「世界の森林政策の潮流」と中国の立場(2005/10/10)


9月8日〜15日、20年ぶりに北京へ行く機会がありましたでした。

国際協力機構が中国国家林業局と昨年から開始した日中林業生態研修センター計画というプロジェクトで実施する中国国内の行政機関の林業行政管理という研修コースの講師に短期専門家として派遣されたものです。

プロジェクトの目標は「日中林業生態研修センターが日中林業協力の拠点となり、6大林業重点事業に係わる県レベルの林業関係職員の事業管理・技術能力向上ための研修体系が同センターを中心に整備される」とされており、北京林業管理幹部学院という場所で行われている地方の幹部の研修を体系化しようというものです。

私の講義は、「世界の森林政策の潮流、持続可能な管理と認証制度」、「日本の森林政策の経験と課題」という二つのテーマですが、私としては、第一のテーマに思い入れがありました。森林総研に勤務している時に、本プロジェクトの宇津木リーダーから「世界の林業政策の国際的な潮流」といったことをテーマに講師のお誘いを受け、今回の訪中となったものだからですです。

日本で研修を準備する過程で私にどんな話ができるのかを検討し二つのことを整理し、さらに中国で現場を拝見してもう一つのことを加え、併せて以下の三つのことを話すこととしました。

地球環境問題の中での6大重点プロジェクト

第一は、中国が6大重点プロジェクトを通し取り組んでいる「持続可能な森林管理」の課題が研修参加者の担当する地域の持続可能な発展と人々の生活にとって重要な課題であるのみならず、地球規模の循環社会の形成という大きな課題の中でも位置づけられる、ということです。20年間森林条約など法的な拘束力をもった持続可能な森林管理の国際的な枠組みを作る試みがなされてきましたが、途上国の反対で暗礁に乗り上げてきたというのがこの間の歴史です。途上国を巻き込んだ国際政治レベルの取り組みが必要であり、途上国のリーダーを任じている中国における、持続可能な森林管理の活動は、そのような文脈の中でも重要である、というのがポイントです。

地球環境問題の中での資源消費者として中国

第二は、いままでの持続可能な森林管理の取り組みの中で、熱帯林のボイコットや、森林認証など、国家以外のアクターである環境にこだわる消費者の役割はきわめて重要であることです。最近国際的な林産物市場の中で影響力を伸ばしている中国の消費者の役割や、日本と中国の市民の成熟度合が期待されている、と指摘しました。この点については、研修とは別途中国側の行政関係者と話をする機会がありましたが、中国版の森林認証制度を作る動きが始まっているようです。(これについては追って報告します)

中国がちょっと苦手な「適応的管理


第三は、中国にいって関係者と話している内に、もう一つ追加した点です。生物多様性条約の中で生物資源管理についての、エコシツテムアプローチとか、適応的管理の重要性が国際的なコンセンサスになってきました(小サイト内「生物多様性条約と森林」参照)。
ただし、「国家のたてた計画は(特に生物管理にかかる分野では)計画通りにはならないもの」という内容を含むこの概念は、どこの国の行政機関にとっても取り扱いづらいものです。研修生に自分の省の造林計画を聞くとしっかりした答えをくれても、「それでは失敗した面積がわかりますか?」と質問すると、そもそもなぜそんな質問をするのか?というような怪訝な顔をされました。6大重点プロジェクトがうまくいくかどうか、「適応的管理」という考え方がうまく使いこなせるかどうかという点にもポイントになるのではないかと思いました。

以上の話がどれだけ受け止められたかちょっとわかりませんが、休憩時間には議論の輪ができて、真剣に受け止めてもたったのではないかと思います。




資料

世界の森林政策の潮流:持続可能な森林管理と森林認証
同中文版 世界森林政策的?展??  可持?型森林管理和森林??

を資料室におきます。

日中林業生態研修センター計画プロジェクトHP(日本語)
資料が充実していてプロジェクトだけでなく中国の森林政策への窓口としても大変便利です。


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