ニュースレター No.0472003年7月21日発行 (発行部数:830部)

 

このレターは、「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というHPの改訂にそっておおむね月に一回作成しています。

情報提供して いただいた方、配信の希望を寄せられた方、読んでいただきたいとこちら考えて いる方に配信しています。御意見をいただければ幸いです。 
                                                    藤原

目次
1.
フロントページ:「環境と貿易」のインドネシアの教訓
2. 建材にウッドマイルズ、国産使えば百分の一にーウッドマイルズ研究会の反響
3. stop違法伐採シンポジウムでのインドネシア大臣の発言
4. 炭素基金に関する世銀セミナー
5. 第五回UNFF会合の結果 地球サミットフォローアップページの改訂
6. アジア森林パートナーシップ第二回実施促進会合

1. フロントページ:「環境と貿易」のインドネシアの教訓(2003/07/21)

森林総研ホームページより↑
「貿易の自由化が森林の違法伐採を進めた。」 この言葉はWTOと経済のグローバル化に反対するNGOの言葉ではありません。インドネシア林業政策の総責任者プラコサ大臣が森林総研でのディスカッションで発言された言葉です。

林業大臣はメガワティ大統領に伴って来日しましたが、6月25日わずかな時間の合間を縫って、森林総研を来訪されました。双方の意見交換をする時間がありましたが、インドネシアに関係する森林総研の研究プロジェクトのリストの中から「貿易自由化と持続可能な森林経営との関係」というタイトルを見つけて、どんな内容なのかと質問がありました。「自由化が森林経営にとってネガティブなのかポジティブなのか」と追い打ちがかかりました。こちらからは森林管理がうまく行かない場合は、自由化がネガティブな可能性があるということだと、いいにくそうに話をすると、その後に大臣が口にされたのが、冒頭のことばです。

インドネシアは80年代から自国の産業を守るために丸太の輸出を禁止しましたが、98年にIMFからの勧告を受け入れて、丸太の輸出規制を大幅に緩和しました。ところがこの結果需要圧力を受けて違法伐採が進すすみ、再び丸太輸出規制をすることになったという経緯があります(この間の経緯についてはロイターの解説記事参照こちら)。その一連の経緯をふまえた重たい発言です。

「(市場の失敗が是正され、政策の失敗が回避された場合)貿易自由化は明白に便益を向上させる。しかし、貿易の自由化は不適切な環境政策の結果を助長する働きがあるる。(WTO貿易と環境に関する特別報告Special Studies 4, Trade and Environmentこちらからダウンロード」WTOも認める環境と自由化についての基本的なテーゼですが、東南アジアの森林管理の水準(インドネシアはよい方の例に入っている)は、残念ながら貿易自由化をポジティブに生かすするまでにいたっていない、ということを如実に示すものです。

日本とアセアンとの間の自由貿易協定についての議論が盛んですが、これができる前にアジア森林パートナーシップによる有効な仕組みができるか、国際的な森林管理協定ができないと・・・。


2.建材にウッドマイルズ、国産使えば百分の一にーウッドマイルズ研究会の反響(2003/07/21)

7月21日の朝日新聞の「くらし欄」にウッドマイルズ研究会が紹介されました。見出しは「建材にウッドマイルズ国産使えば百分の一に」。ウッドマイルズの背景になった小論の紹介や、研究会設立の経緯、滝口事務局長のコメントなどインパクトのある紹介記事になっています。

6月12日「ウッドマイルズ研究会」が発足が発足してから1ヶ月がたちました。この間の住宅関係、木材関係を中心としたマスコミの反響は大きなものがありました。報道された(あるいは予定の)主な記事紹介します。

新建ハウジング 最新号のトップページは「ウッドマイルズの考え方」(新建新聞社)
住宅建築(八月号) 家づくりの環境負荷を少なくするウッドマイルズの指標(近日発売)

日刊木材新聞 「地域材需要活性化に、ウッドマイルズ研究会が発足ー木材の輸送エネルギーに着目」pdfファイル
J-FICWEBニュース 地域材メリット指標化へ「ウッドマイルズ研究会」が発足


3. stop違法伐採シンポジウムでの大臣発(2003/07/21)

