサビリティを示す「流通把握度」(使用木材のうち産地から消費地までの流通過程が確実に分かっている部分の割合:単位%)の四つの指数を提案しています。
「二酸化炭素排出原単位」など鍵となるデータは、会員内外の専門家の協力を得て整備され「数値を比較するなどの場合、関係者の理解が得られるように厳密で再現性があること」(マニュアル第二条)という要件を満たすともに、セミナーの中で利用者に意見を聞きながら「一定の努力と熱意があれば算出可能な簡便性をもつこと」(同上)という要件も満たすものになっています。

(2)ウッドマイルズの普及およびネットワークの形成

ア 工務店、住宅メーカー等に対する普及

上記の指標の想定するユーザーの一つは自社の作る住宅の環境性能をわかりやすく住まい手に示すことに関心のある住宅メーカー・工務店です。研究会ではウッドマイルズ関連指標の活用事例を公表するとともに、より分かりやすくPRするため、ウッドマイルズレポートという冊子を提案し具体的な利用例を公表しています 。近年、地域型住宅のブランド化などの施策もあって、利用する木材のトレーサビリティなどへの関心が高まっている中で、まだまだ、普及の実績が限定的ですが、飛躍的に広がっていく大きな可能性を持っていると思います。

イ 国、都道府県行政を通じた普及

もう一つのウッドマイルズ関連指標の想定するユーザーは、自県産材の普及を図るために県産座の認証などを進めている地方自治体です。都道府県産材の認証制度は現在全国で34あるといわれています 。都道府県行政の森林部門が、住宅部門と連携して自県産の木材利用を進める施策の一環として広がってきたものですが、自県産材の普及を環境的な視点で説明するツールとして、ウッドマイルズ関連指標が役立ちます。これに真っ先に取り組んだのが京都府の京都府産材ウッドマイレージ認証制度です。また、屋久島の家ウッドマイレージ認証制度なども生まれて広がりを見せています。

木材の合理的流通の阻害要因となる可能性を指摘されている行政区界 (木材建材ウィークリー地域材認証の功罪―阻害要因ともなる行政区界)ですが、必ずしも自県産材に限らず隣接県との連携など柔軟な取り組みが必要となっています。ここでも連携・普及のツールとなる可能性をもっているのがウッドマイルズ関連指標です。

ウ 環境の見える化運動への貢献

カーボンフットプリントは、原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまで排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して、「見える化」(表示)する仕組みで、2009年度から国のCFP試行事業により商品別の算出基準PCRが作成され普及が行われ、木材・木材製品でも検討が進められてきました。輸送過程の排出量の検討過程では先行していた研究会の成果が活用されました 。
建築物の環境負荷をわかりやすく表示することを目的として建築環境省エネルギー機構が開発している建築物総合環境性能評価システムCASBEEでは、「地域の資源の活用」という視点から「地域の山林から産出される木材資源の活用」を指標の一つとしております。「地域で産出される木材資源とは計画地が含まれる都道府県と、それに接する都道府県を範囲とする。」としていますが 、研究会の意見が反映されたところです

(3)関連する情報の収集及び研究

ア 木材調達チェックブック

建築素材としての木材の環境指標に関心を持った建築関係者が集まる研究会では、さらに、多岐にわたる環境指標を理解し、指標の総合的な利活用の推進を目指して、木材に関する様々な環境指標の現状を学ぶためのフォーラム・セミナーの開催や、森林〜木材〜家づくりの連携に焦点を当てた先駆事例の調査等を実施し、多くの議論を重ねてきました。その活動の成果を「木材調達チェックブック」という形でとりまとめました 。木材をたくさん使用する建築物に焦点を当て、建築物の作り手(設計者、施工者)及び使用者(建築主、一般市民)を対象とした暫定版で、改善普及が研究会の活動の重要な要素となります。

