「生物多様性損失指数」と生物多様性条約
生物多様性条約の新たな森林に関する行動計画に寄せて
(2002/5/11)

(生物多様性条約の森林に関する決議)

4月にハーグで開催された生物多様性条約第六回締約国会合で、森林の生物多様性のついての決議が採択され、「森林の生物多様性に関する新たな行動計画」が合意されました
資料参照)。

違法伐採問題など我が国にとっても重要な、木材輸出国の森林の持続可能な森林経営に取り組む枠組みが提供されたほか、地球共有財産としての森林の価値の重要性を再認識する重要な文書です。ただし、具体的取り組みの多くが今後の検討課題として残されることとなりました。


(生物多様性条約の弱点)

このように生物多様性条約で活動が具体化しない理由は、他の国際条約と比べて生物多様性条約が具体的な達成指標をもっていないことにあると指摘されています(注1)

気候変動枠組条約は「二酸化炭素排出量」、オゾン層の保護のためのウィーン条約では「フロンの生産量・消費量」などがそれぞれの議定書で明記され、削減目標値と達成目標時期が合意されています。

地球環境問題ではありませんがウルグアイラウンドの農業交渉の場合も各国の農産物の国境措置を関税に置き換えて交渉する「関税化」という手法が提案されました。

利害関係が錯綜する国際交渉においてなるべき単純で説得力のある総合指標が有効であるということを示しています。

生物多様性についての具体的な説得力のある総合的指標を人類は手にすることができるでしょうか。

(生物多様性損失指数)

こういう問題意識をもっているとき、たまたま、最近横浜国立大学の中西準子先生から、「生物多様性損失指数」という考え方をお聞きして、空想をめぐらしてみました。

開発プロジェクトが生態系に与える影響を評価のための指標として開発途上にある概念のようですが、俄勉強の結果は以下の通りです。

ある開発プロジェクトが実施された場合、関連地域の絶滅危惧種の生息域が縮小されることに関連し、それぞれの種の絶滅確率の増加を算出することができる。

理論的には絶滅危惧種以外の全ての種の絶滅確率も算出できる(この辺のところは松田弘之生態学におけるリスクー利益分析)。

絶滅した場合の影響度について種ごとの重み付けが可能である。この両者の積で生物多様性損失の程度を評価することができる。というものです(岡敏弘:「期待多様性損失」指数による生態リスク評価とリスク便益分析)。


(国別生物多様性損失指数)

もしもこのようなことが可能なら、各国の毎年の様々な活動が生物多様性損失指数をどれだけ高めたかという評価が可能になり、生物多様性条約議定書にその指数の目標値を提示することができるのではないか、というのが、小生のアイディアです。

もちろん衛星データなどで効率的に近似的なパラメーターを把握することが必要になるのですが、これには、陸域の多様性の重要な貯蔵庫となっている森林に関する情報が利用可能ではないかと思います。

農地のように管理された特定の人工林や外来樹種の人工林などを排除した上で、あるカテゴリーの森林の配置状況を衛星データにより把握することは十分可能です。

森林から農地、森林から市街地、天然林から人工林などの、土地利用形態の変化が単位面積あたり生物多様性損失がどの程度になるかというモデルができれば可能になります。

いずれにせよ、ケーススタディが積み重ねられ、「生物多様性損失指数」の概念の有効性が普及してゆくことが前提です。


注1 ガレスポーターほか「入門地球環境政治」p191


生物多様性条約第六回締約国会合資料(2002/5/11)

資料名
プレスリリース 農林水産省環境省グリンピースジャパン
森林に関する決議 英文テキスト(条約事務局)抄訳(本サイト提供)新たな行動計画部分訳pdfファイル
閣僚宣言 英文テキスト(条約事務局)和訳(環境省サイト)