美しい木組みの家ー山と職人と住まい手をつなぐー勉強部屋Zoomセミナー第3回報告(2022/12/1)

11月3日勉強部屋Zoomセミナー本年第3回を、松井郁夫建築設計事務所代表松井郁夫さんを迎えて開催。

「 美しい木組の家ー山と職人と住まい手をつなぐ」というお話を伺い、議論をしました。

内容をご紹介。

(松井郁夫さん登場の経緯)

なんであの有名な建築家(ではない!!と怒られそうですが)の松井さんがゲストでおいでになるのか?という皆さんの問を念頭にイントロでご紹介

「木の建築賞」というイベントの審査員をウッドマイルズフォーラムの関係者という立場でしていますが、その審査会でごいっしょしています(私が審査員になるという過程で、松井さんの意向が働いているということを、今回のセミナーではじめて知りました、ごめんなさい)。

昨年出版された美しい木組の家「いつか古民家になる」という本を読ませていただき、勉強部屋でも紹介させていただきました。美しい木組の家ー古民家になる家と森林との関係(2021/11/23)

そこでも紹介しましたが、「山を守る木の値段は「植林費用から逆算して一本の木の値段を決めて、山主に払っています。一般に流通している木材より割高ですが、その代わりに直接山に行って買付をしているので、流通のマージンをカットできます。番付を打った図面を持って山の製材所に行って、番号を打って来るので、木は選り取り見取りで良い木が買えます」という究極のトレーサビリティ

その内容をもふくめて、勉強部屋の関係者にも紹介したいとお願いしました。」

内容をご紹介します。

( 美しい木組の家ー山と職人と住まい手をつなぐ)

松井さんのプレゼンデータから、藤原の責任でつまみ食いします。

木は住む人の生活を豊かにしてくれます。柱や梁は勿論室内の壁や仕上げまで使われている素材がすべて自然の産物だからです。

現状の問題
1 荒れる山=植林費用が少ない
2.消える大工技術=大工育成の場がない
3.木の家は高い?=価格が定まらない
4.木の家は強い? = 構造解析が不十分
5.木の家は省エネ?= 改正省エネ法施行
   松井さんたちが取り組む、木構造は「貫(ぬき)軸組工法」といいます。
伝統的な仕組みで、「貫」は「木造建築で柱等の垂直材間に通す水平構造材」

近世に構造を強化するために導入された「筋交い」(斜めの部材)は梁を突き上げることがあるので(極力)使わないんだそうです(後述阪神大震災の教訓)
   住まい手は、住むんだったら木の家だという人が多い。木の家のイメージはつぎのページがモデル
  左の図は、 構造をになっている無節の木の柱や水平の貫が見える、「真壁工法」
自然素材に囲まれて暮らすことが「木の家に住んでよかった」ということを共有できる原点

(最近は木造住宅でも「大壁工法」といって、室内で見えるのは壁だけ。
構造の担い手である骨組みは壁の裏に隠れて、木なんだか何だかわからないものが、ほとんどです)
さて、木の話
植えて育てれば木は永遠の資源!!

(植林がされてるかな?)
「き」組で使う木は
「一本一本の木にバーコードを貼り、履歴情報を徹底的に管理しています。
住まいの柱や梁が、どこで育ち、いつ伐りださえた木なのか証明することができる」
のだそうです。
   まず、木を伐ったときに、切り口にバーコードを貼り付けて、いつ伐ったかが記録され、次の柱材になるまで、ついて回るのだそうです。
   柱にバーコードがついていて、原木の伐採された時点、天然乾燥された期間、などがよくわかる。

天然乾燥が大切で、人工乾燥では内部にひびが入るので(金物を使わない)継手部分が不安定になり、仕口でつなぐ貫軸組工法は成り立たないのだそうです。
出荷証明書もでます。
施主様
「お買い上げいただいた素材(新月の木)は以下の履歴であることを証明します
1生産者
2 生産地
3 GPS
4 樹種樹齢
5 伐採日
・・・
出荷先
10 設計
12 建築施工」
素材取引責任者天竜TSドライシステム協同組合
山に還元11000円/m3=植林3440円/m3+育林(下刈り3780円/m3+間伐3780円/m3)
出材 18000円
以上 丸太29000円/m3
歩留まり50%なので
製材原料角材58000円/m3

挽代 20000円/m3+乾燥6000円/m3+ハネ5000円/m3+品揃え 5000円/m3+モルダー10000円/m3+雑費5000円/m3
以上製材費51000円/m3

よって製品の価格109000円/m3(工場渡し)

