ニュースレター No.238 2019年6月15日発行 (発行部数:1450部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 

                      一般社団法人 持続可能森林なフォーラム 藤原

目次
1  フロントページ:国有林の木材利用に関する新たな法律を巡る議論(2019/6/15)
2. パリ協定の詳細ルールと伐採木材製品(2019/6/15)
3. 固体バイオマス燃料国際規格化シンポジウム(2019/6/15)
4. 木質バイオマス固定価格買い取り制度の次のステップ(2019/6/15)
5. 持続可能な森林にとっての「産学官音連携」ー勉強部屋ニュース236編集ばなし(2019/6/15

フロントページ:国有林の木材利用に関する新たな法律を巡る議論(2019/6/15)

6月5日の参議院本会議で、改正国有林管理経営法が可決成立しました(自民公明、国民民主等など賛成、立憲民主党、共産党など反対)

昨年の森林管理法につづく森林行政の基本にかかる大きな法案でしたが、このような法案審議過程をみると、いまの森林政策のなにが課題になっているかがよくわかるので、フォローしてみます。

((法案の中身))

上の図が、林野庁が法案概要説明の一番最初に掲載される図です。(国有林の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案の概要)(本文、改正理由などは、こちらのページで

図の上側が民有林の管理経営法で、意欲と能力のある林業経営者に経営管理権を設定するとなっている部分ですが、その事業者に大きな赤い矢印がのびていて、「長期・安定的に国有林材を供給」と説明されています。

今まで国有林で毎年入札により決められてきた立木販売の相手先を、今回の法律で、立木を一定期間(10年程度最高50年)安定的に伐採できる区域を設定し、意欲と能力のある事業者と長期契約を結べるようにする、というのが今回の改正のポイントです。

((法案審議過程))

2010年以降の国会の本会議、委員会でのすべての審議過程が録画されインターネットで公開されています(衆議院参議院)。5月14日衆議院の農林水産委員会の参考人質疑を検索した結果が以下の通りです。(ちなみに参議院参考人質疑はこちら

 衆議院TVインターネット審議中継 ビデオライブラリー

開会日 : 2019年5月14日 (火)
会議名 : 農林水産委員会 (3時間06分)
案件: 国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案(198国会閣31 )

説明・質疑者等(発言順): 開始時刻 所要時間
 武藤容治(農林水産委員長)  9時 00分  02分
 立花敏(参考人 筑波大学生命環境系准教授)  9時 02分  15分
 日高勝三郎(参考人 全国素材生産業協同組合連合会会長)  9時 17分  10分
 土屋俊幸(参考人 東京農工大学大学院農学研究院教授)  9時 27分  17分
 野口俊邦(参考人 信州大学名誉教授)  9時 44分  17分
 宮路拓馬(自由民主党)  10時 01分  20分
 稲津久(公明党)  10時 21分  21分
 佐々木隆博(立憲民主党・無所属フォーラム)  10時 42分  19分
 近藤和也(国民民主党・無所属クラブ)  11時 01分  19分
 田村貴昭(日本共産党)  11時 20分  22分
 森夏枝(日本維新の会)  11時 42分  21分

参考人として知人がたくさん出ているので、しっかり聞きました(議事録はちら)
それにそって、議論の中身を整理して見ました

(国有林の木材シフト)

前述のように、国有林の木材生産過程を民間企業の力を使って効率的にする、というのがこの法律の趣旨だとすると、国有林の木材生産機能に着目した法律です。

「国有林はメリハリをつけ保護林、生産保安林、生産林の三つに分け他の先進国より遅れている木材利用機能を進めることが大切。日本より森林面積がすくないドイツと比べる日本の生産量は少ない。ドイツなど先進国の林業が共同化・窓口一本化など大ロット化して大型化した製材過程と連携を深めることで成果をあげており」法案はその流れにそったもの。(立花参考人)

国際的には一人一日あたり30立方メートルほどの丸太の生産性なのに、日本では少しよくなったといってもよいところでその半分。国有林は技術を普及させるためのプラットフォームの役割を果たすほか、木材生産林のしっかりした区画が必要。(立花参考人)

日本の林業の非効率性は大きな問題ですので、これでうまくいくのか、注目しましょう。

木材にシフトという方向性をもつこの法案が持っているリスクは?「過去に木材にシフトして数々の失敗をした独自の歴史をもつ国有林」(野口参考人)の公益的機能はどうなるのか?

