ニュースレター No.256 2020年12月14日発行 (発行部数:1560部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                      一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原敬

目次
1. フロントページ:気候非常事態ネットワークClimate Emergency Network = CEN設立総会ー非常事態の中で森林の役割は?(2020/12/15)
2. 地球の炭素貯蔵庫としての都市の木造ビル群―ネイチャーが掲載した論文(2020/12/10)
3. 汚染者負担の原則によるカーボンプライジグ(炭素価格付け)が市場に与える影響-(2020/12/10)
4. 企業のCO2ぜロ戦略と森林ー巨大企業の森林・農地所有(2020/12/1)
5. 気候非常事態ー勉強部屋ニュース255編集ばなし(2020/12/14)

フロントページ:気候非常事態ネットワークClimate Emergency Network = CEN設立総会ー非常事態の中で森林の役割は?(2020/12/14)

11月18日都内のホテルで、気候異常事態ネットワークCEN設立総会が開催されたので、出席しました。私も発起人のひとりだったので

(山本会長のメッセージ)

会長の東京大学山本良一教授の情報発信が実を結んだもの
急速に拡大する世界の気候非常事態宣言についての考察2019年8月

急速に拡大する世界の気象非常事態宣言”ゼロエミッション都市と気候非常事態宣言”~日本で最初のCED(Climate Emergency Declaration)に関するシンポジウム
世界中の自治体が気候は変動でなく非常事態だ!(環境経営学会シンポ2019年12月)

以上を受けて提案曰わく「世界は気候非常事態宣言からカーボンニュートラル社会への具体的なアクションへと移行しつつある。・・・気候非常事態宣言と気候アクションプラン作りが今後自治体のみならず、企業や大学などの組織においても加速することが予想される。
以上のような背景から気候非常事態宣言とカーボンニュートラル社会へインクルシブで公正な転換を支援する自由で開かれたネットワークの設立を提案」

(グッドタイミング)

挨拶は、小池百合子(東京都知事)、小泉進次郎((環境大臣(オンライン))、梶田隆章(東京大学宇宙線研究所所長、2015年度ノーベル物理学賞受賞者、日本学術会議会長)、山口那津男(公明党代表 参議院議員)

管総理が(見えたわけではありませんが)、所信表明演説で50年には温室効果ガス排出量ゼロと宣言し、国会で相次いで気候異常事態宣言(19日衆議院20日参議院)「もはや地球温暖化問題は気候変動の域を超えて気候危機の状況に立ち至っている」そんな、タイミングの中での設立総会でした。

各界の200人ぐらい参加。「やることは決まっているのだから、あとはやろうとするかどうかだけ!」といった熱い思いが結集された会でした。

(ゼロエミッションで何が求められる?)

「国の次に、自治体、企業、大学・・非常事態宣言の枠を徹底的に拡大」。ですが、宣言は出発点、具体的な行動を。

具体例を示した水谷氏は藤沢モデルとして、徹底的な排出削減を!37の分野の削減取組を行い、でもどうしても、でうしても減らない場合は、吸収で差し引き!

となりますよね。

東京都は12月に作成したゼロエミッション東京戦略では、50年まで頑張って「なお残る排出量については、植林などによる森林吸収や更なる革新的技術の開発などにより相殺」としています

藤沢市の場合は「炭素にする」のだそうです

(非常事態の中で森林の役割は?)

つまり、吸収源としての森林評価される!!時代になってきた。

では、どうやって?

国が関与している、Jクレジットは森林分野のについて、植林活動森林経営活動の二つの手法(方法論)を提起しています。

それでは、森林経営活動の方法論で、50年生の人工林を皆伐して再造林をして確り手入れをして森づくりをした場合、この作業が吸収源対策と評価されるのでしょうか?

それは評価されません。現在の森林経営活動の方法論では、皆伐したら吸収してきた炭素がゼロになる。

木材建築物に使われたら炭素固定がされて都市の森林になる、といったストーリーがクレジットの方法論にまだ反映されていないんですね。

非常事態宣言!森林関係者も頑張るならければならないのでないかと思いました。

勉強部屋としてもこの分野頑張ります。

kokusai2-75<censetsuritu>

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 地球の炭素貯蔵庫としての都市の木造ビル群―ネイチャーが掲載した論文(2020/12/1)

Nature Sustainabilityという雑誌(があるんですね)に、Buildings as a global carbon sink(地球の炭素貯蔵庫としてのビルディング)と題する記事が最近(といっても今年の2月から)掲載されているという話を伺い、読んでみました。