イ 海外での意見交換情報収集

ウッドマイルズは日本初の情報発信ですが、2005年8月バンクーバーで開催された国際建築材料学会(Conmat05)と同年9月に東京で開催されたサステイナブル建築国際学会(Sb05tokyo) でウッドマイルズ研究会の活動について英語での情報発信をしました 。建築材料としての木材のエネルギーによる評価としてのウッドマイルズとウッドマイルズ研究会の活動を紹介したものです。その直後2005年11月にモントリオールで開催された気候変動枠組み条約の第11回締約国会合(COP11)の一連の会合の中で、伐採後の木材の吸収源としての評価に関しウッドマイルズ研究会の活動について議論がされる など反響がありました。

3.木材利用拡大を巡る動向とウッドマイルズ

(1)木材利用促進に向けた政策とその背景

2010年7月に公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律が農林水産省と国土交通省両省の所管によるものとして成立したことに象徴されるように、この間の10年間で木材利用促進が政府全体の施策の重点事項として位置づけられるようになったのは大きな変化でした(政権交代にもかかわらず全会一致で法案成立)。この流れにそって、木造公共建築物への助成 、木造長期優良住宅への支援 が国の施策として行われ、2013年には「地域材を活用した木造住宅の新築、内装・外装の木質化、木材製品等の購入の際に、木材利用ポイントを付与し、地域の農林水産物等との交換等を行う木材利用ポイント事業」が実施されることとなりました。
これらの予算措置の根拠は、地域材をキーワードにして、@国内の森林の成熟により森林整備について森林造成から木材の利用に重点が移行したこと、A地球温暖化防止、循環社会の形成というグローバルな課題への木材利用の認識の拡大の二つの面があります 。前者は県産材・国産材の普及という内向きのわかりやすいメッセージ、後者は循環社会の主役としての木材というグローバルな主張です。

(2)地域材の利用とその条件

森林整備や温暖化対策など環境への貢献と結びつけて木材利用拡大を施策とする場合、市場に流通する木材の全てが対象とならないという課題が発生します。木材利用ポイント事業ではポイント付与の対象は「対象地域材」という一定のトレーサビリティが確保された木材に限定されています 。違法伐採問題などを背景として、環境と木材をリンクさせる場合の留意事項ですが、市場でどのように判別するか、木材利用が進む中で関心を広げてきた消費者や建築関係者にとってはちょっとしたハードルとなります。遠距離にわたる木材流通改訂全般にわたってこの課題に対応するため、FSCやPEFCなど第三者が認証した業者のネットワーク(CoC)による連鎖や、合法性が証明された木材の業界団体認定事業者夜連鎖など、10年間に市場で蓄積されあ情報提供の仕組みができてきました。しかしながら、コストや信頼性について議論のあるところです。

(3)木材の環境指標とウッドマイルズの役割

森林と消費者の距離を短くというウッドマイルズの考え方は、木材の環境性能を明確にするうえで二つのポイントがあります。一つは生産地が近距離であれば、消費者が生産地点の環境負荷の程度を自然に認識することができ、あえて大がかりなCoCなどの仕組みをコストをかけて導入する必要がないことです。もう一つは、輸送手段は化石資源に依存する程度が高いため、木材のようにかさばるものの輸送には二酸化炭素の排出が環境負荷として問題になることです。環境に貢献する木材の利用を進める場合に、森林と消費者の距離を縮めるウッドマイルズが大きな役割を果たす可能性を持っています。現在のキーワードとなってきた地域材が、単なる県産材や国産材の代用物でおわるのか、循環社会の主役である木材というグローバルな情報発信のキーワードとなるか、大きな違いといえますが、ウッドマイルズは後者の地域材と世界を結ぶ役割があると考えています。

4.終わりに

新しい時代の流れの中で、あらためて、ウッドマイルズが提起する問題の重要性を再認識しているところですが、これをキーワードとして木材の環境性能をさらに豊かにでん伝達ていく仕組みを多くの皆さんとともに作っていく作業の一端を担っていきたいと考えています。

energy2-64(WM10year)