(出発点は未来投資戦略2018で大丈夫か?)

林野庁は本法案検討過程で昨年の林政審議会の場で、資料4 未来投資戦略2018 等を踏まえた国有林の民間活力導入について(PDF : 401KB)を配付しています。

今回の改正案が提案された出発点が、公共施設の管理運営する権利を長期にわたって一括して民間企業に長期渡って付与するコンセッション方式などを提唱する未来投資会議の成長戦略だったことも心配のたね(土屋参考人)。その辺は林政審議会の場でしっかり検討しており、公益的機能を担保する林野庁の権限がぎりぎり担保(土屋参考人)。

公益性がどのように確保されていくかは今後の課題だが、この点で日本の国有林で今立ち後れている、リクリエーション、生物多様性という側面について、意思決定のガバナンスルールをはっきりさせた上で、資金、人的資源の投入(他の先進国に比べて見劣りする)をすべき(土屋参考人)

公益性・環境ガバナンスという点で、今回の法案が持つネガティブな点は何でしょうか?皆伐面積が拡大するか?NO、5ヘクタールの上限は替わらない。再造林の担保かがない?No.相手先に造林過程の契約もするように要請するが、何らかの理由で受け入れない場合は、国の責任で他の事業者を通じた実施をする。のだそうです。

それでは、リスクは?あるまとまった国有林の現場の伐採・再造林といった作業が数年にわたってある民間業者に契約されることのリスク。国有林の現場作業を外部委託する問題点は、契約が終了した時点で隅から隅まで仕様書通りに執行されているのか確認することが極めて難しい点にあります。数年たって再造林がうまくいかないことがわかった場合、その地域を皆伐すると判断した発注者側の問題なのか?手抜きをした受注者側の問題なのか?常にそのようなリスクをもった事業です。ですから、受注者を誰にするかが問題。そして仕様書通りしっかり実施がされているのか管理する手続きや評価能力・・・。これは常に国有林野管理当局が迫られる課題です。

(国有林の現場をコントロールできるのか林野庁の課題)

毎日新聞5月25日号に「山肌さらす国有林」と大きな見出しの記事が載りましたpdfファイル

「現行ルールによるわずか9ヘクタールの伐採地ですら、再造林がはかどらず、山肌をさらしていた。政府は伐採後に森林を再生させると説明するが、本当に可能なのか?

記事を書いたT記者が知人で、コメントを求めれました。9ヘクタールほどの分収育林の跡地の造林がうまくいかない。何で5ヘクタールでなくて9ヘクタール?分収育林で収益権を民間人と共有して特殊なケースなのかもしれない。などなど。自問自答。
林野庁に話しを聞くと、9ヘクタールの1割ほどが台風やシカの影響で不成績になっているそうです。

T記者には「皆伐跡地の不成績造林のリスクは常にあるし、その場所を皆伐しようとした森林計画にも関わること。しっかり、失敗も含めて実績が評価され蓄積されているかがているかどうかがポイント。かつてのよう収入を念頭においたリスクが拡大する仕組みが温存されているかが、一番のポイントですね。行政のパフォーマンスの評価の中で、国有林野事業をほど難しい事業はないので、しっかりフォローしてください」と、伝えておきました。

皆伐した跡地の再造林がどんなになっていくのか?特に国有林の場合は注目です。平成から令和にかけて実施された「あのときの森づくり」。昭和の中頃の大規模造林地の後の二代目の造林が、どこが皆伐で、どこが非皆伐?どんな人たちがどんなシステムだったのでうまくいったのか?(失敗したのか?)

責任は国有林を管理する林野庁にあるのでしょうが、住民や国民、地球市民、マスコミなどとのコミュニケーションが鍵を握っていると思います。T記者にもよろしくといっておきました。

kokunai12-2<NFLkaisei2019>

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パリ協定が実施されると木材の利用が進むのか?-COP24と伐採木材製品(2019/6/15)

パリ協定の進め方の詳細が決められた気候変動枠組み条約COP24については、気候変動枠組み条約COP24と森林パリ協定が熱帯林に貢献する道筋ーREDD+の最新情報などで丁寧に報告してきたつもりですが、一点、標記、伐採木材製品についての報告が抜けていました。

伐採木材製品問題は、森林吸収源の評価が伐採されたら排出とカウントされる京都議定書の初期の段階での問題点についての重要な論点で、当サイトでも追いかけてきました。


二酸化炭素吸収源としての伐採木材製品(2004/9/12)
ポスト京都議定書の吸収源対策にむけてー秋の学会から(2003/10/14)(2004/9/10一部改訂)

(京都議定書までの伐採木材製品)

京都議定書では当初、森林で固定された炭素は伐採された段階で排出される前提で森林吸収量を計測していましたが、COP17ダーバン会合で、伐採された後も建築材料などで固定されている炭素を計測して吸収量に参入する方法が提案されました。COP17気候変動枠組み条約ダーバン会合と森林・木材吸収源(2011/12/23)(2012/1/28改訂)

①生産法(ある国の森林で吸収固定された木材の増加減少分を当該国の吸収排出量とする)、②蓄積変化法(ある国に存在する木材蓄積と普及の差し引きを吸収量とする)、③大気フロー法(自国の森林で吸収された量から自国で腐朽して排出された量を差し引く)の三通りです。

京都議定書第二計画期間ではじめて、伐採木材問題を計測することとなったときにはほぼ「生産法」で実施することとなりました。

(パリ協定での伐採木材製品の扱い方)

パリ協定では、①自国の削減目標(NDC)の明確性、透明性、理解を促進する情報(ICTU)を提示する、また、②温室効果ガスインベントリ報告すると、伐採木材製品の取り扱いに関係ある二つに手続きが規定されています。そのうち、①については上記)三つの方法のどれを使っても良いこと(Decision4/CMA1のパラ13及び付属書IIの1(f)、②につてはややり三つの方法のどれを使っても良いが、生産法以外の方法を使うときは生産法でも計算する(Decison 18/CMA1パラ20)こととされました。

もともと、国産材に目をむける「生産法」は国産材に力をいれる日本政府(やどの国の森林管理当局)にとっては好ましいので、これが続いていくのだと思います。

ただし個人的には、、①今回途上国も含めた全ての国が報告することとなったこともあり、ダブルカウントをさけるための調整が必要になってきたので見直しをするチェンス、②日本からの輸出国もふくめて世界中で木材の利用を進めていこう!というメッセージを実現するとすれば、各国が内外無差別の蓄積管理法をとっていくのが望ましいのではないか?(藤原敬:気候変動枠組み条約における伐採木材製品の取り扱い(会員制寄稿誌「日本の森林を考える」通巻22 号 pp.38-43)と、前々から考えていました。

パリ協定の実施過程で、すこしフレキシブルになった議論の場で、世界で循環社会の主役である,木材に利用促進の仕組みが気候変動の枠組みのなかでも進んでいくことを期待します。

本稿作成にあたり、森林技術5月号(連載パリ協定と森林第18回パリ詳細ルールにおける自然錯乱とHWP)、林野庁大沼情報管理官他)、木材利用システム研究会第86回月例研究会恒次報告など参考にさせて頂きました

kokusai2-69<cop24hwp>

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固体バイオマス燃料国際規格化シンポジウム(2015/5/15)

5月17日都内で「固体バイオマス燃料規格化シンポジウム」が開催されたので出席しました。

​【主催】固体バイオ燃料国際規格化研究会
【共催】 一般社団法人日本木質ペレット協会ペレットクラブ
     近畿大学バイオコークス研究所
【後援】農林水産省
【協賛】 一般社団法人日本エネルギー学会
     一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会

集まった100人ほどのバイオマス燃料関連産官学関係者業界関係者の前で、冒頭、主催団体「固体バイオ燃料国際規格化研究会」の代表幹事である森林総研吉田貴紘木材乾燥研究室長は、開催趣旨を以下のように紹介しました。

「低炭素化社会・持続可能な社会に向けて、バイオマス燃料の役割はきわめて重要だが、製品が標準規格化されユーザーが安全・安心して使える環境が整っていない。世界では国際標準化委員会ISOで35の規格ができている。日本のユーザーが輸入品の安全性(火災・事故へのリスク)・使いやすさ(保管のしやすさ)などを選択する可能性もある。安全安心なバイオ燃料を消費者に提供する道筋をつけようと研究会ができた。本日はそのキックオフ会議」(吉田室長基調報告

林野庁から研究指導課担当室長以下3名の担当者が来賓として出席

メインイベントはISO本件責任者レナートヤンセンISO/TC238議長(スウェーデンFieflyAD社社長)が「固体バイオマス燃料のISO規格その歴史と意義」と題する招待講演。