メガワティ大統領に随行して6月22日から26日にかけて来日したインドネシア林業大臣は、短い滞在期間中インドネシア国内の違法伐採問題についての対応のため、我が国との間での共同した行動計画に署名し、シンポジウムに出席して関係者に協力を呼びかけるなど精力的な活動をされました。

小生もシンポジウムには出席して大臣の演説を聴きましたが、自国の持続可能な森林経営達成のため、輸入国である我が国や、隣国マレーシアの協力が必要である、と訴えられていました。10年前に資源の主権を盾に森林条約に一致して反対した熱帯途上国の中の、大国の一つが、荒廃してゆく自国の森林資源の実情を前にして、もはや古い建前に頼っていてはならないという、強い意志が感じられました。

英文ですが、シンポジウムの発言のテキストをいただきましたので、掲載します
アクションプラン署名に関する林野庁の発表(こちら)

4. 炭素基金に関する世銀セミナ(2003/07/21)

7月3日、経団連の自然保護協議会が主催し、世界銀行のイアンジョンゾン副総裁を招いて「持続可能な開発と環境 〜生物多様性保全と森林管理に向けた企業・NGO・国際機関の連携〜」と題したシンポジウムが、経団連会館でありました(こちらに概要)。副総裁の基調講演は世界銀行が温暖化対策の枠組みで進めている炭素基金(世銀のプレスリリースpdf)の我が国企業へのPRといったところ。最近温暖化対策を巡って森林問題に関心を広げている企業の関係者沢山参加していました。小生もコメンテーターという立場で参加しました。

小生は、炭素基金やCDMのように、気候温暖化防止のために、吸収源対策だけでなく排出源対策など幅広く使える手段を前にして、森林関係者以外の経済界の方々が森林吸収源対策に関心を持ってもらう意義をお話ししました。

発言の要旨をメモしてみました。


第五回世銀経団連共同セミナー
「持続可能な開発と環境―生物多様性保全と森林管理に向けた企業・NGO・国際機関の連携」への発言要旨

森林総研 藤原敬

20年間の熱帯林保全レジーム(国際秩序)追求の中での炭素基金・温暖化対策の意義

要旨

80年代初頭に森林の減少荒廃が地球環境問題として認識されるようになってから20年がすぎ、未だに人類は解決の手段を手に入れていないのだが、温暖化防止の国際的な枠組みの中で生み出された経済的手段をテコとした企業・NGOと政府機関の連携による資金の流れが一つの展望を示している。

(20年間の各アクターの提言のレビューと、森林に関するレジーム形成の困難の要因。途上国の拒否権と熱帯林への資源配分の失敗。マーケットを通じた資金の配分の提案としての炭素基金の意義など)

発言内容

森林総研の藤原です。つくばにある研究所に勤務していますが私自身は研究者ではありません。林野庁で30年間行政官をしていました。私が行政官をしていた30年間はどこの国の森林官も共通していると思いますが、ローカルな森林問題が途中から突然地球環境問題と言う大きな文脈を与えられたとう時期で、私自身もとまどいながらも国際熱帯木材機関を日本に誘致するとかウルグアイラウンドの交渉など国際問題に携わってきました。

CIFOR理事長のカモウィッツさんが言われたように、20年前にFAOが熱帯林が急激に減少していることを発表してから20年たった2000年に相変わらず同じスピードで熱帯林が減少しています。地球サミット以来、森林問題はカーボンシンクのこともあるし生物多様性の保全のこともあるし、もっと重要だと私が思うのは、再生可能で製造エネルギーが少なく来るべき循環社会にとって必須の資材である木材を生産する装置としての森林、これをトータルに保全するめの国際森林レジームをどうして構築するか、ということをが議論されてきました。しかし、国際森林条約をつくる作業は未だに展望を見いだせていません。この間、他の環境分野で、はオゾン層を保全するためのモントリオール議定書だとか、今日のテーマとなっている気候変動レジームとしての京都議定書などの他のレジームが成果を生みだしてゆく中で、森林レジーム形成がうまくゆかなかった。何故なのかと聞かれるときがあります。

