ニュースレター No.245 2020年1月15日発行 (発行部数:1540部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                      一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原敬

目次
1 フロントページ:現代日本とヨーロッパにおける林業と森林管理問題(2020/1/15)
2. 気候変動枠組み条約COP25と森林(2020/1/15)
3. 「絶望の林業」を読むー絶望のその先に希望?(2020/1/15)
4. 森林サービスに関する関心の拡がりー勉強部屋ニュース244編集ばなし(2020/1/15)

フロントページ:現代日本とヨーロッパにおける林業と森林管理問題(2020/1/15)

少し昔のことになって済みません。

昨年11月9日上智大学で開催された、「現代日本とヨーロッパにおける林業と森林管理問題ー森林経済学によるアプローチ」と題するシンポジウムに出席しました。

当面の利害関係者である業界関係者向けでない、上智大学のSophia Open Research Week Symposiumというシリーズイベントの中で語られた現代日本林業と森林管理問題。

プログラムは以下の通りで、フィンランド大学のOlli Tahvonen 教授の基調講演が、現代ヨーロッパにおける林業・森林管理問題の森林経済学によるアプローチとした部分で、続いて講演された日本人の3人の話が、それを背景とした現代日本における林業森林管理問題。

フルに出席することができなかったので、すべての方から講演資料のデータをお送り頂き(ありがとうございました)、確認・勉強をし直しました。

基調講演については、おってご報告しますが、今回は国内林業政策の最前線の3本の講演を紹介します。

ーーーーーーー

開会の挨拶
堀江 哲也(上智大学経済学部 准教授)
司会 長谷部 拓也(上智大学国際教養学部 准教授)
基調講演
Olli Tahvonen (Professor, Economic-ecological optimization group, University of Helsinki) Economics of forestry, climate change and biodiversity
講演
転換期を迎える日本の林業~22世紀に森林資源をつなぐことができるか
三重野 裕通(林野庁経営課 課長補佐)
集約管理による小規模森林経営の展望
堀澤 正彦(北信州森林組合 業務課長)
1990年代以降の諸外国における林業の動向と日本の林産物市場への影響
立花 敏(筑波大学生命環境系 准教授)
パネルディスカッション
日本の森林資源管理と林業の課題解決に向けての新たな提案


(転換期を迎える日本の林業~22世紀に森林資源をつなぐことができるか)

 

林野庁経営課三重野裕通総括課長補佐



(転換期を迎える日本の林業~22世紀に森林資源をつなぐことができるか)pdf

目次

第1部 森と木 木と暮らし そのつながり
第2部 日本の林業現在の到達点
第3部 エコロジー(再造林)はエコノミーにつながりうるか
第4部 これを支える政策の動き

―――

色んな意味で転換期ですが、特にサブタイトル「22世紀に森林資源をつなぐことができるか」が重要。こういうタイトルで林野庁の政策担当者の話がきけるというのは(業界関係者の集まりでない)学術的なイベントの楽しみ。

 話のほとんどは「第三部エコロジー(再造林)はエコノミーにつながるか?」

再造林の話は地域によっては、これからの課題だが宮崎勤務した経験からの今日の課題。

(デメリット)      (対応策)

・コストがかかるーーー>疎植+一貫作業等、下刈省力化により収支改善

・管理が必要ーーー>疎植により管理手間の少ない森林を造成伐採時の境界確認強化

・財産承継者が不明ーーー>経営管理制度の活用

・災害を受ける可能性ーーー>森林保険制度の活用

・無断伐採される可能性ーーー>合法木材流通対策を推進し透明性を確保

 担い手不足時代に適応した再造林の仕組みを作り・コスト面の競争力を高めることにより、「日本をNZ、チリに並ぶ世界有数の暖温帯林業地帯して再生したい」!!


(集約管理による小規模森林経営の展望)

北信州森林組合堀澤正彦事業課長

 (集約管理による小規模森林経営の展望)pdf

目次

北信州森林組合の概要
北信州森林組合の取り組み
あらたな森林管理スキームへ
おわりに

―――

「小規模分散型の私有林が多く、所有規模の問題が森林利活用の足かせになっている」典型的な私有林地帯

地域集約による受託管理や、情報インフラ整備を実施してきました

 新たな森林管理スキームは二つの流れ。①森林信託など所有権と経営権の分離を推進をはじめとした徹底的なマーケットの活用と②それができないところはESG(環境への支払)をベースとした環境林へ移行