20年にわたる欧州の固体バイオ燃料の規格化は、化石資源や原子力などと違って、安全安心して使えるバイオマスにしていくための努力だ、として、木質ペレット、木質チップ、ブリケットなどの製品別仕様と分類に関する規格群、安全性・含水率・耐久性など横並びで応用できる規格群など実施にうつされている規格が紹介されました。

会議では、木質ペレット規格の関係者の参画表明の他、石炭の規格評価コンサル企業の関心が示されるなど、需要の拡大・グローバル化が進む木質バイオマス燃料のマーケットに対して、他産業の関係者が関心をもってのぞんでいることも注目されます。

会場からは「FITの関係で国内で議論されているバイオマス製品の製造過程の温室効果ガスのLCA排出量などの規格はどのように位置づけられるのか?」という質問が複数あり、「本日紹介したISO/TC238の議論は製品の物理的性質に関するもので、ご指摘の環境的性能に関する品質は、今後、燃焼器の規格などが整備されたあとに、他のTC、PCと連携して議論されるのではないか」(吉田室長)とされました。

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  木質バイオマス固定価格買い取り制度の次のステップ?(2019/6/15)

左の図は、経産省総合資源エネルギー調査会のもとで開催されている バイオマス持続可能性ワーキンググループ第一回会合(4月18日)の席上で事務局から配付された
資料5 環境への影響について(地球環境への影響を中心に)に掲載されたものです。

縦軸は一定の電力量発電に必要なライフサイクルGHG温室効果ガス排出量(g-CO2/MJElrctricity)

横線は上から、石炭火力のライフサイクルGHG排出量、石油火力の同、LNGの同、LNGコンパインドの同。

横軸にならんでいるのが、バイオマスの種類。右から、パーム油(PAO副産物)東南アジア、キャノーラ油(アフリカ)、落花生油(アフリカ)・・とならんで6番目が木質チップ(北米東海岸)。

カーボンニュートラルで化石燃料に比べて地球環境に優しいとされるバイオマス燃料ですが、輸送過程や加工過程にエネルギーが必要でそれらを計算すると(燃焼過程で固定されていた炭素が二酸化炭素として放出される分はライフサイクルで吸収したカーボンニュートラルものなので除いても)効率的な化石資源発電システムより多くの温室効果ガスが発生することが示されています。(原データは三菱UFJリサーチアンドコンサルタント:平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査バイオマス発電を含めたバイオマス利用のあり方に係る調査報告書112ページ)

FITという消費者の負担による助成制度のなかで、これらの問題をどのように処理するのかが、今回のワーキンググループの課題の一つになるようです。(資料3 バイオマス発電燃料の持続可能性の確認方法を検討するに当たっての論点

この点については、個人的にも気になっていたのでこのサイトでもフォローをしてきましたが固体木質バイオマスエネルギーの需給動向と環境基準の展開の可能性ー森林学会報告(2017/4/23))政府の検討のまな板にのってきました。

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 持続可能な森林にとっての「産学官の連携」ー勉強部屋ニュース238編集ばなし(2019/6/15)

梅雨です。晴耕雨読といいますが、晴輪(自転車で外出)雨パソ

産官学の連携と言いますが、学が実際の社会と関わることは、特に森林科学のような分野では大切なことです。その重要なイベントが、法案の委員会審議での参考人質疑で、ネット上で中継されたものがライブラリーとしていつでもみるので、4時間ほどのビデオですが何回か見直してみました。国有林は私が社会人になった初めての職場。最近現場に触れる機会があまりないので、市民との連携が大切な局面になったいると思います。。

学と社会の関係と言えば、日本生命財団 創設40周年記念シンポジウム「人と自然が織りなす持続可能な未来-環境学からの提言」にいってきました。40年にわたる環境研究の助成事業の成果。森林学とは少し離れた研究者の目から森林とその政策がどうにみられているか、報告しますね?

次号以降の予告、人と自然が織りなす持続可能な未来-環境学からの提言、『森林未来会議ーーー森を活かす仕組みをつくる』 、EU内森林のリスクとフェアウッド世界の中の日本の森林環境税、木で創る新しい社会ー街を森にかえる環境木化都市の実現へ勉強部屋の20年G20環境大臣会合など

konosaito<hensyukouki>

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp