クリーンウッド法改定ー日本と世界の森林のガバナンスに向けた日本の消費者・木材事業者の貢献(2023/5/15)

クリーンウッド法改正案(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案)が4月26日可決成立し、5月8日公布されました。(本文概要

このこのサイトでも、気にしてきたテーマに関係する法律なので、衆参両院での審議状況などをフォローし、改正の内容審議過程で議論になった課題議論にならなかった課題、など整理してみます。

((法案の内容))

クリーンウッド法が施行してから7年立ち、木材事業者登録がうまく機能していない(13千社登録を目標(森林林業基本計画測定指標R2年)としていたが、5%しか達成できない(右図))、合法性が確認された木材の需要量は4割でしかない、といったことが、今回の改定案の背景ですが、下の図(林野庁公表の法案概要より)で示されたように、@川上・水際の木材関連事業者による合法性の確認等の義務付け、A素材生産販売事業者による情報提供の義務付け、B小売事業者の木材関連事業者への追加、の3点が主たる修正内容だとされています。順番に内容を見ていきます。

(川上・水際の木材関連事業者による合法性の確認等の義務付け)

左の図の茶色に着色してある、改正までは第一種登録事業者の対象となっていた事業者、すなわち国産材では、素材生産事業者から直接原木を購入する「川上の木材関連事業者」と、輸入材では木材を輸入する「水際の木材関連事業者」の双方に、@原材料情報の収集、合法性の確認(6条)、A記録の作成・保存(7条)、B情報の伝達(8条)、三つの義務を課すこととしています。

EU木材規則EUTRなどでいう、「欧州市場に木材製品を最初に出荷する事業者」に対するDD(ディユーデリジェンス)(上記三点)を義務づけるという内容です。

一番重要な第6条の合法性の確認の内容は、「原材料情報(樹種、伐採地域、政令で定める政府が関与した合法伐採証明書の写しなど)の収集又は整理をし、当該原材料情報を踏まえ、主務省令で定めるところにより、当該木材等が違法伐採に係る木材等に該当しない蓋然性が高いかどうかについての確認」となっています。

合法木材であることを確認は「違法伐採木材でないことの確認」ではなく「違法伐採木材に係る木材等に該当しない蓋然性が高いかどうか確認」というので、白でなくて灰色(グレー)も入るのかどうか、委員会の審議過程でも、議論がされました。が、その辺の内容が、今後作成される、政令や省令の内容に持ち越しになっています。(公布(5/8)後2年以内に施行(多分2年後の施行)なのでそれまでの検討)

(素材生産販売事業者による情報提供の義務付け)

上の図の左上ですが、国産材の場合上記の川上の事業者が、伐採造林届などの情報を欲しいと言ったら提供しなければならない、という義務づけです。

輸入材の場合はこれにあたる事業者は、海外の業者になるので、クリーンウッド法という国内法で義務付けすることはできない(二つの矢印のうち上の矢印だけに義務付け)のですね。(今後の課題です)

(小売事業者の木材関連事業者への追加)

一番上の図の右下ですが、消費者に木材を売るホームセンターなどの小売事業者を木材関連事業者の入れることになりました。(2条第4項)(法文からは少しわかりづらい)

これによって、消費者に一番近い、小売事業者がCW法の登録事業者になり、「わが社はCWしか取り扱いません!」、などとPRすることができるようになります(衆議院委員会答弁)

大きなインパクトがあると思います

((国会審議で議論された点))

国会審議の内容はネット上で、議事録やインターネット中継録画の形ですべて見ることができます。

クリーンウッド法の審議は以下の通り

衆議院 4月12日:農林水産委員会 議事録  中継録画
  4月13日:本会議 議事録(5月15日現在未公開)  中継録画
参議院 4月25日:農林水産委員会 議事録(5月15日現在未公開)  中継録画
  4月26日:本会議 議事録(5月15日現在未公開)  中継録画

実質議論がされる農林水産委員会は、とちらもほぼ3時間。合計6時間の議論がされました。その中継と議事録を見て少し勉強しました。注目すべきやり取りは以下の通り。(上の表のように、現時点(5/15)でまだ参議院の議事録が出来ていないので衆議院を中心に注目すべき議論をピックアップしてみました(議事録本文にリンクするようになっています)。参議院の議事録が公開されたら、加筆するかもしれません)

(合法木材の認知度合いと普及方法に関する国の責務)

Q:クリーンウッド法の認知度合い、林野庁の調査によると6割は知らない。どうしていくか?

A:@小売店を登録できるようにして消費者に認知を広げる、ACW確認木材のみを扱う優良事業者を公表周知する

(クリーンウッドの普及目標)

Q:基本計画策定時(2021(R3)年)に当時44%の普及率を2025(R7)年に50%にするという目標を示しているが、本法の改定で目標はどうするのか?

A:本改定法施行後の3年経過後(2028(R10)年には合法性確認木材を10割とする考え。

(事業者への配慮支援)

Q:事業者負担に対するケアや配慮に関しての取組予定如何

A:合法性証明に関する手続について、クリーンウッド法上も活用できるようにするなど、事業者の負担は必要最小限とする。また合法性確認等に係る情報の受渡しや記録保存等を電子的に行える使いやすいシステムを構築するといった取組も進めて・・・、事業者が合法性の確認等に取り組みやすい環境を整備

(G7との関係)

Q:CW法制定時もG7伊勢志摩サミットがあったことと関連している。今回の広島サミットでどのように情報発信するか?

A:違法伐採対策のために、CWの利用促進は重要な課題である。ちょうどG7があるので、我が国としてはその趣旨にそって法律改正をしたことを報告し、我が国としては、持続可能な木材利用の促進の重要性を強調して、G7各国で確認、共有をし、また、これを対外的にもアピールしていきたい

(付帯決議)

衆参両院で、以下のようなほぼ同文の付帯決議がつけられました

合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議

  違法伐採及び違法伐採に係る木材等の流通は、地球温暖化の防止、自然環境の保全、林産物の供給等の森林の有する多面的機能に影響を及ぼすおそれがあり、また、木材市場における公正な取引を害するおそれがあるものであることに鑑み、これを抑制するための取組を一層強化していくことが極めて重要となっている。

  よって、政府は、本法の施行に当たり、左記事項の実現に万全を期すべきである。

      記

 一 合法性の確認の方法等をはじめとした各措置の詳細を定めるに当たっては、関係者の意見を十分に踏まえるとともに、本法と類似制度との関係について木材関連事業者に分かりやすい形で整理を行うこと。

 二 新たに合法性の確認等が義務付けられる川上・水際の木材関連事業者及び素材生産販売事業者に対しては、罰則等の規定が設けられることに鑑み、改正内容の周知徹底を図るとともに、川中・川下の木材関連事業者に対しては、新たに追加される小売事業者も含め、合法性の確認等に関する情報が消費者まで伝わるよう、制度の趣旨及び改正内容について十分周知すること。

 三 無断伐採によって森林所有者の資産が毀損されることのないよう、1市町村が伐採届等に係るチェックを適切に行えるよう、また、2木材関連事業者による合法性の確認に当たって十分な情報提供が行われるよう、助言等を行うこと。

 四 木材関連事業者が樹木の伐採された地域における違法伐採の状況を勘案して適切に合法性の確認をすることを確保するため、原産国・地域ごとに整理した違法伐採の発生状況及びリスク情報、合法性の確認の方法に関するフローチャート等の情報を提供する等合法性の確認が適切かつ円滑に行われるようにするための必要な措置を講ずること。

 五 違法伐採及び違法伐採に係る木材等の流通の抑制には、需要側である消費者から合法性確認木材等を求めていくことが重要であることに鑑み、合法性確認木材等の流通及び利用を促進する意義に関する国民の理解醸成を一層促すための措置を講ずること。

 六 違法伐採に係る木材等を利用しないようにするための措置に十分に取り組んでいない木材関連事業者に対して実効性のある指導等を行うことにより、合法性確認木材等でない木材等の流通及び利用を抑制すること。

 七 違法伐採に係る木材等の流通の抑制に向け、リスクの低い国産材の供給拡大が図られるよう、国産材の安定的かつ持続的な供給を可能とするための施策を推進すること。

 八 木材関連事業者による合法性の確認及び情報の伝達等について、義務付けの有無にかかわらず多くの木材関連事業者が取り組むよう、積極的に取り組むことが木材関連事業者自らのメリットにつながるような措置を講ずるとともに、電子的に手続が行えるシステムを含め事業者負担の軽減が図られるよう、必要な措置を講ずること。

 九 森林所有者、素材生産販売事業者、木材関連事業者の相互の利益を確保し、林業・木材産業が持続的に発展することができるようにするため、流通過程において現場の実態等を的確に反映した価格形成が行われるよう、必要な措置を講ずること。

 十 木材関連事業者による合法性の確認や情報の伝達等の実施状況について、チェック体制を構築し、適切な指導及び助言等を行うこと。

  右決議する。 

((国会審議で議論されたかった課題))

このサイトで気にしてきことで、国会の審議で議論されなかった重要な課題もありました。

(国産材のDD達成をどのように評価するか)

欧州でDD(注意義務)といった、面倒な方法が法制化された理由は、(EUからみて)海外における木材のトレーサビリティを罰則を前提に義務化することの難しさから来ていると思います。それでは、国産材は、超簡単?

 DDが適切に実施されるハードル
 区分 A:川上・輸入事業者にとって実施すべき事項  B:管理する立場で事業者をチェックするシステム
 輸入材 @樹種・伐採地点などを確認し、A当該木材が適法に採取されたことを示す文書を入手し、保存記録する。そのために@の情報から違法伐採のリスクを判断し、Aの文書で十分かどうか判断する。仮に不十分であると判断すれば、さらに川下のサプライチェーンから必要な情報を入手する。 輸入申告の過程で、税関当局などと連携して全量をチェックする
国産材   @樹種・伐採地点などを確認し、A購入した素材生産事業者から伐採造林届のコピーを入手する 全量チェックすることは難しい

上記の表は、DDを実施するにあたって、A:川上・輸入事業者が実施すべきハードル、B:行政など管理する立場の人が実施すべきハードルを整理してみたたものです(自作)。(困難な課題があるのが灰色、そうでないのが白色)

確かにAにつては、輸入材では輸入先のサプライチェーンによっては、「違法伐採木材に係る木材等に該当しない蓋然性が高いかどうか確認」するのが難しそうですが、国産材では購入先の素材生産事業者が伐採届の届出に係ているので、「そのコピーください」で、「蓋然性は高いどころ」か、「該当しないこと」(取引相手なので嘘でないことはすぐわかる)を確認、ですので、超簡単です。

一方、Bの管理する立場に立ってみると、輸入材は輸入手続きというチェック場面があるので税関当局と連携すれば確認するのは簡単ですが、国産材にとっては、素材生産をする事業者をチェックするには?伐採届を受領した市町村と連携?(多分無理)、なぜか登録制度もなくなったようなので、行政にとって結構難しい課題があるのではないでしょうか

(業界団体の社会的責任とパワー)

事業者登録がほとんど進まない(目標の5%)のは、メリットが感じられないという指摘ですが、もう一つ、木材製品の登録に参加している1−2万の中小企業を含む事業者を認定する体制の問題があるんでないかと思います。

もちろん登録ですから第三者の登録実施機関の役割が大切なのはわかるのですが、現在の6つの登録実施機関で、1万を超える事業者の登録手続きとその管理手続きを実施するのは、難しいので、登録作業を管理手続きの一部を業界団体が実施し、登録実施機関が確認するといった分担が必要なのでないかと思います。

勉強部屋からの提案3 中小企業への支援ー業界団体の役割
製紙業界のクリーンウッド法事業者登録ー初めての一括申請の結果(2018/3/25)(参考になれば)

サプライチェーン管理の一部を業界団体にすべて任せてしまった林野庁ガイドラインは問題点もありますが、国内の小さなサプライチェーンをしっかり管理をしていくうえで、業界団体の社会的責任にその一部を担ってもらう制度作りは、世界中の参考になるんだと思います。

その上、上記でのべた国産材の素材販売事業者をチェックする役割も業界団体が担えると思います。

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以上が、クリーンウッド法改訂の内容と、課題だと思ったことです。

政省令など具体的な作業は今後進んでいくので、フォローしてまいります。

bouek4-85(Cwamseiritu)
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