森林経営管理制度が創設され、自治体が森林管理権の集積を行う動きもあるが、弱体化した地方林務行政では荷が重く、手に負えないという自治体も少なくない。ので、民間(産業)イニシアチブで積極的に集約管理(経営主体の転換)を進めるべき

森林組合というある種の公的組織の関係者が、ビジネスのイニシアティブを語ったこと印象的でした

 


(1990年代以降の諸外国における林業の動向と日本の林産物市場への影響)

 

筑波大学立花敏准教授

 (1990年代以降の諸外国における林業の動向と日本の林産物市場への影響)pdf

目次

⾃⼰紹介・講演のねらい
・持続可能な森林管理と材利
・諸外国の森林管理
本を主とする林産物貿易の
・需要から本の森林経営(林業)の

――――

最後は林政審議会副会長筑波大学立花敏准教授

グローバルなバックグランドのも含めた森林の課題はなにか①世界の森林⾯積の減少と木材消費量が増加しているので、②如何に化石燃料や枯渇性資源の消費を減らすか、③如何に再生可能な森林の管理と木材の利用を促すかが課題

NZでは、長い時間かけて生産性の向上がはかられ、ヘクタール当たり育林費が、日本の10分の一、米国では連邦有林や州有林が自然保護問題から木材生産から離れ、民有林の針葉樹人工林が木材の中心をほとんど担う、線引きの世界

それで、日本では、

きな向性

柱取り林業から次のステージへ(無垢の製材品の需要拡は限定的)⇒植栽や下刈りを含む施業そのものの変・多様化
林業適地の検討⇒ゾーニング
所有と経営の分離⇒投資の促進
⽴⽊価格を如何にめる

(産官学三者がかたる未来の林業)

大きな木材社会の到来を展望して、22世紀に森林資源をつなぐことができるか?

もう少し具体的な展望が語られると良かったかもしれませんが、①環境林と生産林の線引き、②環境林に対する公的な管理の徹底と、③生産林に対する市場の力の展開。そんな方向で進んでいる先進国と、少し違う日本の現状。違いは何で生じたか?それをふまえて行く道は、三人とも同じような方向を示唆されていたと思います。

kokunai6-52<sophia ringyo>  

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気候変動枠組み条約COP25と森林(2020/1/15)

昨年の12 月 2 日から 15 日まで,スペイン・マドリードにおいて、国連気候変動枠組条約第 25 回締約国会議(COP25),京都議定書第 15 回締約国会合(CMP15),パリ協定第2 回締約国会合(CMA2)、科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)及び実施に関する補助機関(SBI)第 51 回会合が行われました。

国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)、京都議定書第15回締約国会合(CMP15)パリ協定第2回締約国会合(CMA2)について【12/2~15 スペイン・マドリード】(環境省)
COP25の概要と残された課題(国立環境研究所)
国連気候変動枠組条約第 25 回締約国会議(COP25)(結果)(日本政府代表団)

国連気候変動枠組条約事務局 COP25公式サイト(英語)

恒例のフォレストカーボンセミナー:COP25等報告会国際緑化推進センター)が12月26日開催されたので出席してきました。

ーーーー報告は以下の4件(報告用のデータpdfは国際緑化推進センターのサイトから)
谷 秀治氏 林野庁森林利用課 COP25と森林
小山 勉氏 林野庁森林利用課 IPCC報告書における森林吸収源等の最近の取扱
中野 彰子氏 林野庁海外林業協力室 REDD+資金をめぐる最新動向:COP25と緑の気候基金
神山 真吾氏  同上 二国間クレジット制度(JCM)におけるREDD+について
ーーーー

(パリ協定6条の詳細決定持ち越し)

COP25は日程を2日間延長したが、いよいよ今年から実施が始まるパリ条約野実施ルールの一部が決まらないままになったとされています。(COP25閉幕 「パリ協定」ルールの一部は合意できず

パリ条約第6条は、「複数の国が協力して両国の合計の排出量を減らしていく制度が想定されています。国家間の排出量取引制度などの市場メカニズムもここに含まれます。」「6条を積極的に活用して自国の2030年排出削減目標をより達成しやすくしようと試みたブラジルやオーストラリア、中国などと、利用を最小限度に抑えるべきとした欧州や小島嶼諸国等との間で歩み寄りが見られず、来年に持ち越されました。」(以上国立環境研究所のページ

 
 中野報告:
REDD+資金をめぐる最新動向:COP25と緑の気候基金より 

(REDD+への影響)