この金額をベースにしてその後の施工地点までの輸送費を加えて、工務店の見積を構成することになるんだそうです。
  さて、木の値段の次に、プレゼンの重要な構成要素である、伝統構法について
(「大工言葉を覚えるのが大変ですが、大工言葉を覚えるのが大切です!!」と松井さん。伝統構法の建設言葉もしっかり覚えましょう。)
プロジェクトの合理性を説明する、貫構法の耐震性の話です。

継手仕口と言って
継手は長手方向に握手をするように継ぐ
仕口は直角に組む
組み手を駆使して、金物はできるだけ使わない。

めり込みと摩擦による(地震への対応)減衰設計という考え方です。

日本の民家はそうだった。
大工さんは「豆腐を針金で釣ってはいけない」といましめて、できるだけ金物は使わなかった。
木造住宅の建設の工法の変遷

1995年阪神大震災ー5000人が家の下敷きになって死んだ。木造が地震に強いというのは本当か?
(強さ・安全性への関心の高まり→工法の工学的解析開始)

2000年循環型社会における住宅(地球温暖化・森林の見直し・シックハウス・・・)

2008年から2011年 伝統構法の見直し(200年住宅・E-d実大実験・足元フリーの実験)

この間、松井さん自身も実験棟の設計にかかわった(アンダーライン部分)
   そのような中で、木組の家づくり、ワークショップ「き」組という仕組をつくってきた。

設計者はつなぎ手
作品をつくるのではなくて、山と職人を住まい手とつなぐ役割

作品性を追いかけるのでなく、社会性を追いかける。

職人言葉を知らずに職人と組むことはできない。
    ワークショップWS「き」組の仕組み

木組の「き」とは

山に育つ樹木の「き」
職人の心意気の「き」
伝統的な木組の「き」
きれいな空気の「き」

Gマークをいただいたのは、建物がいただいたのではなく、ビジネスの仕組みがいただいたGマークです。
メンバー13組のグループが全国にいる、全国のネットネットワーク

WS「き」組の理念

左側が今までの家づくりのシステム、建て主さんから職人と山が見えなかった。

そこで、ワークショップき組では、新しい関係をつくった。
山と職人と設計者が対等な立場で仕事を実践すること

ワークショップの詳しい内容はワークショップ「き」組のサイトへ

料理人が素材から料理を考えるように、山の木という素材から家の架構を考える「山から考える木組みの家」
阪神大震災に学ぶ!!!

   貫の話続き

柱と柱を貫(つらぬ)く構造材です。「貫」の壁は大きな地震で大変形しても粘りづよく建物を維持します。建物が大きく傾いても元に戻ることができる「復元力」が特徴です。わたしたちのつくる「木組の家」は、倒壊しにくく生存空間を確保できるように「貫」を採用します。「貫」は大事な構造部材ですから、当事務所では「貫はやめてはいけない」と考え、すべての家に「貫」を入れています。
  木組の共通認識を、行政・建築関係者・市民・職人などで、共有した。
伝統構法の実証実験委員会

木組は
①地球環境に適合、②長寿命、③保守管理がしやすい、④再生移築が可能、⑤段階的に安全に対処する、⑥大工技術として体系化されている、⑦地域づくりにつながる、⑧気候風土に根ざしている、⑨美しい景観を創出する、⑩成熟した社会をつくることになる

建築基準法には反映されていないけれど

このあと、プロトタイプ紹介がありますが、省略しますこちらをどうぞ

エネルギー問題などへの対応も
海外に紹介された和風伝統住宅システムの合理性
バウビオロギーとエコロジー!!

「日本の家はバウビオロギーのお手本だ」とドイツ人がいったんだそうです。

健康や環境に配慮した建築について考える学問。語源は、それぞれドイツ語の「建築(バウ)」、「生命(ビオ)」、「学問(ロゴス)」を組み合わせ

そのあと、ワークショップ「き」組の作品事例が紹介されました。
まとめ

こちらからの御願いです
行政は、地域リーダーを全国につくってください
山側は、どんな家になるのか興味持ってください
設計者は流れをつくって
工務店は大変ですが後継者を育ててください
住まい手も役割と責任があります
   
自然は生命の舞台です木の建築、木が生まれる森林を大切にしてください。
木材は循環することで、無限の資源になります。
伝統構法を次世代につなぐ、後継者をしっかり育成してください。
たくさんテキストがあるんで、読んで勉強してくださいね
 

((質疑の時間)

松井さんに3点質問

(質問1)「生まれと育ちがわかる木」に関して、トレーサビリティという言葉は定着してきていますが、その最先端を行く松井さんの取組です。どんなプロセスで、このようなプログラムが進んできたんですか?どうしたら広がっていくかという視点も含めて伺いたいです。
(質問2)また、値段の合理性も含めて山とのこのような関係が構築できたいきさつは?「山を守る木の値段」。木材関係者や山の関係者の中で、「建築関係者と一緒になって山づくりを進めていきたい」という人たちは、どんどんひろがっているので重要な点です。細かい話は別にして、、ここまで来たプロセスを説明してください。

一つの家が出来た時に、内覧会とか見学会をしています。ある内覧会に天竜の榊原さんという方がやってきて、「天竜ではトレーサビリティをやっている、買ってくれないか?」という話があり、「それではいくらなのか?」という話になって、木の値段を決めてほしい、ということで値段を逆算することとなった。先ほど説明した通り。1m3、10万円、普通より高いですが、ウッドショックなどで木の値段があがっても、当方は関係ない。山から直接買っているから。山の木を見せてほしいという人はほかにもいます。いろんな雑誌をみて、この人はちゃんと木を使ってくれそうだということが分かれば、いろんな人がやってくるんですね。
家一軒ごとに、直接木材の履歴書ができています。どの山でいつ伐って何メートル何センチの丸太が取れて、それが製材されていつ出荷されたか、ということが家一軒ごとにわかるようになっています。
まず、出荷証明書が付いてきます。購入するのは工務店で、直接山側に支払い、当方は斡旋するだけ。輸送費や小運搬料を支払うことにしている。
ワークショップ「き」組を始めたのは。「山と大工と住まい手をつなぐ仕事をしたい」と思ったのがきっかけ。
私は26で大工に学んで、符牒のような大工言葉がわかるようにになりました。これはつなぎ手としての大切な財産です。
だから木組ゼミで、大工言葉のわかる設計者育成をやるようになりました。皆さんもどうぞ

(質問3)山の人が天竜からつながったということは、有名な天竜林業地であり、その蓄積のもとに、榊原さんといいうトレーサビリティにここだわり、一本一本伐採した木の日時を記録し、販売先を見つけるというような人がいたんでしょう。木材の供給地点はどんどん広がっていますそんな広がりができたら、どこにでも榊原さんがいるわけでないですよね

山側は僕の仕事を待っているだけだから、広がるわけもない。工務店も待っているわけだけらひろがっていかない。こちらが努力をしなければ広がらない。その時にトレーサビリだとか、ウッドマイルズなどのコンセプトが大切になる。
何故私が国産材にきりかえたかというと、最初米材を使っていたけど、米材が目あらになって1センチぐらいの木目になって、使いづらくなった。また重油つかって輸入されるのでこれもだめ、ということでウッドマイルズに感化された。そこに、榊原さんが現れたんです。
その前に、山との関係でいうと、徳島の和田善行さんという方にお会いしました。材木をリュックにしょって天然乾燥材をPRしに設計事務所を回った人です。設計事務所が仕様書に「天然乾燥材」と書けば、工務店は使わざるを得ないのです。和田さんの山にも建て主を連れて行って理解を深めてもらい、山とのつながりが始まりました。徳島と東京は遠いので運搬費がかかり、いまでは連絡はとっていないが。山の側からアプローチがあったのが出発点です。
それをどんどん広げていこうとすれば、家の側から呼びかけるしかないでしょう。

以上です

山との住まい手・設計者との関係だけでなく、伝統構法の力学的構造的な合理性、木組みの家の自然・環境・次世代への広がり、といったは幅広い内容のレクチャーでした

「山と住まい手の関係がどうやったら進んでいくんだろう」、という問いかけに、「自分たちでやるしかないんでないの?ウッドマイルズフォーラムもがんばって!!」と励まされました。

行政と連携したいろんな動きが重要ですね。

山との関係性以外、あまり詳しくお伝えすることができませんでした。ご興味のある方は、上記最後の「古民家+木組」のデザインゼミナールにどうぞ参加してください。

こちらからYouTubeの動画も見られます

松井さんのプレゼン資料が入手希望者はこちらから申し込みを

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(森未来と連携)

前回から素晴らしい内容を多くの方の共有できるように、持続可能な森づくり向けたビジネスネットワーク構築を進めている株式会社森未来さんと、共催企画としました。

zoomの設定とか、皆さんへの案内、アンケートの回収など、大変お世話になりました。

持続可能な森林づくりをメインのコンセプトにした、ビジネルの可能性はどんな方向?興味深いですね。

今後ともよろしくお願いします

 konosaito3-12<zoommt22-3rdrepo>

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