ニュースレター No.171 2013年11月24日発行 (発行部数:1170部)

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1 フロントページ:世界企業の事業過程での森林破壊のリスク認識ーCDPの森林リスク対応調査報告書公表 (2004/11/24)
2. 循環社会の主役である木材や森林とグッドデザイン賞2013/11/4)
3.  カーボンオフセットなど地球環境保全に関する枠組み条約に関する資金調達システムと森林経営を巡る動向(2013/11/24)

フロントページ:世界企業の事業過程での森林破壊のリスク認識ーCDPの森林リスク対応調査報告書公表(2013/11/24)

 

情報公開が試す地球環境を管理するグローバル企業の可能性ー炭素から森林へCDPの実験として、国際NPOが各企業の事業活動が森林破壊に影響を与える可能性についての調査活動を始めたことを紹介しましたが、その結果がウェブ上で11月下旬に公表されました。

The commodity crunch: value at risk from deforestation CDP Global Forests Report 2013

概要は以下の通りです

(拡大する回答者数)

 
 拡大する回答者

139のの企業がCDPの要請の応じて報告書を提出した。昨年から39%の増加で、6割が消費者に直接商品を販売する小売店、3割が中間業者、1割が製品生産者。各地域で増加しているが、日本の回答者が12倍になり特質される。

(各分野のリーダー)

各項目にすべて回答し、直接の取引相手以上にサプライチェーンを管理して、生産箇所の特定、第三者認定などを取り組んでいる、各分野ごとのリーダー企業を公表

(主たる課題)

国際的サプライチェーンにおける透明性の欠如
特定原料の供給過程追跡の困難さ、サプライチェーン複雑さなどがすべての分野における困難さである。CDPはトレーサビリティー手法の利用や模範的な取り組みが普及することによって改善されることを期待。多くの企業が支援をうける優良なコンサルを期待。小売店は特に透明性を確保するため戦略的安定的調達方針を選択

認証制度の課題
認証された原料の調達が重要な手法になっているが、途上国からの調達が困難。生産者側は消費側の認証製品需要不足を指摘。価格問題、認証製品の擬似製品などが問題であるとの指摘。
量の拡大と価格の引き下げに関するブレークスルーを引き起こすために需要が重要。ニッチからメジャーにするための公的な目標など、企業と政府、NGOの連携した取り組みなど必要。中小企業は第三者認証のコストを重荷に感じている。様々な資金協力が必要。持続可能な皮革につての努力がさらに必要。

規程の不確定性
法令の不確実性、政府の活動の不足、国際協定の不存在が問題であるとの指摘
生産国における土地政策、土地変更、土地変化の監視などに関する法令、国際条約の強化が必要。

以上です

木材や紙など林産物関連企業だけでない様々な業種のグローバル企業の森林に関する思いが込められている重要な報告書です。

コラムには、日本の大日本印刷の以下のようなコメントが掲載されています。

違法伐採問題に関する規制は全体として強化されているようだが、日本においては国内的な合法性の規程がないことから、違法伐採に由来した原料が増えつつある可能性がある。透明性を図るための手法が必要。

全文は以下からダウンロードして下さいThe commodity crunch: value at risk from deforestation CDP Global Forests Report 2013

今後回答の全文などが順次公開されることとなる予定です。

junkan5-2<CDP2>

 


 循環社会の主役である木材や森林とグッドデザイン賞(2013/10/26)

「地方の林産地と都市の工務店が連携した、新しい循環型ビジネスモデル」紀州の山長商店グッドデザイン賞を受賞したというニュースを聞いて、六本木東京ミッドタウンで開催された「グッドデザインエキシビション2013」に行ってました。

誰もが知っているGマーク。50年以上にわたってよいデザインを表彰し続け、受賞数は38千件になるのだそうです。

良いデザインを表彰する権威のある制度なので、自動車メーカーや家電メーカーなどが、新製品のPR戦略上の位置づけで、たくさん応募し、一社で複数の受賞する会社は数限りなく、一社で数十の受賞する会社もあります。ゼネコンや住宅メーカーも自社の商品やプロジェクトのデザインを競って、応募受賞をしています。

でも、なぜ、山長商店の営業戦略がグッドデザイン賞なのでしょう?

(Gデザイン賞の開催要綱、デザインは何?)

開催要綱応募要領審査要領などをみてみました。賞の対象となる「デザインとは何か」を示す募集要領の応募対象分類一覧表は以下の通りです。

A.生活領域 B.産業領域 C.公共領域
1.もの A1-1. 個人用品、育児・介護用品 B1-1. 素材・部材 C1-1. 研究・教育・医療のための機器・設備
A1-2. 家庭用品・機器・設備 B1-2. 事務用品・機器 C1-2. 公共のための機器・設備
A1-3. 個人・家庭のための情報機器・設備 B1-3. 開発・生産・製造のための機器・設備 C1-3. 公共領域のための空間・建築・施設
A1-4. 家具・インテリア B1-4. 流通・販売のための機器・設備 C1-4. 公共の移動機器・設備
A1-5. 住宅・住宅設備 B1-5. 産業領域のための空間・建築・施設
A1-6. 生活領域の移動機器・設備 B1-6. 産業領域の移動機器・設備
2.コミュニケーション A2-1. 個人のためのメディア・ソフトウェア・コンテンツ B2-1. 開発・生産・製造のためのメディア・ソフトウェア・コンテンツ C2-1. 研究・教育・医療のためのメディア・ソフトウェア・コンテンツ
A2-2. 家庭のためのメディア・ソフトウェア・コンテンツ B2-2. 流通・販売のためのメディア・ソフトウェア・コンテンツ C2-2. 公共のためのメディア・ソフトウェア・コンテンツ
A2-3. 個人用機器、家庭用機器のインタラクションデザイン B2-3. 開発・生産・製造のための機器、流通・販売のための機器のインタラクションデザイン C2-3. 研究・教育・医療のための機器のインタラクションデザイン/公共のための機器のインタラクションデザイン
3.仕組み A3-1. 個人のためのサービス・システム B3-1. 開発・生産・製造のためのサービス・システム C3-1. 研究・教育・医療のためのサービス・システム
A3-2. 生活のためのサービス・システム B3-2. 流通・販売のためのサービス・システム C3-2. 公共のためのサービス・システム
A3-3. 住居に関するサービス・システム B3-3. ビジネスメソッド、ビジネスマネージメント C3-3. 都市づくり、地域づくり、コミュニティづくり
A3-4. 個人によるNPO活動、コミュニティ活動、社会貢献活動 B3-4. ビジネスイノベーション、ビジネスモデル C3-4. 社会基盤、プラットフォーム
B3-5. 広告、宣伝、ブランド構築、CSR活動 C3-5. 社会貢献活動、国際貢献活動

私たちがふつう考える、商品デザインは上記でいうと、モノのデザインですが、そのほかのに、コミュニケーション、仕組みというカテゴリがあり、山長商店の応募は、B3-2. 流通・販売のためのサービス・システム、という分野に位置づけられています。

応募された対象は、①身体的な視点(安全・弱者への配慮、使い方がわかりやすいなど)、②生活的視点(使用環境への配慮、家族やコミュニティのあり方についての提案など)、③産業的視点(新しいものづくりや提供の仕方・企業スタイルの提案、新産業、新ビジネスの創出に貢献など、④社会・地球環境的視点(社会・文化的な価値を創造、持続可能な社会の実現に貢献など)といった審査の視点に基づいて、審査されるのだそうです。

(山長商店のビジネスモデル)

山長商店は和歌山県田辺市に本社がある、山林業、製材加工、プレカットまでを行う事業者ですが、関東地方の工務店と連携して、年間800棟の資材を供給しています。

品質の量の安定化という国産材の課題を、山からプレカットまでの一貫した生産体制の中で対応してきたものですが、今回の受賞の概要は主催者の公式HPの受賞対象概要に掲載されています。

「国産材を用いた住宅のエコシステムの構築という点で評価された。これを産地(紀州)の側から、都市の工務店と連携すること、標準化の難しいヒノキ材の認証獲得努力を行うことで達成した。標準化したプレカットでなく、工務店の施工する個別の住宅毎にカスタム化されたプレカット材を認証するというビジネスモデルで顧客価値を高めている。」との審査員の評価です。

(Gデザインと木材、森林)

グッドデザインを受賞した作品が1957からすべてウェブ上のデータで検索できるようになっています。

1991年から2013年までの25年間受賞者数は1000件ほどですが、その中で木材、国産材、地域材などのキーワードをもった受賞件数がどんな推移になっているのか見てみました。


2013年の受賞対象者の中で、1238件の中で、キーワード木材を含むもの68 地域材を含むもの27、国産材20 温暖化19 生物多様性6 循環社会15 合法木材2 森林を含むもの29です。

その推移を示す上表は、時代に応じてデータベースの内容が充実してきており、10年前の2003年から社会への取組みという項目への記載がされるようになっているなどが反映されたものでもあります。

それも含めて消費者への訴求を求める良いデザインという考え方の変化を示すものとして興味深いものです。

リーマンショックの2008年の次の年には温暖化が急落など、社会の動きを反映しています。

「私たちの暮らしと産業、そして社会全体を豊かにする「よいデザイン」を顕彰」という産業側と消費者との間のコミュニケーション手段の中で、この、10年間の間で、地球環境問題や循環社会などの考えが重視されるようになり、その中で木材や地域材などが一定の位置を確保してきたことがよくわかります。

グッドデザイン賞というオープンな競争の場で、再生可能循環社会の主役となる木材の供給モデルが、次々と生まれてくることを期待しています。

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 カーボンオフセットなどの資金調達システムと森林経営を巡る動向

カーボン・オフセットとは、「市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等(「クレジット」と呼ばれる)を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせること」と定義され(環境省我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針))、森林の管理による二酸化炭素の吸収量の増分がクレジットとして認知されており、森林管理に対する資金調達チャンネルとしての可能性をもっています。

クレジットの信頼性の普及を支援する政府が関与した制度として、京都議定書目標達成計画に対応した国内クレジット制度(森林吸収源は取り扱われていない)と、自主的なオフセット制度を対応した森林吸収源などをむくむオフセット・クレジット(J-VER)制度の二つの制度が平行して実施される状況が続いてきましたが、今年度から両制度を統合した新たな制度として新しくJクレジット制度 が開始されています。

農業経済誌(昭和堂)12月号の特集:森林大国ニッポンの行方――森林政策の将来ビジョンを描くに、「カーボンオフセットと森林経営、地球環境保全レジームの中での森林への資金投入の可能性」というタイトルの小論が掲載されています。

2010年度林業への公的資金4107億円、生産林業所得2255億円が10年前に比べると6-7割になっている状況の中で、始まったばかりのカーボンオフセットまた生物多様性オフセットという、地球環境の仕組み由来の森林に関する投入が市民権を持つものか?というのが問題意識です。

取引額全体のデータは少ないですが、カーボンオフセットフォーラムでオフセット・クレジットの市場動向などを参考にすると、30億円程度が投入されている計算したうえ以下の様に指摘しています。

①我が国で現在このチャンネルから森林管理分野に投入される金額は既存の資金ルートの金額に比べるときわめて少ない金額だが、他の排出削減系のプロジェクトに比べて認証量が多く、また高く取引されていることからわかるように、森林吸収源のプロジェクトが目に見えてわかりやすく、オフセットの中心の役割を担う可能性がある。

②今後、地球環境の保全に取り組む国や地方自治体による制度の枠組み作りが進展し、企業の社会的責任の認識が拡大していく中で、地球環境保全に基づく市場から資金調達の流れは大きくなっていくことは確実である。そのため森林管理に応じた炭素吸収量と生物多様性の双方の評価の蓄積が欠かせない。

③森林関係者によるフォレストック認証事業 などの経験も蓄積されており、これらに基づきさらに信頼ある制度の構築が期待される。

出版社の了解を得て、全文を掲載します。
カーボン・オフセットと森林経営-地球環境保全レジームの中での森林への資金投入の可能性(農業と経済12月号)

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最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

 

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