イントロは、「今後数十年にわたってって世界人口の予想される成長と都市化は、新しい住宅、商業ビル、および付随するインフラストラクチャの建設に対する膨大な需要を生み出すだろう。 この建設の波に関連するセメント、鉄鋼、その他の建築材料の生産は、温室効果ガスの主要な排出源となるだろう。
世界の気候システムに対するこの潜在的な脅威を、気候変動を緩和するための強力な手段に変えることは可能だろうか? この挑発的な質問に答えるために、私たちは、無機質ベースの建設資材の炭素排出的なな生産を回避し、炭素の長期貯蔵を提供する、加工木材で設計された中層都市の建物の可能性を探る。

そこで、図1左の図:何百万年もの間、陸地の炭素プールが形成され大気中のCO2濃度がゆっくりと低下してきたが(左部分)、産業革命によって引き起こされた都市と産業の成長は、陸上の炭素プールを徐々に枯渇させ、大気中のCO2濃度を増加させ(真ん中の部分)たが、集成材や竹などのバイオベースの材料で構築された都市は、建設された炭素吸収源として機能する(右の部分)。これらの密に構築された炭素プールに炭素を貯蔵および維持することは、陸域の炭素貯蔵を補充するのに役立ち、それによって現在の大気中のCO2レベルを減らし、将来の排出を相殺、ということです。

地球規模で進む、今後の都市化によって、建築過程で排出するCO2は4ギガトンから20ギガトンと推定され(図3buisiness as usual)
全ての排出量の2割にあたるんだそうですが、建築物の9割を木質化することにより、その排出量は半減するそうです(図3右端)。

そんなに森林から木材が生産されるのか?というのが、左の図4。現在の人工林でも大丈夫そうだけれど、保護林などをのぞいた森林を生産林にした場合のシミュレーション結果(右端)なども動員し、燃料用木材を建築用に、また竹材が大切等々、十分可能であることを説明しています。図4

木材の利用拡大が環境貢献という物語でかたられることが少ないのでき気にしていました。「新国立競技場」の木材利用。ロンドンに学びそれを超えて世界に何を発信するのか?(2016/1/17)

そこに、ネイチャーという超有名なメディアに都市の大規模建築物群を木造にした場合の環境貢献の総説論文のような論文(83も引用論文が紹介されています(残念ながら日本人の論文はなかったみたい。公共建築物木材利用促進法でも引用して欲しかったです)

2月に公表されたようなので、日本の研究者の方はみんな知っている有名な情報なのかと思ってきいてみましたが、そうでもなさそう。

この論文が想定していなかったコロナ渦で都市化の進展がどうなるのか?人口減少の日本と増大の世界の違いで我が国にどんな影響があるのか、などいくつかの疑問もあります。また、持続可能な森林経営との緊密な関係性、加工を進める際の接着剤の環境性能、木材の廃棄するシステムの確立など、環境政策の中心に木材がなった場合の課題もたくさん指摘されています。

学術的な意味での可能性を広げる重要な論文のような気がします。

もちろん、現在の日本の重要な課題にとっても・・・
今後森林林業基本計画改定作業の中での木材の需要量水準をどうするか?という話や、気候非常事態ネットワークなど最近のトピックスと確りマッチした大切な情報だと思います。

関心のある方は是非お読み下さい。Buildings as a global carbon sink

kokunai4-45<bldgGCSink>

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  汚染者負担の原則によるカーボンプライジグ(炭素価格付け)が市場に与える影響-(2020/12/1)

林業経済学会 2020年秋季大会が1日から6日にかけてオンライン開催。Zoomでの発表会で6日午後、標記の題で報告しました。

1日から要旨が公表され(こちらのちょうど100ページに掲載してあります)、質問がメールで事前にあった場合は丁寧に迅速に回答して下さい、と事務局からアナウンスされていたので、待っていたのですが、事前質問はなし。

題名がおどろおどろしいので、あまり関心をひかないのかな?と思っておそるおそる、20分間のZOOM報告でした。

こちらに、資料は置いておきますが。概要を説明します。

1 はじめに(報告の背景)

勿論報告のバックグラウンドは、「気候危機」(気候変動でなく)(衆議院気候非常事態宣言決議)

2度Cにむけた、戦略は描けてない!(右の図IPCC第5 次報告のデータベースから2℃目標を65%の確率で満たすシナリオを集計した結果)

赤い線が2度に向けてのネット排出量だが、青と緑の削減努力だけでは、追いつかず、Bioenergy with Carbon Capture and Storage(バイオマス発電から排出される炭素を捕まえて地中に埋めるBECCS)が大量に必要(ということはまだ目処が立っていない技術に依存)

森林の経済学の関係している人はたくさん出番があります!

2 気候変動緩和策としてのカーボンプライシング・炭素税

汚染者が汚染防止費用を負担すべきであるPPP(Polluter-Pays Principle:汚染者負担原則)といういう考え方が1972年5月のOECD理事会が採択した勧告「環境政策の国際経済面に関するガイディング・プリンシプル」の中で提唱 され、広がっていますが、それを、温暖化対策の汚染物質である温室効果ガスに適用すると。

いくらの負担になるかを推定し(カーボンプライシング)、それを炭素税というかたちで、化石資源を市場に販売する人に負担してもらったら良いのでないかな。

炭素税はいくら?右の各国の炭素税の動向をみながら二酸化炭素に換算した温室効果ガス1トン当たり1万円で。


3 炭素税が木材利用どのような影響を与えるか

炭素税が賦課されると、木造住宅と非木造住宅の価格はどうなるのか?

それを産業連関表にもとづいて(環境研究所の「産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID)」という分析結果をつかって、)計算してみると。

左の図

木造住宅では46万円価格があがり、非木造住宅では80万円ほど値上げになります。

住宅の価格の1%ほどの価格差をどう見るかですが。

たいしたことはないという方もいますが、具体的なマーケットで、全く同じ性能の家が、木造と非木造というだけで1%値段が違う世界か形成されるとすれば、大事件だと思います。

以上です

初めてのオンライン報告大会ですたが、おかげさまで、いくつが貴重の質問をいただきました。そのなかで大切なのは、以下のような先行研究がありますよ、というご指摘

藤掛一郎(2005)炭素税が木造住宅建築需要に与える影響ー構造別住宅建築需要体系の推定とシミュレーション

ありがとうございました

junkan1-22<CtaxPPP>

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企業のCO2ぜロ戦略と森林ー巨大企業の森林・農地所有(2020/12/1)

日経ESG12月号がアップル・フォルクスワーゲンがCO2ゼロでつくるという特集記事を掲載しています。

パソコンやスマホなど製品を開発販売している米国のアップル社が、「2030年までにサプライチェーンの 100%カーボンニュートラル達成を約束」したんだそうです。

アップル社のサプライチェーン全体のGHG排出量は251万トンで76パーセントは製品製造過程、。17カ国のサプライやーつかう電力を再生可能エネルギーとして、CO2ゼロのアルミ、バイオプラスティックの利用などをつかうなどその開発投資を行い、サプライチェーン全体で大幅な削減。

ただ、どうしてもゼロにならない部分は森林によるクレジットで対応。

ということで、アップルの他に、アマゾン、フォルクスワーゲン、ロイアルダッチシェルなどが森林保有に動いているんだそうです。

フォルクスワーゲンはインドネシアボルネオの森林を保有して、750万トンのクレジットを発行しているんだとか。

保有することがどのようにクレジットにつながるのか、少し解りづらいところもあります。

が、カーボンを地中に埋めるといった技術が開発されるまでに、急いで排出削減をしなければならないという、「気候非常事態」になっている中で、森林の吸収源や木材の活用などの手法が大切な役割を果たしそうです。

まだ十分に開発されていない、森林の吸収機能を拡大する事業推進、それに、木材の利用の革新的な手法の導入などを、どのように評価して、分かり易くクレジットとしていく手法の開発が、大切な検討テーマになっているように思います。

junkan5-6<BigBCO2zero>

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 気候非常事態ー勉強部屋ニュース256編集ばなし(2020/12/14)

今回の記事はのソースは様々。久しぶりにリアルな集会CENの設立総会、ネット配信のネイチャー誌、初めてのネット上の林業経済学会報告会、日経ESGと色々な場所での情報受信と発信の話ですが、すべて一つのテーマ、気候変動に関連するモノとなりました。

本当に非常事態なんですね。気候非常事態ネットワークCEN山本会長のいう、「真っ暗な映画館で火事だと誰かが叫んだらどうする?、出口がなかったら?」そんな状況に少し対応。

今年もあと半月になりました。長いこと続いているこの勉強部屋も情報発信だけでなく、受信をどうするという課題があり、そういえばZoomという手段があるんだかからそれを利用できないかなー。とりあえず、22日の昼16時からZOOM会議開催します。

事前予約は必要ないんですが、関心のある方はメールをいただけるとありがたいです。

次号以降の予告、バイデン大統領の森林問題、ポストCOVID-19と森林、地域の建築と小さな林業の全国ネットワークー新しいウッドマイルズの可能性、、FITと森林認証システムSGEC/PEFCの場合、御殿場の木質バイオマス発電ーローカルな林業の可能性

konosaito<hensyukouki>

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara.takashi1@gmail.com