私は誤解を恐れず言えば、森林問題の発生が途上国に集中している、ということにあると思います。他のレジームであるモントリオール議定書・京都議定書は先進国のフレームで進んでおり、途上国の参画は後送りあるいは先進国と違った基準を適用するダブルスタンダードを採用しています。これを不満として米国は京都議定書を離脱したわけではありますが。森林の課題は途上国の農村部に、人と物と金を配分するという大変難しい重要な課題を負っています。これが出来れば開発と環境問題で解決できないものはない、というほど困難だが重要な問題だと思っているます。

二人のご意見をお聞きしていて最近の事情を改めて感じました。いろいろ幅広い話をお聞きしましたが、具体的な話として提示されたのは炭素基金の話です。

ビジネス関係の方々と最近話をしていて森林問題を話をするテーマが広がっていることを感じます。一つは、バイオマスエネルギーであり一つは、二酸化の吸収源という問題です。気象変動枠組みレジームの中で森林問題を話さなければならないと言うのは複雑な心境ですが、そんなことにはこだわっていられない重要な話です。

京都議定書の吸収源の枠組みについて、今年の12月のCOP9を目指して議論しているところ、まだまだ、3割ぐらいの合意しかできていません(最近の専門家会合のあらまし)。基本的に吸収源の問題を気候変動の枠組みに入れたくないと思っている人がいるので、ネガティブな対応をしているのが原因です。

私は森林の吸収源としての働きは経済効率的でもあるし技術的にも確立しているので、重要な手段だと思っています。いくつかの課題があり、例えば、どうモニタするか、追加性、ベースラインをどうするかなど信頼できる精度としてどうするかいくつか宿題は残っていますが、などなるべく簡単な手続きができ、わからないことは走りながら考える、ということでスキームが出来ることを期待しています。

世銀の炭素基金も京都議定書の合意と平行して運用されることになるのだと思います。これから12月までの国際的な議論の結論が重要なところで林業関係者は重要だと思っていますが本日お見えの方々も是非うまく吸収源の話が気候変動の枠組みに入り森林の保全に力になるように応援していただきたいと思います。

以上


5. 第3回UNFF会合の結果 地球サミットフォローアップページの改訂(2003/07/21)

5月26日から6月6日にかけて国連森林フォーラム第3回会合がジュネーブでありました。懸案となっていた法的枠組みについては、来年の次回会合に向けて関連する専門家グループの設置が決められたようです。(結果概要はこちら林野庁プレスリリース

1992年の地球サミットでは、森林原則声明とともに、気候変動枠条約、生物多様性条約の二つの条約が締結され、それぞれのフォローアップが、各条約の締約国会合で行われてきました。気候変動枠組条約は京都議定書など具体的な合意を深め、国際的な森林管理についても吸収源対策として大きな影響を与えつつあります。また生物多様性条約はカルタヘナ議定書で遺伝子改変生物の危険性を排除するための制度を提供し、森林についても昨年のCOP6において森林に関する行動計画を決めました。

それでは森林原則声明のフォローアップがどうなっているか、というのが今回の国連森林フォーラム結果です。残念ながら他の二つのフォーラムに比べると推進力を失っているといわざるを得ませんが、地球サミットで議論された熱帯林問題は解決の方向にはありません。今後UNFFの場での法的な枠組の議論が重要性を失っていないと思います。この議論に資するため本サイトの「地球サミット森林部分のフォローアップ状況」というページをリニューアルしました。

UNFF公式ホームページはこちら


6. アジア森林パートナーシップ第二回実施促進会合(2003/07/21)

7月9日10日インドネシアのジョグジャカルタにおいて、アジア森林パートナーシップ第二回実施促進会合が開催されました。昨年ヨハネスブルグで開催された国連の環境/開発会議 「World Summit on Sustainable Development (WSSD:持続可能な開発に関する世界首脳会議)」で設立が決まったもので、違法伐採対策、森林火災予防、荒廃地の復旧と再植林の三つの事業を進めてゆくこととしています。少しずつ事業の内容が明らかになってきました。(林野庁の記者リリース


(関連サイト)
日本国内 政府(外務省) NGO(全木連FOE)
CIFOR国際森林研究センター アジア森林パートナーシップのページ英文





最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原敬 fujiwara@t.nifty.jp

 

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