「複数の国が協力して両国の合計の排出量を減らしていく制度」といえば、森林分野でも重要な、パリ条約で5条2項で実施と支援を奨励されている「途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)」。その実施細則(市場メカニズム)が決められなかったということになります。

今回の報告で、REDD;関係の報告が二つ並ぶのもその関係ですね。(左図参照)

重要な内容がなぜきまらなかったか、というと(他国での実施内容を自国の削減量とみとめる)「クレジットを認めると、地球全体の排出量はその分増加してもよいことになってしまう、ということで、反対する人たちが結構多い、ということのようです。

REDD+などの森林分野の取り組みが、本当に信頼性のある取り組みとして実施されるものか、と、様々な人が注目しているのだということを、再認識しました。

(市場メカニズムと日本の森林管理)

市場メカニズムが問題になっていると聞いて、炭素の値段、排出者に対するコスト負担(炭素税ーカーボンプライシング炭素税と排出量取引を活用 経済構造転換が不可欠)という問題が、けっこう話題になっているのかと思って、質問してみました。

「市場メカニズムが議論されてるといいますが、REDD+の実施のように途上国の森林管理に関する重要なテーマであるのは解りますがが、先進国の木材利用とか森林管理に関係する話題にはなっていないのでしょうか」

COP25の市場メカニズムの議論は複数国の取り組みというパリ協定第6条の中で行われているようなので、残念ながらピンボケ質問でした。

炭素税と排出量取引を活用 経済構造転換が不可欠 日経産業新聞2019/8/30付
世界の先進事例から考える、日本におけるカーボン プライシングのあり方 みずほ情報総研レポートvol132017

(その他森林分野に関するCOP25のトピックス)

谷 秀治氏 林野庁森林利用課 COP25と森林 ではさらに以下の二つのトピックスが紹介されました。

12月11日、熱帯地域の気候変動と生物多様性への森林に基づく解決策をテーマとしたサイドイベントを開催(森林総合研究所と国際熱帯木材機関(ITTO)の共催)

(国連気候変動枠組条約第25回締約国会合(COP25)公式サイドイベント 『熱帯における、気候変動対策とSDGs達成のための森林ベースの解決策』 “Forest based solutions in the tropics to combat climate change and for achieving SDGs(森林総研HP)

12月12日、世界的な森林減少傾向の転換に向け、国連関係機関 によるハイレベル対話を開催 。この中で、チリ政府は「サンティアゴ森林行動のための呼びか。

At COP25, a Call to Turn the Tide on Deforestation

kokusai2-70<unsophia ringyo>

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「絶望の林業を」読むー絶望の先に希望?(2020/1/15)


「絶望の林業」本のタイトルには以下のことばが踊る―いま、日本の林業の現場で何が行われているのか?補助金漬け、死傷者続出、低賃金、相次ぐ盗伐、非科学的な施策・・・官製「成長産業」の「不都合な真実」

これだけ読むと、「ある種のジャーナリストが自分の言説を実態をよく知らない一般市民に、SNSを通じて訴求するためのテクニック」という感じもします。だが、著者は勉強部屋の古くからの読者で知らない人でもなし、知人の推薦もあり、マスコミの書評もあり、読んでみました。

絶望の林業(新泉社)出版社基本情報
書評:朝日新聞(石川尚文)北海道新聞(ルポライター山村基毅)日経新聞(岡田秀二(会員制)その他

構成は、第1章絶望の林業、第2章失望の林業、第3章希望の林業

(1章絶望の林業)

第1章出だしの問題提起が「「林業成長産業化」は机上の空論」。机上の空論かどうかは別にして、「林業を成長産業化する」という政策目標を掲げることのリスクを、私自身も感じています

森林所有と主観的森林幸福度の関係ー成長産業の基盤を所有することは不幸せ?2019/10/15

「林地に投入される金額と、そこからえられる金額をトータルに比べると赤字」補助金がなくなったらどうなるの?とりあえず問題意識を共有。一体どうしたらいいのか?

その後、外材に責任を押しつける(国産材業界、政策批判)、森も林業も知らない(林業家批判),木の値段は高いという神話(を信じている一般消費者の問題点)と、林業のステークホルダー川下から川上までの批判がならぶ。「絶望の林業のさわり」で2部の本論のイントロ。

(第2章失望の林業)

第2章は、筆者が国内、海外をジャーナリストとして歩いた経験にもとづく、林業現場の危機感が表出。

Ⅰ.諦観の林業現場
〇騙し合いの木材取引現場、〇事故率が15倍の労働環境・・・
Ⅱ.残念な林業家たち
〇改革したくない森林組合、〇倫理なき素材生産業者・・・
Ⅲ.滑稽な木材商品群
〇木を見せない木造建築の罠、〇国産材を世界一安く輸出する愚・・・
Ⅳ.痛恨の林業政策
〇モラルハザードを起こす補助金行政、〇地球環境という神風の扱い方・・・

本当のことなのかもしれません。
が、筆者の主張の根拠となる重要な事実について、根拠が記載されていなくて、不満(一部二部を通じて)。批判の対象は匿名とした、とはあるが、匿名でもよいかもしれないが、重要な言説は出展の根拠がほしいです。これでは、風説以上に学術的に議論できない、この著書の問題点。決して反論するためだけでなく、深掘りしたいという人のためにも。

例えば・・・

「外材に責任を押しつけるのは逃げ口上」の文脈の中で、p28 輸入材が始まったころ、輸入に関わった木材業者によると「1950年代外材は国産材の23倍の値段はした」という・・。

p242 「薄利多売でやっていかねばならない」と言う反応が(林野庁関係者から)かえってきた。

p246 実際林野庁からの出向者が大規模な機械化林業を推進し数年後に去って行ったが、・・残されたのは広大な皆伐の跡地である(地元に根付く覚悟がないから)。

P236 日本の山を見て「林道と作業道を入れすぎ、こんなに道を入れると山が痛む」と指摘したオーストリアのフォレスターもいた。

勿論、学術論文でないので、「こんなこともあるのだな、と知ってもらえればよいのだ」ということかもしれませんが、それぞれの立場で、重要な指摘なので、もっとそこの所を知りたい、思う人にも解るような配慮がほしいです。

あと、記述にケアレスミスのような事実誤認があります(批判の重要な根拠とは違うが)例えば、P222「公共事業に合法木材を使う、グリーン購入法を2000年に制定した」(グリーン購入法が制定されたのは2000年だが、これに基づいて合法木材を使うようになったのは2007年)

(3章希望の林業)

そして、第3章希望の林業。吉野林業の歴史が語られています。①修験者が集まる,宗教的ベースの元で、日本中の情報が集まり、それをベースにした多様な商品群。②山林所有者と山守といった森林整備の長期的な視野を持つべき人々が戦略的なリードをする。といった二つのことが大切だった。

勿論筆者が指摘するように、各地のそれぞれの条件にみあった多様な道筋があり、画一的な道が提示されて瞬間に、形骸化する、という指摘は大切かも。いろいろ考える種があります。

(「林業の関係者」の拡がりの中で)

日本で林業に関心がある人はほとんどが、地方自治体の政策担当者、森林組合の関係者、木材加工流通者など何らかのかたちで、林業政策執行過程に関与している人。多くは補助金の執行過程などに利害関係を持っている人たち(公的な委託調査事業に少し関与している私も含めて)。その人たちが生板にのってい本のマーケットは?

最近森林に関しては、木材利用の拡大、バイオマスエネルギーなどをきっかけにして、新築住宅の施主、建築関係者、発電事業者などまったく別の分野の方が、新しく関心を広げてきています。そういう方々が興味をもって読まれるでしょう。

林業が成長産業化し市場の中で、一人立ちをする過程にあります。市場の外からの政策がどんな役割をはたすのか、また、公的資金がどんな役割をもつのか、持たないのか、皆で考える必要がある重要な局面で、参考になる本だと思います。、

 


kokunai6-53<zetsubo>

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 正月ー勉強部屋ニュース245編集ばなし(2020/1/15)

正月休みに勉強して今回ご紹介した、「現代日本とヨーロッパにおける林業と森林管理問題」と、「絶望の林業」。この二つをよんで、「森林林業の課題を語るときに、現場から語ることが大切」そのことを痛感しました。

持続可能な森林管理のための勉強部屋というツールを動かす立場でも、そのことが大切。少し心を入れ替えて、ことしは現地にお邪魔します。

関わっている林業経済研究所のとなりに、神田明神があります。初詣をして、開運、勝守、二つのお守りを手にもって、霞ヶ関周辺の新年の挨拶にまわりました。「勉強部屋読んでます」。今年も宜しくお願いします。

次号以降の予告、現代欧州の森林林業の現状ー森林経済学の視点から、令和の山づくり、森林外交論続き、書評:諸外国の森林投資と林業経営-世界の育林経営が問うもの―、グリーンインフラ論と森林、勉強部屋の20年

konosaito<hensyukouki>

  

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp